空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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紅く染める治療

 施設の者達の治療中、体内に卵を埋め込まれた者達への処置は順調に進んでいるのだが、細胞に黒幕のそれが混じってしまっている者達への施術で、問題が発生した。

 混合液自体は大成功であり、最初の被験者として立候補した白露の体内からは、黒幕の細胞は失われている。しかし、その反応は非常に過剰。まるで泥に侵蝕されているかのような反応を見せ、ヒト前であるにもかかわらず叫ぶような嬌声を上げてしまっていた。そしてさらには、()()姿()

 

「いや、あの、あたし完全に無意識だから!」

 

 それこそ侵蝕されたかのようなレオタード姿。しかしそれは、泥の侵蝕を受けた時のような混沌の色ではなく、春雨の怒りが混じった真紅。それこそ、春雨の細胞と黒幕の細胞が混じり合った結果であるということをわかりやすく表現しているようにも見えた。

 今の白露の姿にトラウマを持つ者だっているため、大急ぎで別の服に着替える白露。一番慣れ親しんでいる、白露型4人の折衷案とも言える制服を作り上げたところ、無事に服装は変化。

 しかし、そこにも影響は出ていた。制服自体に紅が交じり、村雨のインナーも真紅に。細胞の影響が完璧に出てしまっていた。

 

「え、えぇ……これ副作用……?」

 

 白露自身としても、こんなことになるとは思わなかった。意識すれば黒く染められるのだが、逆に言えば、意識しなければまたあの姿を作り出してしまう。服を展開するときは絶対に細かく考えてからでなければならなくなってしまった。

 

「……いや、考えられることではあったんですよね、それも。そもそも、黒幕の細胞が()()()()()()を持っているはずなんですよ。むしろ、さっきのは黒幕の領域に入った瞬間になっていた姿ですよ。紅くはなく黒くなっていたと思いますが」

 

 明石の推論。先程の姿は、この事実を知ることなく黒幕の領域に入ってしまった時の末路だと考える。

 

「ですね……。黒幕の力が一番大きくなる領海に入った瞬間に、卵や身体の細胞が活性化して、再洗脳していたんじゃないかと思います。あちらも無意識かもしれませんけど」

 

 その言葉に、春雨も同意。領域は黒幕の力が最も影響を与える場所。つまり、自分と同じ細胞を急激に活性化させることだって可能であろう。黒幕自身が無自覚でも、嫌がらせを主体としているのなら()()()()()()()()と考えるだけで望みが叶う。既に自分の泥がばら撒いてある領域に、細胞を持っている者が足を踏み入れるのだから、そうなっても疑問はない。

 

 それこそ、怒り狂った春雨に近い力だ。視線の中の者をほぼ自由にコントロールしてしまう『望む答えに辿り着く力』に近い。()()()さえしてあれば自由自在に操ることが出来るようなもの。

 春雨のように仕込み無しでコントロール出来るわけではないが、一度侵蝕してしまえば仕込みは完了。今でこそその侵蝕も防ぐことが出来るが、それが無い時期はガード不能の最強の力。

 

 これを全て、復讐心が溢れた結果、心を壊して無意識無自覚に繰り出しているというのなら、何処までも邪悪な存在。

 

「とにかく、春雨の細胞の力で事前に誘発させたんですよコレは。でも、本来の力は抑え込まれた。それでも拮抗されたから侵蝕と同様の快楽と変化が発生したわけです。頭にまで回らなかったのは、流石は辿り着く者って感じですよ」

 

 決戦で発生して全てを台無しにしていたであろう変化を強引に引き起こしたことで、それを未然に防いだということである。治療というよりは、受け入れた上で変質させたというイメージか。

 複雑な気分ではあるものの、頭にまで黒幕の細胞が来なくてよかったと安心した。

 

「紅く染まるのも当たり前なんですよ。忌雷の色が紅くなってるんですから」

「言われてみりゃそうやなぁ。うちらの忌雷が黒から紅に変わっとんのやから、さっきのも紅くなったら当然や」

 

