空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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大戦艦の戦い

 吹雪を含めた団体戦も進み、決戦に参加するであろう艦娘達は一通りその力を全員に示した。堀内提督と大将はその一部始終を全て見届け、その時の部隊を決める要素とする。

 

 そして今、この合同演習のシメとして、大和と武蔵の個人演習が繰り広げられることとなる。大和も武蔵も、団体戦ではその火力を遺憾無く発揮し、全てを全力でこなし続けている。

 それを単体で発揮するタイミングがついに訪れた。観戦する仲間達も、これまでの演習の終わりを告げる戦いとして、腰を据えて見るつもりのようである。

 

「大トリだ。これでは少し緊張してしまうか?」

「ううん、大丈夫。見られているくらいで力を落とすわけにはいかないもの」

 

 海上で相対する2人。艤装自体は同型艦であるために似たようなもの。大和の方が少々大きいかというくらいで、その火力もその堅牢さも同じ。

 それ故に、この2人は特に艦隊の花形と言える程に派手だ。存在そのものが旗艦のようなもの。()()としての力が大きい。

 

「悔いのない戦いとしよう。まぁ、私としてはもう、こうして最強の姉と向かい合えるだけでも嬉しいのだがな」

「もう、本当に好戦的なんだから。でも、昂揚するのはわかるわ」

「だろう。残った力を、思う存分振り絞ってくれ。少なくとも、私はそうする。加減なんてしている余裕なんてないだろうからな」

 

 ニヤリと笑って拳を突き出す。もう定番となった武蔵の挨拶。健闘を祈ると言わんばかりの、力強い行動。

 

「勿論。これで手を抜いて負けたとなったら、鎮守府を背負ってる自覚が無いのかと叱られてしまいそうだもの」

 

 その拳に、大和も拳を突き合わせた。

 武蔵にはこの時点で大和の実力がある程度理解出来る。自分よりは経験が少ないかもしれないが、努力の痕跡は自分以上では無いかと感じる程だ。

 

 現に、大和はあの侵蝕騒ぎの後からはトレーニングに精を出している。もうあんなことにはならないようにしたいという気持ち一心で、出来る限りの鍛錬を毎日のように繰り返していた。

 大塚提督もそれは仕方ないことだと許容している。感情を抑えるためには、過去のトラウマを払拭する必要があるだろう。そのために鍛えるというのなら、容認はした。代わりにプランは大塚提督が決めていたが。

 

「では……やるか!」

「ええ、いい戦いにしましょう」

 

 大戦艦の間合いまで離れる。駆逐艦を相手にしている時や、団体演習の時よりも、さらに距離を取るのは当然。ただでさえ主砲の威力がとんでもないのだから、これでも少ないのではと思えるほど。

 

「疼いて仕方ないな。あの大和がどれほどのものか。戦いたくて仕方なかった!」

 

 間合いが取れたと感じた瞬間、先制攻撃は武蔵だった。その大型主砲を大和に向けて斉射。

 

「早速来たわね。でも、今の私なら!」

 

 そして同時に大和も斉射。火力はほぼ同等。装備の性能的には若干大和の方が上だが、慣れによる精度は武蔵の方が上。その差を加味すると互角と言える。

 

「くくく、流石だな。これで真正面からの撃ち合いを選択するのは、大和くらいだろう。恐怖ではなくても念の為に避けるのが定石だからな」

 

 砲撃同士が中間地点でぶつかり合い、模擬弾とはいえその場で大爆発を起こす。それだけでも海面が大きく揺れ、相乗効果もあるからか、コロラドが白鯨を展開した時に近しいほどの波を発生させる。

 当然その波は仲間達が観戦している岸まで向かうのだが、その派手さに大盛り上がり。水浸しになろうが知ったことでは無かった。既に白鯨で何度かやられているのだから。

 

 ちなみに、提督達はそれがあるために少し遠くで観察している。

 

「はっはは、ならば近付こうか! 精度はどうか確かめてやろう!」

 

 叫びながら少しずつ間合いを縮めていく武蔵。その表情は、この戦いを全力で楽しんでいる笑顔。

 

