空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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中の問題

 施設の夜。決戦に出ないメンバーによる哨戒は当然続く。空母棲姫が哨戒機を飛ばし、戦艦棲姫に加えてジェーナス、ミシェル、そして今日は薄雲という面々。ミシェルを除けば、本日治療を受けたメンバーではあるのだが、その後にしっかり休んだおかげで一晩の徹夜くらいは出来ると意気込んでいた。実際、鎮守府側との演習中は哨戒メンバーは昼寝をしており、その後もしっかり休息し、夕食後に仮眠までとった。これならば大丈夫だろうと、姉妹姫も良しとしている。

 

「ここ最近は泥が増えているから、気をつけてちょうだいねぇ」

「ええ、勿論。私達は()()()()()()()()だから、それこそ親の仇のように消し飛ばしてやるわよ」

 

 中間棲姫の言葉に、戦艦棲姫が忌々しげに語った。泥に対する怒りと恨みを特に知っているものであるからこそ、二度と侵蝕されてなるものかと躍起になって哨戒をするだろう。

 ミシェルだけは侵蝕を受けたことは無いが、その事実を理解していないためにそもそも効かない。未だに侵蝕という敵の攻撃自体よくわかっていないまである。しかし、泥が良くないモノであることは理解しているため、ジェーナスと共に哨戒を続けていた。

 

「空母、近海全域は行けそう?」

「ああ、多分、行ける。姉姫にも、教えてもらった」

 

 搭載数だけで言えば姉妹姫よりも少ない空母棲姫だが、そのコントロール技術はすくすくと成長し、2人に匹敵する程になっている。おかげで、島の中心から全域を見るということも可能。その状態で島の外に出られるのだから、空母としての戦力ならば下手をしたらトップクラスと言えるだろう。

 

「それじゃあ、行ってくるわ。貴女達は今はゆっくり寝ておきなさい。私達に任せて」

「ええ、そうさせてもらうわぁ。後少しの辛抱だから、よろしくお願いねぇ」

「そうね。その分、全力でここを守るわ。旅の途中でここに戻ってくるのが私としては楽しみなんだもの」

 

 黒幕の手はすぐそこまで迫ってきている。そんなことで戻ることの出来る場所を失いたくはない。そして、他の者にとっては戻るのではなく居場所そのものなのだ。それをしっかりと守っていきたい。

 

 

 

 

 哨戒が始まる裏側では、この1日を終わらせる動き。夕食も風呂も終わり、眠るのみ。

 夕食前の休息の時間で危惧していた、コロラドの中にいる2人の姫のこと。他の魂混成組とは違い、混じっている姫が亡霊のようにコロラドの中に住み着いているため、夢の中で会話出来るという特性を持ってしまっているわけだが、そこからコロラドに影響が与えられたように、その逆も発生している可能性があった。

 つまり、治療の影響が2人の姫にもあったということ。それに対して、何かしらの文句が言われるのではないかと、コロラドは考えていたのだ。

 

「まぁ、文句を言われても仕方ないことにはなったから、好きに言わせてやるわ。そこまで抑え付けてやるとは考えていないから」

 

 相部屋である白露や古鷹、大鳳にも相談しており、もし眠っている間に何かあったなら、すかさず起こしてくれとお願いしていた。前回は夢の中で戦った後に疲れがあまり取れなかったため、もしまた同じようなことが起きたら普通に困る。

 今でこそスタミナ不足が対策されたため、そこまで疲れが取れないなんてことは無くなるだろうが、万が一のことは考えておいた方がいい。

 

「任せてよ。あたし達はもう一蓮托生みたいなものだしね」

「そうですね。同じ苦しみを分かち合うものだからこそ、こういう時こそ助け合いですよね」

「はい、私達に任せて、コロラドはグッスリと眠ってください」

 

 3人が3人、コロラドのために動くと力強く宣言。そこまで大層なことにはならないだろうし、むしろそこまでになったら今の状態からでも何かしらの影響はありそうではあるが、協力してくれるというのなら頼らせてもらう。

