空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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心の成長

 個人演習は続き、艦娘と近い戦い方をする面々ということで大鳳の力──戦艦と空母、そして刀による力押しスタイルを見てもらった後、古鷹の番。施設の者としては最後の個人演習となる。大塚鎮守府の面々も全員の力を知ることが出来ているため、古鷹の相手は既に見た者となる。

 

 元々大塚鎮守府の者であるが、戦い方はもうその当時とはまるで違うものとなっているため、一度見て知ってもらわなければならない。とはいえ、そのスタイルは戦艦レ級であるため、そういう意味では戦い方は誰でも知っているもの。

 だが、それを()()()()()ということに意味がある。見た目は重巡洋艦なのに、艤装はレ級で出力はそれ以上とすら感じるだろう。だからこそ、その力を正しく使うと何処まで心強いかを知ってもらいたい。

 

「私と雷ちゃんは同じ戦場にいましたから、古鷹さんの戦い方はおおよそ理解しているつもりです。なので、別の方に……」

「あの、私からこんなことを言うのはなんですが、演習として相手をしてもらいたいヒトがいるんです」

 

 鹿島が誰を出そうかと考えているところに、古鷹があえて自分からリクエストさせてもらいたいと話す。そしてそれは、大塚鎮守府の艦娘ではないことも。

 古鷹の戦いを、大塚鎮守府の仲間達にまずは見てもらいたい。実際にやりあうのではなく、まずは見るだけ。それくらい、古鷹は今この場で相手をしてもらいたい者がいるのだという。

 

「早くやりたくて仕方ないという顔をしているんですよね……武蔵さん」

 

 古鷹が武蔵の方をチラリと見やると、待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑い、ズンズンと前に歩み出てきた。

 

「少しだけ、ほんの少しだけ、()()があるんです。それは私にとって、いい意味で刻まれていまして」

「そうなんですか? そういうことなら、私達は古鷹さんの戦いを見守ります。ケジメか何かなんですか?」

「そんな感じです。武蔵さんも察してくれているように見えますね」

 

 歩み出てきた武蔵は、腕を組んで仁王立ち。その風格たるや、大和以上にも思えた。

 

「私でいいのか? 貴様が本当に戦わねばならないのは、金剛か比叡ではないか?」

「いえ、武蔵さんでお願いします。その、金剛さんや比叡さんには()()()()()が先立ちますし、私の気質が本気を出させてくれません。ですが、武蔵さんなら、私の全てを見せられると思うので」

「そうか、そういうことならば引き受けよう。やはり榛名が混じっていることがそうさせるのか」

「ですね。それに、あの時にそれを利用してしまったのが、どうしても引っ掛かっているので」

 

 古鷹が治療されるに至ったのは、金剛と比叡のおかげである。比叡の刀剣を金剛が使ったことで、瀕死の重傷を負うことが出来たのが古鷹の元に戻る要因。あの金剛がそこまでしたのは、あの時の古鷹が死者を冒涜する行為をしたから。そこがどうしても引け目になっている。

 当然ながら、金剛と比叡にはその件を謝罪しているのだが、これだけは開き直れない。自分は2人の妹であるという思考も出てきてしまっているため、いろいろと混じり合って2人とはまともに戦える気がしないと古鷹は感じていた。

 

 それと比べると、武蔵はあの現場にもいた上に、自分に対して叱咤までしてくれている。当時は侵蝕を受けていたために苛立ちしか無かったが、今ではその言葉は古鷹にとっても大切なものとなっていた。

 

「武蔵さん、私は自分の弱さを知ることが出来ました。次は、(ココ)をより強くしたい」

 

 自身の胸に手を当てて、力強く宣言する。あの時の武蔵に言われた言葉。自分の弱さを知っているが故に慢心などしない。そして、心が絶対に折れないから負けない。この言葉が、今でも古鷹には心に刻まれている。

 

 その古鷹の言葉に、武蔵の笑みは不敵なモノから慈悲深いモノへと変わった。

 

「ああ、そうだな。ならば、私が相手をせねばな。強い心は、強い身体に宿る」

 

 さぁやろうと海上へ。この演習、勝っても負けても、古鷹は先に行ける。未だ振り払うことなんて出来ない罪悪感を、多少は呑み込むことが出来るだろう。

 

 

 

 

 岸ではこれまでと同じように2人の演習を仲間達が見守る。その中には、金剛と比叡の姿もあった。

 

「やっぱり、気になってしまうものデス」

「ですね……。あの古鷹は、私達の妹でもあるわけですし」

 

 堀内鎮守府に榛名はいないが、どういう存在かは知っている。金剛型の姉妹の中では特に優しく、しかし真っ直ぐとした信念を持つ自慢の妹。その性格が古鷹にも影響を与えているのは確実であり、古鷹も金剛と比叡は姉と感じている節はある。

 

