空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

446 / 506
消耗が重なり

 欧州棲姫との戦いは佳境へ。ほぼ全員がその戦場に揃いつつある中、潜水艦隊が引き止め続けていた欧州水姫が、ついにその足止めを振り切ってしまったという。つまり、これ以上欧州棲姫に手間取っていたら合流されるということになる。

 欧州棲姫だけでもここまで粘られているのだ。ここにさらに欧州水姫に参戦されたら、もう流石に抑え切れない。どちらか片方を施設に接近させることになる。それは施設側の敗北条件だ。

 

「ヨナ、貴女達は」

『止めるために追ってるヨナ! でも、なんかすごく速い!』

「……Jawohl(了解). 無理せず追ってちょうだい。その速さならすぐにでもこちらに合流することになるわ」

 

 この通信はビスマルクと伊47だけではない。同じようにインカムを持つ施設の姉妹姫にも届いている。

 欧州棲姫との戦いは既に施設側からも見えている位置だ。欧州棲姫にも苦戦している現状は、姉妹姫もしっかり理解している。

 

「ビスマルク、来たぞ。水姫だ」

「予想以上に速いわね……」

 

 グラーフ・ツェッペリンの艦載機がその姿を捉えた。伊47から報告があってすぐと言ってもいいくらいのタイミング。

 

 欧州水姫を足止めしていた場所は、それなりに離れていたはずだ。少なくとも施設は水平線の向こうにも見えておらず、ここまで来るのにも全速力で時間はかかっている。

 それなのに、欧州水姫は自分達の数倍の速さでここまで来るということになる。命を燃やしながらの行動は、低速艦が高速艦になるレベルで全てを覆すようである。

 

Interception(迎撃)、ですか?」

 

 そのビスマルクとグラーフ・ツェッペリンの会話に聞き耳を立てていたのはコマンダン・テストだ。場を引っ掻き回してしまったことを償うためにと、率先して前に出る。欧州棲姫に対してリシュリューが動き続けるなら、コマンダン・テストは欧州水姫に対して動く。

 

「ええ、このスピードで施設に突っ込まれたら、流石に止めようがないわ。一応島の姉妹姫にも警戒は促すけど、止められるモノならこちらで止めたいの」

「ならば、私が迎え撃ちます。死を齎す者には、鉄槌を下さなくてはなりませんので」

 

 コマンダン・テストも、落ち着きを取り戻しているものの生への執着はより強まっている。リシュリューに慰められ、落ち着いたところに旧友であるグラーフ・ツェッペリンがここにいるため、激しい発作には至らない。

 ただし、元々の発作が死に繋がるモノを全て破壊するという若干矛盾した行動を取っていたため、それが落ち着いているとしてもやはり何処かズレていた。欧州水姫を止めるためには一切の容赦をしないという小さな矛盾。

 

「私も手伝おう。流石にコマンダン・テストだけでは荷が重すぎるだろう」

「Oui. 助かりますGraf Zeppelin」

 

 2人でブレーキになるかはわからないが、出来る限りのことはしなくてはならない。必要最低限の妨害で足止めをしなくては、施設の明日は失われてしまう。

 

「私は! あのお方のために事を成すのよ!」

 

 だが、欧州水姫にばかり構ってもいられない。欧州棲姫が現在進行形で施設を目指しているのだ。今でこそ仲間達がどうにか食い止めているが、少しでも気を抜けばそのまま抜かれてしまう。

 怪我まで治すようなブーストはかかっていないため、潮からの攻撃を喰らった場所はそのまま。特に発勁を喰らったことによる内臓の揺さぶりは確実に身を蝕み、内側からの崩壊を促しているほどである。

 それでも、意地でこの場に留まり続けていた。命を燃やし続けて、もう死んでいてもおかしくない状態なのに、忠誠心だけでより燃え上がる。

 

「ヒト様の幸せを壊すことで悦に浸るような奴の、何処に跪く理由があるというのよ!」

 