 黒潮が忌雷を撫でながら納得する。瑞鳳も自分の身に起きたことを見せられたようなものなので納得。

 春雨のマグマを流し込まれたことで、本来泥色だった忌雷が真紅に生まれ変わっているのだ。それと同じことが起きてもおかしいことではない。

 

「身体の調子は悪くないよ。痛いとか熱いとか怠いとかは無いかな」

「なら効果としては成功として見て大丈夫ですね。未然に防ぐために事前に発揮させ、それを春雨の細胞の結合というカタチで抑え込んでいるわけです。そして、それは二度と再発しない。細胞そのものが変質していますから、黒幕の領域に足を踏み入れたとしても、反応するための細胞はもうありません」

「そっか、それならよかった」

 

 治療としては成功。決戦に向かった時の何かしらの不安は、これによって取り除かれた。気分としては複雑ではあるが、これ以上悪いことにはならない。

 言ってしまえば、見た目が少し()()()()という程度。治療中にあられも無い姿を見せることになる一過性のモノと、治療後に一時的に侵蝕された姿になるくらいである。そのどちらもが、精神的なダメージに繋がるのだが。

 

「では、次は私が」

 

 治療されるのならば問題ないと、白露に続き大鳳が前に出る。春雨に対して尊敬の念を持っているため、その細胞を自身の治療に使えるというのは内心ありがたいと思っていたりする。

 一応ではあるが、白露とは別の反応をする可能性もあるということでモニタリングはしっかりしている。白露の時からもそうだが、持ってきた簡易的な機材と、明石の頭の上にずっと陣取っている龍驤の力によって、常にその状態は記録されていると言っても過言ではない。

 

「春雨が問題ないと言うのですから、何も問題はありませんよ」

「いや、でも大鳳さん、マジでしんどいから覚悟した方がいいからね」

「勿論、あれだけの痴態を白露が晒しましたから、私は同じ轍を踏まないよう、に……っ」

 

 話している間に注射を打ち込まれ、混合液が身体を回った瞬間、大鳳の様子がやはりおかしくなる。プルプルと震え出し、先程の白露と同じように自分を抱き締めながら蹲る。

 

「な、なるほど、こういう……こと、ですか……っ」

「うん……歯を食いしばっても漏れちゃうみたいな」

「っくっ、うっ、くぅううっ……っ!?」

 

 白露のように仰け反ることは無かったが、小さく丸くなったように我慢した大鳳。何度も何度も大きく震えた後、やはり白露と同様に真紅のレオタード姿に。

 黒幕の侵蝕が表に出たが、春雨の力で害を失った。そう考えるのが自然な変化であることを、二度目にしてよく理解出来た。

 

「ふぅ、ふぅぅ……これは厳しいですね……。こういうところを見られながらというのは、思った以上に辛いですよ」

 

 すぐさま服装を変える。やはり真紅の要素が加わっており、大鳳の場合は見えているインナー部分が紅く染まっていた。

 

 その声を上げるたびに、どうしても変な空気になってしまうのがこの治療。岸でやっている上に、周囲には同じように治療待ちだったり、そもそも調査隊の面々や施設の者達もいるのだから、そんな空気になるのも無理はない。

 

「海風、大丈夫?」

 

 この治療が続く中、春雨が心配しているのは海風だ。春雨の細胞を使った治療であるため、その成り行きを見届けようとここにいるのだが、そんな海風は春雨の手を強く握りしめていた。震えもないとは言えない。

 今の海風にとって、屈指のトラウマとなっているのが侵蝕だ。自分自身がそれを経験し、最愛の姉と敵対した記憶は、この治療法によって刺激され続けている。

 

「……大丈夫、大丈夫です。あれは私が忌むべき他者を陥れる行為ではありません。春雨姉さんの慈悲の結果なんですから。姉さんが手を握ってくれているなら、尚更大丈夫です」

「無理しちゃダメだよ。私だって、少し苛立ちが出てきちゃってるんだから」

 

 春雨の精神的なダメージにも繋がっているのは言うまでもない。怒りが溢れた原因は、仲間達が侵蝕されたことなのだ。その光景が今、目の前で繰り返されているようなもの。

 それ故に、お互いのために手を握っている。お互いに心を落ち着けるために。それでも十全とは言えないのが現状。春雨も気を抜いたら怒りの姿に変わってしまいそうだった。

 

