空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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依存の力

 敵対する欧州棲姫は、自ら黒幕に屈し、力を与えられた存在だった。そのせいか、今までの侵蝕されていた者達とは比べ物にならない程の力を発揮してきた。

 

 そしてそれは、欧州棲姫だけではない。駆逐艦4人がかりで戦う欧州水姫も例外では無かった。今までの相手であれば、深海棲艦化している4人の駆逐艦であれば戦艦相手でも互角かそれ以上に持っていけただろう。最悪でも多少劣勢になるが圧倒されることはない。

 しかし今、4人は完全に圧倒されていた。雷撃が得意な竹、それをサポートするように砲撃を放つ松、強固な防御力を持つジェーナス、鎖によるトリッキーな攻撃を繰り出す薄雲と、四者四様の行動で翻弄するのだが、欧州水姫はそれを全くモノともせずに全て力業で解決してきた。

 

「め、滅茶苦茶だコイツ! 何やっても止まらねぇ!」

「全部弾き飛ばされちゃう……っ」

 

 何と放っても、魚雷は右腕の主砲で、砲撃は左腕()()()()で、全て弾かれていた。

 

「私の力じゃ、縛り付けることは出来ないよ……っ」

「Defenceもままならないわ!? 軽装にもなれない!」

 

 薄雲が進撃を食い止めるために鎖で縛り付けようとしても、拘束自体が出来ずにそのまま動かれ、その猛進に立ちはだかったジェーナスも殴られるだけで酷い衝撃を受けると同時に、その場に立っていられないくらいの衝撃を受けた。

 あまりにも攻撃力が高すぎる。ここまで出来るのは飛行場姫か潮くらいしか思い浮かばない。いや、下手をしたらそれ以上にすら感じる。

 

「『祝福』を受けたこの私が、貴様ら如きで止まるわけが無いのだ! さぁさぁ、誰から死にたいのだ! 好きにかかってくるがいい!」

 

 力強く叫ぶと、最も手近であるという理由だけで、鎖を巻き付けていた薄雲に背中の主砲を向ける。今まで使っていなかったが、見ただけで砲撃の威力も普通では無いのがわかる。至近距離で放たれた場合、直撃せずともその衝撃でダメージを受けるだろう。そして、放つ本人はノーダメージ。

 触れられる程に近付いているわけではないため、バックステップすれば回避は出来るだろう。しかし、欧州水姫もただ撃つだけではない。止められないくらいの力を存分に発揮し、それこそ確殺と言わんばかりに薄雲に接近。

 

「っ!?」

「この私が動かないとでも思ったか? かかってこいといったが、かかってこないならば私から動くに決まっているだろう。なぁ!」

 

 そして、爆音と共に砲撃が放たれた。直撃だけは避けねばならないと、強引に射線から飛び退いたものの、やはり衝撃のせいで姿勢を崩され、吹き飛ばされた。

 状況が悪かったら、その爆音で鼓膜がやられていたかもしれないが、薄雲は何とかその辺りは耐えた。

 

 しかし、欧州水姫の手段は主砲だけではない。砲撃すら弾き飛ばす左腕を瞬時に伸ばしてきた。おそらく掴まれたらアウト。首ならば死が確定。そうでなくても、その場所が使い物にならなくなるのも確定。

 薄雲は生きるために、どうすればその状況が覆せるかを瞬時に考える。自分に出来ることは正直少ない。無傷でどうにかすることはまず出来ない。ならば、()()()()()()()()()

 

「っ……!」

 

 思い立ったのが、やはり一番使い慣れている鎖の活用法。姿勢が崩れていても、これならば左腕を首ではないところへと移動させられる。

 春雨や海風、そして叢雲もよくやっている、攻撃をいなす方法。盾や柄がある武器防具ならばもっと簡単だったろうが、今すぐに展開出来るのがこれしかないのだから、これでやっていくしかない。

 

 鎖を二重にして、突き出される拳の前に盾のように構えた。これならば腕力でどうにかしようとされても、少したわませることで衝撃を吸収しつつ、強く伸ばすことで弾き飛ばす。さらには、攻撃を滑らせることで方向を変え、致命的な攻撃から身を守ることが出来る。

 これによって鎖を握る手がやられる可能性はかなり高いが、命が残るならマシ。

 

「む、その程度で止められると、思って」

「いないので、致命傷だけは避けますっ」

 

 欧州水姫もその鎖の持ち方を見たことで何をしたいのか察した。そして、突き出す腕をほんの少しだけ上へ。鎖に止められることなく、狙っていた首よりも少し上──頭に狙いを変えた。

 掴んでしまえばそのまま握り潰せる。駆逐艦の頭など、今の欧州水姫にとってはリンゴを握り潰すようなもの。容易いものである。

 

