決戦への最後の参加者として、大将の秘書艦である吹雪が堀内鎮守府に到着。午後からではあるが、団体演習を見せてもらい、ここにいる者達の実力を知ってから、自分も連携が出来るようにと演習に参加させてもらうという。
その団体演習は、ある程度の役割を持たせた6人の部隊を2つ作り、それらを競わせるという方針。その中のルールとして、必ず3つの所属を混成させるように組ませた。ルール付けと部隊編成は、その場で堀内提督と大将が考えた。
ただし、どうしても相対させることが出来ない組み合わせというのがあるので、そこは考慮する。先程の古鷹と金剛比叡組、あとは春雨と海風はわかりやすい。他にも相性などがあるかもしれないため、そこは進めながら考えていく。
「部隊としての相性もあるだろうし、連携のしやすさというのもあるでしょう。それを知るために、ただひたすらに演習を続けてもらおうかしらね。決着がついたら次の部隊を編成していくわ。すぐに終わるから休む時間もあまり無いかもしれないけれど、そこはこちらでうまく配慮するわ」
大将が仕切りつつ、堀内提督が部隊を発表。そして12人が海へと出て、即対戦。個人プレーはしないことを念頭に置かれた演習は、個人演習の時と同様に、戦場に出ていない者達が観戦することによって客観的にも確認。誰がどう強いかを知ることで、そこを補うための戦い方を脳内でシミュレートするイメージトレーニングに繋げる。
特に今回は、特殊な力を発揮する深海棲艦との組み合わせだ。連携の仕方もかなり変わる。何度か共に戦っている堀内鎮守府の艦娘達はさておき、大塚鎮守府の艦娘達は、共に並ぶのも一苦労である。
「やはり、大将の島風は万能ですね。すぐさま順応して連携も出来ている」
「ええ。あの子は最初は手を焼いたけれど、今は周りをよく見ることが出来る良い子だもの。初見でも合わせることは出来るわね」
今の戦場は、島風が部隊を回していた。チームメイトである叢雲とは一度組んだことがあるため、やりたいようにやらせつつも援護も邪魔をしないように進め、さらには初めての連携となる長波と夕雲相手でも、叢雲の援護に徹するように指示を出していた。
島風の指示は周りが見えている分、充分すぎるほど的確。知っているものが相手ということもあるとはいえ、自分以上に周りを見ていることで、瞬時の判断を可能にしていた。おかげで、組んでいる千歳と千代田も確実な空襲を放つことが出来ている。
「金剛の統率力は目を見張るものがあるわ。旗艦としての実力がとても高い。貴女の部下から出すのなら、金剛は確定かもしれないわね」
「ですね。金剛も島風と同じように周囲が見えている。普段の気遣いが戦場でも活かせているのでしょう。火力も申し分ないですし、今のところは候補ですね」
島風達が相手をしているのが、金剛が率いる部隊である。金剛と比叡という戦艦の二枚看板が前衛となり、それをサポートするように川内と白露が隙間から狙う。さらにその後ろから江風と涼風が雷撃で援護。6人が一体となった突撃を決めていた。
金剛は盾を展開し、比叡が刀剣を握って突っ込むため、後ろからの援護が見えにくいようだ。そのため、砲雷撃戦はいい具合に拮抗している。
そこで出てくるのが近接戦闘。叢雲と比叡の一騎討ちの様相になりつつあった。
お互いに相手が傷つかないダミーを使っているが、激しい猛攻で牽制し合い、時には刃をぶつけ合う。比叡の間合いになった場合、叢雲は圧倒的に不利になるため、必要以上に近付かせないように槍を振り回す。
逆に、近付けなければ自分の間合いにならないので、叢雲の槍を弾き飛ばして前に出ようと攻撃を繰り返していた。
「泥相手に近接戦闘はどうなのかしら」
「今ではバリアがあるおかげで不可能では無くなりましたが、
「そうね。黒幕が自分だけで拠点にいるとは考えにくいし、周りに泥だらけの雑兵がいる可能性は高いわよね」
黒幕が拠点で待ち構えているのは当然として、今までのことを考えれば、幾重にも策を張り巡らせているのが当然。まず間違いなく1人でいるわけがない。侵蝕した艦娘や深海棲艦、もしくは
