空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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厄介な姫

 時は少し遡る。

 

 欧州棲姫と相対する戦艦棲姫達は、増援と合流した段階で仕切り直しとなった。本体にはビスマルクが、空襲にはグラーフ・ツェッペリンが援護に入り、その攻撃をどうにか回避しながら攻撃の隙を探している。

 

「ふふ、2人がかり、いや、3()()()()()で私を狙うのね」

 

 戦艦棲姫とビスマルク、そして戦艦棲姫の艤装が、たった1人の欧州棲姫に向けて主砲を放ち続ける。一発一発が致命傷を与えられる程の威力を持っているのだが、欧州棲姫は艤装の水上バイクで軽々と回避。

 そういう動きをされてしまっては、3人がかりで狙いを定めるのも仕方のないこと。そこまでしてでも掠りもしないのだから、斃すためには力を合わせて撃ち続けることが必要だ。

 

 欧州水姫が単純なパワータイプであるとすれば、欧州棲姫は技術で勝ちに来るスピードタイプである。自分へのダメージは全て回避し、一切触れさせずに()()()()()()()。そのくせ、反撃は戦艦並みの火力があるため、掠めるだけでも相当に厳しい。

 現に、欧州棲姫が撃ち返してくる砲撃が戦艦棲姫の艤装を掠めただけで、ピシリと火花が散った。致命傷ではないが、負傷として認識出来るような傷が装甲に深く刻まれてしまっている。

 

「厄介極まりないわね。ビスマルク、アレ、どうやって斃したの」

「あの時は随伴艦も厄介だったから、航空戦力での数の暴力よ。でも、過去の欧州棲姫はあそこまで速くないわ。それに、火力も上がってる。貴女の艤装も込みでここまで撃っているのに、全部避けるだなんてあり得ないわよ」

 

 ビスマルクが知る欧州棲姫よりも格段に素早く、主砲を放った時には既にその射線から大分離れた位置にいるようにすら思えた。流石に攻撃のタイミングを予知しているようなことはないとは思えるが、見てからでも恐ろしい速さで回避し続けた。

 

 過去、欧州棲姫を斃した時は、ビスマルクを筆頭にした部隊とはいえ、航空戦力を多用している。それは当然、欧州棲姫から発艦される艦載機の対処もあったが、随伴艦として侍らせていた深海棲艦があまりにも邪魔だったというのもあるという。

 ビスマルクは口には出さなかったが、欧州棲姫の随伴艦は戦艦棲姫の別個体だったこともあり、航空戦力での圧倒は非常に効果的だった。そして、1人残った欧州棲姫の行動を回避一辺倒に固定化し、集中砲火を浴びせるように持っていけた。

 

「正直、あの時の定石はもう効かないわね。アレだけ速いなら、航空戦も効果的とは思えない。というか、空母棲姫とグラーフが2人揃っても拮抗してるって、完全に私の知ってるソレの上位互換よ」

「なら、今ここで戦術を編み出さなくちゃいけないってことね」

「そういうこと。ちなみに貴女はそういうの得意?」

「旅の経路を考えるのは得意だけれど、それが戦略に繋がるのなら」

Verzeihung(ごめんなさい). それは流石に打開策には繋がらないわ」

 

 話しながらも撃ち続けているのだが、状況は変わらない。むしろ、少しずつ欧州棲姫が近付いてきてすらいる。

 

「お喋りしながらとは、随分と余裕ね。侮辱されているのかしら」

「あの黒幕に対して本心から忠誠を誓っているというところは侮辱に値すると思ってるわよ」

 

 忌々しげに吐き捨てる戦艦棲姫。侵蝕の傷を持っているからこそ、黒幕に対しての憎しみは強い。

 

「勿体ない。祝福を受けておいて、その力を手放すだなんて、私には考えられないことよ」

「私には必要ないの。あんなのに従うくらいなら、力なんて必要ない。気ままに旅をするのが私の在り方だもの」

「貴女はまだ理解していないだけなの。あのお方の絶対的な力を。私達には到底辿り着けない領域にいるのよ。それを知れば、貴女だってその素晴らしさを理解出来るわ」

 

