翌日、鎮守府。施設の状況も確認出来たため、ついに最終決戦の日程を決定する。また、堀内鎮守府では出撃するメンバーの決定も控えているため、本日中に終わらせる予定である。
日程に関しての打ち合わせのため、朝イチから各鎮守府の代表者が会合を行なう。相変わらず山寺提督だけは顔を見せることはない。今回はご丁寧に、画面上に『sound only』と冗談みたいな言葉まで表示させてきた。
ここには中間棲姫も勿論参加。山寺提督とは公の場では初めての対面。あちらの顔は見えていないが、互いの声を聞きながら話し合えることを中間棲姫は喜んだ。
『初めまして、お顔が見えないのは残念だけれど、事情があるのよねぇ』
『申し訳ございません姫君、仕事の特性上、なるべく顔を知られるわけにはいかないのです。それについてはご了承ください』
『あらまぁ、これはご丁寧に』
顔は見えなくとも、中間棲姫に対してはとても丁寧な対話を試みる。しかし、山寺提督を知る者からしてみれば、この態度自体が
『姉姫、知っていると思うけれど、彼があの監査のトップよ。ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンの上司ね』
『あらあら、それじゃあ私達の
『いえいえ、滅相も無い。貴女方の生き方は、我々と同じですので。平和を求める者の生活を脅かす理由は、我々にはあってはならないことですよ』
言い方と態度はさておき、この考え方は間違ってはいないし、本心からの言葉。元を知らないからこそ、これが本心であるのなら信用に値する者と判断出来ること。中間棲姫は山寺提督に対しての信頼を持つに至る。
『それじゃあ、えぇと……お顔が見えないし、貴方のことは音声くんと呼ばせてもらうわねぇ』
山寺提督を除く提督一同が一斉に噴き出した。大塚提督を眼鏡くんと呼ぶようになった時も大概だったが、この身も蓋もないネーミングセンスだけは中間棲姫のおかしなところでもあった。
『ははは、好きなようにお呼びください。俺も貴女のことは皆と同じように姉姫と呼ばせていただきます』
『ええ、それでいいわぁ。これからよろしくねぇ』
初対面の2人の挨拶が終わったところで、ここからは本題。このタイミングで会合が開かれたことから、話題は決戦についてであることは間違いない。
『ここまで準備が出来たのなら、明日から動き出していいでしょう』
まず大将が日程を提示。時間をかければかけるほど黒幕が力を増していくのだから、ここまで整ったならばもう向かう方がいいと考える。実際、これは焦って出撃するわけでは無い。思いつく限りの対策が出来ているために、決断したに過ぎない。
その言葉に対して、異論を唱える者はいなかった。こういうタイミングで口を出すことが多い山寺提督も沈黙。この選択に文句は無いということにほかならない。
『艦隊の強化は言い出したらキリが無い。その線から外に出ている対策が出来たと言うのなら、もうここで仕掛けた方がいいとは俺も思う。こちらでも出来ることは底上げだけになっているからな』
大塚鎮守府がやらなければならないのは、堀内鎮守府や施設からやってくる部隊の受け入れが主。つまり、以前の堀内鎮守府のように、深海棲艦を鎮守府の中に入れること。
それに関しては、大将の手腕で簡単に申請が通っており、時間的に翌日に向かうというカタチになったとしても、全員に部屋を提供出来るようにもしてある。そのため、本当にやることが底上げだけとなっていた。
無論、それが出来るところにはいるので、参加するメンバーの練度は限りなく上がり続けている。機会があればまた演習がしたかったものだが、それは流石に無理そうである。
「こちらとしては、一部の艦娘には施設の防衛にも向かってもらおうと考えています。最低限、鎮守府を守るバリアを提供することはしますが、万が一を考えれば哨戒が出来る者達を増やすべきだと思いまして」
『ええ、それはいいことだと思うわ』
バリアの小型化は、明石達が現在絶賛構築中。山寺鎮守府の明石からの技術提供のおかげで、もう完成の目処がついている。明日どころか今日の午後には提供出来るだろう。こちらも早ければ早いに越したことはない。
『そこまでしてもらってもいいのかしらぁ。こちらはこちらで自衛をしていこうとは思っているんだけれど』
「構わないよ姉姫。それに、ここ最近は泥が流れ着いているだろう。バリアだけでは耐えられないなんてことがあったら、困るのは君達だけではないからね」
『それはそうねぇ。私達の誰かが、貴方達を困らせることになりかねないわぁ。それに、遺恨は残したくないものねぇ』
中間棲姫としては、そこまで尽くしてもらってもいいのだろうかと少し悩んだものの、万が一を考えると、何かと手を貸してもらった方がお互いのためになるだろう。
それにしても守ってもらいっぱなしに思えたものの、その分、多種多様な情報を提供しているのでお互い様だと堀内提督に言われたことで、この場では納得する。
『あ、じゃあせっかくですし、こちらからもビスマルクとグラーフを提供しときましょうか。必要ないかもしれないが、そういう防衛の部隊を組むのなら、戦艦と空母はいた方がいいと思うから』
「まるで、僕が組む出撃メンバーが予想出来ているように感じますね……」
『すまないが、予想は出来ているよ。ある程度はね』
実際、堀内提督は施設に足を踏み入れたことがある者達に施設防衛に参加してもらうつもりで部隊を組むつもりだった。そして、それは決戦参加に入りきらなかった者で。