 そんな欧州棲姫の意地が気に入らないのはリシュリューだ。ただでさえ()()()()()()に復讐心が燃え上がるというのに、その信念までもが気に入らない。誰にも迷惑をかけずに静かに暮らしている者達の平和を破壊してまで、自分達の目的を達成しようとしているのが更に癇に障る。

 その怒りの復讐心を乗せた砲撃を連射。絶対に進ませないという気持ちも含まれているその砲撃は、確実な進路妨害となる。当然直撃を狙っているのだが、それは意地でも回避される。

 

「私達は、ただ静かに暮らしたいだけなのに、なんでこんなことをされなくちゃいけないんですか!」

 

 その回避先には、潮が回り込んでいた。リシュリューの容赦ない砲撃にあたることなく、当たり前のように掻い潜り、再び欧州棲姫に触れられる程の距離へ接近。

 欧州棲姫も、それを二度も三度も喰らうわけにはいかないと大剣を振るった。それを喰らえば潮とてひとたまりもない。

 

 しかし、潮はもう今までの潮ではなかった。飛行場姫からの教えを全て体現出来るところから、自分の中で別方向へと昇華。これまで見てきたこと、聞いてきたこと、したこと、されたこと、その全てが潮を成長させる要素となる。

 振り回された大剣をしゃがむように回避し、同時にピンポイントで大剣の腹の部分をかち上げるように拳を叩き込む。その反動は凄まじく、欧州棲姫といえど大剣を持っていられないくらいの衝撃を受けて、大剣が破壊される前に思わず手を離してしまった。

 これまでならばそうはならなかったが、限界を超えに超えているため、握力が僅かに減っていたのだ。それに気付かないくらいにまで追い込まれていたため、この一撃の重みに耐えられなかった。

 

「あのお方の願いは、叶えるべき願いなのよ! ()()()()を欲しているのなら、それを差し上げるのが私達の務め! そもそも、あの器はあのお方の持ち物よ! 本来の持ち主に返すべきとは思わないかしら!?」

「思わないわね。一度捨てておいて、また欲しくなったからタダどころかヒト様に迷惑をかけて取り戻そうとする奴の気が知れないわ」

 

 大剣を再展開する余裕も与えず、リシュリューが尻尾を叩きつける。これもギリギリ回避されるものの、風圧でフラついていたため、目に見えて消耗してきているのがわかる。

 

「まだだ! まだ終わらせん!」

 

 しかし、ここでついに欧州水姫がこの戦場に現れた。潜水艦隊やまだ動ける駆逐艦達の猛追を振り切って、猛スピードで突っ込んできたのだ。

 勿論それは見越している。それを止めるのがコマンダン・テストの使命。

 

「Graf Zeppelin、私が先行いたします。援護、よろしくお願いいたします」

「ああ、任せてくれ。こうやって君と組んで戦うなんて、思ってもみなかったぞ」

「私もです。では」

 

 欧州水姫の突撃に合わせ、コマンダン・テストも突撃。その尻尾をのたうたせ、グラーフ・ツェッペリンの艦載機と併せて迎撃態勢に入る。

 

「退け! 私はここで成さねばならぬことがあるのだ!」

「退きません。私はここを守らねばなりませんので」

 

 死を振りまく者に対して、怒りや悲しみが渦巻く中、コマンダン・テストは今まで以上に冷静だった。

 それは当然、自分の後ろにグラーフ・ツェッペリンがいてくれるから。リシュリューと同様に、旧友が背中を守ってくれているという頼もしさが、理性を失うような激しい発作を抑え込んでくれている。

 それ故に、敵の動きがよく見えていた。欧州水姫の猛烈な突撃も、その隅々まで見ることが出来た。

 

「私達の居場所を、壊させるわけには、行きませんから!」

 

 まずは砲撃から。牽制のためとはいえ、とんでもない精度の一撃が欧州水姫を襲う。

 だが、コマンダン・テストは戦艦ではなく水上機母艦。その火力は幾分か落ちる。そのため、欧州水姫は左腕の艤装で軽々と弾き飛ばす。

 

