空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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怨敵

 この土壇場で、欧州棲姫と欧州水姫の体内に埋め込まれていた卵が孵化し、命を燃やす最後の形態へと移行。力の前借りなんて生半可なものではない。こうなったらもう、死に向かって一直線。その分、出力が比べ物にならないほどに上がっており、ここまで来るのに数人がかりで抑え込んだモノを、優に超えてきてしまった。

 

 しかし、欧州棲姫と欧州水姫の目的は、もう違うところを見ていた。眼前の敵が視界に入っていないような雰囲気。泥の涙と唾液を流し、理性すらも燃やし、忠誠を誓う黒幕の目的のために動くだけの機械となる。

 

「目的を達成するためだ! もう、なりふりなんて構っていられん! この私の命を全て燃やし尽くし、あのお方のために突き進まん! うぉおおおおっ!」

 

 咆哮。そして、猛烈なスピードで駆け出す欧州水姫。今まで死闘を繰り広げていた北上達のことなど無視して、向かうのは完全に()()()()()

 

「あのお方のために、私の命を燃やし尽くすわ! 目的さえ達成すれば、全てが変わるんだもの!」

 

 それに続くように欧州棲姫も駆け出す。今までとは比べ物にならないスピードを出し、ビスマルクや戦艦棲姫が反応した時にはもう、欧州水姫に追従するように施設へと向かった。

 

 この2人の本来の目的は、施設にいる中間棲姫、()()()()だ。考えられるのは、中間棲姫の侵蝕。それが実行出来た時点で黒幕の勝利だ。姉姫として確立した施設の主人が、余計なモノに満たされてしまったらおしまい。互いに陸上施設型ではあるが、どちらも同じになってしまえば黒幕の思うがまま。

 侵蝕性のある端末の泥は、島に設置されたバリアによって弾かれる。しかし、そうではない泥、それこそ、今2人の姫が纏っている孵化した卵に関しては、これまでに無かった要素であるため、中間棲姫と反応したら何が起きるかわかったものではない。

 

「まずい! その2人を止めて!」

「とりあえず脚をやるしかないねぇ!」

 

 すぐに行動に移したのは、ビスマルクと北上、そして空母棲姫。駆け出した方向に向けて、ビスマルクは砲撃を放ち、北上は足を止めるために魚雷を放つ。そしてさらに、覚えたばかりの急降下爆撃を決めるために、空母棲姫がありったけの艦載機を嗾けた。

 欧州棲姫が暴走状態に入ったことにより、意識が艦載機に回せなくなったのか、そちらも一斉に施設に向かって飛んでいくようになっていた。ならば、本体を狙う方が早いと、欧州棲姫に艦載機を注ぎ込もうと考えたようだ。

 しかし、後ろに目があるのかと思える程に軽々と回避していく。命を燃やすブーストによって、今まで以上に冴え渡っていた。そして、少し動きを止めるとその分一気に離されてしまう。

 

 このブーストは、この場にいる数人には覚えがあった。まだ龍驤が敵対していた時の前哨戦、今では施設の一員となっている瑞鳳と黒潮が未だにそれを身に宿している深海忌雷。それによる命を使ったブーストと似ていた。

 あの時は、ブーストを失わせて命を救うことが出来たのは春雨だけ。わかりやすく外見に弱点が見えていたから、春雨でも救うことが出来た。しかし、この2人はそういうところも見えず、春雨がいたとしても治療は絶望的。むしろ、今この場に押し留めることすら出来ない存在を治療するのは不可能である。

 

「くっそ、疲れが鬱陶しいなぁ!」

 

 その魚雷を投げたことで、北上は小さくフラついた。大井がすぐさま駆け寄るが、北上の消耗はかなり激しい。何か、激しい砲撃が放てる右腕を常にロックし続けていたのだ。ダメージはなくても、砲撃の衝撃で身体の内側が揺さぶられていたため、疲れはピークに達していた。

 

「行けるヤツは全員行って! 漣と曙はまだ行けるか!」

「行くわよ! あんなインチキクソ姫なんて、ここで終わらせてやるわ!」

「漣ちゃんもまだまだ行けますぜ! 北上大先生はそこで休んでてくんなまし!」

 

