空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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姉姫の夢

 施設の午後。午前中はいつものように農作業や漁をしていたが、午後からは決戦参加組はトレーニング。その他の者も、施設を守るために活動する時間となる。

 その中でも施設の主である中間棲姫は、今まで抑えられていた欲求が解き放たれているかのようにルンルン気分で外へと向かう。

 

 今までは施設を守る活動といえば、トレーニングをする仲間達が休息中に食べるオヤツを作ることくらいで、哨戒なんて参加させてもらえなかった。それは仲間達が中間棲姫のことを思ってのことであり、万が一のことを考えたらあまり活動的になってもらいたくなかったのだ。

 しかし、あまりにも抑え込み続けるとストレスになってしまう。みんなが頑張っているのに、自分だけ何もしないでいてくれと言われても、施設の主としてそれが我慢出来るわけがない。

 結果、飛行場姫からいろいろと制約をつけられた上で、哨戒任務を受け持つことになった。その1つが、監視という名の護衛をつけること。1人で行動していて万が一のことが起きてしまった場合、取り返しがつかないし後悔だけでは終わらない。

 

「なんだか本当に楽しそうですね」

「勿論よぉ。みんなを守るのがこの施設の主である私のお仕事なんだものぉ。みんなの気持ちもすっごくわかるけど、やっぱり私が動かなくちゃダメだと思うのよねぇ」

 

 トレーニングが始まるまでは、中間棲姫の護衛は春雨と海風。直感的に何かがあった場合にすぐに対応出来る方がいいため、飛行場姫から直々の任命である。

 トレーニングが始まったら、今度は戦艦棲姫が共に行動するとのこと。この施設の居候という立場から、ここではかなり少ない中間棲姫と完全に対等な存在であるため、()()()()()という利点がある。

 ちなみに、戦艦棲姫の相方となりつつある空母棲姫は、深夜の哨戒を受け持つこととなっているため、現在就寝中。

 

「それじゃあ早速、哨戒機を飛ばすわねぇ。全方位に満遍なくでいいかしらぁ」

「そうですね。島を守るためですし。でも、妹姫様も時間をかけてグルリと回していたみたいですけど」

「そーれっ」

 

 春雨の言葉を全て聞く前に、哨戒機を飛ばすという意思の下、大きく手を上げる。すると、以前に泥の雨を全て霧散させるほどの火力を発生させた時に使用していた空飛ぶ甲板が1枚だけ出現した。

 この場に電力供給をしている艤装本体が移動させられていたら、甲板も全力全開で出現させられていたようだが、今はそんなことが出来ないために甲板のみを使用。それも全力では無いために1枚だけ。本来の3枚は使えない。

 そしてその甲板から、次から次へと哨戒機が上空へと飛び立っていく。ある哨戒機は北へ、別の哨戒機は南へ。中間棲姫を中心に全方位に向かって、1機だけではなく10機以上の編成の部隊が飛んでいった。

 

 飛行場姫の哨戒は、岸を歩きながら哨戒機を何機も飛ばし、島の外周をグルリと散歩するように確認していくスタイル。1つの方向を念入りに調べ上げるという感じ。

 しかし、中間棲姫は岸まで近付かない、施設からあまり外に行かないという制約があるため、島の中心に存在する施設から、一気に全方向へと飛ばす。当然、その哨戒機の情報は逐一中間棲姫に送られてきており、本当に360度全ての情報を一気に頭の中に取り入れていた。

 

「す、すごい……」

「これでも手を抜いているんですよね……甲板1枚ですし」

「多分ね……。私達が知ってる中でも、こんなに艦載機使えるヒトいないよね……」

 

 手を抜いた状態でも、艦娘を凌駕する搭載数。一気に扱える数も段違い。だがそれ以上に、全ての方角を一括で確認してしまうことに驚いた。

 飛行場姫達が1つの方向に向けて艦載機を飛ばすのは、そこから手に入る視覚情報などが混線しないようにするための配慮。しかし、中間棲姫はそんなことはお構い無しに全方向。見えている風景がぐちゃぐちゃになり、どれがどちらの方向の風景なのかもわかりづらいのだが、中間棲姫の頭の中ではどれが何処を見ているのかが全て把握出来ているという。