この鎮守府の主力と言える金剛と比叡、航空戦の要である空母の中で特に強いところにいる千歳と千代田は、決戦メンバーに加えようと既に考えていた。そこからさらに主力と言えるメンバーを注ぎ込もうとすると、施設への防衛に向かってもらうのは、北上、大井、漣、曙、朧、そして宗谷の6人。
これを見越した上で、ビスマルクとグラーフを施設に置くと言い出したのだ。
施設にいる戦力は、防衛部隊なんて必要が無いくらいに強力だ。1人1人が姫なのだから、何かあっても余裕を持って自衛が出来るだろうし、あの姉妹姫が島から移動出来ない以上、施設を存続させるために全力を出すのは当然のこと。その持っている力を十全に使い、何人たりとも近付くことが出来ないくらいに籠城戦をすることだって可能だろう。
それでも、想定外というものが存在する。例えば、
『それでは、決戦は明日。姉姫、申し訳ないんだけれど、明日の朝に参加する者達を堀内鎮守府に向かわせてちょうだい』
『ええ、そのように話しておくわぁ』
『その後、堀内鎮守府から纏まって大塚鎮守府へ移動。そこからは時間次第だろうけれど、私の想定では一度そこで夜を明かしてから、翌々日の朝に最終決戦となると思うわ。これで良かったかしら』
時間のこと、体調のことを考えると、この流れがベストだろう。施設の者達は移動に次ぐ移動でどうしても疲れが出るだろうし、向かう先が今までに行ったことのない鎮守府でもあるのだから、精神的な疲労もあり得る。
万全の状態で戦うのなら、移動に使った疲労を回復した後に向かうのがベスト。緊張感を一晩持ち越さなくてはいけないというデメリットはあるものの、その程度で精神的なダメージを負うようなことはもう無い。
『堀内提督、明日は私もそちらに向かいます。吹雪を参加させるので』
「了解です。お待ちしております」
『大塚提督、準備が出来次第そちらに連絡するカタチで良かったかしら』
『はい、問題ありません。こちらでも今日中に整えておきます』
決戦の準備は最終段階。あとは、向かって斃すだけ。
会合終了後、堀内提督は工廠へ。決戦部隊と施設防衛隊を通達するべく、該当者を呼び出す。
ゾロゾロとやってくる艦娘達だが、正直なところ、呼ばれるのではないかと考えていた者ばかり。
今回の事件に関係している者のみで部隊を組むのは最初からわかっていた。施設に実際に向かったことがあるもの、深海棲艦と共闘したことがあるもの、そこが今回のキモ。
「明日、最終決戦に向かうことになる。今呼び出された者達は、わかっていると思うがそこに参加してもらうよ。構わないね」
勿論だと言わんばかりに全員が頷く。むしろ、ついにこの時が来たかと武者震いするものまで。
「大将とも話し合って参加する者を決定した。部隊は3部隊に分ける。かなり大人数の戦いになるが、陸上施設型の拠点を落とす戦いだ。全員纏まって向かうことにはならないかもしれない。分散して戦うことにもなることを考えると、こうせざるを得なかった」
五月雨からタブレットを渡され、その部隊を読み上げていく。
「第一部隊、旗艦金剛。随伴艦は比叡、千歳、千代田、武蔵、サラトガ」
戦艦と空母のみの部隊。とんでもない重量編成ではあるのだが、その重さを使って圧倒的な火力で押し込む。ここに加えられた武蔵は、現場では大塚鎮守府の大和と行動出来るように既に話が通っている。そのため、実際は5人の部隊。
とはいえ、この5人はおそらく固まって動くようなことはしない。個別に動き、その場を引っ掻き回すいわば遊撃部隊だ。その時その時で必要な行動を選択する。
「第二部隊、旗艦山風。随伴艦は江風、涼風、荒潮、島風、そして今はここにいないが大将の吹雪が参加する」
こちらは打って変わって駆逐艦のみで構成された超軽量編成。山風と荒潮は対地攻撃可能な装備を使い、残りの4人でそれをサポートしつつ、個々の戦闘力の高さを使っていく。
この中でも、島風の指揮能力と涼風の空間把握能力には重きを置かれており、第一部隊とは違って団体で動くことを意識していた。
「第三艦隊は決戦の場ではなく、施設の防衛に当たってもらう。旗艦北上。随伴艦は大井、漣、曙、朧、宗谷。また、島では山寺鎮守府からビスマルクとグラーフ・ツェッペリンと合流することになる」
陸上施設型には少し分が悪い雷巡である北上と大井を施設防衛に回し、その力を遺憾無く発揮してもらう。
北上組である漣、曙、朧もそちらへ。これは精神的な部分を考慮してであり、あの施設に潮がいるため。
宗谷に関しては、基本的には物資輸送の面で施設に向かい、そこから鎮守府に帰らないというカタチでの部隊配属となった。
「残りの者、五月雨を筆頭とした者達は、この鎮守府の防衛に努めてもらう。対策はしているが、もしものことを考えると、鎮守府からも全力を取り除くことは出来ない。むしろ、ここを守らなければ帰って来れる場所がないからね。それはよろしくない」
最終決戦に勝利出来たとしても、それで鎮守府が失われていたら目も当てられない。それを防ぐためにも、残された者達は全員が鎮守府を存続させるために行動する。
基本的には何も起きないはずだが、それこそ何が起きるかわからないのが今の黒幕だ。備えるに越したことはない。
「以上だ。何度も言うようだが、決戦は明日。それまでは自由に過ごしてほしい。ギリギリまで鍛えてもいい。身体を休めるのもいい。悔いの無いように、明日を迎えよう」
こう数えていると、登場させた堀内鎮守府の艦娘って意外と少ないんだなと実感。