空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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特別ゲスト

 個人演習が一通り終わったところで、一旦昼食の時間。朝から堀内鎮守府に向かったとしても、そこからそれなりに時間は経っているため、ちょうどいい時間となった。

 その後は団体での演習。施設の者達の力は充分に理解出来たはずなので、混合の編成でぶつかり合い、鍛えながら()()()の連携を学んでいく。

 深海棲艦は一癖も二癖もある者達ばかり。最も艦娘に近い動きをする白露ですら、その場で戦術を変えるため、連携には慣れが必要だ。

 

「ふぃー……ここのご飯は相変わらず美味しいなぁ。午後からの活力が湧いてくるってモンだよ」

「ですね。本当に久しぶりでしたけど、懐かしい味でした」

 

 久しぶりの堀内鎮守府での昼食にご満悦な白露。春雨と海風も、かつて食べていた味に舌鼓を打ち、満足げに微笑む。

 施設の味も勿論いいのだが、鎮守府の味も素晴らしい。かつて、海風が初めて施設で寝泊まりをした時に、この鎮守府の食堂を経営している間宮の味と比較した発言をしていた。春雨はそれを思い出しつつ、逆に施設の味がここに追いついていることが凄いと感じている。

 

「ここで落ち着いてご飯が食べられる時がまた来るだなんて、思ってもみなかったです。みんなと一緒に」

 

 鎮守府の食堂で、みんなで集まって食べる。施設よりも当然広く、大人数であるため、騒がしさも施設の倍以上。

 

 とある場所では、先程の演習の感想戦。鹿島が中心となり、施設の者達に通用しなかった部分を、腹を満たしながら分析。また別の場所では、北上組が参考に出来そうにない演習の光景を思い浮かべながら、次のトレーニングのプランを考えている。また、江風達が施設の者達の強力な能力にどうやったら勝てるかの作戦立案。

 食堂を埋める話題は、全てが午前中に繰り広げられた演習の内容。自分達のことを話題にされるのは少々恥ずかしいとも思うが、それだけ受け入れられているとも感じられるため、悪い気分ではなかった。

 

「……ここのスイーツもなかなかね」

 

 叢雲は早速デザートをパクついていた。施設では食べられないようなモノに、白露とは違う方向でご満悦のようである。

 それに対してコロラドが弄るようなことは無かった。叢雲はかつて、ブラック鎮守府で酷い目に遭っているからこそ、怒りが溢れて今の身体になっている。そんな叢雲が、鎮守府で提供されたもので喜んでいるのなら、空気くらいは読む。ここでいざこざを起こしても、春雨達にも嫌な思いをさせるかもしれないため。

 

「あたしもたーべよ。春雨と海風もいるっしょ?」

「そう、ですね。ここに来たら食べておかないとです。海風もだよね」

「はい、お供します。ここの味を堪能しておかなければ」

 

 演習の後もそうだが、もう今の春雨は、怒りが溢れているようには見えなかった。()()に戻ってきたことにより穏やかになっている。ずっと持続している辺り、この空間がどれだけ春雨に良い影響を与え続けているかが窺えるものだ。

 

 食堂にいる者はほぼ全てが食事を終えて、デザートを食べているかのんびりと休憩時間を堪能しているかしている。その食堂に、少し早歩きで堀内提督が入ってきた。

 

「みんな揃っているね」

 

 稀に昼食時に緊急事態が起きた時は、最もヒトが集まっている食堂でその事態を解説する。知られてマズいコトは何処にもないため、全てを大っぴらに話してもいい。

 

「悪い報せじゃないから安心してくれ。今からだが、演習に()()()()()がやってくる」

 

 堀内提督の言葉に、みんなが誰だろうと首を傾げたりするのだが、春雨には何処となく察する要素があった。

 これだけ食堂にヒトが集まっているのに、確実に演習をやりたがるような性格である島風がここにいない。それと併せて宗谷もいない。ここから考えられるのは、そのゲストというのは大将に関係した者。おそらく今、出迎えに行っているのだと推測出来た。

 

