空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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遺された卵

 中間棲姫による哨戒は続けられ、春雨と海風は護衛を戦艦棲姫と交代してトレーニングの方へ。黒幕との決戦までに、出来る限り鍛えておかねばならないと、みんな躍起になっている。

 飛行場姫も、このトレーニングには結構乗り気。古鷹筆頭のスタミナ増強や、叢雲が望む近接戦闘の強化など、やりたいことは沢山ある。ここでさらに強くなれば、施設を守ることにも繋がる。

 以前の鬼ごっこの際には全員参加になっていたが、今回は哨戒の関係があるためそうはいかない。結果的に、今回は決戦参加メンバーのみが参加となっている。あとは、飛行場姫に若干の依存が入っている潮と、その潮をサポートすることで自分を手に入れている潜水艦姉妹。

 

「それじゃあ、今日もスタミナトレーニングから行きましょうか。その後にスパーリングね。春雨や叢雲だって継戦能力が増えた方がいいでしょ」

「そうね。ずっと動き回っていても息を切らさないくらいになれば、隙を見せることも無くなるわ。だから、スタミナトレーニングは個人的にも賛成」

「私も、ですね。疲れが遅くなれば、頭も回しやすくなりますし」

 

 元々不足している者達はともかく、そうで無い者にも必要なトレーニング。誰もがやる気満々である。

 そして相変わらず、そのトレーニングの先導者は潮。潜水艦姉妹も同じように便乗しており、図らずも魂の混成を受けている者達は全員がここに揃っているという状態に。

 

「え、えと……それじゃあ……体幹トレーニングで、スタミナをつけていこうと、思います……」

 

 トレーニングを受ける者達からの視線が集まることで、どうしても恐怖を感じてしまうのが潮の特性。少し俯きつつも、しっかりと先導者としての務めを果たそうとしていた。

 発作を起こすかもしれないと感じたら、すぐに潜水艦姉妹が潮を落ち着かせる。だが、今は安定しているので、みんなと一緒にトレーニングを受けるという方向のようだ。

 

「妹姫さんに習ったこと……でいい、ですよね」

「ええ。筋トレにも繋がりつつ、スタミナも増えるわ」

「は、はい、それでは、その……まずはプランクから……」

 

 潮を中心としたトレーニングが始まる。それは殺伐としたモノではなく、和気藹々としたモノ。実力の底上げも当然必要なのだが、やはりここで仲間意識をより一層高めていくことも大事。共通の活動をみんな揃って行なっていくことで、繋がりは強く深くなっていく。

 

 

 

 

 トレーニングがしばらく続いたところで、哨戒をしているはずの中間棲姫がトレーニングの場に現れた。哨戒機自体は相変わらず全方位に飛んでいるため、その全ての視覚を確認しながらでも何かしらの用があるということ。勿論、護衛の戦艦棲姫も隣についている。

 

「あらお姉、どうかした? ちょっと施設から離れすぎな気がするけど」

「ごめんなさいねぇ。さっき提督くんから連絡があったのよぉ」

「そう、それならお姉が直接来ても仕方ないか」

 

 トレーニングは続けさせつつ、その連絡が何かを聞いていく。既にスタミナ不足で限界が近い古鷹がいたので、ちょうどいいと休憩をさせる方向で。

 

「ちょっと問題が出てきちゃったみたいで、今から緊急でここに調査隊が来るらしいわぁ。もう向かってるらしくて、急ぎで調べたいことがあると言ってたわねぇ」

「本当に急じゃない。やることやって帰っても、鎮守府に戻る頃には暗くなってるんじゃないの?」

「それくらい重要ってことよねぇ。ちょっと心配だわぁ」

 

 こんなタイミングで施設に来るなんて今までに無かった。どうしても今すぐ知っておきたい問題が出来たということだろう。

 そして、それを聞いたことで、春雨の直感が働く。完全に把握出来ているわけではないが、あちらが何を望むかを察することが出来た。それが今出来る最善の道。決戦に向けての最速の道。

 

「姉姫様、薄雲ちゃんとジェーナスちゃんを連れてきておいた方がいいかもしれません」

「薄雲ちゃんとジェーナスちゃん?」

「はい。何となくですけど、今回の調査……()()()()()()()()()()()()()()()が重要な、そんな感じがします。こんな時間に来ると言っているくらいですし、そのまま帰るにしても時間はあまりかけない方がいいと思うので」

