「竹は、やらせない!」
「止められるものか!」
「オレがこんな簡単にやられるかよ!」
三者三様の叫びの後、爆音が響いた。欧州水姫の砲撃音、竹の振りかぶった魚雷の破砕音、咄嗟に飛び出した松の衝突音、全てが混じり合ったような爆発音。
「竹、だ、大丈夫……!?」
「おう……辛うじて、な」
一番大きかったのは、やはり竹の持つ魚雷だった。その大きさとは裏腹に、爆発そのものは通常の魚雷よりも小さかった。流石に近接戦闘に使うために展開した武装であるから、自分への被害を鑑みて控えめにしていたのが功を奏した。間近で爆発しても、腕が噴き飛ぶとかそういうことは無かった。勿論それは竹が咄嗟に耐爆のための防火服を展開していたから。それでも、被害は当然出ている。
魚雷と松と突撃によって致命傷になることは無かったものの、防火服すらいとも簡単に貫く欧州水姫の砲撃が左腕を掠めてしまったことで、二の腕に肉が抉れるようなダメージが入っていた。さらに自分の魚雷の爆発で、半身に火傷。服もボロボロになっている。咄嗟に作ったためか、自分の身をギリギリ守る程度で仕事を終えてしまったようだ。一瞬気を失いかけたが、敵の眼前で気絶するようなことは無い。
松も咄嗟に飛び込んでしまったため、欧州水姫の砲撃の衝撃をまともに喰らってしまった。小型の主砲といえど、殆ど接触しているようなもの。竹への直撃を止めることが出来たとはいえ、それによって肋骨にヒビが入ったような痛み。それだけでは終わらず、内臓にダメージが入ったのか、口の中に鉄の味を感じた。
そして、欧州水姫。2人がかりでここまでやったにもかかわらず、左腕に破損が見える程度。爆発する魚雷に触れていたのに、砕けることもなく、一部ヒビが入っていたり、鉄鋼の奥の素肌が見えていたりするのみ。あとは、翻していたマントが焦げついていた程度。
あまりにも強すぎた。黒幕に屈し、侵蝕されていなくとも本心から泥を受け入れ、最大限の力を取り込んでいることによるスペックアップが異常。攻撃面も防御面も強いとなると、攻略法がどうにも掴めない。
「ふむ、その度胸は大したものだ。愛する者を守るために身を挺するその姿勢は、見事と言えるだろう。だが、それでこの私に届くと思ったら大間違いだ」
ダメージが大きい竹に向かって、軽く左手で突き放すように押す。ダメージがあるせいで、ただそれだけでも身体がフラつく。そもそもの力が強いというのもあるが、殴るわけではなくただ押すだけで済まされたことに憤りを感じる。
「手前ぇ……っ」
「動かない身体で、その目によく焼き付けるがいい。貴様の愛する者が死ぬところを」
そしてすぐさま右腕を松に向けた。次の瞬間には
蹴り出した艤装を消したかと思えば、自分の真下に再展開。砲撃が放たれそうになったと同時にもう一度蹴り出し、射線からかなり強引に外れた。
その時に動くことが難しい竹を救うように抱き締め、さらにそこから離れるために艤装を展開しようとした。2人分の艤装がその場に出来上がってしまうため、上手く動かせるかどうかわからないが、少なくともあの砲撃から身を守るためには必要。
「甘い」
しかし、艤装を展開した瞬間に脚に砲撃を掠めてしまう。小型の主砲と侮るわけでは無いのだが、掠めるだけでも肉を削ぐのは竹の時と同じ。よりによって脹脛の辺りをやられたため、自らの脚で立つことが困難になってしまった。
艤装に乗ることで航行するタイプであるため、まだ回避が出来ないわけでは無い。しかし、痛みによってそこから動くことが難しくなってしまった。
「っあっ!?」
「松姉ぇ……っ」
「逃げるな子ウサギ」
2人の艤装の上で悶える松竹姉妹に、欧州水姫が纏めて始末してやると言わんばかりに戦艦主砲を向ける。
欧州水姫の中では既に
「いい加減に、してください!」
「おぐっ!?」
