ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンが欧州棲姫と相対する中、北上組は欧州水姫と相対していた。戦艦主砲を放ち続けて、ジェーナスの重装を激しく揺さぶり内部で強打させ続けていたところを、魚雷の投擲によって中断させている。
「
怒りに燃える瞳を隠すことなく、さも当然のように魚雷を投擲。それが開戦の合図。
「貴様の中では魚雷は投げるモノなのか。凄まじいな。魚雷が使えないこの私には、まるで理解が出来ない」
「理解してくれなくて結構。これがあたしの、あたし
勿論、開戦したのだから動き出すのは北上だけでは無い。アイコンタクトも無しに漣も全く同じタイミングで魚雷を投擲していた。
言ってしまえば、漣は北上の
「お手伝いします! 私も!」
そこに重なるように、薄雲も攻撃を再開。あくまでもサポートするように、最も使い慣れている鎖を展開して、その行動を封じるために振り回す。
腕力勝負になったら100%負けるのだが、まずは今戦場に来たばかりの北上達に、欧州水姫の出来ることを全て見てもらわなくてはならない。そのため、効かないとわかっていてもあえて実行する。
「北上さん、少しだけ任せます」
「あいよー。すぐに行ってあげて」
同時に大井達も動き出す。まずは欧州水姫は任せ、危険な状況になっていたジェーナスの保護を優先した。
あれだけの砲撃を受けていても、その装甲は凹み焦げついている程度で、中は無事のように見える。しかし、怪我人が3人詰まった球体の中で、主砲による振動を何度も受けていたら、流石に何かしらの支障が出ていてもおかしくはなかった。
真っ先に向かった大井は、戦場を確認して、ジェーナスの他に松竹姉妹がいないことから、あの艤装の中に3人が入っていることは察していた。さらに、あの艤装の大きさから、中の容量としてはギリギリ。おそらく側面に密着している状態で、砲撃の衝撃をモロに受け続けていた。
「大丈夫!? 助けに来たわよ!」
砲撃が止んだため、重装艤装の元へと駆けつけた大井はすぐに中に声をかける。
「た、助かった、か……。腕もだけどまだ頭がグワングワンするぜ……」
「身体中も痛い……っつ、抉られた脚が……」
「2人とも無事で良かったわ……」
助かったことがわかったことでジェーナスが艤装を一度消すと、その中から崩れ落ちるように3人が出てきた。
松は肋骨にヒビと脚の肉を一部削がれ、竹は二の腕を抉られている。そしてジェーナスは自身の艤装の中で振り回されたことで幾つもの打撲痕と裂傷。幸いにも顔にダメージが入っていなかったものの、打ちどころが悪かったかタンコブも出来ているくらい。松竹姉妹よりはダメージは少なめ。
そして3人揃ってガタガタになってしまっているのは、重装の中で振り回されたことで、その衝撃と音による体力の消耗が原因。欧州水姫が言うように
「ジェーナスもそうだけど、松竹は特に少し離れていた方がいいわよ。竹はともかく、松は脚がやられてるじゃない」
曙がその傷を見てすぐに指示を出す。その艤装に乗って戦う松竹姉妹からしてみれば、脚の怪我は比較的些細なモノではあるのだが、2人とも目に見えて戦いに支障が出る怪我の仕方をしているため、これ以上の戦闘の参加は厳しいと考えた。
しかし、2人の気持ちはそれとは違う方を向いていた。曙には視線すら向けない。
「悪ぃがそれは出来ねぇんだわ」
「うん、竹の言う通り、私達はここで退くなんて微塵も考えてないの」
艤装の中から解放されたため、2人とも改めて艤装を展開。その上に腰掛けることで当たり前のように動けるようになった。少しの振動でも身体に痛みが走る状態ではあるが、戦えないわけではない。十全では無いが。
