施設からの報告から小一時間程度、大塚提督が予想した通りの時間で、堀内鎮守府から向かってきた決戦艦隊が到着。施設から堀内鎮守府までの距離よりも長かったため、施設組は少々疲労を見せていた。
工廠には大塚提督と秘書艦の電、また今回の出撃メンバーとなる大和を筆頭にした6人の艦娘が出迎えに来ていた。電はさておき、他の面々は既に顔を合わせているため、対面にも抵抗が無い。
「決戦部隊第一艦隊、旗艦金剛、並びに随伴艦5名、到着デース!」
「第二艦隊……旗艦山風……随伴艦5名、到着……」
「ああ、よく来てくれた。艤装を一時的に明石に預けて、今は休息を頼む。明日のメンバーも同じようにしているからな」
大塚提督に敬礼しつつ、明日の決戦に向けての最終段階に入る。基本的には万全な態勢を維持するため、確実な休息と完璧な艤装整備を提供し、100%の力を発揮出来るように準備する。ここの明石は、そういったところは完璧だ。大塚提督が頼りにしているだけのことはある。
「施設から参りました。一応、筆頭は私でいいのかな……?」
「いいわよ。アンタが一番適任でしょう辿り着く者」
「はい、私達を率いるのは春雨姉さんで無ければダメです」
海風はともかく、叢雲すらも春雨に任せているのは、なんやかんやこのメンバーの中では春雨が最も
「一応変装はしてきてくれているみたいだな」
「余計ないざこざは無い方がいいと思いますから」
「ああ、ここで深海棲艦だからと揉め事を起こすのは合理的ではない。その選択はこちらとも一致している」
春雨達は、以前に堀内鎮守府に向かった時のように、本来の姿を模した制服姿である。どうしても春雨細胞の影響で赤みがかっているところはあるものの、色合いはさておき遠目で見れば艦娘としか言えない姿である。
春雨と海風、大鳳は義腕や義脚を隠しているために、本来の艦娘の姿とは違う部分もあるが、そこまで気になるところではない。明確におかしな場所がなければ大丈夫。
「お前達も身体を休めてくれ。部屋は用意してある」
「ありがとうございます。私達は入渠が出来ませんので、明日までは充分な休息をとった方がいいと思います」
「難儀な体質だな。ならば、修復材が含まれていない風呂も用意しておく。身体を清めることくらいはした方がいいだろう」
「ありがとうございます。助かります」
ここまで来るのに潮風に当たりながら長い時間を進んできたのだ。どうしても汚れというのは出てきてしまうため、風呂には入っておきたいと思うのは自然の摂理。施設でもしっかり風呂に入っているのだから、そういった生活習慣は変えたくないもの。
通常の艦娘と同じ風呂では、僅かにでも修復材が含まれているせいで酷い目に遭う可能性がある。そのため、提督が入るような普通の風呂を用意してくれるとのこと。それには深海棲艦一同は大いに喜んだ。
「決戦メンバー間での交流は好きにしてくれればいい。むしろ推奨する。明日の決戦で息が合わないだなんて起きてほしくないのでな」
「わかりました。以前の合同演習の時に話はさせてもらいましたが、最後の時間はそういうカタチで使わせてもらいます。勿論、身体は休めますね」
「そうしてくれ。……あと、来てくれた全員に話がある」
突然神妙な表情になる大塚提督に、春雨達だけでなく、金剛や山風もその話を聞くために耳を傾ける。
「施設から連絡があった。防衛戦が実施されたとのことだ」
ピリッと空気がヒリつくような感覚。その源は、春雨から。わかっていたこととはいえ、施設が、
だが、そこはどうにか抑え込んだ。今の春雨の怒りのバロメーターは服装変化というカタチで非常にわかりやすいのだが、今はとりあえずその兆候が少しだけ見えて止まる。春雨の瞳が紅く燃えるのが確認出来たのみ。