 

「Thanks. それじゃあ、何かあったらよろしく」

「オッケー。じゃああたしが添い寝ね。変に魘され始めたら起こすからね」

「ええ、それでいいわ」

 

 そしてコロラドはいち早くベッドに横になる。以前と同じように、そうなることを強く願いながら目を瞑ると、そのまま深く深く眠っていった。

 やはり演習などで身体は疲れていたようで、お風呂に入ればそれがどっと出てくる。スタミナ不足がある程度解消されたとしても、疲れないわけではないのだから。

 

「今日は一段と早く寝息立ててるね」

 

 白露が少し驚いていた。元々寝付きがいい方とコロラド本人が話していたが、今日は格段に早いようである。

 

「いいこと、だよね。もしかしたらすぐにでも決着をつけてくるかも?」

「だといいんですけどね。簡単には終わらない気がします」

 

 大鳳の不穏な言葉は、的中することになる。

 

 

 

 

 さて、夢の中である。以前と同じように真っ暗な海の上、二度目のコロラドはひとまず周囲を見回す。前回夢の中で対話した時は、ここで無音の砲撃が飛んできて、聞こえていないにもかかわらずそれを察して回避することが出来た。

 今回は突然砲撃が飛んでくるようなことはない。それどころか、コロラドが夢の中に来たことを察知して向こうから会いに来たくらいである。

 

「悪いわね。また話をしに来た……ん、だけ、ど……」

 

 少し久しぶりに顔を合わせるわけだが、その姿を見てコロラドは言葉を失いかけた。

 

 南方戦艦新棲姫も、戦艦新棲姫も、まるで当てつけのように真紅のレオタード姿で現れたからである。

 

「おう、これについて話をしに来たんだよな。大体わかってんだけど、ちゃんとお前からの説明をしてもらおうか。あぁ?」

「酷い目に遭ったわよ……。何より、コイツとペアルックにされたのが本当に気に入らないわ」

「それはこっちのセリフだ。それに、アタシらはコレ、なんでか脱げねぇんだぞ!」

 

 流石にそれは予想していなかったため、コロラドは目を見開いて驚いた。

 

 自分達はいち早くそれをやめたいと思ったため、いつもの服に戻ることは出来た。それが紅く染まっていたのは、むしろ治療を施された証として目に見えるモノであるため、まだ許容範囲内。

 しかし、ここにいる姫2人はコロラドとは存在そのものが違う。肉体は失われ、殆ど()()()()()()()()と化しているようなモノだ。細胞に混じり合った存在となれば、春雨細胞の影響もより強く受けることになるだろう。

 その結果がこれである。コロラドと同様に姿を変えられたものの、外のモノと違ってその影響を強く受けすぎ、元の姿に戻れなくなってしまった。コロラドが夢の中で、しかもある程度意識しなければ見られない姿ではあるものの、本人達には大問題である。

 

「ぶっちゃけ、着心地は悪くねぇよ。でもな、コイツと揃いなのが気に入らねぇ」

「正直なところ、動きやすくて悪くないとは思ってるけど、コイツと同じ格好とか気分が悪くて仕方ないのよ!」

 

 別にその姿に何か文句があるわけではないらしい。元々の姿がそれに近いわけではないのだが、深海棲艦の中では非常に多い、身体のラインがよく見える服装を好んでいた2人には、レオタードくらい別にどうということはないとのこと。むしろ、互いにこの姿は悪くないと思っているくらいだ。姿にこれといったトラウマを持っていないために、むしろこのままでも全然構わないとまで思える。

 しかし、犬猿の仲である相方が自分と同じ姿をしているというのなら話は別である。変化中にも罵り合い、変化した後も罵り合い、姿をお互いに変えることが出来なかったことでも罵り合う。ただただ途方もなく喧嘩を続けるだけ。

 

「……なるほどね、うん、それは正直ごもっともな意見よ。私もそれについてはある程度重く考えるわ。私だけはちゃんと姿を変えられるのは、身体の主導権を持っているからよね」