 2人の姫を追うのは、漣達北上組と薄雲。松竹姉妹はともかくとして、ジェーナスも消耗が酷く、ここまでよく保った方である。消耗が激しい者だけを置いておくわけにはいかないため、大井はこちらに残る。

 

「私達も行くわよ。空母、サポートお願い!」

「任せて、くれ。今も、追っている」

「戦艦棲姫、貴女も消耗が激しいでしょう。ちょっと休んでなさい」

 

 ビスマルクは戦艦棲姫の消耗を見逃していない。二度も三度も艤装を再展開しているのだ。しかも、ただ一旦消すとかではなく、破壊されたモノを再構築しての再展開なのだから、本体に影響が無いわけが無い。

 

「それに、こちらにはまだ人員はいるわ」

 

 ここでビスマルクは耳元を弄り、通信機を立ち上げる。全体通信になってしまうが仕方ない。今はそこを問題視することは出来るわけがないのだ。それだけ切羽詰まった状況。

 

「足止め、お願い!」

 

 そして通信機に叫んだ。この通信機をつけている者はビスマルク、戦艦棲姫、姉妹姫。そして──

 

 

 

 

「任されたヨナ!」

 

 

 

 

 潜水艦隊の伊47である。

 

 欧州棲姫と欧州水姫を相手に激戦を繰り広げている中、潜水艦隊はずっと海中に潜んでいた。海上の2人の他にも、潜水艦が施設に近付いてくる危険性があったからだ。

 黒幕の戦術からして、囮を何重にもして本命を施設に近付けるという手段を使ってきそうではあった。勿論、第二部隊の面々はソナーによって潜水艦の反応を確認はしていたが、それだけでは足りないために潜水艦の目を使っていた。

 

 結論としては、今ここまでずっと海中を確認し続けて見当たらなかったことから、潜水艦による伏兵はいないと判断。

 場所としても、そこまで遠くないため、出来る限りの速力を出して、その戦場へと向かう。

 

「急浮上するヨナ。みんな、続いて」

「了解」

「足止めする」

「頑張るぴょん!」

 

 全員が深海棲艦化しているおかげか、普通の潜水艦隊よりは速力があるため、欧州棲姫と欧州水姫の姿はすぐに見える場所へとやってくることが出来た。

 若干施設には近い場所ではあるが、まだ島の全容が見えない場所。ここでならまだマシ。

 

「それじゃあ、行くヨナ!」

 

 伊47の号令と共に、潜水艦隊一同が一斉に急速浮上。伊47の巨大な艤装が先陣を切り、潜水艦姉妹が魚雷を構える。ミシェルは攻撃の方法がよくわかっていないものの、足止めをするということだけは理解しているため、そうするためにも身体を張る。

 

 その急浮上は、並の潜水艦では追いつくことも出来ないスピード。それこそ、自分達が魚雷になったかのような猛進で、先に来ていた欧州水姫の足下まで接近。

 

「行かせない!」

 

 そして、まずは伊47の艤装の角が海上へと姿を現す。もう刺し貫くくらいの勢いで狙いを定めたのだが、欧州水姫はそれを辛うじて回避。

 

「そこで止まって」

「それ以上はダメ」

 

 それに合わせて、潜水艦姉妹による雷撃。足止めが()()()()()()と同義になっているため、一切躊躇なく、殺すように魚雷を放つ。

 

「ぬあああああっ!」

 

 しかし、それを見越していたかギリギリのところで回避。さらには潜水艦姉妹を狙って砲撃まで重ねる。伊47とは違って海上に出てきているわけではないので、いくらブーストがかかった砲撃であっても、海中では威力は大きく減衰。

 とはいえ、元の威力がとんでもないことになっているため、海中だとしても侮れない。潜水艦姉妹は咄嗟に回避する。

 

「ちょわああああっ!」

 

 そして、さらにスピードを上げたミシェルが欧州水姫に突撃。伊47を回避し、潜水艦姉妹を狙って砲撃を放った直後であったため、自身をミサイルのように見立てたミシェルの一撃には反応がほんの少しだけ遅れた。

