戦場に出る可能性がある者達が堀内提督達の目下で演習を続けている中、その裏側では確実に戦場に出ることがない者、明石が、施設の者達から得たモノから研究を加速させていた。
今までは龍驤から齎された泥で研究を続けてきたが、ここで手に入ったのは黒幕によって蘇生された者達の細胞。そして、元より耐性を持っている叢雲の細胞である。
今までにない研究材料であるため、今まで見えてこなかったモノが見えてくるかもしれないと、早速そちらの分析に取り掛かっていた。
「今までは龍驤の泥を見続けてきて成分解析も大分進んだけど、ここでまた新しい素材だよ。楽しいね!」
「ホンマお前、よう言えるなそんなこと。余計に作業増やして自分追い詰めるだけやろ」
妖精さんの身体となったことで疲れなどに対しての耐性が艦娘や深海棲艦だった頃とは比べ物にならないくらい上がった龍驤であっても、今の明石が確実に過労であることは理解出来た。合間合間に大淀が休憩を強制するためどうにかなっているものの、それが無ければ一切の休憩なく作業を続けるため、龍驤は呆れていた。
龍驤だって明石を止めるように説得はしているが、話を聞こうともしないため、RJシステムを司る者として、研究そのものを強引に止めてやると脅してどうにか休憩させている。今では龍驤と大淀は大の仲良しとなっていた。
「でもこれ、調べがいはあるでしょ。なんてったって、
「かもしれへんな。ウチはもうそういう肉体自体があらへんから、混じってるだとか蘇生されたとかも関係無くなっとる。調べるならアイツらの身体が一番ええやろな」
「龍驤の泥はそれはそれでかなり参考になったけどね。ホントありがたいよ」
今のところ確認出来たのは、龍驤の今の身体は侵蝕性のある泥とは性質が違うこと。他者の身体を自分の器とする能力も、侵蝕とは別の手段。脳を強制的に休眠させ、その間に自分の影響下に置いて、全てをコントロールする。龍驤が空母棲姫に対して行なっていたことは、もう解析は完了している。
そこからさらに、泥となっている寄生虫のさらに中心、染色体を解析することによって、泥を消滅させる波長の改良も終わらせていた。今までは増殖の位相を逆転させ減衰に導く波長だったが、その構造が解析出来た染色体
これにより、
「ウチの核の部分も結構弄り回しとったやろ。そこからは何かわからへんかったんかい。脳味噌触られとるようなもんやから、ウチにゃ何がお前に見えとったのかわからんのや」
「龍驤を壊さないように調べるのは結構大変でさ、その上で成分分析はちょっと難しいんだよね。
「言うて電気信号で痛み与えてきたやろがい」
「それは脳信号とベクトルが同じだったら核に通用したってだけ。再洗脳も同じ。脳に直接作用することなら、龍驤の核にも作用するってこと。完全に同じ身体なら黒幕にも通用するってことに繋がるんだけど、ほら、龍驤ってある意味
それでも出来なかったと言わないあたりが明石である。龍驤に支障をきたさないように核の分析は完了しており、その結果はちゃんと資料に纏めてあるため、龍驤にそれを渡した。
勿論その資料を纏めたのは大淀である。
当然ながら、核にその中枢が集約していることは確認済み。他者の脳に寄生出来るのだから、脳と同様の機能がそこにあるのは当然のこと。
そして、その周囲の構築する泥も、増殖性の無い別モノ。核を守ることに特化した性質を持っており、今回は特殊な装置を使って採取したが、そうでなければ
その状態であっても、肉体が一瞬でも仮死状態になれば無理矢理吐き出されるという安全装置がついていることは確認済み。そのシステムが何処にあるかも分析は出来ていた。
「……ウチの身体、こうなっとんのか」
その資料を見てゲンナリとした顔を見せる龍驤。再洗脳で艦娘の心を取り戻しているため、その悪意のこもった性質が自分にもあるのかと思うと嫌な気分にしかならない。
「自分のことを知れたのはいいことだね。で、今は自制心も取り戻してるんだから問題なし。そんな力も使うヒト次第ってこと。今の龍驤は善人オブ善人だから、誰も何も気にしてないから安心しなよ」
再洗脳により、龍驤がその力を悪用しないことは明石が確信している。そうでなければ助手になんておかないし、黒幕との戦いの結果に直結しそうな研究に手出しなんてさせない。
「まぁ龍驤は気にせず一緒に研究進めようね。どうしても気になるのなら、そういう方面に頭の中弄る?」
「お前そういうことホンマに出来そうやから困るわ。でも、今のままでええ。自分のやってきたこと後悔出来へんくなりそうやから」
話しながらも自分の資料を読み終え、本題の方へと意識を向ける。
今、明石が見ているのは白露から貰った細胞。姉妹4人の融合体としてこの世に生を取り戻した存在は、何がどう違うのかを調べる。ただの艦娘としての細胞は自分のを使えばいいので、そことの差を見ていくイメージ。
「……早速だけど、白露の細胞、おかしなところがあるねぇ」
「ああ、素人のウチでもわかるわ。今日貰っといてよかったやん」
「だね。これ知らなかったら、決戦で絶対支障が出てたよ」
資料と照らし合わせながら分析を続ける。一方龍驤は、白露のモノだけではなく、古鷹や大鳳、コロラドの細胞も確認。
「混じっとるヤツら全員が同じ特徴持っとる。こうなってなかったらウチも同じやったろうな」
「やっぱり。というか龍驤がちゃんと話してくれたんだから、これについてはすぐ思い当たるべきだったよ」
細胞は髪の毛から確認しているが、貰った血も確認。その結果を見て、明石は頭を抱える。
