空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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始末以外の結末

 第二部隊の戦場に第一部隊が到着する少し前。元々見かけた場所の近辺を調査していたビスマルク達の元へ、戦艦棲姫からの通信が入る。おそらく全体通信。施設にいる姉妹姫や、海中を警戒している潜水艦隊にもこの音声は届いている。

 

『発見したわ。想定通り敵は2人。水上バイクの奴と仮面マントの奴。それ以外は今のところ見当たらない。これから交戦するわ』

「了解。第一部隊がすぐに向かうわ。施設は一層警戒して。潜水艦隊は変わらず海中を調査し続けてくれればいいわ」

『潜水艦、了解。少し近場には行くヨナ』

『こちらの哨戒機もうっすら見えているわぁ。何かあったらすぐに向かえるようにしておくからねぇ』

 

 全員の反応が聞こえたことで、発信源の第二艦隊は通信を切り、戦いに専念する。

 

 その場所に最も近いのは当然第一部隊。そのように配置しているのだから、この通信の後にすぐに動き出す。

 ある意味作戦通りなのだが、緊迫した空気はどうしても流れる。ここまで来た敵となれば、今まで通りになるわけがない。苦戦することも考えて戦術を組み立てる。

 

「私達が知っている欧州棲姫と思わない方がいいのよね?」

「だろうねぇ。今までのこと考えると、()()()()()()って思っといた方がいいよ。ただでさえ泥があるからねぇ」

 

 経験則から北上がビスマルクに簡単に説明。軽空母だというのに砲撃やら雷撃やらを当たり前のように放ってきた龍驤や、重巡洋艦に見せかけた戦艦レ級だった古鷹など、敵対していた時の情報を掻い摘んで話すと、ビスマルクもグラーフ・ツェッペリンも渋そうな顔をする。

 

「それに、ブーストがあるんスよ。ドロップしたてのうちらが、熟練者と渡り合えるくらいになったくらいだし、姫に同じことが起きてるなら、確実に数倍はパワーアップしてますわな。うん、メシマズっスわ」

 

 漣も実体験からブーストの話を付け加えた。むしろそれが重要である。ブーストのせいで、全く同じ行動をしてきたとしても、出力が段違いになる。

 そもそも深海棲艦というものは、艦娘よりも高い性能を持っている。それがさらに上がっていると言われてしまうと、一度斃したことがある輩でも手が届かない場所に行ってしまっている可能性はある。

 

「常識は捨てた方がいいね。あたしはまぁ基本龍驤とぶつかってばっかだったけどもさ、聞いてる感じでもかなり厳しいのは確かだから、覚悟して行った方がいいね」

「Gut. 勿論覚悟はしているわ。情報に無いことがあったとしても、冷静に対処する自信もある」

「ならいいんじゃない? 初見殺しだけはどうにかしてね。あたし達も()()()()()()()()()()()()んだから、いきなりとんでもないことしでかすことも頭の片隅に置いておいて」

 

 もう殆ど脅しにしか聞こえないが、これが全て正しいことなのだから笑えないのである。

 

 

 

 

 そして、戦場に到着。そこでは2つの戦いが繰り広げられていた。

 

 1つは欧州棲姫との戦い。戦艦棲姫と空母棲姫が相対しており、制空権を拮抗にしつつ、欧州棲姫からの砲撃は戦艦棲姫がギリギリで渡り合っている。

 互いに傷はなく、撃っては避けての繰り返し、どちらもかなり強力な主砲を備えており、直撃ならば確実に死を提供し、掠めるだけでも肉から骨まで持っていってしまいそうな火力。それを連射しながら隙を探しているという段階である。

 とはいえ、欧州棲姫はまだ加減をしているようにすら思えた。不敵な笑みを浮かべながらも、戦艦棲姫に『祝福』を与えようと画策している。一度侵蝕の甘美な感覚を知っているのだから、もう一度与えれば確実に心の底から堕ちると確信しているような表情。

 

