空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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熱を持った対策

 おおよそ半日後、しっかり眠って英気を養った明石が、工廠奥の研究室に戻る。目を覚ましたのは3人の中では最後だったようで、既に大淀と龍驤が少しだけ作業を始めていた。

 

 3人が休息を取っている間に誰にも触れられないように完全に密室としていて、誰も触れていないことは龍驤が確認済み。さらには、春雨細胞と黒幕細胞の結合によって相殺された白い液体から有害なガスのようなモノが出ていないことも確認している。

 こういう時に妖精さんの頑丈な身体と、RJシステムが研究室内に設置されているおかげで、システム妖精としての力で室内を視ることが出来ていた。

 

「おはよー、昼だけど」

「おはようさん。早速やけど、アレの時間経過の結果や」

 

 大淀が纏めた資料を渡すと、明石がざっと目を通す。

 

「……時間としてはどれくらい経ってるっけ?」

「6時間やな。朝イチにこれやって、今は昼飯時を抜けたくらいやから」

「これで一切変動無し。もう少し置いておいて、それでもこの結果なら、安定しているのは確定ってことでいいかな」

 

 これだけ時間が経過していても、ほんの僅かにでも何も起きていないということは、これで状態が安定していると考えてもいい。実際はもっと置いておくつもりではあるが、これで夜にもう一度確認した時に何事も無かったら、これで安定と確定しようと考えた。

 もし不安定ならば、細かい値が僅かに変動していてもおかしくない。拮抗しているとしても、値が上がったり下がったりとブレるはず。部屋を離れる時に値を全て算出して出力するようにしていったのだが、そこも全くおかしな部分が見えていなかった。

 

「これで多少は気が楽になったかな」

「経過観察は必要だけど、ある程度は安心しても良いとは思うわ。この6時間でブレが1つも無いんだもの」

「だよね。丸一日……明日の朝まで同じような状態だったら、もう行けると判断する」

 

 こう決定して、対策のための混合液に関しては研究を一時的に終了とした。まだまだ経過観察の余地はあるものの、逆に言えば、経過観察以外にやることが無くなったのだから、これ以上触れるよりは別件を進めた方がいい。

 とにかく今はやらねばならないことが多いのだ。1つずつ解決していくことで、確実に最終決戦までの道を作り上げる。

 

「次は最低限卵だけを消す波長を作ろう。白露達の身体だと細胞ごと吹っ飛ばしちゃうから絶対にダメだけど、荒潮達の身体の中から脅威を無くしたいからね」

「そうね。でも波長の解析ってすぐじゃない? 黒幕の細胞は少しだけど残ってるから」

「だね。今までのノウハウ使えば、小一時間くらいで出来ちゃうかな」

 

 泥刈機やバリア装備に使われている技術を使えば、これに関してはすぐにでも対応出来るだろう。既に体内のそれを確認する単眼鏡が完成しており、波長の解析はその延長線上なのだから、本人が言うように小一時間ほどあればすぐに完成し、今日中には堀内鎮守府の()()()が黒幕の呪縛から完全に解放されることになるだろう。

 

「よーし、それじゃあ、チャチャッと作っちゃおう。グッと寝たから頭の中すごくスッキリしてるんだよね」

「今後も同じくらいちゃんと寝るように」

「せやで。お前がおかしなったら、ウチらが迷惑やけ」

 

 辛辣なツッコミだったが、明石は目を逸らしながら口笛を吹くだけだった。

 

 

 

 

 そして宣言通りの小一時間後、山寺鎮守府の明石からの助言も借り、小型化、簡略化した懐中電灯のような卵駆除装置を作り上げた。

 以前、大塚鎮守府に向かう大将の望月に使わせた腕時計型のモノよりは大きめではあるが、内部構造がかなりわかりやすくなっており、その設計図さえあれば、何処の工廠でも作れるという逸品。こういうところは、堀内鎮守府の明石には出来ないことだったため、協力者として手伝ってくれた山寺鎮守府の明石に深く感謝した。