「……あー、これ、そっかぁ……。混ざり合うって、そういうことにもなるんだ」
「せやな……いや、これはホントにまずいんちゃうか?」
「まずいも何も、これ対策出来なかったら、白露達を出撃させることも出来ないよ。龍驤はもう別のカタチに昇華させてるから大丈夫だけど、白露達はそういうこと出来ないし」
大きく溜息を吐いて、椅子に深く腰掛ける。この結果を見て、どっと疲れが出たようである。
「まさか細胞にもここまで混じり合ってるとはね……」
以前、龍驤が魂の混成の際に話していたこと。亡骸を集めて、黒幕が包み込んで再構築することで深海棲艦化する。謂わば、黒幕が
その際に、亡骸はグズグズに溶けて融合すると話していたが、その時に
核に近い泥であるため侵蝕性は無く、それを理解しているためか端末を入れて傀儡へと変える。春雨によって解放されたのは、その端末が失われただけ。そもそも細胞に混じってしまっている黒幕の細胞は、何をどうやっても失わせることは出来ない。
それが何を意味するのか。常に最悪を想定する明石には、容易に想像がついた。ただでさえ復讐心による進化が止まらない黒幕なのだから、何処までこちらに
「例えば、白露が黒幕の手が届く場所に辿り着いた場合、この細胞のせいで再洗脳なんてことがあり得るよね」
「あり得るやろな。なんてったって、髪の毛にすら混じり合っとるんやから、脳に混じっとらんわけがない。泥に触れんでも持っていかれる可能性はある。それこそ、拠点に辿り着けんように泥を散布されているようなもんなんやろ。だったら、その空間に入った時点でアウトや」
「だよね。再洗脳が無くても、身体を強引に動かされて仲間割れなんてことをさせられる可能性だってある。泥を自由に動かせるなら、身体を自由に動かせるはずだし」
これが最悪の想定。何も知らずに決戦に挑んだ場合、そこに参戦していた者達が突然叛旗を翻し、敵が増えるだけでは収まらず、精神的な揺さぶりをかけてくる。
心まで持っていかれたら最悪。そうでなくても身体のコントロール権を奪われて、意思とは関係なしに敵対行動を取らされる可能性もある。むしろ、その方が互いに苦しいだろう。
ケジメを付ける戦いとして、その気持ちを鑑みて参戦させたはずなのに、それが全て裏目に出るという大惨事を引き起こされるのだ。これが黒幕にとっては最上級の嫌がらせになり、かつ悦楽に繋がるだろう。
「細胞に直接働きかけてくるとなると、かなり厳しいね。戦場に行ったらアウトってなると、出撃自体を取りやめてもらう以外に選択肢が無くなる」
「でも、遅かれ早かれ対策は考えとかんと、近しいことで何かされるかもしれへん」
「だね。でもどうしたもんかな……。こういう時に、
「せやな。せっかく連絡先貰っとんのやから、使えるもんは使っとかな」
ここで、山寺鎮守府の明石に連絡を取ることにする。今頃は資料を熟読し、何かしらのアドバイスをくれるくらいに知識をつけているはずだと信じて。
早速連絡を取ってみる。すると、何度もコールするまでもなく受け取られた。あちらも連絡を待ち構えていたかのようだった。
『はいはい、何となくだけど、連絡来るかなとは思ってました。今日、施設のヒト達の細胞が手に入るんでしたよね』
「わあ、話が早い。ならちょっとアイディアを出してくれると助かるんだけど」
『私に出来ることならどうぞどうぞ』
同じ明石だからか、すんなりと話が通り、一緒に頭を捻ってくれる。
細胞に直接働きかけての遠隔操作をどうにかする方法。今は泥の侵蝕自体は波長によって弾き飛ばすことは出来るが、泥を介することなく触ってくるとなると話が変わる。そこに対して何か出来ないか。
『簡易的な暗室が発生させれればいいと思いますよ。私も任務用の通信機器に、ノイズを受けないようにするシステムを組み込んだことがありますから』
「暗室かぁ」
『悪い鎮守府だと変に頭が回るのか、外部との連絡手段を断ってくるところとかあるんですよ。なので、そのノイズを受けなくするシステムですね。通信機器を使えなくする機能を使えなくする、ノイズキャンセラーみたいな』
簡単に言っているものの、相手にバレないようにそのシステムを小型化して組み込むというのは、実際はかなり難しい技術。堀内鎮守府の明石も頑張っているものの、やることが大掛かりなものが多いため、どうしても小型化が難しいシステムばかり。
しかし、山寺鎮守府の明石はその小型案をさらりと打ち出してきた。当然小型化すれば出力が下がるが、必要最低限のシステムさえ組み込んであれば問題ないと、不要部分を外した構築を展開。
「はえー……私のシステム、無駄がかなり多かったのかな」
『そんなことは無いですよ。無駄じゃなくて、多用途なんです。でも、1つのことだけがやりたいってなれば、これくらいで充分かなと思って。小型化に関しては任せてください。そういうの、こちらの仕事の都合上慣れてますから』
「どんな仕事なのかなー」
『企業秘密です』
これにより、技術革新が起こる。今までの大型の装置は、次から次へと小型化され、艦娘達の持ち運びが可能になっていく。
2人の明石による協力プレイは、黒幕との戦いに向けて一気に進むための礎になるだろう。決戦の時は、刻一刻と近づいてきていた。
しかし、細胞レベルで混ざってしまっている黒幕の泥は、どうにかして万全な対策を取らなくてはいけない。そうでなければ、その場で最悪なことになってしまう。
これを知ることなく決戦に挑んでいた場合、死傷者が確実に出ていたでしょう。ここで確認出来たのは大きいです。