 そしてもう1つは欧州水姫との戦い。駆逐艦4人が必死に追い縋っているのだが、その圧倒的な力により左腕の艤装を一部破損させるくらいで止まってしまっている。

 それに引き換え、ジェーナスと松竹姉妹は、厳しい状況下で負傷してしまっていた。3人纏めてジェーナスの艤装内に籠城しているのだが、そこに向けて欧州水姫が戦艦主砲を放ち続けているような過酷な戦況である。唯一フリーにされている薄雲も、砲撃も雷撃もまるで効かないという最悪な状況。どう見ても勝ち目が無いとすら思える。

 欧州水姫はこれまで戦ってきた敵の中では屈指の冷静さを見せつけていた。慢心など何処にもなく、ただ効果的な攻撃を繰り出している。そのせいで、欧州棲姫以上の難敵と言える。

 

「ビス子さんや、欧州棲姫頼むわ。ほら、因縁ある相手でしょ。戦い方も詳しいだろうから、ある程度は優位に立てるんじゃないかな」

 

 ビスマルクの方に視線すら向けずに、軽めに指示をした。ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンは、北上の視線が今、滅多撃ちにされているジェーナスの艤装内の方を凝視していることには気付いていない。

 

「慣れた方が動くというのは当然のことよね。いいわ、キタカミ。私とグラーフで棲姫に行く。水姫は任せたわよ」

「りょーかい。大井っち、駆逐艦(ガキ)共、行くよ。あたしについてこい!」

 

 両手に魚雷を展開し、接近しながらも勢いよく投擲。合わせろと言わんばかりに視線を送ると、北上組の3人が一斉に同じ行動に出た。大井はそういうことをしないが、漣達は北上に鍛えられた猛者だ。合図と同時に魚雷を投げる。

 

 その光景に驚きつつも、ビスマルクはグラーフと共に欧州棲姫の方へ。因縁の相手の姿をその目にしても冷静さを失わず、現況で最も必要な手段をその場で判断する。

 欧州棲姫の厄介なところは、空母並みの航空戦力と戦艦並みの砲撃を同時に扱う上に、その艤装の性能によって高速で動き回ること。その全てが高水準であるため、食い止めることも難しい。

 しかし、今は同様にスペックが高い戦艦棲姫と空母棲姫が味方にいるのだ。そのおかげで拮抗にまで持っていけているのだから、このチャンスを使わない理由がない。

 

「グラーフ!」

「了解だ。攻撃隊、発艦始め! 蹴散らすぞ!」

 

 ビスマルクの号令を全て聞く前に、グラーフ・ツェッペリンは艦載機を発艦。慣れた動きであるからか、極限まで無駄のない高速の行動で即座に空母棲姫の援護へと向かう。

 深海棲艦の艦載機を使っているわけではないので、その動きは有人の直線的な動きではあるのだが、洗練に洗練を重ねた熟練機であるため、まるで敵艦載機の行動を先読みしているかのように動き回り、1つずつを確実に破壊していく。

 

「航空戦が拮抗しているのなら、私の艦載機で後押しすれば崩れるだろう。あくまでもUnterstützung(サポート)にしかならないのは悔しいがな」

「充分よ。私達はKönnen(技能)で攻めればいいわ。私も、拮抗を崩すために動くんだから!」

 

 ビスマルクは戦艦棲姫をサポートするために砲撃を放つ。一方向からの砲撃ならば軽々避けられるだろうが、二方向からの砲撃であれば、回避に専念しなくてはならなくなるはずだ。

 

 かつてビスマルク達が欧州棲姫と戦った時も、同じように行動を固定化させることで、辛うじての勝利をもぎ取った。人数を集めて集中砲火を仕掛けることで、どうにか逃げ道を無くし、

 その時は配下の深海棲艦達もいたため、孤立させるのに苦戦したが、今ここにいるのは欧州棲姫ただ1人だ。ならば、ここからでも戦況を良い方向に持っていけるはず。

 

「あら、増援のようね」

 

 しかし、欧州棲姫はまるで気にも留めずに軽々と回避。2人がかり、しかもどちらも強力な戦艦であるのだが、今の欧州棲姫にとっては多少攻撃が激しくなった程度としか思っていないようである。

