施設からの決戦部隊が堀内鎮守府に到着。一度来ている場所であるため、春雨達だけでなく、叢雲達も落ち着いてここまで来ることが出来た。これで出向は半分。ここから今度は堀内鎮守府からの出向メンバーと共に大塚鎮守府へと向かうことになる。
大塚鎮守府までは施設と堀内鎮守府を結ぶ航路よりもさらに長く、単純に真っ直ぐ向かうことも出来ない。そこに艦娘と殆ど同じ見た目ではあるが深海棲艦が一緒に向かうのだ。少々遠回りの道を選択しているため、余計に時間がかかる。
「お疲れ様です、提督。二度目の帰投になりますね」
「ああ、待っていたよ。少し休憩してから、大塚鎮守府へと出向してもらうことになるだろう。それまでは自由にしていてくれ」
そう話す提督も少し忙しそうである。決戦に向かう部隊の最終調整で工廠は騒がしいことになっていた。昨日のうちに用意していたモノを、参加者全員に展開しつつ、正しい挙動をするかどうか、本当に大丈夫かをギリギリまで確認していた。
春雨達が工廠に到着したことに全員気付いてはいるのだが、最後の調整で忙しく、挨拶すら出来ないようである。
「あら、随分と忙しそうね」
続いて、大将も到着。決戦参加の吹雪と、その間の大将の世話役を任命された望月が工廠へ。今回は宗谷による迎えも無かったことから、陸路でここまで来たとのこと。
「大将、ご足労いただきありがとうございます。騒がしくて申し訳ございません」
「いいのよ、決戦直前だもの。こうなっても仕方ないわ」
この決戦、大将はこの鎮守府で結果を待つとしたらしい。指示が出し易いというのもあるし、吹雪も決戦の場に向かうのだから、ここまで来たら一蓮托生という思いを強く持ったからでもある。
代わりに、望月はいい迷惑だと大将の前だというのに臆面もなく言い放つ。出向して、かつ吹雪がいないとなると、望月に世話係の大役が回ってくるのが面倒くさいのだと。
こう言いつつも、なんだかんだ完璧な仕事をこなすのがここの望月。大将も言いたいように言わせているあたり、望月にも大きな信頼があるようだった。
「施設の子達も到着しているようね。今日はよろしくお願いね」
「はい、施設の平和のためにも、全身全霊で挑みたいと思います」
「黒幕への恨みを晴らすためでしょ」
叢雲の言葉に、それも勿論あると肯定する春雨。鎮守府へと一度戻れたことでかなり穏やかに戻っている春雨でも、その根幹には怒りが燻っていることは間違いない。黒幕との戦いは、8割は施設の平和のためという気持ちがあるのだが、残りの2割は今までの
故に、その笑顔の向こう側、瞳の奥底には、しっかりと怒りの焔が灯っていた。見てわかるほどではないが、その眼光は燃え上がるような紅。
大将もその眼を見て少々昂揚するような気分となる。この春雨ならば、確実に皆を導いてくれると確信出来るようの感覚。『辿り着く者』として、この決戦の勝利に辿り着いてくれるはずだ。
「部隊は伝えた通りです。吹雪にはこちらの駆逐隊に加わってもらいます」
「ええ、そのつもり。吹雪にも伝わっているわ」
「はい。島風ちゃんもいますし、ここの駆逐艦のヒト達とは、先日の合同演習で連携出来るようにしてありますので、お任せください」
これで吹雪も参戦。これでメンバーは全員揃った。
「あ、そうだ。司令官、施設に連絡をしたいんですが」
「ああ、そうだったね。五月雨、持ってきているかい」
「言われた通りタブレットは持ってきていますよ。ちゃんと! ここに!」
ちゃんとしっかり持ってきていたタブレットを提督に渡して、自分だってこれくらいは出来ると胸を張る五月雨。致命的なドジは無いが、タブレットを持ってき忘れるくらいの軽めなドジはやるのではと思っていた春雨は、クスリと笑みを浮かべた。そこから何を考えているかを察した五月雨はプリプリと怒っていた。
