戦艦棲姫と空母棲姫でどうにか食い止めている欧州棲姫と、駆逐艦4人では簡単には止まらない欧州水姫。この2人の姫に対して、6人がかりでも苦戦を強いられる施設の遊撃隊。
空母棲姫の奮闘で空爆が無効化出来ているため、この戦況を維持出来ているのだが、この拮抗が崩された場合、一気に劣勢になるのは目に見えていた。
「……強い。なんだ、あの力、は」
全ての艦載機を自らの力でコントロールしながら、欧州棲姫の隙を探している空母棲姫だが、数はあちらの方が少ないのにもかかわらず、あまりにも的確に迎撃をしてくる上に、さらに出し抜こうと攻撃すらしてくる。
空母棲姫がやられてしまえば、あとはもうこの勢いの空爆が戦場全域にばら撒かれ、そのまま劣勢どころでは無くなる。
その力を発揮している欧州棲姫は、空襲に専念しているわけではなく、戦艦棲姫と対等にやり合っている
「あれに、負けるわけには、いかない」
艦載機しか手段がなく、だからこそ全身全霊をかけている自分が、本業ではなく片手間に制空権を拮抗させるような輩に拮抗状態を維持されているのが気に入らない。空母には空母なりにプライドがある。
「戦艦。少し、荒っぽく、いく」
「いいわよ、ここに私だけしかいないなら、好きにやればいいわ!」
その戦艦棲姫は、泥刈機の出力を少しだけ上げて、さらに波長を照射し続けていた。見えない攻撃ならば掠めることは出来たのだから、今はこれを連打するに限る。
実際、これさえ使っていれば欧州棲姫は逃げ一辺倒になる。あの見えない攻撃に触れたが最後、体内に蔓延る泥が一部は消え去るのだ。すぐに増殖して元通りになるとはいえ、直撃してしまえば全てがあっという間に消滅する。
それだけは避けなければならないと直感的に察したのだろう。強力な力を持つ欧州棲姫といえど、回避以外の選択がない波長による攻撃にはどうにもならない。見えないため、距離をどうすればいいのかもわかっていない様子。
「この、状況を、覆す」
今は抑え込むことで手一杯だった。それは、自分の行動が仲間達に害を与えないようにするために多少抑えていたからだ。荒っぽく、周囲のことを考えずに動けば、多少は変えられるはずと、空母棲姫は艦載機の動きを少し変化させる。
丁寧に確実に破壊するのではない。もっと大規模に、荒々しく、仲間のことを考えず、ただ壊すことに専念する。それだけで攻撃力はグンと上がるのだが、代わりに防御力は下がるため、油断は出来ない。攻撃は最大の防御とは言うものの、破壊した敵艦載機の破片などまでは見ていられない。
「全て、壊す!」
慎重さを無くし、ただ破壊するだけの行動となった瞬間、空母棲姫の艦載機の動きは今までとは違う速さを発揮する。深海棲艦特有の生物的な艦載機が、一切の容赦なく欧州棲姫の艦載機を駆逐していった。
破壊した時の破片が空から降ってくるような状況になるが、余程大きいモノでない限りは対処しない。全てを機能停止に追い込むことに尽力する。
「そう、ならこちらも」
対する欧州棲姫は、戦艦棲姫からの見えない攻撃、波長を回避しながらも、艦載機側に手を加え始めた。
その瞳に紫色の炎が灯った瞬間、破壊された艦載機がどろりと溶け、混沌の色を持つ泥に変化、それがさらに凝固して艦載機へとさらに変化することで、破壊された艦載機が数を増やして再構成されてしまった。
丁寧に破壊していたから起きなかったこと。荒々しく破壊して欧州棲姫に届かせようとした結果、逆に敵の猛攻を強めることになってしまった。
「……っ」
「残念だったわね。貴女の攻撃は届かない。いや、届かせてもいいけれど、その時には貴女は死んでるでしょう」
自分のせいで拮抗が不利になりつつある。空母棲姫はギリッと歯軋りしながらも、もう一度丁寧に破壊する方針へと切り替えた。
破片を残すとそこから増殖する。ただ泥が増えるだけではなく、
「貴女もそろそろ、それをやめてくれるかしら」
「そうは行かないことくらいわかっているでしょう」
こうしながらも、戦艦棲姫による波長の攻撃を避け続けている。その合間にも砲撃を放っているのだが、明らかに余裕を見せていた。遊んでいるわけではなくとも、こちらを値踏みしているような視線にも思える。
対する戦艦棲姫も焦りはなく、自分の調子は崩さずに攻撃の手を緩めることもしない。本体と艤装で砲撃と波長を重ね合わせているのだが、それでも全てを回避され続けている。
戦艦棲姫も、今はこの波長を空に向けて放ちたかった。艦載機が完全に泥によって作られていることがわかったのだから、手っ取り早いのは波長による全機撃墜。
しかし、そちらに気を向けるということは、真正面の欧州棲姫に無防備な状態を見せるということ。ただでさえ本体と艤装の同時攻撃すら回避し続けているのに、その片方──泥刈機持つのは艤装側──が欧州棲姫から照準を外してしまうと、おそらく現状維持が不可能になる。
回避しながら攻撃することであちら側の攻撃の頻度を減らせているとしたら、艤装側が抜けた時点でそのまま押し込まれるだろう。当然、本体の方が防御力は低いため、掠っても致命傷。さらには、あちらの攻撃にはまず間違いなく泥が含まれているため、バリアがあるにしても直接傷口に注がれた場合は、何が起きるかわかったものではない。