 

 仲が悪いのは知っているし、それを上から抑え付けていることでひとまずは止まっていたものを、今回の治療が再燃させてしまったことはコロラドも感じた。責任というわけではないが、こうなってしまったのは治療を受けたからだ。中の2人の意見を聞くことなく。

 しかし、これをしなければ黒幕の思うツボ。決戦に参加した瞬間に今以上のことが起きるだろう。それこそ、結局ペアルックになっていた可能性は非常に高い。先に侵蝕を引き起こした後、春雨細胞によってそれを失わせているのだから、それが無ければあちら側のレオタードでペアルック確定である。

 

「でも、今は私がここにいるわ。主導権を持つ私がアンタ達に干渉すれば、服装くらい変えられるんじゃないかしら。アンタ達にも私の主導権は影響があると思うのよ」

 

 細胞の主導権がコロラドにあるのなら、2人の姫に対しても何かしらの影響を与えられるのではないかと考えた。影響が与えられるのなら()なんてことはしなくて済むはずなのだが。

 やり方は気に入らなくとも、服装を変えることくらいは受け入れてくれるだろう。むしろ、コロラドの指示に従うより、相方とのペアルックを拒むはずだ。

 

「やれるならさっさとやってくれ。一分一秒でもコイツと同じ姿は気に入らねぇんだ」

「賛同するのは気に入らないけど、同意見なの。早く変えて」

 

 これに関してはコロラドに従った。思い通りに行って苦笑。

 

「でも、うまく行かなくても文句言わないでよ。それで文句言ったら、前みたいな殴り合いになるから」

「それならそれで構わねぇ。次は勝つ。主導権も奪ってやるから覚悟しろよ」

「なんでアンタが勝つ流れなのよ。アンタが主導権持つくらいなら、この艦娘が主導権持ってた方がマシよ」

 

 相変わらずの喧嘩だが、2回目の対面なのにずっと見せられていると慣れてしまうもの。もうツッコミを入れることなく、コロラドは事を進めていく。

 

 しかし、言い出したもののどうやればいいのだろうと少しだけ悩んだ。見ているだけでは何も出来ないだろうから触れてみるか。それとも脱げないというのだから脱がしてみるか。いろいろと考えた結果、ひとまず戦艦新棲姫の頭を撫でるように掴む。

 

「ちょっ」

「手頃な高さにあったから」

 

 ケラケラ笑う南方戦艦新棲姫を睨み付けるが、コロラドは気にせず念じてみる。考えていることがそのままカタチに出来るのなら、夢の中でなら余計に好き勝手出来るのではないかと考えて。

 結果、戦艦新棲姫は元の姿に戻ることに成功。しかし、コロラドと同じように少々紅みがかっていた。

 

「……ふぅ、これで落ち着けたわ。こんなヤツと同じ格好だなんて死んでもゴメンよ」

「こっちのセリフだ。アタシは別にこのままでもいいぞ」

「私が気に入らないからとっとと戻りなさい」

 

 高さ的にか、南方戦艦新棲姫には顔面を掴むアイアンクロー形式で姿を元に戻した。その姿に戦艦新棲姫はニヤニヤしていたため、事が済んだ後にまた喧嘩が始まる。

 

「チビだから頭撫でられたんだろうが!」

「憎たらしいから顔面掴まれたんでしょうが!」

「仲良くしろとは言わないけど、ヒトの中で喧嘩するんじゃないわよ。鬱陶しい」

 

 それこそ殴り合いの喧嘩が始まりそうになったため、コロラドは溜息を吐きながらも白鯨を展開。実力行使で黙らせることとなった。むしろ、今後はこちらの意向でペアルックにすることくらい出来るという事実が判明したので、()()()()としてそうする方向に持っていけそうである。

 

 

 

 

 これでコロラドの中の問題も解決。問題と言えるようなことだったかもわからないが。

 




戦艦新棲姫はともかく、南方戦艦新棲姫は別にレオタードでも良かったかもしれない。あっちはちゃんと大人の身体だし。
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