そんな五月雨は置いておいて、タブレットによって施設へと連絡。呼び出すとすぐに受け取られ、いつもの中間棲姫の顔が画面に現れた。まだあちらは何も起きていないとわかる。
『はぁい、提督くん。こちらの子達がそちらに着いたようねぇ』
「ああ、全員無事に到着した。こちらの部隊は到着したかな」
『ええ、お陰様で。今はバリアが張れるっていう装置を島に設置してくれているわぁ』
外は見えないが、宗谷のクルーザーに積み込んでいた物を降ろしている最中。
小型化された装置であってもそれなりの重さはあるのだが、艤装のサポートを受けたリシュリューが軽々と運んでいるらしく、それを今でも成長が止まらない潮がサポートするカタチで次々と設置を終わらせているとのこと。
それ以外に食糧なども運んでおり、防衛部隊は自分達の分の食糧は自分達で用意するということらしい。そこまでしなくてもいいのにと中間棲姫は言うのだが、鎮守府側からの友好の証として受け取ってほしいと言われてしまえば、否定することは出来ない。
「姉姫様、春雨です」
『春雨ちゃん、良かったわぁ。大事無いみたいねぇ』
「はい、ここまでの航路でも、何事もありませんでした」
提督からの報告のみならず、春雨からの直の連絡があれば尚更いい。顔と声が聞けただけでも、ひとまず堀内鎮守府への出向は上手く行ったということになる。
『そうそう、北上ちゃん達だけじゃなくて、ビスマルクちゃん達もさっき到着したわぁ』
「そうなんですね。2人だけでそちらに向かったと聞いていたので、少し心配ではありました」
『道中で泥を発見したらしいんだけれど、ちゃんと対策を持っていたみたいでねぇ。流石は音声くんだわぁ』
その呼び名には慣れていないようで、この声を聞いていた堀内提督と大将は噴き出しそうになるものの、ギリギリで耐えた。
『ちゃんと侵蝕されていないことも確認済みよぉ。ただ、通ってきた道のりが違うのか、泥が結構な量あったらしくて』
『装置が無ければ私達もあちら側だったわよまったく』
話している間に、画面の向こう側にビスマルクが現れた。隣にはグラーフ・ツェッペリンも。
『施設側ではポツポツ見つかるくらいで聞いていたんだけど、私達が向かってくる航路はそれなりに見えるレベルだったわよ。さっきも言った通り、泥刈機? あれが無かったら私達は逃げきれなかったかもしれないわ』
『それと
施設から確認した泥の量から格段に増えているらしい。それはまるで、
黒幕からしたら、現在最も厄介なのは、辿り着く者としての力によってそもそも侵蝕が効かない春雨。その春雨が今まで窮地を救い続けている。そこにいる状態で泥を大量に発生させるのは、あちら側からしても無謀だと考えていたのだろう。
そして今、春雨は決戦のために島を離れた。しかも、ある程度の主力となり得るメンバーを引き連れて。その瞬間をあちらとしてもずっと待っていたのだろう。ここで島を侵蝕しようと、泥の量を一気に増やしてきたのだ。
とはいえ、端末に対してはこちらも万全に対策を取っている。端末程度ならば、泥刈機の出力をMAXにしてやれば、近付くことも出来ない。侵蝕の不安は限りなくゼロに近かった。それでも、泥刈機は一方向にしか放たないため、いきなり360度を囲まれたらかなり危険ではあるのだが。
「ここからは益々増えてくるかもしれません。施設はバリアが張られるようなので比較的安全になるかもしれませんが、元凶を叩かなければ、元も子もないと思います」
『ええ、それは理解したわ。そして、その元凶に埋め込まれている
その言葉に、そこにいる誰もが驚いた。
「元凶がわかったのかい?」