「ジリ貧なのはわかっているでしょう。それでも立ち向かってくるなんて、本当に愚かなのね。それとも、まだ勝ちの目があるということかしら。例えば、援軍を待っているとか」
「そうよ。貴女もわかっているんでしょう。こちらには、貴女達とは比べ物にならないくらい仲間がいる。信頼出来る仲間達がね」
「そうね。ある程度は調べさせてもらっているわ。近付くことは出来なかったけれど、何人も島の周囲を警戒していたものね」
哨戒部隊を確認し、こちらの戦力を調査していたということに他ならない。
ということは、早朝から複数人の仲間達──春雨達が出ていくのも見ている。さらには、その後にやってきた増援のことも見ている。少なくとも、欧州棲姫の存在を確認しているビスマルクに関しては、確実に施設側の戦力としてカウントしているだろう。
「何度も何度もよくわからない
これはおそらく『観測者』への物言い。ここ数日はずっと泥を駆除し続けていたため、欧州棲姫からしてみればずっと邪魔され続けたということになる。
本当ならば、施設に向けて泥を流し込み、何かをするまでもなく島の者達を侵蝕するつもりだったようだ。中間棲姫さえ侵蝕してしまえば終わりだが、それだけでは足りず、減らされた戦力を補わせるためにも全員を手に入れるくらいの気持ちで垂れ流していた。
結果的にそれは『観測者』一行と哨戒部隊による駆除のおかげでうまく行かず、今に至る。
「まぁ、その仲間が来る前に貴女くらいは始末しておいてもいいわね。それとも、さっきも言ったけれど私達の仲間になるというのもいいんじゃないかしら。
「寝言は寝てから言ってもらえる? その忌々しい泥に呑まれるなんて真っ平ごめんよ」
「あらそう。……もしかして、一度
クスリと笑みを浮かべつつ、再び瞳に紫色の炎を灯らせる。その瞬間、砲撃の威力と連射速度が格段に上がり、回避が一気に難しくなった。攻撃しながらでは追いつかない。波長を飛ばすこともままならなくなりつつある。
今までの侵蝕されている者とは格段に力が違う。底上げの度合いが半端ではない。通常の欧州棲姫がどれほどのものかはわからないが、あまりにも強すぎた。
侵蝕がより奥深くまで辿り着いているように思えた。心を埋め尽くすだけでは足りず、細胞という細胞を駆け巡り、常に新たな泥を生成し続けて身体を循環しているような。
「貴女は知っているのよね。あの快楽を、あの昂揚を。そして一度はそれに屈して、受け入れて、その
戦艦棲姫には煽っているようにしか聞こえないが、当人は別に煽っているのではなく、自分も受けたその堪らない感覚を反芻するように事実を述べているだけ。話しているうちに欧州棲姫も当時のことを思い出したのか、少しだけ表情を変える。
「でも、私の得た
相対したことで嫌というほどわかる。あまりにも強い。ただの姫とは一線を画している。艦載機を泥化した後に再構築して増殖させるだなんて、普通では無い。
それでいて、砲撃の方は下手をしたらまだ手を抜いている。こちらの実力を測り、必要ならばより強い力を発揮すればいいと。そして戦艦棲姫と空母棲姫の2人を相手取るなら、今の段階、
勿論これは慢心からでは無い。最初からMAXの力を出すと、その分対策を追いつかせてくるのが厄介だからだ。故に、フルパワーは基本的にはすぐには出さない。それだけ、敵を警戒している証拠。
「決めたわ。知っているのなら、貴女はもう一度こちらに来なさい。
「……どういうことよ」
「私と貴女達の違いはそこ」
ふふふと不敵な笑みを浮かべて、とんでもないことを口走る。
「私は、
欧州棲姫も欧州水姫も、元は龍驤によって侵蝕されている。そして、あの戦場には必要ないと、黒幕の元へと送られていた。
そこで一度
そのため、侵蝕の
その結果が、この劇的な強化。細胞全てに泥が染み込み、波長で消し飛ばしてもすぐに補完される。何故なら、欧州棲姫自身が心の底からそれを望んでいるから。
つまり、洗脳ではない。何も無くてもあちら側の存在ということ。侵略者気質など関係ない。今まで敵対させられていた者達とは雲泥の差だった。最初から受け入れることを選んでいた者には、それ相応の力を与えていたわけだ。
特に
「……そういうこと。なら尚更気に入らないわね」
そこまで聞いても、戦艦棲姫は欧州棲姫に靡くことはない。
「私は旅人、何者にも屈しない。自分の道は自分で切り拓いてきたんだもの。何処かに腰を落ち着けるつもりなんてないの。それに私、信心深くないのよね。誰かの下につくのもゴメンだわ」
鼻で笑う戦艦棲姫に、欧州棲姫は心底残念そうな表情を見せた。
「そう、残念ね。貴女ならあのお方の素晴らしさを知ることが出来たでしょうに。それなら、ここで始末させてもらうわ」
「最初からそうしなさい。こちらも決めたから」
「決めた。何を?」
睨み付けるように欧州棲姫を見据える。そして、その思いをぶつけた。
「貴女は救えない。だから、ここで確実に始末する。姉姫には申し訳ないけど、ここで命を散らせてあげるわ」