空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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祝福の刃

「本当に素晴らしい力だわ。やっぱり、貴女達はあのお方に従うべきよ。その力はあのお方のために使いなさいな。それが貴女達のためなのよ」

 

 黒い靄に包まれた欧州棲姫が、爆炎の中から現れた。当たり前のように無傷で。

 

「それが貴女の最高の状態ってことでいいかしら?」

 

 ビスマルクが聞くと、欧州棲姫は不敵な笑みを浮かべた。

 

 明らかにあの靄は近付くのは怖いのだが、まずは先制攻撃と言わんばかりに、戦艦棲姫が泥刈機から波長を照射。靄も泥の一種ならば、これで問題なく取り除ける。

 実際、この靄はバリアでも消滅させられるくらいに泥と同様の成分である。泥刈機でも当然掻き消すことは可能であり、むしろ泥刈機が最も効果的と言える。

 

 しかし、欧州棲姫はそれを見越したように行動を開始。靄が発生したことで泥ブーストはさらに強いものとなり、水上バイクの加速が今までとは比べ物にならないほどに強力となっていた。

 その場から一気に離れると、泥刈機で追いかけることも出来ない程の速度で回り込みながらの接近を仕掛けてくる。今までとは雲泥の差。目は追いついても手が追いつかない。まさに、()()を見せつけるような猛スピード。

 

「ビスマルク!」

「照射を優先するわ! あのDunst()は確実にまずい!」

 

 止めなくてはまずいと見ただけでわかるレベル。強化のされ方が尋常ではない。いくら出力を上げても、スピードが倍近くに膨れ上がるのは異常である。

 

「今までごめんなさいね。全力を以てお相手しなくては失礼よね。圧倒して、確実にここで終わらせてあげる。跪くなら今のうちよ。死ぬよりも従った方が絶対貴女達のためになるんだもの。あのお方も、貴女達のことは受け入れてくれるわ」

 

 こうなってもそのスタンスは一切変わらない。黒幕を讃え、その偉大さを見せつけるかのように、今の自分の力を振るう。

 靄のブーストは力の前借りであっても、欧州棲姫は使うことに一切の躊躇がない。今この場で、2人の戦艦の心を折り、それでも屈しないならば始末するために、出来る全力を発揮する。

 

 当たれば即死級の攻撃ばかりを繰り出すのに、こうなる前から速かった動きがさらに速くなるという大惨事。

 ビスマルクは再び監査に入る。速かろうが視ることは可能。想定では、動きが速くなっただけでやることは変わらない。ならば、まずそのスピードに目を慣らすことが出来ればいい。

 勿論、攻撃の手は緩めない。最も有効であろう泥刈機による波長の照射はそのままに、接近はさらにまずいため魚雷を常用する。流石に現状では泥刈機を手に持って運用しているため、魚雷は本来の使い方で。

 

「その程度で止まるわけないわ。むしろ、私があのお方から賜った本当の力を見せてあげる」

 

 そう言うと、弩はまた大剣に変化し、思い切り振るった。まだ斬撃はおろか、砲撃すら届かない場所からだ。

 すると、大剣からは高出力の泥の刃が放たれる。今回はビスマルクが放った魚雷を一掃するために使ったか、海面にそのまま直撃。その瞬間、魚雷諸共破壊する大きな水飛沫が舞い散った。斬撃のカタチに海面が抉れたかのような、大波を引き起こす一撃に、戦艦棲姫もビスマルクも一時的に視界が塞がれる。

 舞い散った水飛沫には泥も含まれていたが、それは装備しているバリアと泥刈機によって、肌に付着することなく消滅。しかし、それが無ければこの一撃で全員が一気に侵蝕されていただろう。

 

 欧州棲姫の心酔をカタチにしたかのような、泥を侵蝕ではなく攻撃に転用した技。直撃ならば刃に斬り裂かれるかのように両断され、掠めても侵蝕、当たらずともそれに巻き込まれた海水がそのまま侵蝕性の泥となるおまけ付き。

 欧州棲姫はこれを、他者に祝福を与える黒幕の思いが込められた剣だと思い込んでいる。()()()()であると。

 

