正気を取り戻したリシュリューとコマンダン・テストの参戦、そして、命を燃やし続けた代償による消耗。それが綺麗に重なったことにより、2人の欧州姫は、リシュリューとコマンダン・テストによって致命的な一撃を受けることとなった。
「……まだ侮らないわよ。ギリギリでも何をしてくるのかわからないのが貴女達だもの。完膚なきまでに勝ちに持っていかせてもらうわ」
致命傷を与えたとしても、リシュリューは冷静だった。欧州棲姫がギリギリのところで口走った言葉が耳に入ったからである。
『……諦めて、なるものですか……!』
この期に及んでまだ諦めていない。もう誰が見ても敗北を喫したと感じられるくらいに攻撃が入ったはずなのに、まだ終わっていないと感じさせるくらいの意地を見た。故に、追い討ちにも躊躇が無い。
故に、打ち払った欧州棲姫に向けてさらに主砲を向けた。当然ながら、その射線上に施設なんてない。むしろ吹き飛ばした先は、島から離れさせる方向だ。それによって余計に躊躇は無くなる。
「終わりよ!」
そして、容赦なく砲撃を放った。
また、グラーフ・ツェッペリンにより繰り出された急降下爆撃の爆炎に紛れたコマンダン・テストの一撃は、欧州水姫の胴体を確実に捉えていた。抉るように食い込んだそれは、欧州水姫に致命的なダメージを与える。
「ぬぁあっ!?」
それを無理矢理弾こうとしたが、もう両腕の艤装は破壊されている。それがあるかのように艤装を殴ったとしても、流石にびくともしなかった。故に、欧州水姫も欧州棲姫と同じように吹き飛ばされる。
「……これで終わってください」
生への執着の発作が激しくなるが、理性を失うことはない。しかし、ここで自らの手で欧州水姫に死を与えたようなものであるため、顔色が悪くなっていた。
コマンダン・テストにとっては、
「終わらん、ここではまだ、終わらん!」
しかし、欧州水姫にも意地がある。自らが死にかけであっても、その目的を達成するために、最後の命を燃やす。これをやったら本当に死ぬとわかっていても、欧州水姫は一切止まることは無かった。
同じ目的を持つ仲間に思いを託すため、欧州水姫は今出来る全身全霊を懸けて砲撃を放った。それの狙いはコマンダン・テストではない。少し遠目に見える、欧州棲姫を狙うリシュリューだった。
「なっ……!?」
砲撃を放つ直前に欧州水姫からの渾身の一撃が飛んできたことで、即座に回避を選択。リシュリューから放たれた砲撃はあらぬ方向に飛んでしまい、欧州棲姫に直撃することは無かった。
それと同時に欧州水姫の主砲も爆発。この一発が最後の一発だった。
「行けぇ!」
「貴女の思い、受け取ったわ……!」
欧州水姫の声が聞こえ、欧州棲姫も最後の命を燃やす。あとほんの少しだけ進めればいい。それだけのために、もう殆ど燃え尽きている命を輝かせる。
これが正しいことに使われているのなら、誰もが応援するだろう。しかし、やろうとしているのは器の侵蝕。誰にも迷惑をかけず、ただのんびりと暮らしている者達の平和を脅かすだけの、一から十まで悪意の塊。これが許されるわけがない。
「何いい感じの雰囲気出しとんねん侵略者! ここで素直に終わっとけや!」
「あそこまでの瀕死なのに、何であんなに速いの!?」
すかさず黒潮と瑞鳳が追い討ちをかけるのだが、欧州棲姫のスピードは瀕死とは思えない程だった。砲撃は避けられ、艦載機でもすぐには追いつけない。
「ウシオ!」
「い、行きます!」
リシュリューに言われ、すぐに駆け出す。当然ながら、潮はここまでの戦いを続けていても一切疲れを見せていない。それもあってか、まともに対応出来そうなのは、潮と空母棲姫くらいだろう。宗谷は流石に追いつくこともままならない。
「往生際が、悪い!」
空母棲姫の艦載機が猛スピードで追うが、走り出しのタイミングの分、欧州棲姫の方が僅かに速く、そのせいで潮もその差が縮まらなかった。
何処からその力が出るのだと驚嘆してしまうものの、そんな暇はない。命が続く最後の最後まで黒幕に尽くし、器を手に入れるために死すらも恐れない欧州棲姫は、潮でなくても恐怖を感じてしまうほどである。
「くっ、仕方ない。もうこれしかないわね」
必死に追うが、火事場の馬鹿力を出されているせいで、ビスマルクですら追いつくことがギリギリ出来なそうであるため、本当の最後の手段に出る。
「姉姫! 自分の身は自分で守ってちょうだい! 欧州棲姫がそちらに向かってる!」
ここまで苦戦してしまったからこそ、一番控えたかった手段に出るしかなかった。それは、
戦いたくないからここにいる中間棲姫に戦わせるだなんて、誰もが心苦しいこと。しかし、この施設の中で最も力を持っていることも確かである。それこそ、中間棲姫を守るために力をつけた飛行場姫をも超える力を。
