大塚鎮守府から出向してきた6人が少し休憩した後、早速演習という運びになった。その間に、ここで初顔合わせである施設組との交流をしっかり進めていた。鹿島と雷は共闘する際に施設に来ているが、それ以外は当然映像でしか知らない存在。しっかり話して、しっかり心を通わせる。
叢雲は案の定プリプリしていたものの、そこは戦えばわかると会話はそこそこ。そこはコロラドに弄られていたが、それでもどうしても払拭出来ないのが叢雲の本質である。初顔合わせでも妥協された。
「1対1で実力を見るのもいいし、早速連携を確認するのでもいい。自由に決めてくれ」
堀内提督からそう言われた大和は、小さく悩む。どれも知りたいことではある。堀内鎮守府の艦娘達の実力、それに、大和との連携に最も適応していると言える武蔵の力。
だが、真っ先に知らなければならないことは、仲間として肩を並べることとなる深海棲艦の力。かつての仲間である古鷹も、知っているモノとはまるで違う力を持っているということだが、まず知るべきは、ここにいる深海棲艦の中でもリーダー格とも言える存在、春雨の力。
「1つ、その、力試しというわけではないのですが、知りたいことがありまして」
「なんだい」
「春雨の力を見せてもらいたいんです。深海棲艦の中でも、特に特殊な力を持っていると感じました。決戦は、こんな言い方はどうかと思いますが、まともな戦いにはならないと思うんです。なので、おそらくですがこの中でも特に特殊な春雨との演習を望みます」
映像では見ているが、見るだけと実際に手合わせを願うのでは話が変わるだろう。故に、大和が直にその力を体感してから、今後の連携について考えたいとのこと。
知ることはとても大事だ。相互理解……というか別種族の理解のためには、まず知りたい。大和の目は本気である。
「いいですよ。でも、今の私はそこまで特殊というわけではないです。大和さんが見た映像はあの前哨戦の映像だと思うんですが、その時の十全の力は出せません」
「そうなんですか?」
「はい。あちらの力は、私が心の底から怒りを感じた時にしか発揮されません。仲間相手に使う力でも無いですしね。なので、その片鱗、兆しの力でお相手します」
春雨の持つ『望む答えに辿り着く力』は、今はトリガーが引かれていないので使用不可。代わりに『最善の答えに辿り着く力』はもう常時発動出来る状態。使おうと思えばいくらでも使えるくらいになっている。多用はしないが。
そもそも、この鎮守府で穏やかな心を取り戻したことで、簡単には『望む答えに辿り着く力』は発揮されないだろう。むしろ、トリガーが変化しているかもしれない。ともかく、今は使えないと確信を持って言える。
「そうですか。でも、兆しの力は使えるとのこと。是非お願いします」
「ふむ、我々も春雨のその力とやらはよく知らん。見せてもらいたいものだ」
武蔵も春雨が覚醒してからは同じ戦場に立つことは無かったため、その力に興味があるようである。余程の強さを持っていたならば、武蔵はおそらく春雨に演習を申し込んだろう。そうなる前に、サラトガがスッと武蔵の後ろに立っていた。流石は御目付役である。
「詳しく知る者は少ないだろうね。僕も話にしか聞いていない。見せてもらうことは出来るだろうか」
「構いませんよ。見せ物みたいになっちゃってますが」
苦笑しながら、演習の準備を始める春雨。準備と言っても、近接戦闘のために少し身体を慣らす程度。海風には少し心配されていたものの、ひとまずは大丈夫と笑顔で返した。
駆逐艦である春雨が、たった1人で大戦艦である大和と
海上には春雨と大和のみ。その演習を見るため、一部の興味ある者達は、その戦いがよく見える岸まで移動してきた。演習の前哨戦、しかもその戦いが艦娘と深海棲艦の
艦娘達はまだ目がいいために普通に見ていられるが、提督は人間であるため、その戦いをしっかりと見るためにオペラグラスを持ち出す始末。
「いい勉強になるだろうから、アンタ達もしっかり見とけー。でも参考にはしすぎるなよー」
まるで先生のように促しているのは北上。そしてそれを聞いているのは文月を筆頭とした先日のドロップ艦達。