 あくまでも黒幕に心酔している様子。戦艦棲姫の知る心酔──春雨に対する海風──とはまた違った在り方。依存ではなく、一方的に跪いているような、憐れな部下なイメージ。

 しかし、そういう者ほど怖い。黒幕の求める未来のためにならば、その身を擲ってもいいと力を発揮することだろう。笑顔で命を捨てることだってしそうである。そしておそらく、黒幕のことだから、この欧州棲姫すらも捨て駒にするだろう。

 そこが海風とまるで違う。春雨のために力を尽くすが、春雨のために命を落とすことを是としないのが海風。対する欧州棲姫は、命を落とすことも是としてしまい、最終的に黒幕が喜べばそれでいいという、ある意味()()()()()()みたいなモノ。

 

「あのお方の祝福を得た私に屈せば、それも理解出来るでしょう。そちらの艦娘も、自ら(こうべ)を垂れるに違いないわ。だから、まずは私が圧倒してあげましょう。それがいい」

 

 一層激しくなる欧州棲姫の砲撃。的確な回避と、完璧な砲撃、そして圧倒的な航空戦。航空戦艦としての全てを最大の力で兼ね備えていると言える。

 

「やってくれるわね……避けるのに精一杯になるじゃない」

「何か作戦を考えないと、本当に圧倒されるわ。せめてどうにか近付くことが出来れば、私の子が拘束出来るかもしれないけれど……」

 

 速く動き回るのならば止めてしまえばいい。それが出来そうなのは、やはり戦艦棲姫の艤装。並の深海棲艦では間違いなくどうにも出来ないレベルの膂力を持っているため、捕まえてしまえば脱出は不可能。殺すも殺さないもその掌の上に置くことが出来るだろう。

 しかし、それが簡単に出来れば苦労はしない。消して再展開をするにしても、あの速さでは間に合わないし、近付けば近付くほど欧州棲姫の砲撃の的になる。巨体であるが故に、破壊もされやすい。

 

 そのためには、あのブーストをどうにかしないと話にならない。ただでさえ強い欧州棲姫を手をつけられない存在に押し上げているのは、間違いなくその身体を侵蝕している泥が原因だ。

 幸いにも、その泥を消すための装備は戦艦棲姫とビスマルクが持っている。さらには、全員が全身に六箇所、自身への泥の影響を失わせるバリアも張っている。それを利用すれば、欧州棲姫が言う()()を引っ剥がすことが出来るはず。

 

「何を考えているかは知らないけれど、私は負けないわよ。あのお方の望みを叶えるのが私の望み。私の意志。私の生きる意味なんだもの」

 

 心酔を吐露すればするほど、欧州棲姫からの攻撃は激しくなる。その想いの力が、そのまま欧州棲姫の力となる。

 途端に砲撃の精度がぐんと上がった。避けたと思った場所に着弾するようになってきている。ただ速いだけではなく、()()()()()()()()()()を優先するようになっている。

 

「貴女達が強いのは見ればわかるわ。だからこそ、貴女達は自分の意志で()()()()に来てもらいたいの。わかってほしいのだけど」

「貴女こそわかりなさい。私達が()()()()に心底恨みを持っていることくらい、見ればわかるでしょう」

 

 あくまでも欧州棲姫の目的は戦艦棲姫の勧誘のように見える。同じ深海棲艦の姫として、黒幕の姿を見れば必ず屈服し、その意志を理解出来ると確信した物言い。一目見て気に入ったのだと言わんばかりに、その圧倒的な力を見せつけつつも話をするような攻撃。

 対する戦艦棲姫は、ここまで話が通じない相手とは思わず、内心では少々焦りのようなものが出てきている。説得出来るだなんて微塵も思っていないが、多少はこちらの話に耳を傾けるモノだと思っていた。それなのに、一方的な思いを吐き出すのみで、戦艦棲姫が何を言っても自分の解釈に重ねてしまう。

 

 実際、こういうタイプが一番厄介である。

 

 

 

 

