空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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真の帰投

 春雨と大和の親善試合が終わり、2人が工廠に戻ってきたところ、岸で観戦していた者達も2人の健闘を称えるために工廠へと来ていた。

 

「流石は春雨姉さんです。あの大戦艦に屈することなく、むしろ真正面から圧倒してしまうとは、この海風、感動してしまいました。辿り着く力を十全に使いこなし、弾幕を掻い潜る姿は本当に勇ましかったです。私も見習わなければ」

 

 案の定、春雨が勝利したことで海風が大興奮。春雨は苦笑しながらステイと海風を落ち着かせる。他の者も沢山いる工廠でいつものマシンガントークは控えてもらった。

 

「いやぁ、流石ですなぁ春雨氏。かの大和嬢にも臆さずぶつかり合ってあそこまでやれるとは。漣もビックリですわ。海風氏が盛り上がっちゃうのも無理は無ぇですよ。これはもう胴上げくらいした方がいいんじゃ痛ぁ!?」

「たかが演習でしょうが。んなことやったら迷惑よ」

 

 漣も海風と同様に大興奮だったが、そこは曙が引っ叩くことでステイ。朧も苦笑しながら漣の口を塞ぐ。

 

 実際、春雨は今回は勝てたものの、ある意味()()()()をしたようなもの。大和が春雨のすることを最初から全て知っていたのなら、最後の一撃も受け流していた可能性が高い。

 春雨は自分のことを知ってもらうために大和と戦っていたようなものだ。辿り着く力として、どれだけ弾幕を張っても潜り抜け、駆逐艦と侮っていたわけではなくとも戦艦の膂力を上回る近接戦闘を見せることが出来ることを。

 

「大和さんにも話したけど、多分次やったら拮抗だよ。それに、1対1だからどうにか出来ただけっていうのもあるし。戦いはチームプレイだからさ」

「なんて謙虚な。でも、春雨姉さんの言う通りですね、単独で戦えれば有利かもしれませんが、多対多の場合は話が変わりますかね。それに、春雨姉さんのやり方を知られた後では、対策もされてしまうでしょうし。……私としては辿り着く力への対策がどういうものかはわかりませんが」

「弱点を見つけてもらえると嬉しいかな」

 

 辿り着く力への対策と言われると、それを持つ春雨でもすぐには思い付かない。それくらいインチキと言える力だ。しかし、弱点が多いこともわかっている。

 対人戦だと屈指の力と言えるものの、あまりにも多すぎるものに対しては対応しきれない。また、味方に使っていても対象が多いと疲労が一気に溜まる。その時の最善を掴み取ることが出来るかもしれないが、それでも望んだ結末になっているかはわからないのである。

 

「そ、そろそろ、口離してくれないかねボーロ!」

「ああ、ごめんごめん。余計なことを言いそうだったからつい」

「ボノよか実力行使の出方が酷いよねボーロは!?」

 

 ここでようやく口止めされていた漣が解放される。そんな話をしていても、春雨は終始笑顔だった。

 

 一方、春雨との演習で敗北を喫した大和であるが、その敗北を既に次に繋ごうとしていた。

 

「あの最後の蹴りは……」

「春雨さんの脚は艤装です。その長さを蹴った瞬間に一瞬伸縮させることで衝撃を発生させている、と考えるのが妥当でしょう」

 

 大和に説明するのは鹿島。練習巡洋艦として、親善試合の一部始終を凝視し、分析していた。

 蹴られた瞬間に衝撃を受けるというのが、大和としては苦い記憶を呼び起こす。触れられた瞬間に吹っ飛ばされ、壁にヒビが入るほどの衝撃を何発も喰らった、あの時の記憶。

 

「次同じことをされると感じたら、耐えるのではなく、押し返す方向で力を入れた方がいいですね。私達ではそれでも弾き飛ばされると思いますが、大和さんの体幹と膂力ならば耐えられると思います」

「なるほど、肝に銘じておきましょう」

 