 

 先程飛行場姫が言った通り、この時間に来るということは、やりたいことをやってすぐに帰ったとしても、暗がりを航行する可能性がある。ここに泊まっていく前提で来ているのなら別に構わないのだが、そうで無かった場合は、出来る限り事を早く終わらせる方向に持っていきたい。

 

「侵蝕を受けているってことは、私や空母もいた方がいいかしら」

「ですね。戦艦様はそのままズバリで、空母さんは侵蝕というより器ですけど。あ、あと今の状況が大分違いますが、瑞鳳さんと黒潮ちゃんもいた方が良さそうです」

 

 春雨が考えている通り、侵蝕を受けた者──()()()()()()()()()()宿()()()()という条件ならば、龍驤に器にされた空母棲姫や、現在進行形で忌雷に寄生されている瑞鳳と黒潮も該当することになるだろう。

 

「それじゃあ、すぐに準備をしましょう。全員岸に集まればいいかしらぁ」

「ですね。私達も移動しておいた方がいいと思います。別に施設の中に入らないといけないとかそういうことは無いと思いますし」

 

 春雨が中間棲姫と話をしている間、少し不安になっていたのは海風。侵蝕を受けた者に何かがあると聞いてしまうと、あの最も苦しい記憶が蘇ってしまう。

 愛すべき姉を追い詰めたあの苦い経験はその姉によって全て解決したはずなのに、未だについて回ってくるとなれば、それはもう呪いのようなモノ。腹立たしいし、とにかく辛い。これのせいで決戦に参加出来ないとか、春雨の傍にいられないとかになったら、ほぼ見せなかった海風の発作が発生してしまいかねない。

 

「……海風、大丈夫だよ。()()()()()()が無いようにするための調査なんだと思うから」

「そう、ですね……。そうあってほしいですね」

 

 少し弱気になっている海風の手を握る。いつも自分の怒りを抑えてくれる時のように、今回は逆に海風を落ち着かせる。

 万が一のことがあってもいいように、こんなに急ぎで調査をしに来るのだ。ならば、心配なんていらない。今までどんな状況でもクリアしてきたのだから。

 

 

 

 

 それから少しして、聞いていた通りに調査隊が到着。メンバーとしても必要最低限というイメージで、いつもの山風を隊長とする駆逐艦4人と、調査をすぐに出来るようにと明石、念の為機材を運んでくれている宗谷、そして、護衛のために金剛、比叡、島風、サラトガの4人。

 ここに来るまで艦載機による哨戒も実施し、泥は確認していないとのこと。また、到着の前に中間棲姫の哨戒機に案内されているため、見落としもないことは確認済み。

 

「今回は……ちょっと急だけど、明石さんがすぐにでも調べたいって……」

 

 隊長の山風が中間棲姫に説明する前に、明石がチャカチャカと準備をしていた。準備と言っても、黒幕の成分を確認する単眼鏡を取り出して軽く設定をしている程度だが。

 

「端的に説明しますね。一度侵蝕を受けた者の体内に、黒幕の成分と同じ質の物体が埋め込まれていることが判明しました。その形状から卵と称しています。こちらでは荒潮がそれを持っていることを確認済み。その後、漣、曙、朧にも同様の卵が存在していることを確認しています。龍驤は存在そのものが変化しているため、核が同質のモノになっていました」

 

 つまり、施設にいる者でもこの卵が存在している可能性があるために早急な調査をしたいということ。

 侵蝕は受けていないが、細胞が魂混成組と同質となってしまっている叢雲も、念の為確認は必要とされ、これで何かしらの反応を見つけた場合は、黒幕の領域が悪影響を及ぼすと考えられる。

 

「今回持ってきたのは、黒幕の泥と同質のモノが体内に存在するかを確認する装置です。今まで眼鏡というカタチで提供させてもらっているモノを改良したモノなんですが、これで近くから見なくては確認できないんです。なので、今すぐ全員見させてください」

「侵蝕を受けた子達は先に集めておいたわぁ」

「流石ですね。察しがいい」

「春雨ちゃんが指示してくれたからよぉ。すぐに確認してちょうだいねぇ」

 

 すぐに調査に取り掛かる。まず、魂混成組から。都合よく決戦参加組に加え、潜水艦姉妹もここにいるため、全員しっかり確認。

 

「……なるほど、卵どころではないですね。細胞に混じり合ってるから、全身から反応が確認出来ました。これはある意味想定通りです」

 