「斬撃を飛ばすだなんて、インチキにも程があるでしょう!」

Wasserschneider(ウォーターカッター)ってそういうモノじゃないんだけれど……」

 

 水飛沫をすぐに消すため、泥刈機の波長の照射と同時に砲撃も乱射する戦艦棲姫。過去の経験からしてみても、こんな突拍子もなく放たれる超水圧の刃なんて該当するモノなど存在しない。ビスマルクも困惑気味だ。

 そもそも水飛沫で視界を塞がれたことにより、監査の目からも逃れられてしまっている。ビスマルクにとっては最もやりにくい相手になってしまった。監査が中断させられ、その動きを見るためにも、戦艦棲姫に倣って主砲を乱射。水飛沫を取っ払う。

 

「そんな粗雑な砲撃で、今の私は止められないわ。あのお方の加護に包まれているんだもの!」

 

 歓喜に震えるような声色が、思っていた以上に近くにあった。案の定、この水飛沫を利用して一気に接近していた。

 泥刈機の波長を喰らえば泥どころか靄も消されるが、泥も靄も即時増殖のため、然るべき場所に喰らわない限りは『祝福』が剥がれることはないと確信を持って突撃。水飛沫を突き破るかのように大剣が届く範囲へ。

 

「来ると思ってたわよ!」

 

 そこへすかさず戦艦棲姫が波長を照射し、さらにはその隣から艤装による迎撃。

 少なくとも、斬撃飛ばしは泥によるものであるため、波長が当たれば自分に襲い掛かる攻撃は無効化出来る。欧州棲姫本人は艤装によってその行動を強引に止め、本体へのダメージを極力抑える。

 

「本当に残念。ここまで出来るのに殺さなくちゃいけないなんて。でも安心して。あのお方は貴女の亡骸にも祝福をくれるわ」

 

 しかし、欧州棲姫は躊躇なく大剣を振るった。自信満々に。

 

 殺意は無いのに、明らかに殺しに来ている一撃。その剣閃は、戦艦棲姫の首を刎ね飛ばす一閃。

 今までの黒幕のやり方からして、亡骸であろうとも泥によって魂の混成が出来るのだから、本当に強い者であるならば殺してでも手に入れるという手段に出ることも厭わない。

 それが黒幕の望みなのだからと、欧州棲姫は喜んで剣を振るう。故に殺意は無い。怒りも悲しみもない。常に黒幕の祝福に喜びを覚えるだけの、壊れた姫。

 

「そう簡単に、やられるわけが無いでしょう!」

 

 首を狙ってくるということは、しゃがめば避けられるということ。瞬時に判断した戦艦棲姫は、恥も外聞も投げ捨てて、ガバッと蜘蛛のようにしゃがむ。その際に長い髪が上に舞い上がってしまったことで、斬撃の犠牲に。髪が一部無くなるくらいで済むなら、首が飛ぶより全然マシだと、一切の躊躇なくこの回避方法を選択。

 同時に、艤装はこの超至近距離で砲撃を放っていた。爆音と爆風で激しい衝撃が発生するが、欧州棲姫は軽々回避。さらには避けながらも振るった大剣を弩に変化させて艦載機すらも発艦させていた。その艦載機は艤装に直撃し、ほとんど自爆するような勢いで爆発。致命的なダメージにはならずとも、艤装は再び危険水域へと持っていかれる。

 

「この……っ」

 

 近場にまで来てくれたことから、ビスマルクは再び魚雷を投擲。艤装から逃れるために回避した先を狙って、一撃必殺狙いで頭を噴っ飛ばすために。

 

「焦っているのかしら。でも大丈夫、そんな貴女もあのお方は祝福してくれるわ。力を与えられれば、焦りも無くなる。心の余裕にも繋がるのよ」

 

 しかし、それも当たり前のように回避。主砲によってビスマルク諸共破壊しようと迎撃。

 ビスマルクもそれは辛うじて回避したが、衝撃が腕を抉り、痛みで顔を顰めた。

 

「どうかしら。あのお方は私にここまでの力を与えてくれたの。これでもまだ偉大さが理解出来ないかしら」

「出来ないわね。忠誠を誓う者を駒としか使えない奴の何処が偉いのか、私には一生理解出来ないわ」

「本当に残念。あのお方は私を信頼して手駒として使ってくれているの。心身共に祝福を得た私は、あのお方に報いるためにここにいるんだもの。駒でも家来でも使い捨てでも何でも構わないわ。今はあのお方が信頼してくれているんだもの」