 決戦に挑むにあたって、そういう今までに知らなかった戦術を知ることが一番の対策となる。

 

 如何に歴戦の鎮守府であっても、今回の戦いは今までとはまるで違う戦いだ。侵蝕だけでも相当なのに、それだけでは済まない可能性が非常に高い。鹿島と雷が参加した龍驤との戦いでも、浮遊した飛行甲板が何枚も重ねられて砲撃が一切通らなくなったり、そもそも深海忌雷が艦娘に寄生して、過剰な出力をさせた挙句、命を吸い尽くしてしまう事例まで出てしまっている。

 そうなると、これまでの常識なんて考えるまでもなく捨て去り、その戦いに何度も参加していた者達、先駆者の戦い方をまず知り、理解することが対策への近道。少なくともその戦術で今までの戦いを潜り抜けてきたのだから、少なくともそれが出来るようにならなければ、追いつくことすら出来ないだろう。

 

 

 

 

 ここからは出来る限りの演習が繰り広げられた。まずは1対1での力の見せ合いが続き、施設の者達がどういう存在なのかを確実に知ってもらうことに時間を使った。連携するにしても、単体の戦い方を知らなければ、組み立てることも出来ない。

 順当な戦い方をする者は、この場にはほとんどいない。海風は右腕を変形させて多種多様な戦闘方法を再現するし、叢雲は槍のみを使った近接戦闘で砲撃すら弾き飛ばす。コロラドに至ってはロブスターのハサミとカニの甲羅だ。

 

「深海棲艦って、ここまでやれたっけ!?」

 

 思い切り愚痴のような言葉を吐き出したのは川内。たった今、戦艦(コロラド)に立ち向かうという、艦娘同士でも厳しい演習をしたわけだが、手も足も出ないというわけではなくとも、攻撃のほぼ全てが通用しなかった。

 川内としてはそんな経験をしたことが殆どなく、負けるにしても一矢報いるくらいは出来た。しかし、コロラドには本当に傷一つつけられなかった。

 

「私が特別なの。でも、いい線行ってるわよ。Staminaをそれなりに使わせられたんだもの。あれ以上続けられてたら、私の方がKnockdownさせられてたかもしれないわね」

「そ、そうなの? じゃあ、攻撃しつつも持久戦に持ち込んだら」

「私はもう少し激しく攻撃してたわね。で、それまで耐えられたら気に食わないけどGive upしてたわ」

 

 まぁ負けるわけにはいかないけど、と後付けし、コロラドは川内の健闘を称えた。

 コロラドも相当特殊な方なので、それが見せられたのは大きい。それでも白鯨は出していないのだが。

 

 ここからは比較的順当な砲雷撃戦をする3人であり、まずは白露の番。とは言っても錨を振り回すようなこともするので、順当とは言い難い。しかし、錨を使う者というのは艦娘にも一部存在する。ここにいる雷も、緊急時の近接武器として使用することはある。そのため、スタイルとしては艦娘にかなり近い。

 槍を扱う叢雲も近接戦闘といえば普通かもしれないが、特化しているというのは特殊なので順当とは言い難い。そもそも槍の巨大化なんて艦娘には出来ない。

 

「先に特に特殊なタイプを立て続けに見てもらいましたが、ここからはどちらかと言えば艦娘に近い戦い方をするヒト達をメインにしています」

 

 春雨が提督に説明する。その白露の相手は、大塚鎮守府からやってきた中でも相当な実力を持つ駆逐艦、長波。川内の部下として戦闘能力がかなり高い。

 それでも白露は充分すぎるほどの力を発揮し、長波を追い詰めていく。

 

「こ、コイツ、なんだコレ!」

 

 相手をする長波が苦戦を強いられているのは簡単な話で、戦術に慣れたと思った瞬間には、別人のような動きをし始めるからである。砲撃を主体に戦闘を続けているかと思いきや、突然の突撃に転じ、それに慣れてきたかと思いきや、搦め手をやたらと使うスタイルへと変化。