これには蚊帳の外になりかけた薄雲も明確に気に入らなそうな声色。止めるために鎖を投げ、その首に巻きつけ、思い切り引っ張る。普通ならばそれだけでも死に至るはず。おかしな悲鳴も出たため、鎖は気管支を押し潰しているはず。
今のまま撃たれたら間違いなく松も竹も死んでいた。竹はそれに気付いており、小型ではあるが魚雷を投擲していたくらいだ。傷を負った身で咄嗟に投げたからか、それは結局うまく当てられなかったが。
しかし、欧州水姫は見事に首が絞まっているにもかかわらず、まるで堪えていない様子。急に絞められたために変な声が出たようだが、それで終わり。その鎖を握り締めると、薄雲の方に視線を向ける。
「今だけは力が強かったようだが、まだまだ甘いようだな」
縛り付けられたことをいいことに、強引にそれを引っ張る。しかし、今回は薄雲もそうされることを見越して、すぐさま鎖を消した。ただ虚空を引っ張ることとなり、欧州水姫は少しだけ体勢を崩す。
その瞬間を見逃さない。次はジェーナスが猛スピードで突撃。一度やったことなのだから、次も成功させると、重装を瞬間的に展開して急激にトップスピードに持っていき、さらにもう一度展開することで自ら巨大な鉄球と化した。
「ふっ、甘い、甘すぎる。所詮は駆逐艦か」
質量のある体当たりを、その左腕で受け止めてしまった。その時にまた手甲にピシリとヒビが入るが、あれだけの勢いを片手で止めて尚ダメージらしいダメージを受けていない。
「なっ」
「軽いな。重ければ貴様も動けないのだろう。しかし、硬い。私の砲撃では傷を付けることも困難だ。ならば、
力強く掴んだと思ったら、中にジェーナスが入っているにもかかわらず、そのまま片手で持ち上げ始めた。
そんなことをされるのは初めてであるため、ジェーナスもパニックになりかける。重装の艤装を消すという選択が頭に出てこないくらいに。とはいえ、今ここで消したら生身が掴まれて破壊されているだろうから、選択としてはそこまで間違いではない。
「えっ、ちょ、何よそれ!?」
「軽いと言ったろう。この私には、貴様らなどこの程度だということだ!」
そして、一気に海面に叩きつける。当然、中に入っているジェーナスは重装の内側に叩きつけられることとなる。
「Ouch!?」
「何度か振れば、中でミンチになるだろうな。耐えてみせろ」
持ち上げて、二度目の叩きつけ。自分の艤装なのに、その強固さがダメージの一因となっているのだが、艤装を消すわけにはいかない。故に、ジェーナスはこのダメージに耐えるしか無い。
深海棲艦化したおかげで艦娘よりは身体は頑丈だ。ある程度は保つ。しかし、何度も何度も繰り返されれば、欧州水姫が言うように、こねくり回されてミンチになってしまう。ただでさえ2回目で強めに打ち付けることになり、腕がミシリと悲鳴を上げる。
「今のうちに攻撃してぇ!」
ジェーナスの悲痛な叫び。今ここで十全に動けるのは薄雲だけだ。
「ジェーナスちゃんを! 離してぇ!」
再び鎖を投げる。だが、今回は先端の主砲に重きを置いた戦術へ。分銅のように振り回された主砲は、真っ直ぐ欧州水姫へと向かう。小さくとも直撃すれば骨などを簡単に砕くくらいの質量兵器。遠心力も乗って、そもそも深海棲艦化により高まっている腕力を数倍に引き上げた。
「甘い、な。今の私には
その攻撃に対し、さも当然のようにジェーナスを盾にして、薄雲からの攻撃を防ごうとする。
「させない!」
だが、それは薄雲は織り込み済み。ジェーナスに直撃するかと思いきや、鎖が一気に伸びてジェーナスを軸に迂回するように回り込む。そして、軽く手首をスナップさせた瞬間、先端の主砲が欧州水姫に狙いを定めていた。
鎖で繋がれている先まで薄雲のコントロール下に置かれているのが、この艤装の特徴。手から離れていても遠隔操作で砲撃が可能だ。欧州水姫の背後には戦艦主砲と基部があるものの、撃てばそれなりの効果がある。
「むっ、それはいけない、な!」