「アイツは
「あのヒトは
2人の目は、依存による壊れた心を表に出していることがわかるくらいに澱んでいた。
互いに互いを想い、ほんの一時でも離れることを拒むほどに依存している2人は、一瞬でも相方が死ぬかもしれないと考えてしまったことによって、依存が暴走しかけている。今の状況を生み出した欧州水姫は、この世から消えてもらわなくてはいけない存在として認識された。
「気持ちはわかるけれど、今の貴女達がまともに戦えるようには見えないわよ。特に松、貴女、肋骨がイカれているわよね。今もそうしているのがやっとなんじゃないの?」
しかし、その2人の消耗はお見通しと言わんばかりに、大井が冷ややかな目で見据える。
まるで心臓を貫くかのような視線に、松は何も反応出来なかった。
「いい、よく聞きなさい。お互いにお互いが大切で、ずっと一緒にいたい、いや、いなくちゃいけないという気持ちは私にもわかるわ。貴女達程じゃないけど、私だってそう思える相手がいるもの」
チラリと北上に視線を向けたのがわかった。ヒトの恋路に敏感なのが松竹姉妹の真骨頂。
その大井からの言葉だからか、松は素直に聞いていた。竹も反発することなく耳を傾けている。
「死んだらおしまいってことくらい、いくら心が壊れていても貴女達ならわかるでしょう。互いに依存しているから死ぬ時も一緒なんて思っているのなら、そんな考えは捨てなさい。生きて生きて生き延びなさい。それで、2人で愛し合えばいいわ。私ならそうする。北上さんと一緒に死ぬくらいなら、北上さんの首根っこを掴んでここから逃げ出すことを選ぶわ。長い時間一緒にいたいもの」
死んだ時点で全てが終わるのだから、死なないように立ち回る。それが大井の考え方だ。生きていられる時間をずっと北上と共に歩いていきたいから。
もし北上が誰かに傷付けられ、その敵をその手で縊り殺したいと思っても、大井は戦場に出ることなく北上の傍を選択する。その方が長く一緒にいられる時間が手に入るから。
「相手が傷付けられたからといっても、貴女達の手でケリをつけなくちゃいけない理由にはならないの。貴女達に仲間がいないなら話は別だけど、こんなにも仲間がいるのよ。勿論、その中でも一番大切なのは相方でいいわ。でもね、こういう戦場にいる時こそ、仲間を頼りなさい。それは痴態でも屈辱でも無い、当たり前のことなの」
依存が溢れているせいで、今の松竹姉妹には周りが見えなくなりつつあった。さっきまでジェーナスに守ってもらっていたのに、解放された途端、相方の無事と憎しみの相手である欧州水姫しか見えなくなっていた。曙に声をかけられても、そちらに目を向けなかったのはこのためだ。
しかし、それがダメなのだと大井は断じた。いくら心が壊れていても、命を失うのは今の幸せを棒に振る愚行だと。そのために仲間を頼るのは至極当然のことであり、美徳と言われても痴態とは言われない。言わせない。
「だから、貴女達は少し離れていなさい。そして、私達の戦いを見ていなさい。貴女の相方を傷付けた報いは、私達が代わりに受けさせてあげるから」
凛とした瞳に、松も竹も心を動かされた。このヒトならばやってくれると信じられるくらいに。
「でも、私達も貴女達のことを構っていられないと思うわ。だから、動けるのなら攻撃じゃなくて、自分達の身を守るために使って。これだけ大層な艤装があるんだもの、避けるくらいは余裕よね?」
「……ああ、松姉ぇのためにも、オレは生き延びてやる」
「そうね。竹のために、必ず生き延びます。そのために、もうこれ以上喰らいません」
よろしいと大井は笑顔を見せて、拳を突きつける。松も竹も、その拳に自分の拳をぶつけるように突き出した。二の腕を抉られている竹は逆側の腕で。