「彼女もまた、決戦に参加してくれる予定であるため、この機会に参加する面々の実力を見ておきたいということでね。午後から急遽参加してくれることになったんだ」

 

 話している内に、少しゆっくりと食堂に向かってやってくる影に気付いた。そのうちの2つは、今ここにいなかった島風と宗谷のモノ。そして、その後ろにいたのが、春雨の予想通り大将である。

 大将がそこにいるのなら、隣に吹雪が立っているのも当たり前のこと。そして、この特別ゲストというのも、吹雪である。

 

「急に来てしまって申し訳ありません。仲間の実力をその目に出来る機会というのを逃がすのは惜しいと思いましたので、今からでも参加させてもらいますね」

 

 吹雪の姿を見て、あの時のトラウマが一瞬蘇ったか、大和の表情が若干曇る。吹雪に完膚なきまでに敗北したことではなく、当時の自分の傲慢さを思い出してだ。

 侵蝕されていたのだから、誰もが同様にそうなる。本来ならば心優しい古鷹ですら、侵蝕によって格に拘る傲岸不遜な性格に変えられていたのだ。大和であってもそれには抗えない。しかし、その時の記憶があるせいで、自分にもそういう一面があるのではと錯覚させられるのが厄介なところ。

 改二という力を与えられた大和であるが、今でもそこはずっと引っかかっていた。顧みないようにしていても、どうしても考えてしまう。それは侵蝕を受けた誰もが同じであるのだが。

 

「大和さん」

 

 その様子にいち早く気付いた春雨が歩み寄る。

 

「大丈夫です。誰も、貴女のことは責めていません」

 

 そしてその手を取り、両手で握った。義腕であっても、それは春雨の温もりを強く感じることが出来る。

 

「侵蝕を受けたヒトはみんな同じ悩みを抱えることになります。でも、それは全て黒幕に植え付けられたモノ。貴女の根幹にそんなモノがあるわけがありません。怒りの矛先は、自分に向けてはいけません」

 

 大和が持っている感情はその類と言ってもいい。正気に戻れたからこそ、正気ではなかったときの自分に怒りを持っている。

 春雨は、かつて自分も言われた言葉を大和にも説いた。その思考を植え付けたのは泥、つまり黒幕だ。苛立つ要因を履き違えたら、その思いに呑み込まれて正しく力が発揮出来なくなる。

 

「……そう、ですね。このモヤモヤの原因は、私のモノではない……ですよね」

「はい、勿論。大和さんはそんなことをするわけが無いんですから」

 

 微笑みながら、その握った手を撫でる。ただそれだけでも、大和は安心することが出来た。

 吹雪を見たらどうしてもあの時のことを思い出してしまうが、それは自分への怒りではなく黒幕への怒り。トラウマを振り払い、精神的にさらに一歩進む。

 

「ありがとう、春雨。少し落ち着けました。貴女に言われると、なんだか気が楽になりますね」

「そうですか? まぁ……私もここまで来るのにいくつも修羅場を潜っているので」

「少しですが話は聞いています。私では心許ないかもしれませんが、何かあったら協力しますね」

「ありがとうございます。私も結構ガタガタなので、頼らせてください」

 

 手を取り合って笑い合う2人。それを少し遠目に見ながら、海風と漣はうんうんと頷きながらその光景を見ていた。これで大和も春雨に尊敬の眼差しを向けることになるだろうと思いながら。

 

「お昼からの団体演習をまず見せてもらえるとありがたいです。午前中の個人演習が見れていないので、その、施設の方々の力というのを知ることが出来ていません。私も同じように直に戦えばいいかもしれませんけど」

 

 連携をするためには力を理解する。これは大塚鎮守府の艦娘と同じだ。いくら歴戦の猛者である吹雪といえど、その実力も知らない相手とぶっつけ本番で完璧な連携が出来るほどデキた艦娘ではない。というのが本人の談ではあるが、それでもある程度こなすのが吹雪であるというのは大将の艦娘達の内心である。

 ただ、黒幕との決戦はほんの少しの不安要素も排除したい。ある程度ではなく、旧知の仲というくらいに力を合わせられなくては、その隙をつかれる可能性がある。完璧主義というわけではなく、マイナスの要素を可能な限り消したいだけ。