 

「こんなに飛ばすのは久しぶりねぇ。島の周りを見るってこと自体があまり無いんだけれどねぇ」

 

 そして恐ろしいことに、それだけの情報量があっても、春雨達とは雑談出来るくらいに余裕がある。視線を春雨達に向けていても、風景の明度は何も変わらない。何処に何があるかを事細かく理解していた。

 それくらい、中間棲姫の力は群を抜いている。誰も出来なそうなことですら簡単にやってのけるのが、この島の主である。

 

「うん、綺麗な海よぉ。何かおかしなモノがあるわけでもなく、泳ぎ甲斐があるくらいに澄んだ色ねぇ。私は泳げないんだけれどねぇ」

「陸上施設型の特性……なんですかね」

「多分ねぇ。私も妹ちゃんと、一度練習しようとしたのよぉ? でも、まず浮かばないのよぉ。で、バタバタ手足を動かしても沈んでいくばかりで、何をやっても泳げないって悟ったのよねぇ」

 

 かなり昔の話らしいが、それをしみじみと思い返している中間棲姫。

 なんでも、今の漁の形式が決まる前に、海女のように素潜りを試してみようとした時があったらしい。魚だけではなく、海藻や貝類なども採れれば食生活が華やかになるだろうと考えて。

 しかし、結果は今話した通り、そもそも泳ぐことが出来ないため断念。これに関しては、伊47が仲間に加わるまで凍結され、その後に調査したら食べられそうな貝類がいなかったことで完全に終わっている。

 

「春雨ちゃん達は泳げるのかしらぁ」

「はい、一応は。戦闘中に艤装が破損して推進力が無くなった時のような緊急事態の時のために、泳ぎの練習はさせられています」

「ですね。一通り泳げるようにならないと出撃も出来ません。なので、うちの鎮守府の艦娘は全員泳げます」

 

 春雨と海風が口を揃えて話す。傷は浅いのに泳げずに沈むなんてことが起きないように、堀内提督がしっかり仕込んでいるとのこと。場所によっては、海上を駆けることが出来るし、もし脚部艤装がダメになっても部隊の仲間がいるのだからと、泳ぎを重んじていないところもあるようだが、堀内鎮守府は少々違った。

 そのため、新人で出撃していた荒潮や漣達北上組も、泳ぎだけはしっかり覚えている。幸いにも、挙げた4人は全員が器用に泳ぎを覚えるタイプだったので、小一時間程度の練習でさらりと終わらせていたりする。

 

「羨ましいわぁ。妹ちゃんが小舟で漁に行ってくれてるじゃない? 私もちょっとそれをやらせてもらったことはあるけれど、海の上に行くのなんてそれくらいなのよねぇ。自分の手足で泳げるようになってみたいわぁ」

 

 哨戒を続けながらも、楽しそうに話す中間棲姫。特性として現状不可能であることではあるが、今までの戦いの中で、不可能は可能になってきたことも多い。それを考えると、陸上施設型が泳ぐようになれる可能性も0では無くなっている。

 そんな夢を語る中間棲姫に、春雨と海風はより穏やかな気持ちになった。戦いの中にいて、今も島の周囲に何も無いことを確認しているのだが、今この時は平和を実感出来る。

 

「きっと泳げるようになりますよ。今は海に入るのは危ないですが、全部終わったら練習をしましょう」

 

 戦いが終わったら、とフラグを立てるようなことを話しているが、以前も白露がフラグをへし折ると言っていたし、春雨自身もこの戦いは通過点だと考えているため、気にせずに先のことを語る。

 

「そうねぇ。ちょっと怖いけど、またやってみようと思うわぁ。そのためにも、まずは海の平和を取り戻さないとねぇ」

「ですね。私もやりたいことが沢山ありますから。まずはまた畑で一から野菜を育てたいですし。あ、でも鎮守府にも戻ろうかなと思っているんです。頻繁にこの施設には来たいと思ってて」