この鎮守府に配属となり、すぐさま伝えられたのが、穏健派の深海棲艦と同盟を組み、共通の敵である黒幕を斃すために協力し合っていることである。最初は驚いていたものの、鎮守府全体の雰囲気から今では納得している。
そして、元祖北上組よりはハードでは無いものの、二代目北上組として、漣達と一緒にやんわりと鍛えられているようだ。ここに北上と大井が居られる期間はそろそろ終わりになるだろうが、その間は面倒を見るようである。
ここまでやってまだ子供嫌いを明言している北上ではあるが、もう誰もその言葉は信用していない。
「はぁ〜い、北上さん、質問いいですかぁ〜」
「どうしたよ文月」
「参考にしすぎるなって、どういうことですかぁ〜?」
ごもっともな質問に北上はそりゃそうだと笑い、とても簡単に説明。
「そりゃあアンタ、
「よくわかんないけど、わかったぁ〜」
見ただけで春雨の真似が出来るものなんて誰もいない。天才である北上でもだ。
春雨と大和が向かい合って立つ。今はまだ離れておらず、演習前の最後の打ち合わせ。
「では、私はギリギリまでの本気を出しますね」
白露型の制服では戦いづらいということで、いつものショートパンツスタイルへと変化。艤装も展開し、真紅の狂犬へと姿を変える。勿論、鉤爪はウレタン製の絶対被害が出ないタイプ。
その姿を直接見ることで、大和は明らかに驚きを見せるものの、その瞳の奥には恐怖や敵対心はなく、この力が味方であってくれることの安堵と、どれほどの力を体験させられるのかという好奇心が見えた。
「艦娘には基本的にはいない近接戦闘型タイプ、ですね。映像で見せてもらってますけど、速さと火力を両立させた、器用
「はい。深海棲艦の特徴を、身に刻んでいただければ」
「物理的に刻むのはやめてくださいね」
軽めの冗談は言い合えるようである。
大和は見た通りの巨大な艤装。艦娘として出せる最大最強の火力を持ち、直撃は勿論のこと、掠るだけでも死に直結するような威力を誇る。いくら艦娘よりも高い能力を持つ深海棲艦といえど、その一撃で確実に屠ることが出来るだろう。
今の春雨には義腕を盾に変形させる力があるものの、大和の砲撃を真正面から受けるのは流石に不可能。受け流しですら危険である。模擬弾でもその衝撃は計り知れない。
「それでは、お互いに全力を尽くしましょう」
「はい、よろしくお願いします」
一礼してから、ある程度の間合いを取る。相手が大和であるため、普通よりは大きめに。
この演習に合図はない。今だというタイミングで攻撃を仕掛ける。そして互いに隙を一切見せていないため、その瞬間を見計らっている。
観戦する者達が息を呑む中、先に動き出したのはやはり大和だった。その強烈な砲撃が開戦の合図となる。今後戦う敵も、これくらいの火力を当たり前のように出してくる可能性は高い。それと相対する前に、模擬弾でもこれを見られたのは大きい。
「見た目通りのとんでもない威力だなぁ」
その砲撃と同時に、春雨の瞳が白く輝く。瞬間、自分と大和の間に光の道が引かれた。何本にも分かれるような道ではなく、確実に喉元に噛み付くための1本の道。ゴールも大和。
「掠るどころか、衝撃を受けるのもキツそうだね」
光の道は、かなり大きめな回避行動を促していた。ならばそれに従う。
義脚の伸縮を活かした急加速でその場から一気に離れて、衝撃も受けない位置まで移動。そこからさらに海面を蹴り、同じように義脚を伸縮させて海上を駆け回る。
五体満足の艦娘では確実に出せないスピード。今鎮守府にいる中では最速の島風をも置いてけぼりにするレベルで駆け回り、ステップを踏むように前へ前へと突き進む。それはやはり、海上を舞うかのような優雅さであった。
「速い……直に見るとより凄まじいですね」
それを追うように自慢の三連装砲を連射し続ける大和。ほぼ一斉射に近いくらいの密度で弾幕を張り、春雨の進路を妨害する、攻防一体の砲撃。
文字通りの幕となった砲撃は、簡単に回避出来るようなものではない。艦娘ならば、回避ではなくどれだけダメージを軽減出来るかを考えるような代物。自分の砲撃を当てるなどして直撃を防ぐか、どうにか駆け抜けて衝撃だけをまともに喰らうか。しかし考えている内に砲撃は届いてしまう。