流石にまずいと感じたか、ジェーナスを離して振り向き、放たれた砲撃は左腕で弾き飛ばす。さらには同時にジェーナスを主砲で打ち払い、器用にも負傷した松竹姉妹の方へと飛ばしてしまった。
今のジェーナスが直撃したら、松も竹もただでは済まない。ならば生身でぶつかり合った方がダメージは小さいはずだ。
しかし、欧州水姫はそれすらも許さない。真後ろに向けて戦艦主砲による砲撃を放ったのだ。打ち払ったジェーナスに直撃するように。
重装のジェーナスならば、この砲撃の直撃を受けたとしても装甲が破壊されることは無いだろう。それほどまでに頑丈であり、ジェーナスの防御力を約束している絶対的な盾。
だが、その衝撃を受けることで押されるカタチとなり、重装のまま松竹姉妹を押し潰すことになる。ただでさえダメージが大きい松竹姉妹にそんなことが起きたら、それが致命傷になりかねない。そして、そうなってしまったらジェーナスは自己嫌悪の発作を確実に起こす。
ならばこそ、ジェーナスの選択は1つしか無かった。
「マツ、タケ、艤装を消して!」
咄嗟に思い付いた方法には、2人の艤装が邪魔だった。そんな状態で重装に包まれたジェーナスの直撃を受けたら、艤装を展開している時よりも致命傷になる可能性が高い。それでも、ジェーナスは全員が守られる道を掴もうとした。
松竹姉妹もジェーナスの必死さから、従った方がいいと直感的に判断して、互いに艤装を消す。
「Good! ちょっと我慢してぇ!」
欧州水姫の砲撃がジェーナスを直撃。それでも重装は凹む程度で終わるが、そのせいで弾き飛ばされる速度が急激に上昇。
だが、ジェーナスは防御出来たと認識した瞬間に艤装を解除。生身となって松竹姉妹へと突っ込むことになる。
「纏めて始末してやろう。それが望みのようだから、なっ」
勿論それを欧州水姫は見逃さない。さらに追撃の砲撃を放つ。薄雲にそれを守らせないように、右腕の主砲でしっかりと牽制までする強かさ。
これが直撃した場合、3人纏めて木っ端微塵。致命傷では済まない。
「させるわけ、ないでしょ!」
そこでジェーナスは、松竹姉妹にぶつかった瞬間に艤装を
「Capacity overだけど、なんとか、なったかな」
「わ、悪りぃ、めちゃくちゃ揺れたが、何とかなったぜ……」
「骨が、軋む……っ」
元々怪我をしているため、この衝撃は身体に響いていたが、致命傷にはならない。まだ命は繋がっている。
「ほう、ならばその中で3人混ざり合ってしまえばいい」
ここぞとばかりに戦艦主砲を連射。ジェーナスの重装艤装を破壊出来るまで叩き込めばいいと力業で押し込もうとする。1発くらいならどうとでもなったが、2発3発と放たれればジェーナスとて限界が訪れてしまうかもしれない。
そして、この状況で艤装を解除することは絶対に出来ない。ジェーナスのみならず、松竹姉妹にも影響が出る。
「撃つのを、やめてぇっ!」
薄雲がすかさず魚雷を放ったが、当たり前のように右腕の主砲で全てを破壊。鎖もそこに繋がった主砲も、左腕で全てを弾き飛ばしてしまう。
攻撃も防御もあまりにも完璧。たった1人で3つの動作を隙なく繰り出すため、突破口がまるで見当たらなかった。4人がかりでも圧倒されたのに、薄雲1人でどうにかなるわけが無い。
故に、ここで現れた援軍は、心強かった。ミサイルのように飛んできたのは魚雷。すかさず撃墜するものの、その数が尋常ではなく、欧州水姫は戦艦主砲を放っている余裕が無くなる。
「む、援軍か。それまでに始末出来なかったのは、この私の落ち度かもしれん」
魚雷が飛んできた方に目を向けると、そこに立っていたのは5人の艦娘。
「欧州水姫ってこんなに強かったっけ? 流石にここまでする奴じゃ無かったっしょ」
魚雷を手のひらで回しながら欧州水姫を見つめるのは、北上。その隣には大井が立ち、付き従うように漣、曙、朧が魚雷を構えている。
「ま、なんだっていいか。とりあえずまぁ」
魚雷を握り締めて、欧州水姫に突きつける。
「
その瞳には、明確な怒りが灯っていた。