「ぶつかり合いを望むなら、私も相手をしてあげるわ」

 

 対する大和も、徐々に距離を詰めていく。砲撃の爆発の間隔は短くなっていき、海面が激しく波打ち始める。

 2人の間だけは晴天なのに時化ているかのような激しさ。足場が不安定であろうがお構いなしに連射を続けた。

 

「ここまでは互角か。いいだろう、ならばこちらはどうだ!」

 

 しかし、もう撃つだけでは終わらないと感じ取ったか、互いに砲撃をやめて拳での語り合いに移行。そのタイミングもピッタリだったのは姉妹だからか。

 

「くくく、いい膂力だ。私の拳を受け止められるとはな!」

「これ以上のを知ってしまったんだもの。これくらい!」

「それは私も知っているヤツだな。アレには劣るが、しかし充分すぎる力を見せてやろう!」

 

 拳を払い、返しては受けられる。連射の次は連打。しかし、互いに致命傷に持っていくことは出来ない。

 

 当然疲労は溜まっているが、それを感じさせない程の暴れっぷりを続けていた。

 武蔵はこの演習の前に地味な方だと話していたが、そんなことは一切無かった。激しい砲撃と拳のぶつかり合い。効かないと思えば突撃も辞さず、姉妹艦同士の激しい殴り合い。演習といえど、互いに本気で戦い、その激しさに空気すらも揺れているかのような錯覚すらあった。

 

「はっはは、楽しいなぁ大和よ!」

「本気を出して戦うのは楽しいわね、武蔵!」

 

 好戦的な武蔵ならわかるが、大和もその空気にあてられて昂揚している。妹がこれなのだから、姉もそうであってもおかしくはなかった。いつもは清楚であり、その名の通り大和撫子然とした立ち振る舞い。戦場でも凛とし、仲間達の柱となるようなエース。

 しかし、今の大和は何というか、子供のように無邪気。同等な力を持つ者を前にして、抑え込んでいたわけではない全力をこれでもかと発揮している。

 

 この時ばかりは、大塚鎮守府の教えのことを完全に忘れてしまっているかのようだった。感情を抑えることなんて出来そうになかった。

 

「私と対等に戦える者は限られている! 貴様ならばと思っていたが、やはりだったな。流石に我が姉、最強の艦娘よ!」

「改二改装されたからやっと並び立てただけだもの。でも、こうやってぶつかり合えるようになったのは、本当に嬉しいわ。正しいことに使えることもね!」

 

 やはり、侵蝕されていた時のことがずっと引っかかっている。この得た力も、正しいことに使うと断言し、少し気負っているような雰囲気をだしつつも、武蔵との戦いに本当の楽しみを見出だしていた。

 仲間を守るための力を手に入れたことを実感し、仲間のためにその力を振るう。それだけで、胸が空く思いだった。

 

「はっ、だが私は年季が違うぞ。この力を使ってしばらく経つからなぁ!」

「なら、胸を貸してよ、ねっ!」

 

 つい最近改装された大和と違い、武蔵は改装されてから長い時間が経つ。ただそれだけでも、練度はあまりにも違った。大和だって力に振り回されるようなことは無いが、使いこなせている度合いで言えば、武蔵の方が数倍上。同じ力であれば、年季がモノを言う。

 それに追いつくために、大和は必死だ。だが、ここまで個人演習と団体演習を繰り返したことで、大和だって成長している。恐ろしいことに、まだまだ伸び代があるのが大和だ。今この場ですら、武蔵に立ち向かえるように現在進行形で成長しているくらいだ。

 

「くはは、いいぞ、いいぞ!」

「こんな距離で! でも、やりたいことはわかるわ!」

 

