空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

435 / 506
Ausbildung(教育)

欧州棲姫との戦いが続く中、グラーフ・ツェッペリンは空母棲姫の戦闘経験が無いことによる技術の未熟さに気付いた。姫は姫かもしれないが、生まれた直後から器として使われ、まともな戦闘をする間もなく施設に所属したことが大きな原因となっており、やれることが単調すぎるために欧州棲姫の艦載機をどうにかするための技術が足りない。

それ故に、この切羽詰まった戦場の真ん中にもかかわらず、空母棲姫は()()()()()()()となる。最初で最後の戦いになる可能性はあるのだが、ここを乗り越えなければ、戦艦棲姫と旅に出ることも出来ない。

 

「よく、わからないが、これを、どうにか出来るのなら、私は、お前に、縋るぞ」

 

空母棲姫は、この場をどうにかする力を望んだ。楽しく生きるためには、ここでグラーフに縋らなければならない。

それがいいことなのか悪いことなのかは、空母棲姫にはわからない。それでも、今を乗り切るためには最善の道だ。自分だけでなく、仲間達を救うために。

 

「よろしい。ならば、この土壇場で悪いが、空母たる者としての授業を始めさせてもらう。君ならば、この状況も乗り越えられるはずだ」

 

空母棲姫の艤装に乗りながら艦載機を発艦させるグラーフ・ツェッペリンだが、ここからは()()()として、空母棲姫に出来そうなことを考え、敵の行動を思い出し、それを身につけさせる。

 

「いいか。今の君は、破壊に特化しすぎている。目の前のモノを処理するために、手当たり次第に破壊しているだろう」

「勿論、だ。そうしなければ、数は増える一方、だろ」

「そうだが、破壊の方法を少し変えてみればいい。君の艦載機は我々と違い、生物のように動かせることが()()だ。それを活かすことで、より効率よく戦うことが出来る。まずは私が言う通りにしてみればいい」

 

グラーフ・ツェッペリンが出来ないことを空母棲姫にやらせるような感覚。艦娘の艦載機には出来ない、それそのものが()()()()()()であるのが深海棲艦の艦載機。そして、空母棲姫はそれが大量にあるにもかかわらず、ある程度個別にコントロール出来るというのが特性だ。

敵も同じなのだから、それを意識して動かせば、自然と破壊の仕方は変わってくる。例えば、今回は木っ端微塵にしないと増殖するのだから、そもそも射撃を使うべきではなく、爆撃で破壊するべき。

 

「いいか、タイミングを合わせて、うまく捻って上に向かうんだ」

「わ、わかっ、た。緊張、するな」

「それでいい。いきなり慣れられても、私が困る。だが、君はおそらくセンスが抜群だ。すぐに学び、自らのモノと出来る。この戦いの中で学んでいけばいい」

 

欧州棲姫の艦載機に向かって、射撃も爆撃もせずに突撃を始める空母棲姫の艦載機。似た性質の敵機へと猛スピードで飛んでいったかと思いきや、合間で掻き回すように動き回る。

攻撃はせずとも、海上に攻撃しないように邪魔をし、この艦載機をどうにかしないとまともに攻撃出来ないと思わせることに専念する。

 

「我々の艦載機ではどうしてもその動きが出来ない。だからこそ、君のそれにやってもらう。私が同時に、下への攻撃を防げば、その意識を君の艦載機に寄せることが出来るだろう」

「わ、わかった。だが、これはなかなか、神経を使う」

「そこは慣れてくれ。役に立つはずだ」

 

実際、この行動が出来るようになれば、旅の途中に侵略者気質の同胞(はらから)と相対することになった時に、力の差を見せつけて互いに無傷で別れることも出来るかもしれない。

あくまでも、今やっているのは攻撃ではなく場を掻き回すだけの行動。艦載機は一機たりとも破壊していない。

しかし、空母棲姫の艦載機が内側から引っ掻き回し、時には体当たりまで仕掛けることで、あちらを苛立たせる。

 

空母棲姫の艦載機は空母棲姫自身がある程度のコントロールをしているように、欧州棲姫の艦載機は欧州棲姫がある程度のコントロールをしているだろう。ならば、なるべく()()()()行動する。

釣れれば御の字。そうでなくても、集中力は削がれるはず。そうなれば、戦艦棲姫やビスマルクも戦いやすくなるだろう。

 

「よし、釣れた」

 

グラーフ・ツェッペリンが言った途端、空母棲姫のコントロールする艦載機を止めようと、欧州棲姫の艦載機が群がってくるようになった。邪魔者は排除するべしと、射撃までしながら。

あちらの艦載機は射撃で破壊したら増殖するが、空母棲姫の艦載機はそんなこと出来るわけがない。それに、外して自分達に当たっても増殖に繋がるのだから、一切の躊躇が無い。

 

「一気に上昇だ」

「わかった」

 

指示通りに艦載機を纏めて上へ。すると、わかりやすくそれをどうにかするために他の艦載機達がついてきた。それでも一部ではあるのだが、先程よりは1機に対して多めに引っ張り出すことは出来ている。

 

「爆撃だ。行け!」

 

合図と同時に真下に向かってありったけの爆弾を落とす。すると、ついてきた欧州棲姫の艦載機をあっという間に木っ端微塵にして行った。破片も残さず、泥になったとしても衝撃で噴き飛ばす程の威力。

 

空母棲姫の艦載機のスペックは、欧州棲姫のそれを優に超えていた。しかし、泥の力で分裂増殖という規格外の能力により、数の暴力を受けていただけだ。それを一掃出来る力は元から持っていたのだが、空母棲姫がそれに自分から気付くことは出来なかった。

それを今、グラーフ・ツェッペリンの教えにより少しずつ引き出されていく。まずは効率的な爆撃から。

 