「退かぬならば、ここで死ぬがいい!」

「死にません。私には、仲間達がいますから」

 

 それでも勢いが止まらない欧州水姫だったが、コマンダン・テストを振り払うために動こうとした瞬間に、グラーフ・ツェッペリンの目が輝いた。今だと言わんばかりに艦載機に号令をかける。

 

Bombenangriffe(急降下爆撃)、行けぇ!」

 

 空母棲姫が繰り出すそれとは練度が違う、本家本元の急降下爆撃。それは、猛スピードで動く欧州水姫に襲い掛かる。渾身のとっておき。

 速度も精度もまるで違う虎の子は、今までの拘束──欧州棲姫の艦載機との制空権争い──から解放されたことで、より勢いを増していた。欧州水姫の間近にまで急降下を繰り出した挙句、本当にギリギリのところで爆撃を決めて急上昇していくほど。

 

「ぬおっ!?」

「我がStukaの本気だ。だが貴様には牽制にしかならないだろうな」

 

 その爆撃を受けても、欧州水姫は止まらない。左腕のみならず、右腕の主砲を犠牲にしてまでその爆撃をなんとか打ち払っていた。当然爆発はモロに喰らっているのだが、強固な艤装を犠牲にしただけで本体は殆ど傷を負っていない。

 これでも今までの足止めで相当消耗させられており、それを振り切るために余計に振り絞っているため、欧州棲姫と同様に自覚出来ないくらいに追い込まれていた。

 

「故に、我々は力を合わせるのだ」

 

 その爆撃の爆炎の向こう側から、コマンダン・テストの尻尾が襲い掛かる。その先端は、強靭な顎を持つ怪物の頭部。噛み付けばひとたまりもないだろうし、そうでなくても頭部甲板が直撃すれば軽傷ではすまない。

 そして、今の欧州水姫には、身を守るための両腕の艤装は失われているのだ。これを止める術は、何処にもない。

 

 今までの行動が全て積み重なって、欧州水姫はここまで追い込まれていた。命を燃やさざるを得ない状況にまで持っていかれ、そこからさらに追い込まれ、なんとか振り切って目的の場所を見つけたとしても、最後の壁としてコマンダン・テストが立ちはだかる。

 生への執着による暴走が無くなれば、それはただ、強力な戦闘能力を持つ深海棲艦の姫である。それ以上の力を持っている欧州水姫であっても、限界ギリギリの状態で抑え込める道理はない。

 

Je suis désolé(申し訳ございません). 私達は、生きねばならないのです。貴女達の言う器……姉姫と共に。だから、貴女達には渡せません」

 

 その頭部は、欧州水姫の胴体を完璧に捉えていた。

 

 それを見た欧州棲姫の方は、もう欧州水姫には頼れないと歯痒そうに歯軋りをし、自分だけでもこの場を切り抜けようと画策する。

 しかし、消耗だけで言えば欧州棲姫は欧州水姫以上だ。つい先程ですらフラついたくらいなのだから、もう耐えられないところまで来ている。

 

「貴女も、終わりなさい!」

 

 リシュリューの尻尾が欧州棲姫を薙ぎ倒そうと襲い掛かる。そのサイズからして、出来そうなのは跳び越えることくらい。当たり前だが、潮は既に回避済み。

 欧州棲姫も回避しようと力を入れたが、ここで本当の限界が見えた。水上バイク状の艤装に、ヒビが入った。今までの酷使の代償、そして、欧州棲姫自身の限界がカタチとなった瞬間である。

 

 もう避けられない。ならば、受け止めるしかない。しかし、この質量兵器を止める術など、欧州棲姫には用意されていない。

 

 

 

 

「……諦めて、なるものですか……!」

 

 その言葉と同時に、欧州棲姫はリシュリューの尻尾によって薙ぎ払われ、誰が見ても致命傷とわかるほどに吹き飛ばされた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。