ありとあらゆる攻撃手段がある方が、どのような状況にも対応出来るはずだ。近接戦闘も必要だろうし、長距離砲撃だって必要。解放する武器も必要だし、切り捨てる武器も必要。無くていいものなど存在しない。
もし自分が待ち構える立場ならという観点から、あちらが取るであろう対策を網羅する。今の敵の手段を全て考慮し、さらにそこから考えられる発展した能力まで考察し、それすらも上回る策を考案する。しかし、ここまで長く戦っていても未だ全貌が見えていない異例の敵。本当に取らなくてはいけない対策が見えていないと言われたら、否定は出来ない。
故に、普通に考えたらあり得ないようなミスすらも手繰り寄せる。相手は本来の戦いから逸脱した存在だ。その空間に入った時点で侵蝕かもしれない点を考慮してRJシステムを作っているわけだが、それ以上の攻撃を仕掛けてくる可能性もある。
「吹雪、貴女は演習を見てどう思う?」
「私ですか? そうですね……」
演習を眺め、その戦い方をインプットしながら、考える素振り。数秒思案する。
「敵がああいうカタチでこちらを攻めてくるのなら、叢雲ちゃんと比叡さんは絶対に必要だと思いますね。自分の距離とか理解してますし、侵蝕を目的とした接近戦を仕掛けてくるにしても、引き際を弁えているように見えます。それに、叢雲ちゃんはまだ何か隠してる感じしますね。今よりも間合いを詰められた時に出すような何かを」
吹雪自身も近接戦闘が出来るため、飛行場姫とのスパーリングで編み出した槍の間合いよりも詰められた時に繰り出す隠し技の存在にいち早く気付いたようである。今はまだ出すまでもないとしているようだが、比叡がさらに詰めてくるようならば出すことになるか。
「でも、敵が侵蝕を優先して攻撃すらさせないようにする可能性もありますよね。確か、以前に泥の雨を降らせたのだとか」
「ええ、龍驤との前哨戦でそういうことがあったみたいね」
「それを常用化されたら、むしろ近接戦闘は頼れないと思います。なので、頼れるように考えなくちゃいけないのは、それを止める手段、空母の力じゃないかなと」
吹雪が今注視しているのは、島風や金剛のような指揮能力でも、叢雲や比叡のような近接戦闘能力でもない。ましてや、その戦いをサポートする者達でもない。千歳と千代田による艦載機の取り回しを重点に置いていた。
今は相手に空母がいないため、艦載機は好きなように動かせる。その操作と練度、視野角、その他諸々が、今の戦場に的確かどうか。
「単体性能はすみませんがわかりません。ですけど、2人揃っている時はうちのサラトガさんを優に超えていますね。2人分だからと言われればそうなってしまいますけど、2人分以上に力が発揮されているように思えます。相乗効果でしょうか」
「あの2人は基本的には同じ部隊で活動させている。常に連携をしているからかもしれないね」
「なるほど。なら納得行きますね。あの2人は
千歳と千代田は龍驤との戦いには参加しており、泥の雨も経験している。しかし、その時には雨を止めることは出来ていない。大鳳や古鷹が加わっても、超高高度からの散布をどうにかすることは出来なかった。
それでも吹雪は、あの2人にはそれが出来る力があると見出だしている。もしあの2人が、超高高度を対処出来る艦載機を手に入れることが出来れば、雨を止めることは確実に出来る。それ以上に、制空権すらその手中に収めることが出来るだろうと。
むしろ、今まではバックアップを基本としていたため、前に出ることは無かった。敵艦載機を食い止めて、他の者達が戦いやすいようにすることを心掛けていた。故に、あまり目立たなかった。
それが実際は一番の功労者である。仲間にそれを感じさせないくらいの行動を、出撃した全ての戦場でこなしているのだ。縁の下の力持ちとは、まさにこのこと。2人がいなければ、まともに戦えなかった場面も存在する。
「ほら、やっぱり。あの拮抗を崩しに行きましたよ」