「海風姉……春雨姉……落ち着いて」

 

 その2人に、今度は山風も加わる。2人が結ぶ手を上から包み込むように握り、さらに温もりを与えた。2人の仲に割って入ることはどうかと思いつつも、2人の温もりだけでは足りないと感じたか、意を決してそこへ。

 

 春雨には姉妹の温もりが一番の特効薬だ。今施設にいる2人の姉妹だけで足りないのなら、外にいる妹の存在も必要。それが今ここで発揮され、春雨は一気に怒りが鎮まる。

 山風の温もりは海風にも有効だった。姉至上主義となっていても、姉妹の絆が崩れ去ったわけではない。特に山風は一番近い妹だ。海風も艦娘の時は特に気にかけていた相手であるため、繋がりは深い。

 

「ありがとう山風。おかげで落ち着けた」

 

 海風の言葉に、山風は頬を赤らめながらも小さく微笑んだ。

 

「っっ、あぁああああっ!?」

 

 そんな和やかな光景の裏では、治療が続けられていた。混合液を投与され、その過剰な反応の中で細胞を変質させ、そして真紅に染まる。今回は古鷹の番。ビクンビクンと震えながらも姿を変え、そして落ち着いたところで元の姿に戻るが、曝け出しているインナーが真紅に変化していた。

 あちら側で活動していた時には、重巡ネ級のボディスーツ──レオタードに近い姿でいたからか、最初の変化ではその時のことを思い出してしまい若干崩れかけるものの、白露や大鳳が支えることで何とか克服。トラウマをどうにか振り払う。

 

「っっっ!?」

「──っ!?」

 

 続いて潜水艦姉妹。2人揃っての投与により、同時に強い反応を見せる。その反応を押さえつけるように2人で抱き合って、その快楽の奔流を耐えた。元々感情の起伏が小さい2人ではあるものの、この衝撃には表情を変えてしまう。

 最終的には、本来の姿である競泳水着スタイルとなるのだが、例に漏れずそれは真紅に染まっていた。薄雲のためにとウェットスーツにしていたが、今はそんな余裕もないのか2人で抱き合いながらも息を整えている。

 

「自分の開発した対策でここまで阿鼻叫喚になるのも初めてなんですが、ここは心を鬼にして続けさせてもらいます。残すところあと2人、叢雲とコロラドですね。どちらからにしますか。両方同時でもいいですよ」

 

 今までの仲間達の痴態を延々と見せつけられていたものの、コロラドは随分と開き直っていた。自分だけがこうなるわけではないし、むしろ決戦で恨みを晴らすためには必要不可欠。過剰な快楽は苦痛であることくらいは理解しているつもりだが、これまでの屈辱に比べればこの程度は微々たるものとしか思っていない。

 しかし、叢雲は少々事情が違っていた。快楽により治療されることは別に問題はない。痴態をコロラドに見せることは気に入らないが、それによって怒りが大きく溢れるかと言われればそうでは無かった。だが、その後の変化が問題だった。

 

「……何で敵のクズ共と同じ姿にならなくちゃいけないのよ。それだけはゴメンだわ」

 

 ここまで全員が避けられていない、あの侵蝕されたようなレオタード姿が気に入らないと言う。

 こうなることは開発者である明石にも想像がついておらず、今この場になって初めてわかったこと。それも、実際は黒幕の影響を先んじて発生させ、それを春雨の細胞で抑え込むというカタチでの治療となっているのだから、結局は黒幕の力に一時的にも屈すると考えていた。

 

「あら、たかがそんなことで抵抗しちゃうのね」

 

 ここで発破をかけるのはコロラドである。

 

「あん?」

「私だってあんな格好はゴメンよ。でも、一度我慢すれば後は二度と黒幕のいいようにされないって言うなら、喜んであの姿になるわね。そんなところにPrideなんて関係ないわ」

 

 フンと鼻で笑い、一歩前に出る。叢雲を残して自分が先に治療を受けようという姿勢。

 