 薄雲は欧州水姫が頭を狙ってくることも読んではいた。そのため、強引に腕を上げ、鎖によってその手を払い除けつつも体勢をしゃがむように下へ。

 

 掴もうとしていたモノが眼前から消えたものの、欧州水姫はそこはまだ冷静だった。掴み殺さないならば、致命傷にならずともダメージは与えようと、右腕の主砲を即座に構える。

 

「やらせない!」

「薄雲から離れなぁ!」

 

 だが、ここまで来れば松竹姉妹も黙っちゃいない。再び、砲撃と雷撃を同時に放つことで、無理矢理ガードの姿勢に持って行かせる。

 

「小賢しいな。だが、甘いぞ!」

 

 何を思ったのか、欧州水姫は左手で鎖を掴むと、かなり強引に振り回した。咄嗟なことだったため、薄雲は鎖を消すことも出来ず、身体を持ち上げられてしまい、松竹姉妹の方へと投げ飛ばされてしまう。そしてそこには、既に放たれた松の砲撃。

 欧州水姫は薄雲を無理矢理盾にしたということになる。攻防一体となってしまった一撃。松の砲撃は深海棲艦化により駆逐艦の火力では無くなっている。薄雲も強化されているが、砲撃をまともに喰らっては、致命傷にならずとも大ダメージは必至。

 

「ウスグモ! Clench teeth(歯を食いしばって)!」

 

 そこで横から飛び出してきたのはジェーナスだ。いつもとは違う、猛烈なスピードで薄雲に突っ込んだかと思えば、松の砲撃が直撃する直前で抱き締め、その瞬間に重装を展開。かなり強引に薄雲を守りつつ、そのまま真っ直ぐ通過。

 そのスピードのおかげで、砲撃の射線上からは辛うじて回避出来た。さらには当初の狙い通り放たれた砲撃は欧州水姫の方へと向かっていく。

 

「ふっ、避けたか。よくやったと褒めてやる、が!」

 

 先程と同じように魚雷は右腕、砲撃は左腕で対処。一切ダメージを与えられることはなく、むしろ勢いは増す一方。

 

「ウスグモ、Are you okay?」

「だ、大丈夫、ありがとう。でも、どうやって……」

「ハルサメのやり方を真似たの。Off the cuff(ぶっつけ本番)だったけど、上手くいって良かった!」

 

 春雨のやり方──瞬間的に脚を生やす、今は脚を伸ばすことで、驚異的なスピードを出す技。それの応用として、ジェーナスは重装を瞬間的に展開することでそれを再現した。春雨の脚とは違って、海面に接する面積が大きい分、そのスピードがさらに上。その代わり、逆に面積が広いせいで真っ直ぐ跳べるかと言われればバランスが非常に悪い。ジェーナス自身が全神経を集中して繰り出したことで、今回は何とか上手くいったというところ。

 

 しかし、現状攻撃が通らないのは変わらない。あちらは今までの敵と違ってスタミナ切れを狙うことも難しい。戦えば戦えほど昂揚し、力を増しているのではないかとすら思える。

 

「んなら、コイツはどうだ!」

 

 一切止まらない欧州水姫を止めるため、竹は魚雷を発射するのではなく自らの手の上に展開。並の大きさではなく、両手で抱えるほどのサイズ。

 そこまでのサイズとなれば、殺傷力も通常の魚雷の数倍。たとえ主砲で撃ち抜かれたとしても、そこからの爆発が確実に欧州水姫を呑み込む。

 

「ちょっと竹、姉姫さんは救いたいって」

「んなこと言ってられねぇだろ! あっちは殺す気で、それが余裕で出来るだけの力があんだよ! そんなヤツを、殺す気無しでどうにか出来ると思うか!?」

「……それは、そうだけど」

「オレは、あんな奴の命なんて何とも思わねぇ。このままにしてたら、松姉ぇが殺されるからな。オレにはそっちの方が耐えられねぇ。松姉ぇはどうだよ」

 

 竹に言われたことで、目の前で竹を失ったらと考えてしまう。あれだけの攻撃を受けてもピンピンしており、全く止まることなく真正面から突撃してくる欧州水姫は、少しでも気を抜いたら確実に持っていかれるだけの力を持っている。想像が現実になる可能性は、極めて高い。

 その瞬間、松の瞳がドロリと濁った。竹を失うかもしれないという気持ちが小さく発作を起こし、それを引き起こす要因であろう欧州水姫に対しての殺意が一気に膨れ上がる。中間棲姫には生かして救いたいと言われているが、竹を殺すつもりならば容赦することは出来ない、

 

 これにより、簡単にリミッターが外れた。

 

「嫌よ、絶対に。なら、()()は始末しなくちゃ」

「だろ。だから姉姫さんにゃ悪いが、ここまでやらねぇとどうにもならねぇ」

「うん、いいよ、やる。竹が死ぬくらいなら、そんなお願いは知ったことじゃない」

 