「そうか。一箇所に、纏めて、撃てばいいのか」

 

初歩の初歩なのだがと思いつつも、グラーフ・ツェッペリンはそうだとしか言わない。それを自分から気付いていける力が今は必要。これが理解出来たということは、空母棲姫はここから飛躍的に成長していく。

 

「射撃では、ダメだ。だが、爆撃は、簡単には、当たらない。ならば、動く方向を、こちらから、コントロール、してやる。そういうことか」

「ああ。ああいう輩は、おそらく複雑な動きはあまりしないだろう。奴は航空戦艦であって空母ではないからな。艦載機の専門ではない。故に、専門家である君のそれよりSpez(スペック)Kontrolle(コントロール)も下だ」

 

言われてみればと、空母棲姫も気付いていく。自分がコントロールする艦載機よりも、欧州棲姫がコントロールする艦載機の方が、明らかにスペックが低い。移動速度も、機敏性も、射撃精度も、何もかもが空母棲姫の艦載機より一段階くらい下。

ただし、それは1対1が出来ればの話。そこに気付かれたのか、僅かに残った欧州棲姫の艦載機群は、空母棲姫の艦載機を無視するように同士討ちを始め、次々と数を増やしていく。あっという間に元の数、いや、それ以上の数になってしまった。

 

ここでわかるのは、欧州棲姫の艦載機はそれだけでもう1つの敵。戦艦棲姫の艤装のように、個を持っている存在である。艦載機のカタチをしている泥と考えれば、何かあれば増殖するという性質も納得が行く。

 

「撃ち漏らしが無いはずなのに、数が減らないというのはどういうことなのだ。規格外の力を持つ艦載機なんて初めてだぞ」

 

勿論、空母棲姫が爆撃をしている間もグラーフ・ツェッペリンの艦載機がなるべく漏れがないように艦載機を破壊していっているのだが、1つ減らしたと思えば2つの艦載機が同士討ちにより4つに増えているという鼠算を見せつけられる。

こうすることで心を折りに来る作戦でもあるのだろう。本体に届かず、処理しても次々と増えていくという状況は絶望にしか感じない。

 

当然、グラーフ・ツェッペリンも空母棲姫も、そんなことで心が折れるわけがない。無限の軍勢であろうが、立ち向かわない理由なんて何処にもないのだから。

 

「幸いにも、我々に攻撃が飛んでくることはないが、どうにか現状維持をしているという状況には変わりないな……。打開策を考えなくては」

 

空母棲姫の教育という前代未聞の状況を、減らない敵を全滅させるというチュートリアルステージが用意されたことによって、あらゆる戦術を試す場として有効活用出来る。

しかし、最終的にはそれも終わらせる必要があるため、打開策は考えておかなくてはならない。

 

最も手っ取り早いのは泥刈機だ。波長をぶつければ泥を消し飛ばすことが出来る。そして、欧州棲姫の艦載機は()()()()()と考えられるため、泥刈機が最も有効な手段と言えるだろう。

 

「私は、泥刈機を、持っていない。お前は」

「すまないが私も持っていない。あれはビスマルクに持たせている。……確かに、アレならばあの艦載機群を一掃出来るかもしれないな」

 

しかし、空母組には泥刈機が与えられていない。高高度まで行かれた場合は波長が届くかもわからないため、本体を狙う戦艦組が優先して装備している。まさか装備する者が逆であるとは思わない。

 

「だが、その持ち主は本体に苦戦しているようだ」

 

艦載機を処理しながらも、チラリと仲間達の方に目を向けた。そこには、不敵な笑みを湛える欧州棲姫に苦戦する姿があった。

 

 

 

 

「アイツ、精神が無敵なのよね……。何を言っても黒幕が正しいに結びつけることが出来るんだもの」

 

ビスマルクが忌々しそうに呟く。北上ほどではないが多少は煽りをしてみるビスマルクなのだが、一切煽りが効かないという異常な精神力を持っているのが欧州棲姫である。否定しても黒幕のことを理解出来ていないと突っぱねられるだけ。心酔もここまで来れば異常。心が壊れていると言っても過言ではない。

だが、溢れているわけではないので、単純にただ()()()()()だけ。黒幕の威光に当てられて、勝手に精神が歪んでいる。

 

「なに? ようやく屈する気になった?」

Scherzen(冗談)はやめてちょうだい。屈するくらいなら死んだ方がマシ」

「本当に残念ね。あのお方の素晴らしさを理解出来ないだなんて、せっかく手に入れた人生を損しているわ」

 

撃ちながらも一気に近付いてきた。これまでとは違う動きをしてきたため、ただ砲撃だけでは終わらないと察し、戦艦棲姫の艤装が先んじて前に出る。

砲撃は避けられるが、ここで突っ込んできたということは何か違うことをしてくるということ。

 

「これだけ撃ち合えば、貴女達の戦い方は大体把握出来るわ。だから、これくらいは出来るわよ」

 

3人がかりの砲撃を掻い潜るように駆け抜け、一番前に立っていた戦艦棲姫の艤装に肉薄する。

 

戦艦棲姫は嫌な予感がした。砲撃の手を一瞬緩めてきたのだ。何もしないで突っ込んでくるなんて有り得ない。

 

「耐えなさい!」

「遅いわ」

 

その瞬間、欧州棲姫が手に持つ弩を持ち上げる。すると、それは弩から大剣の形状へと変化していた。

 

「これがあのお方から賜った私の力。祝福を以て、その威光を貴女達に知らしめてあげましょう。そして、その偉大なる力を理解し、膝をつくといいわ」

 

 

 

 

そして、一閃。

 

戦艦棲姫の艤装は、その一撃により、誰よりも大きく太い腕が両断されていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。