「治療を受けたくないなら受けないでいいんじゃないかしらね。でもそのせいでアンタは黒幕との決戦にも出れないで、この施設でイライラしながら待つことになるのよ。それに、私達が黒幕に勝ったら、それと同時にアンタが余計にバカな方向に行っちゃうかもしれないわね。それでも一時のあの姿が嫌だって言うなら、別にいいんじゃない? 私はアンタのそのつまらないPrideを尊重してあげる」

 

 余計に叢雲を苛立たせるように吐き捨て、明石に腕を差し出した。注射しろと言わんばかりに。

 やっちゃっていいのかなと少しだけ考えた後、まぁいいかとコロラドに注射器を押し当てる。しかし、

 

「待ちなさい」

 

 叢雲がそこに待ったをかける。

 

「そこまで言われてはいそうですかと言うわけないでしょうが。私も受けてやるわよ。でも、あの姿にはならない。私は私の力で抑え込んでやる」

「うわチョロッ。人のこと言えないくらいアンタチョロいわねぇ。それでもやっすいPrideに縋り付くのかと思ってたわ」

「アンタに言われたくないわよチョロ助。明石、気が変わらないうちにさっさとやって」

 

 流石の明石もこれには困り顔。だが、治療はしなくてはいけないので、手早く2人の腕に混合液を注入。コロラドはともかく、叢雲からも合意が取れたと判断した。

 

「だったら、アンタよりも反応を薄くしてやるわ。キャンキャン泣き喚いていなさいよチョロ助」

「ハッ、それはこっちのセリフよ。耐えられずに痴態を晒せばいいわポンコツ」

 

 ギリギリまで罵り合い、憎まれ口を叩きながら睨み合うが、この薬はなかなかに即効性。すぐさま全身に回り、同時に強烈な反応が始まる。

 コロラドだって侵蝕されたときは艦娘だったとき。快楽などなく、抵抗する暇すら与えられずに頭の中を書き換えられた。しかし今は深海棲艦。泥の侵蝕は快楽と直結する身体。叢雲はともかく、コロラドだってこの衝撃を知らない。

 

「んいっ!? こ、ここまで、激しい、の!?」

「んぁあっ!? い、いきなり泣き言かしらね、私は、まだまだ耐えられるわよ」

「喧しいわよ、アンタだって、涙目じゃないの」

 

 罵り合いながらも過剰な反応に身悶えし、同じように自分の身体を抱きしめた。だが、目の前の相手に弱みを見せたくないのか、2人とも膝から崩れ落ちることもなく、ブルブルと震えながらも2本の足で立ったまま耐えた。

 

「っく、こ、これ、爆発するみたいにっ……っあはあぁあっ!?」

「ヤバ、白露が言ってたの、このこと、かっ……うぁあああっ!?」

 

 だが、すぐに限界が訪れる。誰にも耐えられない奔流に呑み込まれ、2人同時に大きく仰け反った。そして同時にレオタード姿に変化。

 今までの中でおそらく一番大きな反応。痴態としても誰にも敵わないレベル。ただ、最後まで罵り合っていたからか、見届けていた者達としては苦笑しか出てこなかった。2人にとってそれが幸いなこと。

 

「はぁ……はぁ……あれだけのこと、宣っておいて、しっかり変わってるじゃないポンコツ……」

「うっさい……その節穴の目でよく見てみなさいよ……私は……アンタとは違うのよ……」

 

 そう言う叢雲は、なんとか自分らしさを残そうと意地になったのか、全員に出来上がったニーハイソックスをどうにか回避し、普段使いの黒タイツのままとなっていた。ただそれだけでも、屈しなかった部分があるということになる。

 

「いや、叢雲ちゃん正直今までとほとんど変わってないよ。色が変わっただけ」

 

 春雨の無慈悲なツッコミが入り、苦笑していた面々に普通な笑顔が戻った。

 

 

 

 

 結果はどうであれ、これによって全身の細胞にまで混じっていた者達への治療は完了となる。経過観察は多少必要かもしれないが、もうこれで決戦の準備が出来たと言っても過言ではない。

 




姿が変わっても、叢雲って最初はバニーガールみたいな格好してたんだから、正直なところほとんど変わってないっていう。むしろ紅くなったことでよりそれらしさが出ちゃった。
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