 常にやる気満々な竹は、松を失うと考えた時には怒りが溢れる程度。しかし、いつもは冷静な松は、竹を失うと考えた時には簡単にキレる。互いに依存相手を失いたくないという思いから、眼前の要因は一片残らず消すという判断に向かう。自分の姉妹以外の命は、簡単に軽いモノへと変わる。

 

 幸いなことに、欧州水姫も欧州棲姫と同様、侵蝕が無くても黒幕に屈している存在だ。治療したところで敵対は変わらない。それ故に、始末しなければ止まらない可能性はある。

 

「いいぞ、その目だ、この私を止めるのなら、それくらいになってもらわなば困る、なぁ!」

 

 松竹姉妹の殺意を感じ取ったか、すぐさま背部の戦艦主砲を向けて、間髪容れずに放った。爆音と共に放たれたそれは、真っ直ぐ姉妹に向けて飛んでいく。

 

「竹」

「わかってらぁ!」

 

 互いの艤装をぶつけ合うようにすることで、その衝撃で砲撃を左右に分かれて回避。風圧だけでも相当なモノではあるのだが、それだけで体勢が崩れることは無かった。自分の脚ではなく、艤装を使って航行しているためか、良すぎるくらいの精度のバランサーが、ふらつきすらも無くしている。

 

「貴女には死んでもらわなくちゃいけない。竹の脅威は排除しなくちゃ」

「松姉ぇの命を狙うってことは、死んで詫びなくちゃいけねぇよなぁ!」

 

 そこから急発進。突撃の構え。松は艤装をバイクのようにしてしっかりと跨り、先端に設置された主砲を欧州水姫に向ける。竹は逆に艤装にサーフィンのように立ち上がって乗り、構えた巨大な魚雷を近接武器のように扱いながら、通常の雷撃も併せて突っ込む。

 

「ほう、そうか、貴様らは姉妹か。ならば、片方がやられればもう片方もやられる、な!」

 

 共依存なことは見ていれば確実にわかること。相方がいなくなることで、もう片方も無力化出来ることは一目瞭然。

 そこで欧州水姫は、どちらの方が致命的になるかをその場で割り出した。力量はその戦闘経験から、性格などはその表情から。

 

 そして、

 

「貴様を先に始末してやろう」

 

 狙いを定めたのは、竹。巨大な魚雷は厄介であるということと、竹が松を鼓舞している節が見えたところから。おそらく、竹が目の前で死んだ場合、松は確実に再起不能になる。逆ならば激情して相討ち狙いもあり得るため、より安全である方を選択。

 

「はっ、やれるものなら」

「やってやるのだ。この私が、なっ」

 

 突如、背部の戦艦主砲が完全に後ろ側に回った。そして、全てを同時に放つ。すると、欧州水姫の身体が浮かび上がるようにすら見える程の衝撃が発生し、自らの脚で進む以上のスピードで竹に突撃した。

 正気かと思った時には、竹はその巨大な魚雷を投げつけていた。相手の勢いも活かして直撃を狙う。当然、当たればそのまま爆発。自分もそれに巻き込まれる可能性はあるが、中心部にいるわけではないため致命傷にはならない。欧州水姫だけは粉微塵になるはず。

 

「甘い、甘すぎる!」

 

 だが、欧州水姫は突撃しながらも身体を回転させ、羽織っているマントを凄まじい勢いで回転させる。それは投げられた魚雷を絡め取り、破壊することもなくいなしてしまった。

 そんな無茶苦茶な動きに、竹は思わず驚きで一瞬動きを止めてしまった。そのほんの少しの隙が命取りになると理解していても、すぐに身体が動かせなかった。それは、()()()()が引き起こしたモノ。

 

「っあぁあああああっ!」

 

 竹には死よりも怖いものがある。松を失うことだ。それだけは絶対に許せない。

 故に、死の恐怖なんて簡単に蹴散らし、むしろ怒りを奮い立たせ、回避された魚雷を消して手元に再展開。魚雷としてではなく鈍器として殴りかかる。

 

「っはっ、いいぞ!」

 

 振りかぶった魚雷は、左腕で軽々キャッチ。そして、右腕が竹に向けられる。

 

「貴様を認めよう。だが、届かない」

「竹──っ!」

 

 撃たれたら竹は終わる。そんなことをさせるわけにはいかない。その瞬間、松は艤装を蹴り欧州水姫に飛び掛かっていた。

 咄嗟の判断だったとはいえ、突飛な行動。そして、欧州水姫すらも反応するくらいの特大な()()に、撃つ手がほんの少しだけ止まる。

 

「竹は、やらせない!」

「止められるものか!」

「オレがこんな簡単にやられるかよ!」

 

 

 

 

 三者三様の叫びの後、爆音が響いた。

 

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