 

「ありがとう眼鏡の私。こんなにスッキリと作ることが出来たよ」

『それは良かったです。単一の機能しかないですけど、それなら大塚鎮守府でも簡単に作れるでしょうね。小型化も完璧です』

「だねー」

 

 使い方も簡単。卵があるであろう鳩尾に押し当て、ボタンを押すだけ。体内に波長が照射され、卵のみを完全に消滅させる。

 残っていた黒幕の細胞を使って実験もしており、それを入れている試験管は勿論のこと、それを握り締めた艦娘の身体に影響を与えないことや、極端なところで言えば龍驤が発生させられる端末も消すことは無かった。本当に黒幕の細胞にしか作用しないことは確認済みということ。

 

「よし、それじゃあこれを使ってこちらの卵を全部除去するよ」

『はい、その結果次第で大塚鎮守府の方にも連絡を入れましょう』

「りょうかーい。それじゃあまた後で」

 

 山寺鎮守府との通信を切り、次は提督の方へ。状況報告をしつつ、卵を除去したいと伝えると、すぐにその面々を集めてくれた。

 工廠に集まったのは提督と五月雨は勿論のこと、卵を植え付けられている荒潮、漣、曙、朧の4人。ちょうどトレーニング中だったため、北上と大井も便乗していた。

 

「来ていただいたのは他でもありません。体内の卵を消すことが出来るようになったので、それをすぐに実践しようかなと。実験も出来ていますので身体に害なく消すことが出来ることは確定です。ただ、消えた時に身体に対してどういう反応を見せるかはわかりません。痛みがあるかもしれません」

 

 実験ではあくまでも消せるかどうかしか見ていない。実際に体内に入れて確認するわけにも行かず、身体全部が同じような質になっている龍驤に対して使った場合はまず間違いなく核ごと消滅するため、試すことが出来なかった。

 そういう意味では、臨床試験無しでの実践となる。後遺症が残るような悪影響ということは無いのだが、その時だけは何かしらの影響があるかもしれない。前以てそういうことは教えておく。

 

「ならば、この漣ちゃんがまず受けましょうかね」

 

 そんなことを聞いても一切物怖じせず、漣が一歩前に出た。

 

「漣を実践に使ってくれていいよん。もしこれで卵が暴走しても別に構わないからね」

「いや、それはありません。それは絶対に大丈夫。ただ、激痛とかそういう類が」

「ならもっとOKっすわ。その程度の痛みくらい、全然耐えられるね。怖くもない」

 

 漣はその程度の痛みは辛くない。本当の恐怖を知っているのだから。アレ──春雨からの拷問──以上の痛みと恐怖など、この世界には何処にもない。そう思っているから、必ず治る代わりに激痛があるかもしれないと言われても何も感じない。

 むしろ、ここで自分が臨床試験に使われることで、後の被験者達に覚悟をさせることが出来るのなら万々歳だ。絶対に治ることが確定しているのだから、やらない理由もない。

 

「こんな感じだけど、いいかな。漣がまず()()になるよ」

「いや、アンタの反応次第ではめちゃくちゃ怖くなるんだけど」

「でぇじょうぶだ。漣だって艦娘。痛みくらい耐えてやらぁ」

 

 曙の苦言も撥ね除けるようにケラケラ笑う。こうだって決めたらその意志が揺らがない。

 

「私はいいわよ〜。正直、1番というのは気が引けてたし〜」

「朧も、漣の意志を尊重する。先にやりたいならどうぞ」

「うっす。ありがとうアラシー、ボーロ。やらせてもらうぜ!」

 

 荒潮と朧も良しとしたため、曙もそこはまぁいいかと漣に先にやらせることにした。

 ただ、ここでギャーギャー騒がれたら後からやるのが怖くなるのは確か。漣はそれを避けたとも言える。

 

