作戦も決まり、防衛のために打って出る施設の仲間達。2つの攻撃部隊と1つの防衛部隊、そして潜水艦隊という4部隊による複合作戦である。
第一部隊は迎撃隊。一度見かけた場所に向かい、まだそこにいるのならそのまま戦闘となる。
旗艦はビスマルク。随伴艦はグラーフ・ツェッペリン、北上、大井、漣、曙、朧。この中でもビスマルクとグラーフ・ツェッペリンは、今回の敵である欧州棲姫と交戦経験があるため、戦いはかなり有利に持っていけるだろう。
第二部隊は遊撃隊。見かけた場所から移動していることを考え、そこから離れた場所を調査しながらの戦いとなる。見かけた時点で戦闘になるため、臨機応変な対応が必要になるだろう。
旗艦は戦艦棲姫。随伴艦は空母棲姫、ジェーナス、薄雲、松、竹。深海棲艦のみの部隊となっているため、攻撃力は最も高いと思われる。対応力も充分すぎるほどあるので、もし敵と対面したとしても、そのまま戦闘で勝ち目があるくらいの力を持っている。
防衛部隊は施設から動かず、その2つの部隊を潜り抜けて施設にまで近付いてきてしまった場合、中間棲姫を守る必要が出てくる。そのために、最初から施設から動くことなく防衛線を敷いている。
旗艦に関しては考えられておらず、島に留まるのはリシュリュー、コマンダン・テスト、潮、瑞鳳、黒潮。そこに姉妹姫が加わる。哨戒機を扱える者が4人もいるため、近海を常に哨戒機で監視することも仕事。
宗谷もこの班に入るが、非戦闘員であるため、基本的には雑務を続ける。戦えずとも艦娘であるため、バリアの調整や移動などは可能。そういったことに尽力する。
潜水艦隊はそのままズバリ潜水艦のみで構成された部隊。海中に何事もないことを調査しつつ、黒幕の手の者の動向を表に出ることなく探ることが目的。
旗艦は伊47。随伴艦はミシェル、潜水艦姉妹。ミシェルは海上艦としても活動出来るが、今回はあくまでも潜水艦として活動する。
「そうだ、先にこれを渡しておくわ」
部隊が決まったところで、ビスマルクが各部隊の代表者にインカムを渡す。山寺鎮守府で作られた小型通信機なのだが、どれだけ離れていても電波が乱れないという特性のモノだという。
泥が含まれた深海棲艦と相対する場合に電波障害が発生するというのは事前に聞いていたため、それをすり抜けるための強固な電波を使った特注品だ。何をどうやっても通信が妨害されないため、今回の戦いにはもってこいの道具。
「水陸両用だから、潜水艦隊にも渡しておく。何かあったらココのボタンを押しながら話せば、全員にその会話は繋がるわ」
「なら、遊撃隊は私が預かる」
「潜水艦隊はヨナが受け持つヨナ、旗艦が持った方がいいと思うから」
第二部隊は戦艦棲姫が、潜水艦隊は伊47がそれを身につける。外に出て行く部隊の旗艦として代表者となる。
「施設の方では、私と妹ちゃんが持っておくわぁ。哨戒機からの情報を逐一伝えられる方がいいものねぇ」
施設組は姉妹姫が2人で持つ。瑞鳳やコマンダン・テストも哨戒機を飛ばすのだが、代表というのならこの2人を置いて他にはいない。
「あ、そうそう、あたし達も渡さなくちゃいけないのあったわ。大井っち、
「宗谷さんのクルーザーに積ませてもらってますよ。すぐに取りに行きましょうか?」
「いや、出撃直前でいいよ。渡して装備してもらうだけだから」
北上が言い出したのは、前哨戦でも使った泥を弾くバリアを身体の周囲にのみ展開出来る例の装備。前回使った分が全て堀内鎮守府にあったため、今回の戦いでも有用に扱えそうだと持ってきていた。
北上達堀内鎮守府からの出向者は最初から装備しているため問題なく、それで余った分は第二部隊に装備してもらおうということだ。持ってきている数は10人分近くになるため、いくら対泥スーツが作れる深海棲艦勢だとしても装備してもらおうということに。
「まぁココまで来たらバリアを突き抜けてくる可能性が無いとは言えないけどね。無いよりマシだし、このバリア装備自体も明石が多少調整加えたらしいからさ。少なくとも、ビス子&グラ子には装備してもらった方がいいでしょ」
「その言い方では我々がコメディアンのようだが……」
「放っておきましょ。でも、その装備はありがたいわ。万が一のことを考えると、身を守れる手段が多い方がいいもの」
呼び名はさておき、この装備に関してはありがたいもの。用意出来る対策には限界があるため、1人分に使う予算が普通では無いバリアの装置を借りられるのは願ったり叶ったりである。
「あとはいい? 何か言えるのは今のうちよ」
「うっす。心残り無いっす」
ビスマルクの最後の確認に、漣が返す。それと同時に、全員が問題ないと返事をした。
潮とは今話しておいてもいいが、無事に戦いを終わらせることが出来ればいくらでも話くらいできる。そういう思いを乗せたアイコンタクトを潮に投げかけ、それを受けた潮は恐怖を呑み込んで力強く頷く。
「それじゃあ、
これで本当に準備万端。防衛戦が始まることとなる。
第一部隊は目的がはっきりしているため、まずは真っ直ぐ欧州棲姫を見たという海域へと向かう。グラーフ・ツェッペリンが哨戒機を飛ばし、さらにそこに飛行場姫の哨戒機がついてくるカタチで、周辺を全て見ていく。飛行場姫の哨戒機は飛ばせる場所に限界があるため、ギリギリまで便乗。
当然ながら、泥を感知出来る眼鏡は併用。現在は漣がそれを装備し、周囲を確認しながらズンズン進んでいく。こうしている時にも泥が忍び寄ってくる可能性は考慮している。