「ジェーナス、貴女はまだ動けそうね」
「マツタケより軽いはずよ……痛みはあるけど、折れてるわけじゃないわ」
「なら、貴女はもう少し頑張ってちょうだい」
「Okay. 任せて。マツタケの分まで頑張れるから!」
ここからは松竹姉妹は一時離脱。ここから離れるわけではないため、あくまでも周辺警戒をするだけに。
ジェーナスは大井の指示の下、改めて戦場へ。その重装艤装があれば、自らの身は守りやすい。先程までのように、それを利用されて中にいる本体がダメージを受けるということはあり得るが、それでも今は仲間がさらに増えているのだから大丈夫。
「北上さん! こっちはもう大丈夫です!」
「グッジョブ大井っち。こっちは大変だねぇ」
この少しの間、北上は漣と共に魚雷を投げ続けていた。流石の欧州水姫もこればっかりは主砲で片っ端から破壊するしか回避する手段が無い様子。しかも魚雷が爆発することにより目眩しが発生するため、右腕の主砲ではなく衝撃が激しい戦艦主砲で火柱ごと噴き飛ばす方針でいるようだ。
今北上と漣が投げている魚雷は、少々手を加えた特別製。ダメージ以上に爆炎が大きく出ることで、目眩しの性能が上がっている。それによって、戦艦主砲以外の選択肢をなるべく失わせる方針。
「漣、奴さんはこちらの主砲が効かないかもしれないねぇ」
「あの左腕、そういうことっスね。ちょいちょい砲撃も入れてるんですけど、全部弾き飛ばされてるんスよ」
「だねぇ。殴って砲撃を弾くとか、どんだけインチキなんだっつーの」
無数の魚雷を投げながらも、北上は漣と共に欧州水姫の力を測っていた。北上は欧州水姫の情報も頭の中に入っているが、あの個体は明らかに知っているモノとは違う。ならば、出来ることは全ての力を出させることだ。
あちら側の全てを知った上で、出来る作戦を全て出す。その場で考え、隙を探し、最善の行動を選択する。それが北上のやるべきこと。
「ふむ、理解が出来た。貴様らは定石を覆す者達なのだろう。我々と同じだ。当たり前を当たり前と思わない。故に強い。納得したぞ」
欧州水姫はそれだけの猛攻を受けながらも飄々としていた。北上が観察しているように欧州水姫も観察をし、増援の戦略分析までしている。恐ろしい程に冷静であることも、今までの敵とは一線を画していた。
「貴様らは今までの者達よりも力自体は小さいのだろう。しかし、技術でそれを補うのだな」
「そうだねぇ。あたしらはアンタ達よりも火力も無ければ耐久も無いよ。連射も出来ないだろうし、体力も少ないだろうね。でもさ」
魚雷を投げつつも、少しずつ少しずつ距離を詰めている北上。それに合わせて漣は逆に距離を開いている。魚雷の間隔を変えながらも、薄雲の鎖による援護もうまく合わせられるように調整。
その場で初めて連携を取るような仲間とも、まるで昔から慣れ親しんでいるように組める。それが北上の真骨頂。観察力が異常に高く、仲間の長所と短所を即座に理解する。
「技術だけなら、アンタ達に後れを取らないよ。むしろ、上だと自負してる。力業で敵を弄ぶようなこともしない。やれることは徹底的にやる」
投げ続けて投げ続けて、それを延々と砲撃で撃ち落とされているところでの、
「はっ、賢いと言えばいいのか。それともズル賢いと言えばいいのか」
欧州水姫はそれにも気付いており、右腕の主砲でそれを破壊。爆炎もバックステップで回避。同時に戦艦主砲で迎撃。同時に3つのことを当たり前のように繰り出す。漣はこの隙を見て砲撃を放っていたが、それすらも左腕で弾いていた。
欧州水姫の底知れない力はまだ続く。だが、北上は勝ち目のない戦いは挑まない。ここから逃げ出さないということは、勝算があるということになる。