 

 泥の効果が一部はあれど、ここまで心酔しているとなれば、最初に戦艦棲姫が言っていた通り、欧州棲姫はもう救われない存在なのだろう。心を折ることすら出来ない。

 ならば一思いにと思っていても、この強さは異常だ。近距離でも遠距離でも、攻撃を避け続けてこちらへのダメージを積み重ねてくる。殲滅も簡単にはいかない。通ったと思ったら靄まで発生させてさらにブーストがかかる始末。

 

 だが、このブーストは力の前借りだ。今を凌げば最終的にはガス欠になる。戦艦棲姫とビスマルクはその事実に気付いてはいないが、ビスマルクの特性からして、時間をかける戦いを望んでいる。結果的に、監査を完遂する時にはガス欠が起きているはず。

 

「だから、あのお方のためにも、ここで終わりにしましょう。だから私は全力を出しているんだもの。貴方達のことは正しく評価しているわ。ここにいられたら、あのお方の障害になることは間違いない。だからこそこちら側に来てほしかったんだけれど、それも望まないのならば、確実に終わらせることの出来るこの力だって躊躇なく使うわ」

 

 再び大剣を振るい、泥の斬撃を飛ばす。靄を出さずとも3人がかりで互角だというのに、靄を出してきたらここまで圧倒することになる。

 だが、誰も諦めることはしない。そこまでの強敵を相手にしても、心は絶対に折れない。

 

「私達が負けることを前提にした物言い、気に入らないわね」

 

 戦艦棲姫が泥刈機で斬撃を消滅させるが、その後ろには砲撃が重ねられていた。それに対しては艤装が自身の身体に鞭を打って強引に食い止める。その威力によって、砲撃を止めた腕が再び逆方向に曲がりかけるが、破壊されたわけではないので倒れることもない。

 

「本当にね。まだ全容じゃないかもしれないけれど、私には大分見えてきているわよ。いちいち目眩しまでしてきてるけど、簡単にはいかないわ」

 

 ビスマルクも監査の目は緩めない。水飛沫で姿を隠されることもあるが、それを込みにしても行動を見切っていく。疲労は当然溜まっていくが、欧州棲姫からの攻撃はむしろ当たらなくなっていく。

 

「その強い心は評価に値するの。だからこそ、私と共にあのお方に仕えましょう。死にたくはないでしょう?」

「さっきも言ったけど、あんな奴に仕えるくらいなら死んだ方がマシなの」

「勿体無いわ。そこまで意固地にならなくてもいいのに。特に貴女は同胞(はらから)なんだもの。ありのままに生きればいいじゃない。こちらには私達の真の幸福があるというのに」

 

 そんなことを言う欧州棲姫に対して、戦艦棲姫は当てつけのように溜息を吐く。

 

「私のありのままは、自由気ままに旅をすることなの。それを邪魔する貴女達は、私の生き方を、幸福を奪っているということになるんだけれど?」

「ならこちらの方が幸せなのね。それ以上の幸福を知ることもいいと思うわ」

 

 同じ言語を使っているのに、まるで会話にならない。思い込みもここまで来ると狂気だ。

 

「さぁ、真の幸福を知りましょう。受け入れるだけでいいのよ。たったそれだけで貴女達は幸せに包まれるの。悪いことじゃないわ」

「ふざけるなと言っているのよ」

「何もふざけていないわ。私は貴女達に幸せになってもらいたいだけだもの。何か問題でもある?」

 

 余裕すら見せる欧州棲姫にそろそろ苛立ちを覚えそうだったが、ここで冷静さを失ったら終わりだ。故に、どれだけ何を言われても心だけは落ち着かせる。

 しかし、巻き返すことが出来ない。どうにかしてこの状況を打開しなくてはならない。

 

 

 

 

 だが、ここで戦況を大きく変える一撃。

 

「こう、だな」

 

 空母棲姫の声が聞こえた瞬間、欧州棲姫の艤装が爆発した。

 

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