 夕立が突撃し、時雨が安定させ、村雨が搦め手で惑わし、それを白露が統率する。ここに春雨のサポートが加わって完璧となる駆逐隊の力のうち、春雨を除いた4人分を白露が全て使いこなしているのだから、翻弄されて当然だった。長波は今、4人を相手にしているのだから。

 

「悪いね。あたし、こういうやり方なんだ」

 

 長波が咄嗟に放った魚雷は、着水する前に砲撃で撃ち抜いた。これは時雨の技術。

 

「うぇっ!? そんな精度、さっき見せてなかっただろ!」

「そりゃあそうでしょ。見せ続けたら慣れちゃうんだもんよ」

 

 魚雷の爆発を回避しようとした長波の脚に、錨の鎖が絡み付く。これは村雨の技術。

 

「逃がさないよ!」

 

 そして鎖を引っ張るようにしながら突撃し、ほぼゼロ距離での砲撃。これは夕立の技術。

 

 瞬時に技術を変えられるのは、白露が持つ姉妹統率の力。混じっている気質をその場でコロコロと変えられるのは、白露の一種の特殊な能力と言える。

 白露らしさが戦闘技術に発揮されないかもしれないが、そもそも複数の異なる力を当たり前のように使いこなしていること自体が、白露でなければ出来ない。

 

「マジかよ……っ」

 

 その一撃は辛うじてバルジを展開することで防いだが、鎖を消しながら足払いをして体勢を崩す。

 そこからさらに艤装を変形させ、大型の主砲を展開。これは時雨の艤装。

 

「4人分だからさ、簡単に覆してもらっては困るんだ」

 

 そしてその主砲をゼロ距離で放つ。模擬弾とはいえ、その威力は相当であるため、長波はマズいと感じたか、力を全て足に込めるかのように全力のバックステップ。ゼロ距離の砲撃をギリギリのところで回避。力業は長波の得意技だが、演習でここまですることはなかなか無い。

 長波だって大塚鎮守府では相当な()()()だ。鎮守府では、技の夕雲、力の長波と称されるくらいの筆頭駆逐艦なのだが、今の白露のトリッキーな戦い方には悪戦苦闘である。

 

「夕雲姉を相手にするよかしんどいぞ……」

「それは光栄だね。そっちの夕雲がどんな戦い方をするかは知らないけど、さ!」

 

 再び錨を振り回して、今度は大袈裟に身体を縛ろうと投擲。避けてくださいと言わんばかりの攻撃だが、今までの経験からして、そもそもこれが囮で別のことが本命だろうと察しはつく。

 ならば、これをどう避けるか。ただ避けるだけでは思うツボになりそう。ならば錨を撃つ。これならば白露の体勢を崩すことが出来そうだ。そう考えた長波は、すぐさま行動に移す。

 

 しかし、錨に一瞬でも意識を向けた時には、その錨自体がもう消えていた。代わりに逆サイドから白露が突撃している。

 

「げっ!?」

「隙あり!」

 

 脇腹に一撃。常に翻弄し続けて、最後はしっかりと決めた。

 

「あークソ! もっかい! 次は負けねぇ!」

「はっはっは、でも後からね。まだ順番とかあるから、出来たらでお願い。ちゃんと相手するから」

 

 この一戦で白露と長波は仲良くなる。長波の一方的なライバル視みたいになりそうではあるが。

 

 

 

 

 その演習を見届けた堀内提督は、なんだか感慨深い気分だった。こうなる前、部下達が演習を繰り広げるところを何度も何度も見ているからか、その白露の戦いからは4人分を感じ取ることが出来た。

 

「……本当に帰ってきたんだな」

 

 堀内提督は白露達が本当に帰ってきたと実感出来ること。姿は1人かもしれないが、今そこには4人いた。

 

「ですね」

 

 五月雨も堀内提督の隣でそれを笑顔で見ていた。姉の帰還を真に理解出来てご満悦なようだ。

 




白露も4人分の戦いをマスターしています。見る人が見れば、ちゃんと4人であるとわかるくらいに。
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