 ミシェルは砲撃も雷撃もやり方が理解出来ていなかったために、出来ることと言ったら体当たりくらい。しかし、たった1つ理解出来ていることは、自分が今までヒトのカタチでは無かったこと。今よりも前、()()()()()()()()を取る──ジェーナスのように全身に纏う装甲とする──ことで、自身の身を守りながらも強力な一撃とする。

 

「ぬあっ!?」

 

 流石にそのまま突っ込んでくるとは思っていなかったか、どうにか左腕の艤装で弾くが、そうしたことにより欧州水姫の猛進はここでストップ。ミシェル自身はその程度ではダメージを受けることなく、ポーンと飛ばされた後に艤装を消して、海上に見事に着地。駆逐艦と潜水艦を両立出来るミシェルだからこそ。

 

「あっちに、行って!」

 

 さらにそこに重ねるように、伊47が艤装の尾鰭で激しく叩きつける。まともな艦娘や深海棲艦がそれを喰らったらひとたまりもないだろう。だが、欧州水姫はそれすらもガッチリと受け止めた。左腕の装甲は砲撃を弾くだけでは終わらない。

 それでもダメージは通っている。ジェーナスの体当たりを食い止めた時のように、ビシリと艤装にヒビが入った。激しすぎるブーストにより、装甲はさらに脆くなっている。

 

「目的を、果たすまではぁ!」

 

 戦艦主砲が伊47に狙いをつける。その圧、そして泥を垂れ流しながらも睨み付ける形相に、伊47は一瞬怯んでしまった。しかし、涙目になりながらも、施設を守るためには力を振り絞る。

 

「ヨナ達の居場所をっ、奪わないで!」

 

 砲撃が放たれる直前に、あえて艤装を消して海中へと潜る。これによってギリギリのタイミングで回避成功。

 

 この砲撃によって、欧州水姫の主砲にも小さくヒビが入る。やはりギリギリのブースト。命を燃やしながらの戦いは、限界を超え続けているせいで、身体中にガタが来ていた。

 それを欧州水姫は気付いていない。いや、気付いていても無視している。もう死んでもいいという気持ちは、自分へのダメージを全て外に置いてしまっていた。

 

「引き付けありがとう。私が目的を果たすわ」

 

 そして、欧州水姫が先に暴れ回っていたことにより、それ以上に素早い欧州棲姫がその戦場を通過して施設へと一気に近付く。

 

 駆逐艦よりも速く動き回る欧州棲姫には、後から追っても追いつくことが出来ない。ビスマルクや漣達が砲撃を放っていても、さも当然のように見ないで避けているのが厄介極まりない。

 実際は、艦載機の目で360度を把握しているだけなのだが、だからといってもやりすぎなくらいの回避性能。

 

「行けぇ!」

「任せなさい!」

 

 全ては心酔する黒幕のために。命を削ってでも、失ってでも、その目的さえ達成出来ればいい。自分の身体のことを考えず、最後に笑うのが黒幕であればいい。その気持ちが先立ち、自分の限界なんて何も考えていない。そのせいで、やたらと速かった。

 

「まずい、追いつけない……!」

 

 ビスマルクが悔しさで小さく舌打ちをする。このままでは危ない。このまま、最悪なことになってしまう。

 

 

 

 

 そして、それは現実となる。空に、施設側からの艦載機が見えた。それは姉妹姫のモノではない。瑞鳳のモノでもない。一番そこにあってはならないモノ。

 このせいで、欧州棲姫の姿が、()()の目に入ってしまった。そこからは、もう早かった。

 

 施設側からとんでもない勢いで突っ込んでくる、1人の戦艦。別個体であろうとも、それが欧州棲姫であるならば関係ない。その存在がトリガーとなり、簡単に理性を消し飛ばす。

 

Je l'ai trouvé(見つけた). Mon ennemi juré(私の怨敵)!」

 

 

 

 

 巨大な尻尾を展開し、欧州棲姫に向かって突撃するのは、溢れた復讐心に呑み込まれ発作を起こしたリシュリュー。

 その瞳には、目の前の怨敵を殺して殺して殺し尽くすまで止まらない、圧倒的な殺意が宿っていた。

 




支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/101570239
MMDアイキャッチ風監査組。今回の話では大活躍のお二人。監査中にその目を輝かせ、戦闘中でも知識により敵を圧倒する。この強者感。
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