対する春雨には、その弾幕を潜り抜ける道は見つかっていた。義脚の伸縮はそのスピードに加え、大きな跳躍にも使える。
少し斜め方向へと跳び、弾幕の直撃を辛うじて回避するが、衝撃だけはどうにもならない。そこをどうにかするため、春雨は脚を盾へと変形させた。
「衝撃だけなら受け流せますからね」
まるで衝撃を
そうなると今度は大和がピンチになる。激しい砲撃を回避され、自分の最も得意な間合いである遠距離から近付かれると、簡単には対処が出来なくなる。
しかしそこは改二、さらには重装備の改二重へと改装されている大和だ。近付かれることを見越して、水上爆撃機を繰り出した。本来ならば制空権争いや弾着に使うべき装備であるが、今回は近付く春雨を追い返すための牽制と、あわよくば爆撃に巻き込んで終わらせるため。またもや攻防一体の技。
「艦載機まで使えるんですか……」
若干甘くなった砲撃と、その密度を補うような爆撃により、正面と上からの攻撃を避けることとなる。
強烈な弾幕を避けるより面倒なことになったが、春雨には辿り着く道が見えていた。ここまで来ると、爆撃を
「ここからですよ」
まずは鉤爪の隙間に主砲を展開し、両手で砲撃を始める。そのスピードの中にいながらも、照準は完璧。何故なら撃つ場所まで光の道で示されているのだから。
「当たりません。当たっても、喰らいません」
そこは大和も戦艦の意地がある。回避しながらもバルジを展開し、擦り傷すらも作らない。
「ですよね。ですが」
その行動自体が春雨が誘導したもの。回避行動を取るときには、より弾幕が薄くなる。その隙をついて、一気に距離を縮めた。もう手が届く距離という程にまで。
「やらせませんよ……!」
ここから近接戦闘が始まるのは知っている。鉤爪を展開しているのだから、それによる斬り裂きがあることくらい、誰が見ても明らか。
そして大和のバルジは、重い代わりに強固な装甲であり、生半可な攻撃では傷一つ付くことがない特別なモノ。そこに大和の強靭な膂力が加わっていることで、鉤爪程度では跳ね返されるのがオチ。
そう、
「ごめんなさい、バルジを破壊するわけにはいかないので、少し
春雨が繰り出したのは、鉤爪ではなく脚。映像で見ていない攻撃方法であるが、春雨を知る者ならばそれが必殺の一撃であることは一目瞭然。
その脚がバルジに触れたときには、あまり重みの無い蹴りだと、大和は少しだけ安心した。だが、大和は
「ゴール」
光の道の辿り着く場所。ここがゴール。蹴りが押し返されそうになった瞬間、春雨のあの蹴り、心臓を一瞬止めるための蹴りが繰り出された。本気でやればバルジすらも破壊されていただろうが、そこは加減をして。
その衝撃は並ではなく、大戦艦であっても耐えられるものではなかった。
「うそ……っ!?」
「残念ながら本当です」
体勢を崩した瞬間に春雨の脚が伸び、足払いを決めた。余計に体勢を崩した大和はその場に尻餅をつくことになり、最後に春雨が鉤爪を眼前に突き付ける。
「……参りました。まさかここまでとは。慢心していたわけでは無いのですが、知らないということはこういうことなんですね」
「ですね。この手段を知られていたら、大和さんには拮抗されていたと思います」
「負けていた、では無いんですね。ふふ、流石です」
親善試合は春雨が勝利を収める。これにより、深海棲艦がどれほどのものかを理解し、さらには仲間となってくれたことを心の底から喜ぶことになった。
艦娘最強である大和より、春雨の方が上であることが判明しました。辿り着く者としたの力は、今やほぼ全開で使えるようなもの。
支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/100256261
MMDアイキャッチ風曙&朧。おそらく今でも北上組として特訓を受けているでしょう。そしてそこに加わった文月達の先輩として、より無茶苦茶な特訓を強いられているでしょう。どちらも根性あるだろうから、文月達も先輩として尊敬しているはず。してるよね?