「私達が相手をしたかったですね」

「そうネ。でも、榛名の気質が入っているなら、私達と相対するのはVery difficultだと思いマース」

 

 だが、それがあるために金剛と比叡にはどうしても本気が出せないというのも理解出来る。榛名の優しさは、()()()()優しさだ。いくら演習であっても、いくら絶対に死なない戦いであっても、姉妹に手を上げることを拒むくらいに。

 姉のことを尊敬しているから、手が上げられない。ある意味、今の海風のような在り方を、艦娘として既にやっていたのが榛名である。

 

 そうなると、古鷹の全力、今知らねばならない情報を知るためには、相手を武蔵にせざるを得ないのだ。()()()()の時から因縁がある武蔵でなければ、古鷹は今の自分を出すことが出来ない。

 

「そういうところも、榛名なんだネー。古鷹には、榛名がすごく強めに入っちゃってるのカナ」

「古鷹の他に3人混じってるはずなんですけど、古鷹の次に榛名が()()んですよね。重巡洋艦の身体だったのが戦艦の力を手に入れたからですかね」

「かもしれないネ」

 

 金剛も比叡も、古鷹を見る目は妹を見るそれだ。演習では、武蔵に勝ってもらいたいと心の中で応援していた。

 

 

 

 

 海上で相対する古鷹と武蔵。以前にこうやって向かい合った時、古鷹は泥に侵蝕されていた。古鷹1人で戦艦3人と戦い、金剛の怒りを買うまでは互角だった。しかしそれは、泥によるブーストがあったからだ。

 今はそれはなく、戦艦の力が使える代わりにスタミナがやたらと少ない深海棲艦である。当時は武蔵よりもおそらくは強かったのだろうが、今はそこまでの力は発揮出来ない。榛名の気質である優しさも、そこに絡んでくるだろう。だが、そこは鈴谷や最上の気質を使えば()()()()()()どうにか出来る。

 

「よろしくお願いします。今の私を見ていただきたいです」

 

 艤装を展開しつつ、戦いやすい姿にも変わる。艤装は戦艦レ級と同じもの。そして、制服もインナーに上着を羽織るだけ。胴に刻まれた斬り傷も、インナー越しにハッキリと見えるように。

 

「ああ、見せてもらおうか」

 

 武蔵もその巨大な艤装を展開。大和のそれを見た後なので、少しだけ小さいように見えなくもないが、武蔵のこの艤装は大和よりも数倍は使い込まれているため、出力の安定度が違う。

 故に武蔵は強い。爆発力ではなく安定に力を使い、しかもそれが通常の火力とは比べるまでもなく大きいとなれば、それはもう最強と称されてもおかしくないのだ。

 

「使える手段はいくらでも使ってくれて構わん。既に先の大鳳で見ているからな。空襲でも砲撃でも、貴様は雷撃も出来たか。その全てを私に見せてくれ。むしろ、それが今回の演習だろうからな」

「はい。胸を貸してください」

 

 微笑んだ後、間合いを取る。お互いに戦艦であるため、それなりに大きな間合いは必要。砲撃1つでも衝撃が大きく、駆逐艦の間合いでは一瞬で終わってしまうし、古鷹に合わせた巡洋艦の間合いでも訳がわからないまま終わる可能性が高い。

 古鷹は近付くこと、武蔵は近付かせないことを念頭に置いた戦いとなるだろう。互いに自分の間合いに持っていくことが勝利の鍵。今は武蔵側に傾いている。

 

「では……行きましょう」

 

 尻尾の口から膨大な数の魚雷が吐き出され、武蔵に一直線に突っ込んでいった。戦艦では極々稀な雷撃は、深海棲艦の中ではそれなりに多用される戦術。

 こういうところだけは巡洋艦なのだと理解しているため、武蔵は即座に砲撃による対策を取る。強烈な火力の砲撃を海面に放ち、普通ではなかなかお目にかかれない水飛沫を巻き上げて全魚雷を破壊した。

 

 勿論そうすることで武蔵の視界は水飛沫で全て封じられる。古鷹の姿が見えなくなるということは、今ここで突撃するのがベスト。

 しかし、わざわざそうしてきたということは、突撃を誘い出しているとも考えられる。故に、古鷹は突撃ではなく空襲を選択。魚雷を吐き出した尻尾は、同じモーションで今度は艦載機を吐き出す。その量も相当なものであり、並の空母の搭載数を優に超えている。

 

「やはりか。突撃か空襲の二択だったからな。不用意に近付かない選択肢が取れるのは、ヤツだからさ」

 

 そちらは高角砲群を使用しての対空砲火。自分に害を及ぼすであろう艦載機のみを撃墜し、古鷹の次の一手を見据える。

 必要以上に撃墜しないため、武蔵の周囲は自分にダメージが入らない程度の空爆が繰り出され、魚雷を爆散させたモノとは別の水柱が立ち昇った。正面のみならず、周囲もそれで視界を封じられる。