 殴り合いの最中でも、互いに意思疎通したかのように砲撃準備。そして、躊躇なく放った。しかも1発やそこらではない。何発もである。

 大戦艦によるゼロ距離の撃ち合いという凄まじい衝撃は、岸にまで届く程だった。その衝撃だけではなく、その爆音、その熱すらも、ヒシヒシと感じる。

 これ程の火力を持つ者など艦娘にはいない。深海棲艦で言えばゴロゴロいるかもしれないが、コロラドすらもその戦いにビリビリと凄まじさを感じる程である。

 故に、誰もが興奮してその戦いを観戦していた。どちらが勝つかではない。ただただその結末を見たいと、まるでそういうイベントを見ているかのような盛り上がり。

 

「はっはぁ! そろそろ、ケリをつけるぞ!」

「ええ、終わらせましょう!」

 

 今までの演習の疲れもあってか、もう次で決着をつけると言い出した武蔵。大和も疲労は溜まっているため、それに同意。今残された力を全てここで発揮して、目の前の相手を屈服させる。ただそれだけ。いわゆる全弾発射だ。一人で一斉射をしたとしても相当な密度の弾幕が張られることになるだろう。

 それをかなりの近距離で、しかもお互いに放つのだから、その場はとんでもないことになる。誰かがそこに挟まれていようものなら、模擬弾だとしてもミンチになる程ではないかという()がかかるだろう。大和も武蔵も頑丈だからこれが出来るというだけ。

 

「行くぞぉ!」

「撃てぇ!」

 

 そして、今まで以上の爆音と共に、2人の戦場が爆発するように光り輝く。模擬弾同士の斉射なのに、この威力。耳を劈くような爆音で、周囲の海面が弾けるように水柱が立ち昇り、そこだけが局所的な雨のようになってしまった。

 

 その雨が晴れた時、そこに立っていたのは武蔵だった。大和は膝をつき、息も絶え絶え。やはり、その力を使い続けた年季の違いを見せつけることになった。

 と、思いきや、武蔵もそのまま仰向けに倒れる。互いの砲撃が互いに直撃しており、ダメージは限界を超えていたのである。大和もそのまま倒れた。

 

「もう無理だな、立ち上がれん! 楽しかったぞ、大和!」

「またやりましょ。私も、次までには勝てるように鍛えておくから」

「当たり前だ。こんなに楽しい演習はなかなか出来ないからな!」

 

 互いに健闘を讃えるものの、そこから動けなくなってしまったため、仲間達に工廠まで運んでいってもらうこととなってしまった。

 演習でここまでやる者はまずいない。ましてや、大塚鎮守府の者達はこういう時に確実に()()()。それなのに、何か超えてしまった。

 

「……武蔵、ちょっとやり過ぎではないかしら?」

 

 呆れたような表情の大将。だが武蔵は悪びれもせず、ニンマリと笑顔を見せる。

 

「何を言う。これが我々の全力であることを仲間に知ってもらういい機会ではないか。これが大戦艦、これが大和型だ」

「演習で自力でここまで帰ってこれなくなることが問題なの。そっちの大和も」

 

 チラリと大和の方に目を向けるが、この戦いは大満足だったと言わんばかりに、清々しいまでの笑顔。大塚鎮守府所属の者で、ここまで感情を表に出す者など早々いない。強いて言うならば、雷くらいだろう。

 それほどに、この最後の個人演習は身になったと言える。大和は武蔵にその力を限界まで引き上げられ、さらに向こう側まで行ったようなもの。

 

「あ、あはは……楽しんでしまいました。我を忘れてしまったという感じで、面目次第もございません」

「はぁ……まぁ、終わってしまったものは仕方ないけれど。ここでの経験は、貴女の役には立ったかしら?」

「はい、充分すぎるほどに。武蔵のおかげで、自分の力の引き出し方がわかったというか、心構えを新たに持つことが出来たというか、とにかく、これからもやっていけそうです」

 

 今の大和には、トラウマを感じさせるものは無かった。

 

 

 

 

 これにて、合同演習は終わりを迎える。最後の最後に繰り広げられた大戦艦の戦いは、大きく士気を上げる事に貢献した。

 




少々長かった合同演習編もこれにて終了となります。大トリは大戦艦の殴り合い(文字通り)。大和だって武蔵に匹敵するくらいの力は持っているのです。
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