 

「ビスマルク、助かったわ。今のままだとジリ貧だったかもしれない」

「ええ、今見ている限りでも、私が以前に戦った欧州棲姫よりも格段に強いものね。動きの速さがまるで違う。これが泥のブーストってヤツかしら」

「おそらくね」

 

 ビスマルクは戦艦棲姫と並び立つ。別方向から砲撃を放っても全て避けられるならば、一度ちゃんと合流して、意思の疎通と情報の共有をした方がいい。この場でどうにかするにしても、先に戦っていた戦艦棲姫ならば、()()欧州棲姫に詳しいのは当然戦艦棲姫になる。

 ビスマルクの戦闘経験は、あくまでも()()()()欧州棲姫に対してだ。その時の定石が今回も効くとはもう思えない。ならば、この場で次の手を考える。いざという時は、過去の経験は完全に捨て去る覚悟。

 

「助かった。だが、艦載機は、カケラも残さないで、くれ」

「了解だ。何かあるということだな」

「ああ、泥になり、分裂する。数が増えたら、どうにもならない」

「分裂とは……奴らの艦載機はAmöbe(アメーバ)か何かなのか」

 

 同じように、グラーフ・ツェッペリンは空母棲姫と合流。戦艦の2人以上に個別に動いている必要がなく、連携が重要。むしろ空母棲姫が顎で促し、グラーフ・ツェッペリンに自分の艤装に乗れと言ってくる程だ。

 グラーフ・ツェッペリンの速力が遅いというわけでは無いのだが、空母棲姫がより速いため、回避行動のことを考えればその状態の方が堅実に戦える。グラーフ・ツェッペリンはそれを察し、否定もせずに空母棲姫の艤装へと飛び乗る。

 

「戦艦棲姫、状況は」

 

 砲撃を放って欧州棲姫を牽制しつつ、ここまでの戦いの流れを聞いておく。戦艦棲姫は気分悪そうに欧州棲姫の素性を語った。

 

「奴はもう救えないわ。姉姫には悪いけど、ここで始末でいい」

「貴女がそう言うくらいなんだもの余程のことよね。まさか、侵蝕されていなくても黒幕に忠誠を誓っているとか?」

「……勘がいいわね。その通りよ」

 

 救いたいという中間棲姫の願いの、その仲間である戦艦棲姫が反故にしようとしているということは、そのままにしていても島に、施設に害しか無いということ。

 となると、侵蝕があろうがなかろうが、治療のしようがない。そもそもリシュリューの問題があるのだが、これでは中間棲姫の前に差し出すわけにも行かない。ビスマルク達が引き取るというのも難しいだろう。黒幕に忠誠を誓っているということは、侵略者気質とかそういうのを超えて、完全に人類の敵なのだ。

 

「ちなみに聞くけど、救う手段は思い付く? 泥を取り除いてもこちらに攻撃をしてくるわよ」

 

 戦艦棲姫の言葉に、砲撃を放ちながらも考えるビスマルク。そして結論付ける。

 

「殺さずに捕らえて、忠誠を誓う先を始末すればいいかもしれないわね。そうしたら心が折れるでしょ」

「まぁ、それならいけるかしらね……。そもそもあのレベルを殺さずに捕まえることが厳しいけれど」

 

 ただでさえ、2人がかりでも無傷。制空権を確保すればまだ優位に立てるかもしれないが、現状ではそれも厳しいかもしれない。とにかく付け入る隙を探すところから始まる。

 

 もしくは、欧州水姫に向かった北上達がそれを終わらせてくれれば、戦力を増やせるはず。そうなれば圧倒出来る。

 

「まずはやれることをやるしかないわね。でも、負けるつもりは無いわ。私だって監査だけじゃないんだもの。最悪始末するだけよ」

「いいわね、その割り切りっぷり。私は好きよ」

「深海棲艦にそう言ってもらえるのは嬉しいわね。共存出来ている感覚がして」

 

 

 

 

 救う手立てが無いわけではないのだが、生かして動きを封じるのは始末するより難しい。しかし、最高の結末は誰も死なないことだ。

 

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