「それじゃあ、早速やりますよ。一気に消えるわけじゃないので、少し押し当てたままにします。少し温かいと感じるかもしれませんが、それは波長が身体を揺らしているだけなので、火傷みたいなことはありません。ただ、痛みがあったとしても動かないでいてくれると助かります」

「りょーかい。あ、じゃあぼの、漣のこと羽交い締めにしておくれ」

「それアンタ貫通してあたしの卵も消し飛ばすんじゃないの?」

「なら朧も手伝う。両サイドから押さえつければいいんじゃないかな」

 

 暴れられても困るということで、漣の身体を曙と朧が左右からロックする。脚にも脚を引っ掛けて、漣はその場で大の字にされたようなもの。

 

「それベッドに寝かせた方がいいんじゃないかね」

「北上さん、今はそのままやらせておきましょ」

 

 そんな漣の姿に、北上と大井は苦笑。時間が惜しいからここでやるとしたのだろうが、普通に考えたら効率は悪い。明石のことだから、拘束出来る椅子とかベッドとかも用意出来ただろうにと内心思いつつも、これ以上口出しはしなかった。

 

「それじゃあ、行きますよー」

 

 装置を漣の鳩尾に押し当ててスイッチを入れる。波長を照射するときにはその中央が淡く光るため、見た目通り懐中電灯のようだった。

 

「あ、やんわり温かい」

「卵を消滅させるための波長は細かい振動です。だから、痛いというよりは()()となるかもしれませんね。ただ、火傷はしないのでご安心を。私の手を貫通して消し飛ばすことは確認出来ているので。その時私は温かいと感じるくらいはしました」

「なるほどねぇ」

 

 しかし、明石は1つだけ見落としているところがある。その消し飛ばす細胞の量である。

 

 実験に使っていたのは、白露達の細胞から抽出した黒幕の細胞。それはそれこそ、小指の先程度。だが、今漣の身体の中にある卵の大きさはビー玉1つ程度のサイズなのである。そのため、振動で消滅させる際に発生する熱量は数倍に膨れ上がる。

 

「あ、これ熱い、熱い! 痛くないけど熱い!」

「暴れないで」

「いやこれすっごい熱い! 熱湯風呂が身体の中から湧いてきてるみたいな感じ! あっ、あっ、あーッ!?」

 

 余程熱いのか、ジタバタと悶えるものの、それも僅か数秒のこと。身体の中から卵が消えたことで、その熱はあっという間に消え去り、何事も無かったかのようになる。

 すぐさま明石が単眼鏡を使って体内を視る。すると、漣の中に卵がないことが確認出来た。これにより、この装置が卵を完全に消滅させることが出来るモノとして完成した。

 

「はい、問題ありません。もう何処にも黒幕の細胞は確認出来ませんでした。これで真に解放されたことになりますね」

「ふひーっ、や、やっべぇっすわ。ジワジワ熱いんスよ。こういうのは初めてだったから、変にリアクションしちまったい。てへぺろ」

 

 舌を出して戯ける漣を、曙が引っ叩いた。

 

「とはいえ、これでうまく行くことはわかったので、残りの3人にも施術していきます。どうなるかがわかったわけですし、サクッとやっていきましょうか」

「あ、じゃああたし達が身体を押さえつけてあげよう。大井っち、逆サイドお願いねー」

「はい、大丈夫です。じゃあ次は曙、貴女が受けなさい」

 

 間髪容れずに北上と大井が曙を羽交い締めにする。曙が反応を見せる暇も与えず、すぐさま明石が装置を鳩尾に押し当てた。

 

「えっ、ま、マジ、ホントに熱い! これ熱い!」

「うんうん、わかるよぼのたん。くっそ熱いよね」

 

 一度それを受けているために先輩ヅラの漣に苛立ちを覚えつつも、曙も処置完了。そして朧、荒潮と順に処置をしていき、堀内鎮守府の中に黒幕の要素は失われた。

 

 

 

 

 対策は完璧となりつつある。

 




これにて体内の卵対策は完了。大塚鎮守府もこれで解放されます。
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