 明石だけでなく、山風や江風も同じように確認して、卵だけで終わっていないことを確認。

 荒潮で確認した時は、身体の中心に小さな反応があるだけで終わったのに、白露を見ると全身の至る所から同じ反応が見える。単眼鏡越しだと、まるで全身が輝いてしまっているように見えた。その上で、中心により濃い場所があるという感じ。

 

「叢雲は卵が無いだけで白露達と同じ、全身から反応が見えます。これも想定通り」

「……腹立たしいわね。でもちゃんと対策考えてんでしょ?」

「勿論。いくつか案は検討しています。時間がどうしてもかかるので、状況だけとにかく知っておきたかったんです。全身から反応があるか無いかで、対処の仕方は変わるので」

 

 必要最低限の対策で済むのか、より踏み込んだ対策が必要なのか。それで今後の研究開発が変わってくるため、急ぎで調査を進めたに過ぎない。

 叢雲ならば、予想がついているならそれを込みにして開発しろと言い出しそうだったが、自分で対策が出来ないのだから、門外漢が文句だけを言うのは()()()と考えた。プライドが高いことが功を奏している。

 

「で、続いて施設組なんですが……まず、ジェーナス」

「うん、どうだったかしら」

「案の定、卵を発見しました。でもそれだけです。艦娘も深海棲艦もそこは変わらず、細胞が侵蝕されているとかそういうのはありませんね」

 

 安心していいのか悪いのか、卵以外の悪いところは何処にもなかった。しかし、その卵が致命傷ではあるのだが。何かの弾みで孵化してしまった場合、どういう影響が出るかなんて明石でも想像がつかない。

 

「同じように、薄雲、戦艦さんと空母さんにも同じ反応が見えました。空母さんは侵蝕ではなく器にされていたわけですが、それでも体内に残すみたいですね」

「よく、わからないが、厄介なことに、なっている、みたいだな」

「困ったものね。まだ終わっていないだなんて」

 

 漣達に残っているのだから、戦艦棲姫に残されているのはわかる。空母棲姫に残っているということは、龍驤本人に卵を残す性質が与えられていたということ。核自体が同質にされているくらいなので、龍驤は今は違えど本当に第二の黒幕にされていたようである。

 

「……おや?」

 

 そのまま調査を続けているが、ここで明石が今までと違う声を上げた。今前にいるのは瑞鳳。

 

「え、な、何かあった? 違う反応されるとちょっと怖いんだけど」

「い、いえ、瑞鳳も侵蝕を受けていたんですよね……?」

「それは、まぁ、ご覧の通りだよね。侵蝕どころか現在進行形で寄生されてるんだけど」

 

 存在を知らせるように、胸に寄生する忌雷が歯をカチカチ鳴らす。侵蝕を受けているどころか、艦娘と深海棲艦の間に置かれていることを象徴するようなモノ。

 この忌雷自体が泥から作られていてもおかしくないため、危惧していることが発生していても何も疑問では無い。

 

 しかし、明石の表情は、それとは違うもの。

 

「瑞鳳、黒潮、ともに卵の存在が確認出来ません。どころか、黒幕と同質な細胞が1つもありませんね」

 

 魂混成組よりも濃厚に反応がありそうな2人に何も無いと言われて、この場が妙な空気になる。

 

「それと……海風」

「は、はい!」

「海風からも反応が見えません。本当に侵蝕されていたのか疑うくらいに」

 

 そして海風もである。厄介なことに巻き込まれていないために喜ばしいことなのだが、それ以上に、()()()()()()()()()()が気になる。

 

 だが、それもすぐにピンと来る。戦場にいたもの、最も近くにいた者、海風本人がそれにすぐに気付いた。

 

「あ、私……泥を吐き出して治療されていません。春雨姉さんに、体内の泥を全て燃やし尽くされています」

「そういう意味だと、私と黒潮も春雨に治してもらってるね。泥は吐き出してるけど、ちょっと違うのかも」

「せやなぁ。ほら、この子が塗り潰された感じやったもんなぁ」

 

 3人の共通点は、春雨のマグマによって自分を取り戻していること。つまり、それが卵ごと焼き尽くしているということになる。

 

 

 

 

 これが、今の問題点の打開策に繋がる。

 




マグマによって焼滅しているとなれば、あとは対策もすぐでしょう。
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