 

「面白い、まずは視界封じか。確実に私を斃そうとする気概を感じるぞ」

 

 やはり邪魔だと感じたか、武蔵はその強大な主砲を連射し、水飛沫を全て霧散させた。この隙を見て突撃してくる可能性も考え、自分を守るために360度全てに弾幕を張る。

 これは先に行なわれた演習から取り入れた手段。大和の弾幕を春雨が乗り越えたことを考えると、全方向を壁にしなくては近付かれる可能性がある。古鷹の力が何処までのものかを見るためにも、武蔵は全力で迎え討つ。

 

「やっぱり。電探があっても視界の確保はすると思っていました。だから、ここで畳み掛けます」

 

 そこにさらに雷撃。圧倒的なその魚雷の数で、処理が追いつかないようにしていく。それでも全てを対処していくのが武蔵なのだが。

 しかし、対処しているということは、他を対処する手が足りなくなるはず。そこを見計らって、魚雷を吐き出した尻尾をさらに前方に構える。すると、その口内から戦艦の主砲が生えてきた。

 

「どうですか!」

 

 そして、水飛沫に向かって武蔵と同じように連射。魚雷、空襲、魚雷ときて、ここでさらに砲撃。その全てが、艦娘の中ではトップクラスの威力。得た力を使い切ろうとする全力で、武蔵を圧倒する。

 自分の砲撃によって姿は見えなくなるものの、そこで攻撃の手を緩めていたら、その隙をつかれて返り討ちに遭う可能性だってあった。それ故に、全力を出し続ける。武蔵がその場所から動いたようにも見えないため、全てが当たっているか何かしらで防がれているかのはず。

 

「私に攻撃の隙を与えないと考えるのはいいことだ。だがな、私はまだ倒れんぞ!」

 

 しかし、それを真正面から拮抗してくるのが武蔵である。弾幕には弾幕を。その砲撃同士がぶつかり合い、威力もほぼ同じであるため、互いにその場から動けない。

 

 ここからはスタミナ勝負となるのだが、そうなると古鷹が圧倒的に不利である。今の拮抗を維持するにも、その体力はゴリゴリと削られ続け、深海棲艦であるが故に、それがそのまま攻撃力に直結する。撃ち続けていても、そのうち武蔵が押し勝つことは誰が見ても明らかだった。

 

「ならば……!」

 

 だからこそ、古鷹は4つ目の手段がある。その右腕に本来の自分の艤装、艦娘の艤装を展開し、主砲を放ちながら接近。撃つタイミングをうまく合わせて、接近戦へと持ち込もうとした。

 右腕の艤装は、いわば主砲群のようなもの。左腕で尻尾を支えながら、右腕の砲撃も加える。大きな砲撃に小さな砲撃を紛れ込ませることで、より強力な弾幕へと発展させた。

 

「くくく、はっはは、素晴らしいぞ古鷹! 貴様は確実に、()()()より強くなっているではないか! そうだ、やはり(ココ)の強さが、全ての強さに繋がる! 貴様も理解しているようだ、なぁ!」

 

 迎え討つため、武蔵も砲撃を放ちながら突撃。そして、

 

「ぐっ!?」

「ははぁっ!」

 

 ガギッと鈍い音がして、砲撃の雨が止まった。古鷹の右腕の艤装が武蔵の主砲に阻まれ、武蔵の逆の主砲は古鷹の尻尾に阻まれる。

 こうなると空いているのは武蔵の両腕と古鷹の左腕。咄嗟に左腕を突き出した古鷹だったが、武蔵の右腕に払われ、逆に武蔵の突き出した左腕は、古鷹が綺麗に回避する。そしてそのままダッキング。

 

「……引き分けでいいか?」

「はい、ありがとうございました。私は、(ココ)も強くなれましたか」

「充分だ。しっかりと、正しく乗り越えているようで何より」

 

 このままではもう埒が明かないので、演習は終了。古鷹は、武蔵に対してドローに持っていくことが出来たのだ。

 

 

 

 

 精神的な成長を見ることも出来たため、古鷹としては大満足と言える演習だった。

 大塚鎮守府の面々は、古鷹のその変わりように、驚きが勝っていたようだが。

 




古鷹はこの後、スタミナ不足でふらふらになりそう。それでも武蔵相手にここまで出来ているのだから、充分すぎる程の戦力と言えるでしょう。


支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/100314644
MMDアイキャッチ風文月。この演習を見て目を輝かせ、自分もああなりたいと興奮しているでしょう。でも参考にならなすぎる演習なので無茶しちゃいけない。北上さんもありゃ無理だと思ってる。




【挿絵表示】


文月と同時期に堀内鎮守府に加わったドロップ艦は3人。もしかしたら、こういう面々だった可能性もある。無論、あのヒト達とは同じ顔の別人。
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