 一方、そんな欧州棲姫とは相対することなく、艦載機の処理を引き受けているのが空母棲姫とグラーフ・ツェッペリンである。

 

 中途半端な破壊をした場合、その破片が泥化した後、新たな艦載機へと変化するため、一向に数が減らないどころかむしろ増えているまであった。

 そうならないように破壊しているつもりなのだが、艦載機自体が、破壊されるのなら半端に壊してくれと言わんばかりに回避し、その思惑が綺麗に実行され半壊。むしろ真っ二つになった挙句、分裂するかのように数が増える。

 泥の増殖を艦載機に転用するというトンデモシステムではあるのだが、空母棲姫もグラーフ・ツェッペリンも冷静にそれを処理していった。

 

「なかなかに厳しいな。どれだけ撃墜しても数が減らん。そちらは」

「キツい。1つ、壊すのに、2つ使うことになる。その間に、奴らは、()()()()で、数を増やす」

「むぅ、それが出来るのは厄介極まりないな」

 

 そう、これが欧州棲姫の艦載機の真骨頂である。数が減ってきたらわざと同士討ちをし、自身を分裂させるという異常な性能を有していたのだ。

 どれだけ撃墜しても自分達で増えていくのだからタチが悪い。自己修復以上に厄介な()()()()。これをどうにかするためには、根本から断ち切るしかない。

 

「操っている欧州棲姫を止められればいいかもしれないが、我々が制空権争いを止めた途端にどうにもならなくなる」

「ああ。ここにあるのが、全部、あちらにも、行くことになる、だろうな」

 

 現状でも撃墜を免れ自己増殖した艦載機が空母棲姫とグラーフ・ツェッペリンに向かって爆撃を繰り出している状態。今この場を離れて欧州棲姫を狙いにいくと、この爆撃を全域にばら撒かれることになる。そうなった場合、欧州水姫と戦っている者達の方にも被害が出てしまう可能性が高い。それは防ぐ必要がある。

 そうなると、今ここにいる空母の2人がこの艦載機をどうにかしなければならない。

 

「空母棲姫、何かSpeziell(とっておき)のようなモノはあったりしないのか」

「お前が、何を言っているか、わからないが、私は、常に、全力だ」

 

 空母棲姫は最初からずっと出せる限りの力を出している。自分で知る限りの自分を、徹頭徹尾惜しみなく。

 

「……いや、待て。もしや、()()()()()()()()()()

 

 しかし、その空母棲姫の全力にもグラーフ・ツェッペリンは疑問を持っていた。自分の知る空母棲姫はもう少し搦め手を使ってきたはずなのだが、この空母棲姫は良くも悪くも()()()()すぎる。向かってきたものを破壊し、分裂したから粉微塵にする。そして爆撃は避ける。()()()()()()()()()()

 

 空母棲姫は生まれて間もない姫だ。しかも、生まれた直後に龍驤に器にされ、救われた後はずっと施設で暮らし、哨戒機を飛ばすくらいしかやったことがない。つまり、これが初めての実戦経験となる。それ故に、基本に忠実な戦い方しか出来ないのだ。

 本来ならば、生まれたら侵略者として敵を殲滅する手段を覚えていくのが姫。しかし、その在り方を最初の最初から躓かされているため、空母棲姫は並の空母棲姫とはまるで違う生き方をしてしまっている。それがここに影響していた。

 グラーフ・ツェッペリンや欧州棲姫が繰り出す航空戦の搦め手をこの空母棲姫も出来るようになれば、事態は一変するだろう。学習は、それだけで大きな力を生み出す。

 

「この場でというのは厳しいかもしれないが、私が戦い方を教える。構わないか」

「よく、わからないが、これを、どうにか出来るのなら、私は、お前に、縋るぞ」

「よろしい。ならば、この土壇場で悪いが、空母たる者としての授業を始めさせてもらう。君ならば、この状況も乗り越えられるはずだ」

 

 

 

 

 命が懸かっているこれ以上ない程に特殊な戦場かもしれないが、この空母棲姫が戦いを学ぶ場となる。

 これにより、空母棲姫は本当の力を取り戻すこととなる。

 

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