 

「その演習を私も見させてもらうわね。作戦の立案に役立てることが出来るでしょうから」

「お願いします。現状を現場で知っていただけるのはありがたいです」

 

 大将もその演習を堀内提督と共に見て、これからのことに使いたいと話す。艦娘と深海棲艦が共存するにあたり、仲良く実力を伸ばし合うその光景は、今も続いている穏健派の深海棲艦との共存に一役買うはず。

 そのため、午後からの演習風景は、前哨戦の時のように録画する方針。艦娘も深海棲艦も何も変わらないことの証明となる。

 

 

 

 

 午後の演習まではまだ少しだけ時間がある。その貴重な時間を、吹雪は共に戦うであろう仲間達との交流の時間にあてた。

 施設の者達とは監査の時に多少なり交流があるものの、世間話的なモノは出来ていない。なので、ここで改めて話をしようと考えたようだ。

 

「監査の時は一歩も二歩も下がったところから眺めていただけだから、こうやって面と向かってちゃんと話すのは初めてだよね」

「そう、だね。画面越しでもあまり話をすることが無いから」

 

 その対象は、やはり春雨。吹雪からしても、今回の施設側からの出向メンバーの中で、リーダー格と見えたようである。

 春雨にそういう気持ちは無いのだが、施設の面々の中で最も特殊な力を持っていることによって中心人物として見られているのは理解している。そして、春雨がいなければ黒幕との戦いが進められないのは誰もが理解していること。

 

「いろいろと話は聞いてる。吹雪ちゃん、大将の艦娘の中では一番強いんだよね」

「そうだねぇ。実力主義のうちの鎮守府の中で、ずっと秘書艦をやらせてもらっているくらいには、かな」

 

 自信満々、しかし慢心は無い。そんな吹雪の笑顔に、ほんの少しだけ驚きつつも、実力があるからこそこの振る舞いが出来るのだとわかる。

 

「でも、私だって万能じゃないんだよ。ここ最近は連携して敵を殲滅するとかそういう機会があまり無いから、まずちゃんと一緒に戦うヒト達のことを知ることから始めなくちゃいけないし、知ることが出来たからっていきなり連携出来るかって言われたら難しいと思うし」

「それは……誰でもそうなんじゃないかな」

「そうかな。少なくとも春雨ちゃんはぶっつけ本番でもある程度そつなくこなしそうだけどなぁ」

 

 笑顔を崩さない吹雪。本心から春雨達のことを信用しているため、内に秘めるモノも全て曝け出して話している。隠し事なんて一つもしていない。

 

「でも、正直なところね、肩を並べて戦うっていうのは、少し楽しみだった」

「そうなの?」

「そうだよ。だって、艦娘じゃなくて深海棲艦だよ? 本来は殲滅すべき敵だと思ってたのに、こうやって共存する道が出てきたんだもん。そりゃあ春雨ちゃん達は元々が艦娘だったっていうのはあるけど、それでも手を取り合えるっていうのは、とても素敵なことだと思う。未来のために他種族共同で事を成すなんて、もう奇跡みたいなモノじゃないかな」

 

 本当にそうだと春雨も同意する。深海棲艦となってしまったから、この鎮守府には戻ってこれないと思っていたのに、今ではかつての仲間、今の仲間が、そしてこれからの仲間が一堂に会し、和やかに昼食を摂りながら世間話なんてしているのだ。

 少し前までなら考えられない、奇跡のような風景。春雨も、吹雪も、この空間をずっと続けられるようにしたいと、心の底から思った。

 

「だから、これからもよろしくね。まずは後から一戦交えてみる?」

「こちらからも。一戦交えるのは私が独断で決めることは出来ないけど、機会があったら、ね」

 

 そんなことを言い合えるのは、もう仲がいいという証拠である。

 

 

 

 

 吹雪の望んだ一戦交えることは、団体演習の後に叶うことになる。

 




吹雪も参加すると言っていたのだから、この場にいなくちゃいけない存在。島風と宗谷が迎えに行って、この時間に帰ってきたのでした。
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