 

 中間棲姫に釣られて春雨も穏やかな笑顔で話す。今の春雨はより一層怒りから離れており、寂しさも感じさせない。姿は違えど、正しく艦娘春雨を体現している。壊れている部分はもう何処にも見えない。

 隣の海風も、そんな春雨をまた見ることが出来たのが嬉しくて仕方ない。自分の愛する姉が取り戻されたのだから、喜ばない理由がない。しかし、今も水面下ではその穏やかな心を脅かすモノが蠢いていると思うと、複雑な気分である。

 

「ふふふ、そんな日が早く来てほしいわぁ」

「すぐですよ。私達が決着をつけてきますから、姉姫様はここで私達の帰る場所を守っていてくださいね」

「ええ、勿論。ここは私の場所なんだもの。誰も傷つけさせないし、居場所を失わせることなんてさせないわ。何人たりとも、この平和を壊すことは許されないものねぇ」

 

 穏やかな笑みの奥に、力強い意志を感じた。施設を守るため奮闘する中間棲姫には、それ以上に仲間達の平和を願う気持ちが強く存在している。

 だからこそ、コレほどまでに強い力が発揮出来た。思いの力では他の追随を許さず、元々持つ尋常ではない力も組み合わさり、まず崩れることのない強固な意志となっている。

 

「……あら?」

 

 などと話していると、中間棲姫が小さく反応を見せる。全方位に飛ばしている艦載機の視覚情報から何かを見つけたような反応。

 

「どうしました?」

「今朝黒潮ちゃんが話していた泥かしらぁ……また潜り抜けてきているみたいねぇ。動き自体はとても遅いけれど、放っておいたら島まで辿り着いてしまうのかしらぁ」

 

 昨晩に続き、この真昼間にも泥の存在を確認。『観測者』の対処を潜り抜けてくるくらいに泥の量が増えていることが嫌でもわかる。

 

「少し高いところも見ているけれど、ちょっと前にあった雨を降らせてくるようなモノは無いわぁ。本当に流れ着いてくるだけみたいねぇ」

「すぐに対処しましょう。泥自体はそこまで多くないですか?」

「そうねぇ。あの明石ちゃんから貰ってる泥刈機で簡単に消せるくらいよぉ」

 

 今ここにある分だけで言えば、対処を免れるくらいの僅かな量。すぐに対処すれば大惨事にはならない。

 逆に、すぐに対処しなければ施設に辿り着いてしまい大惨事になるため、すぐに動き出す。昼からの哨戒メンバーである松竹姉妹にすぐに伝えられ、中間棲姫がもう1機案内用の哨戒機を発艦させて泥へと向かってもらった。

 

「嫌ねぇ……昼夜問わずというのは」

 

 先程まで夢を語っていたのに、泥を見たことで曇ってしまった中間棲姫の表情に、春雨はギリギリと怒りが溢れ出しそうになったものの、海風がすぐに手を握ることにより何とか抑え込むことで、姿が変わることも無かった。

 

「でも、みんなが手伝ってくれるなら、大丈夫よね。私も全力で島を守るから、よろしくね」

「はい、任せてください。必ずこの島の平和を取り戻します」

 

 怒りは決意へと変わり、より強く平和を望む力となる。

 

 

 

 

 中間棲姫の力により、泥の侵蝕は未然に防がれていくのだが、昼夜問わずに泥がやってくるという状況にまで悪化しているのはよろしくない。精神的に追い詰められていく。

 だが、その分、施設の仲間達の結束力も強くなっていくのだ。より強い力になり、今まで以上に平和を望むだろう。それはもう、黒幕の泥程度では止まらない。

 




搭載機数だけなら、中間棲姫180の飛行場姫392で圧倒的に姉姫様の方が少ないんですが、ここのは特別です。技量や特殊な力が入ると、トップになります。


ついに通算400話目となりました。自分でもこんなに続くとは思っていませんでした。今後ともよろしくお願いします。
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