『ええ、グラーフが哨戒機を飛ばしながらここまで来たんだけれど、そこで一瞬だけ姿を確認したの。そうよね?』
『ああ、だが、私とビスマルクのみでどうにか出来る相手ではないと判断したので、それだけで終わらせている。それに、あまり嬉しい存在では無かったんだ。我々にも因縁がある者の同型だったようでな』
ここで春雨の直感。その泥をばら撒いている者が何者なのかを瞬時に察する。そして、嫌な予感がどうしても溢れ出る。
「まさか、その元凶って……かつて相手取ったという
『流石だハルサメ。あの姿は一瞬であっても忘れることは出来ない。Code Name『欧州棲姫』。我々が始末をしたが、この施設にいるリシュリューとコマンダン・テストを葬った
その名の通り、かつて欧州で暴れていた強力な深海棲艦。その時の個体は、高貴な外見とは裏腹に、かなりラフな戦い方をしていた強敵。戦争に手段なんで選んでいられないという現実主義の侵略者だったという。今回の泥発生の元凶はそれと同型であったとグラーフ・ツェッペリンは語る。
全ての欧州棲姫が同じ戦い方をするとは限らないが、今のそれは泥に侵蝕された個体だ。より狡賢く堅実に勝利をもぎ取ろうとするだろう。だが、問題はそこではない。
『今は名を明かしていないが、リシュリューには内密にしている。彼女の
「はい……私達にもわかりませんが、名前を聞いただけでも暴走しかねません。そうなった場合、何が起きるか……」
『わかっているわ。だから正直、対処に困っているの。勿論対処するわ。確実に。でも、リシュリューには参加してもらいたくないのよね……』
リシュリューの復讐心のトリガーは確実にここ。同型の別人であっても、その顔を見た時点で暴走が確定。もし侵蝕を治療出来たとしても、リシュリューはお構いなくその殺意を隠さず、穏健派であろうが命を奪いに行く。
発作が起きづらい代わりに、起きた時には誰にも止められない。それがリシュリューである。
『それに関しては少し考えておくわぁ。うまく顔を合わせないようにしたいのだけれど、元凶ともなると話は変わってくるのよねぇ。うん、時間は少ないけれど、丸く収まるように考えておくわぁ』
難しい問題ではあるのだが、誰にも嫌な思いをしてもらいたくないという気持ちが強い。そのため、どうにか出来ないかと考えるつもりだそうだ。
「すまん、ちょっと聞きたいんやけど、さっきの欧州なんちゃらってヤツ、どんなヤツなんかな」
ここで準備が進んだのか、山風の頭の上に乗った龍驤がこの通信の中に割り込んできた。何か思うところがあるようで、その話がどうしても聞きたいようである。
『あら、何かあるの?』
「気になることがあんねん。その欧州なんちゃら、もしかして、なんかようわからん乗り物みたいなもんに乗っとるようなヤツか?」
『ええ、そうね。それがどうかした?』
「……それ、
かつて漣が春雨に提供した情報、『姫級も2人くらい確保してる』がここで影響してくる。
確保された姫は前哨戦では参加していなかったが、それは黒幕に提供されていたから。そこで先遣隊へと改良されていたようである。それが今、施設に牙を剥こうとしている。
「すまん……こんなことになるなんて思うてなかった」
「仕方ないですよ。今の問題点はそこじゃありません。確かその時、姫は2人と聞いているんですが、もう1人は」
「似たようなヤツや。なんや仮面みたいなヘルメット着けとってな、マントまで羽織っとった」
『欧州水姫ね。
敵、泥を吐き出す元凶はわかった。施設はその2人の姫をどうにかするために動き出す。
欧州棲姫が出たイベントがリシュリュー初登場イベントであり、欧州棲姫の元となるアークロイヤルはビスマルクと因縁がある艦娘。つまり、そういうこと。