吹雪が言うと、戦場に変化が訪れる。島風からの指示もあったか、千歳と千代田が制空権による牽制から一転して攻勢に出る。比叡と拮抗している叢雲を避けるように艦載機が真後ろに回り込み、一斉に射撃を始めたのである。また、そこに紛れた爆撃機が爆弾を投下。比叡を守るために動こうとした金剛の足も止めさせる。
艦載機の射撃くらいなら、金剛がその盾でガードしてしまうだろうが、それさえ止めてしまえば途端に脅威となる。
そこからはトントン拍子だった。隙をついた艦載機からの攻撃で戦場を見出だし、逆にそれをサポートするように島風と夕雲が周囲に砲撃。てんやわんやになったところで長波の的確な雷撃が金剛に決まったことで、旗艦大破によるフィニッシュである。
「堀内提督、少しだけ時間をくれれば、彼女達に必要な艦載機を用意するわ。あの子達は、決戦の中心に立ってもらう」
「了解です。僕も彼女達は編成しようと考えていましたから、そうしていただけるのは助かります」
この団体演習によって、その実力がより浮き彫りになる。今までと同じようにしていたら勝てないかもしれないが、ここで本当に必要な力を取捨選択することで、より勝利に近付く。
そのように、団体演習が続けられていく。メンバーを何度も替えて、誰がどのような状態で最も力を発揮出来るか。これを全員の目で確認する。そうしていくうちに、決戦への参加メンバーがおおよそカタチになっていく。
そこには大将の援助もいくつか加わることになった。艦娘の提供は今のままだが、そこに装備の提供まで含まれるようになったことで、より勝率の高い部隊が編成出来そうだった。
「吹雪、これで全員の動きを見ることが出来たと思うけれど、大丈夫かしら?」
「はい、頭に入りました。でも、どうしても春雨ちゃんだけは追いづらいですね。その時その時で動きが違いすぎる」
この演習でも、辿り着く者としての春雨の動きは、毎回違うカタチを見せていた。前衛を援護するサポーターをすることもあれば、隣に並び立って攻撃することもある。その時その時で戦術がガラリと変わるので、見ていて頭が追いつかなくなる時があった。
「なので、さっきも春雨ちゃんと話したんですけど、一度個人演習をさせてもらいたいなと。良かったですか?」
「春雨がいいと言うのなら、構わないよ。今は演習終わりで消耗しているとは思うがね」
なんて話しているうちに、その気配を察したか、春雨の方から吹雪の元へと駆けつけた。
「個人演習の件かな」
「うわ、流石だね。その話をしていたんだよ」
「いいよ。私も吹雪ちゃんの力を見ておきたいから。団体演習も見てるだけだったみたいだし、私と個人演習をしたら、次からは加わってもらえるよね」
仲間達と共に切磋琢磨することで、より一層穏やかになった春雨。怒りと寂しさが溢れているようには到底思えない表情に、堀内提督は内心で喜びが隠しきれなかった。
少し前にタブレット越しに見た怒りに塗れた冷たい表情は、今の春雨には存在しない。かつての艦娘の時の表情を完全に取り戻している。
「うん、そろそろ参加しないとね。でも、その前に春雨ちゃんと一戦させてもらおうかなって」
「そうだね。多分私の力だけが見ていてよくわからなかったんだよね。直に触れてみたいってことだよね」
「そういうこと」
「それなら、早速やろう」
別に好戦的というわけではないのだが、吹雪との戦いは春雨としても昂揚するようなことのようである。
「それじゃあ、私にも見せてもらおうかしら。春雨の辿り着く力というものを」
「はい、見ていてください。そこで私に弱点があれば教えてください。自分の目ではわからなくて」
「そうね、任せてちょうだい。これでも私、ヒトを見る目はあるつもりだから」
大将に戦いを見てもらうことで、春雨も自分のわからない自分を知るつもりだった。それ故に、個人演習でも団体演習でも率先して参加する。そしてそれが楽しかった。
ついにマッチングされた春雨と吹雪の演習。武蔵すらも敬意を表す吹雪に、春雨は立ち向かうこととなった。
千歳と千代田、最初の方から出ているのに、戦場ではあまり目立たないのは、制空権確保というカタチでサポートに徹しているから。でもそのおかげで他の仲間達がスムーズに空を考えずに戦えるのだから、完全な縁の下の力持ち。