「そろそろ島に設置したバリアの範囲外だよ。ここからが本番って感じかね」
呑気な声色で北上が言う。ここまでは泥が無くても当然。あったとしても、バリアが届いていない海中くらいだが、それも見当たらない。
今は完全に外部にいると考えていい。この方向かもわからないが、反応らしい反応が無いのだから、そう考えるのが妥当。
「近付いてきているなら、そろそろ見えてもいい頃だと思っていたけれど、流石にまだ見つけられないか」
発見した場所はここよりはまだ遠い。しかし、施設に近付いてこようとしているのなら、もうその姿を見かけてもいいのではとは思っていた。
それが無いのだから、発見した場所から動いていない、もしくは全く違う方向に動いているかのどちらか。第二艦隊が向かっている場所にいる可能性はそれなりに高い。
「キタカミ、貴女が第二艦隊の向かう場所を指図したわよね。何か根拠があって?」
欧州棲姫を探す中、素朴な疑問を北上にぶつけるビスマルク。ビスマルクとしては、第二艦隊は自分達とは真逆の方向に向かわせるべきだと考えたのだが、バリア装置を宗谷のクルーザーから引っ張り出している時に、あちらに向かうといいよと助言したのだ。
「んー、今までの傾向? 初めてココに来た奴だけどね」
「
「泥ばら撒いてる奴がいきなり突撃してくることは無いでしょ。少なくとも、これまでに侵蝕されてる奴らを殺すことなく解放してるような輩に対して、真正面から突っ込んでくるのはまずしない。その
今までの状況から、敵の考えそうなことを組み立てていく北上。もし自分が
「もし今までのことを反省して、なるべく近寄らないで誘き出そうと考えてるなら、今頃はここから少し行ったところ。多分ビス子達にも気付いてて、ここぞとばかりに引っ張り出そうと動き回ってるんじゃないかな。こちらが気付いていて、あちらが気付いていない状況なんて滅多に無いでしょ」
「確かに」
「今のところの泥のばら撒き方からして、かなり動いてるって思い込ませようとしてるから、バラバラに探しに来るくらい考えてさ」
これまでに見つかった泥のばら撒き方からして、明らかに施設の戦力を分散させようと画策している跡を感じ取ったという。
施設の
「で、移動するならビス子達を発見した場所から、島から回って4分の1行ったところじゃないかな。一気に真反対まで行けるだけの速力があったとしても、そうしてくると見せかけて真ん中突っ切る。そもそも、ビス子もこっちの部隊と真逆に行かせようとしたでしょ」
「そうね。均等に割り振って、成功率を上げようとしたわ」
「それも読まれてること考えたわけよあたしゃ。読んでるのか直感的に気付いたのかはわからないけどね」
それもさらに裏を読んであえて動かないという選択も考えたが、
「じゃあ、なんで私達も一緒に行くってことをしなかったのかしら」
「纏めて行ったらバレるかもしれないでしょ。まずは施設のみんなを嗾けて、連絡が来たらあたし達も向かう。この方があちらの警戒の仕方を変えるよ。それに、一気に向かったら強引に突き抜けようとするかもしれないよ。今回の敵、施設に近付けたくないんでしょ?」
何かを見通すような言葉。
「もしかしてさ、今度の敵、リシュコマの天敵だったりする?」
「……ええ、よくわかったわね。勘繰られないように自然に割り振ったつもりだけど」
「だよねぇ。わかりやすかったのは
北上のこの洞察力に、ビスマルクは息を呑む。絶対に敵に回してはいけない相手だと嫌でも理解する。同時に、確実に侵蝕されたらアウトな存在であることも。
自分でも監査役を仰せつかってからは、ヒトを見る目を養ってきたつもりだったが、北上には敵わないと一瞬で感じた。これはもう、天性の才能だ。
「とにかく、まずはこっちに本当にいないかを確認だね。泥の置き逃げをしてるかもしれないのはあるんだから」
「え、ええ、そうね。……本当に侮れないわね」
「褒め言葉だねぇそれは」
第一部隊はひとまずやるべきことをやる。こちらにいない確率の方が高いが、もしいた場合は困るので。
その裏側、第二部隊。戦艦棲姫を先頭に、北上にアドバイスされた海域を駆け抜けていると、哨戒機を飛ばしていた空母棲姫がピクリと反応を見せる。
「知らない、艦載機、見つけた」
「本当にこっち側にいたのね。北上の言った通りになるのかしら」
一気に臨戦態勢に入る。ジェーナスは流石に軽装で艤装を展開。重装は今は邪魔になるだろう。
連絡はその姿をその目に捉えてから。艦載機だけ発見しても、それを何処から飛ばしているのかはまだわからない。それに、あちらも同じように移動しながらこちらを見ているだろうから、確実に戦いが始まってから増援を募る。
「泥の反応、感知しました。まだかなり遠いですけど、このまま真っ直ぐです」
泥感知の眼鏡を使う薄雲がその姿──泥の存在を捉える。目視確認が出来ているわけではなくとも、手が届く範囲にまで接近することが出来た。
「真っ直ぐって……北上の予測精度、ここまでなの……?」
仲間達が感嘆の息を漏らす。あっちに向かってと言われた方向が、見えない敵にドンピシャというのは、流石に驚きを隠せない。
そして、本当にその姿をその目に捉えることになる。
水平線の向こうにいたのは、2人の姫。
片方は水上バイクのようなものに乗った姫君という風格。手に持つ大剣のような
コードネーム『欧州棲姫』と、コードネーム『欧州水姫』。まさに予想通りの存在がそこにいた。