今回の敵は島に近付かせることすら許してはいけない。つまり、拳で戦う飛行場姫では中間棲姫を守りきれない可能性が高い。海上に出られる潮だからこそ近接戦闘が成立したのであって、島に乗り上げられたらおしまいと考えるべき。
「そんなことさせない! される前に私が、私が器を取り戻して、あのお方に……!」
このまま猛スピードで突っ込み、一切のブレーキを踏まずに中間棲姫に直撃。そして、未だ体内に保持し続けた
しかし、欧州棲姫は見誤っていた。中間棲姫の力を。覚悟を決めた施設の主の力は、黒幕の下僕では打ち崩せないことを。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。こうしなければみんなが不幸になってしまうの。でも、決めたのは私だもの。これを最初で最後の罪として、一生背負って生きていくわ。でも、これだけは言い訳させてほしい」
中間棲姫は艤装を自分の背後に展開し直し、宙を舞う3枚の甲板をまるで砲塔のように組み合わせて欧州棲姫に向けていた。
「これは、殺すための攻撃じゃない。弾なんて撃つことが出来ないもの。だから、
そして、爆音と共に放たれた。
中間棲姫が自分で言った通り、放たれたのは空気砲。弾というモノは存在せず、圧縮された空気が弾丸となって欧州棲姫に襲い掛かるのみ。
だが実態は、弾が無いためにその攻撃が一切見えず、しかし圧縮が凄まじいために弾丸よりも威力があり、さらにはその空気は通常の砲撃の大きさとは違う、生半可なモノでは無い一撃となっていた。
「っ……」
見えない攻撃は避けようが無い。だが、向かってきているのは確実。欧州棲姫は残された力を振り絞ってそれを回避するためにその場から横に跳んだ。これが避けられれば、もう勝ちは目前。目的は達成され、黒幕の望む未来が得られる。
だが、それだけでは足りなかったことを、すぐに身を以て知ることとなる。避けたはずなのに、掠るのではなく直撃した感触。
消耗した欧州棲姫の残った力では、それを避けられるだけの移動が出来ていなかったのだ。さらに言えば、艦娘や深海棲艦でやれる砲撃とは比べ物にならないサイズの攻撃だったというのもある。
「そんな、こんな終わり……あのお方に……っ」
空気砲が身体に触れた瞬間、圧縮された空気が解き放たれる。それはもう、身体の中心で竜巻が起きたようなもの。爆発よりは優しく、しかしダメージはそれ以上に甚大。身体は傷付けず、衝撃で体内が激しく揺さぶられる。
「っあ、おぼっ!?」
潮に殴られたそれとは比較にならない程の衝撃に、ついに耐えられなくなった欧州棲姫は、体内に隠していた
それだけでは終わらない。解き放たれた空気砲は欧州棲姫を舞い上がらせ、艤装も何もかもを粉々に打ち砕いていく。しかし本体だけは無傷のまま。
中間棲姫の思いがこもったその攻撃は、武力だけを全て破壊する力が含まれているようなもの。この施設の周囲に散らばっている、敵対する者を退ける力を集約したようなモノ。欧州棲姫に直接作用し、施設に仇成す要素だけを内側から消し飛ばしているのだ。
「っあ、あぁああっ!?」
艤装はおろか、命を燃やすブーストも失った欧州棲姫は、もう戦える力なんて残っていない。さらには、ブーストのせいで消耗され続けた命は取り戻すことも出来ない。
全てが失われた欧州棲姫は、そのまま海面に叩きつけられ、もうその灯火が消えるのを待つしか無かった。
「……残念……最後は……器自体にやられる……なんて……」
チラリと欧州水姫の方に目を向ける。あちらももう力尽きており、動けなくなっていた。最後の砲撃で力を使い果たしてしまったのだろう。ブーストで燃やし尽くされた命は取り返せない。
あちらにも
「そう……あの子も……負けたのね……」
全ての侵蝕が失われても、欧州棲姫は黒幕に心の底から忠誠を誓ったまま。命の灯火が失われそうなこの瞬間でも、命乞いすらせず、目的を達成出来なかったことを悔やむ。
「……申し訳……ございません……。これで……おさらばでございます……」
黒幕の泥によって食い潰されたことにより、命が消えると同時に肉体そのものが塵となって消えていく。これが侵蝕されていなければ、何かしらの遺物が残っていただろう。しかし、黒幕は自身の痕跡を残すことを極端に嫌う性質があるため、亡骸すらも消し飛ばす。
亡骸も残らず、
欧州水姫も同じように、指先から塵となっていた。こちらは中間棲姫の一撃を喰らっていないので侵蝕は残ったままだが、最期は跡を残さずに消滅していく。
「はっ、はははっ……いい戦いだった……目的を達することが出来なかったことは悔やまれるが……楽しませてもらったぞ……」
黒幕に届くわけがないのだが、空に手を伸ばす。しかし、そこから塵となって消えていき、最後はその存在そのものが霧散した。
体内に残されていた
施設の防衛はこれにて終了。全員がボロボロになりつつも、何とか黒幕の思い通りになることだけは避けることが出来た。