「結果は」
「無事に防衛を完了したようだ。しかし、話している間に姉姫が体調を崩したようでな。途中で退室した」
春雨はそれですぐに察する。戦いを好まない中間棲姫が少しだけでも戦闘に参加したことで、心身共に悪影響を受けたのだと。それくらいにまで追い詰められたとも理解する。
「……勝てたのは安心しました。でも、相当やられたようですね」
静かに、しかし怒りが確実に含まれている声色で、春雨は大塚提督に聞く。その時には怒りが溢れ、案の定服装変化まで発生していた。平和を望んでいる優しい中間棲姫が何故こんな目に遭わなくてはならないのか。それを思うだけで、春雨の内側から怒りが際限なく溢れ出る。
そんな春雨の手をすぐさま海風が握った。怒りを抑えるには姉妹の温もり。これが一番手っ取り早く落ち着ける。海風では足りないかもと、白露ももう片方の手を取った。
おかげで、少ししたらすぐに元の姿に戻る。怒りが溢れた存在であることは変えられないため、時々こういう発作を起こしてしまうのは仕方ないことである。
「詳しく聞いている。知りたければ話すが」
「お願いします。それに、無事にここに到着出来たことを伝えておきたいですし」
「わかった。ならば、休める者はまず休め。春雨、それと金剛と山風、お前達は執務室に来てもらう。堀内提督に到着したことを伝えなくてはいけないからな」
勿論、施設代表を春雨だけというわけにはいかないので、海風と白露も便乗。話を聞けば聞くほど、怒りが溢れて話が出来なくなる可能性がある。すぐにでも落ち着けるようにするべき。
大塚鎮守府執務室。小一時間前に終わった打ち合わせをもう一度するということで、連絡を受けた者達はすぐに決戦部隊の集結を察する。
施設側で画面に出たのは飛行場姫のみ。いつもなら中間棲姫が出るところなのだが、姿形を見せない。
『悪いわね。お姉はまだ休んでもらってるわ』
「構わない。不調な状態で参加されても困るだけだ」
少しキツめな言い方ではあるが、大塚提督の考えていることは意外とわかりやすい。中間棲姫にちゃんと休んでもらいたいという気持ちが節々から伝わってくるため、飛行場姫はそんな言葉に対しても何も言わなかった。
「妹姫様、無事到着しました」
『良かったわ。
画面越しの飛行場姫は、やはり何処か疲れた顔。防衛戦を終えた後からバタバタしているのが見てわかる。
飛行場姫側からも、春雨が一度怒りを溢れさせているのを察した。服装は元に戻ったものの、瞳の奥の焔がまだ残ったままだったからだ。
「話は聞きました。防衛戦があったのだとか」
『ええ、ご覧の通り勝って終わったけれど、怪我人も出てる。でも、誰も命に別状は無いから心配しないでちょうだい。お姉も体調を崩してるけど、少し休めば戻ってくるわ』
なるべく春雨を安心させるように話しておきたいのだが、事実を隠すわけにもいかないため、一度ここに参加している面々に話したことをもう一度話す。大塚提督に伝えてもらうでも良かったのだが、直接話せる機会があるのならば、施設の者の口から聞いてもらいたい。
話が進むにつれ、春雨の中の怒りは沸々と煮え滾る。その都度、海風と白露がその怒りを抑えるように手を握る。予想出来ていたこととはいえ、それを知ってしまうとどうしてと怒りに繋がる。
「わかりました。とりあえずみんな無事ではあるんですね」
『ええ。重傷の松竹とリシュリューは、処置をしてゆっくり休んでる。安静にしていれば、そこまで時間もかからずに治るでしょ。でも、一応常に確認だけはしておくわ』
「はい、そうしてください。大丈夫だと思いますが、万が一がありますので」
今でこそ安静にしていれば問題がないという状況ではあるものの、そのダメージを与えたのが欧州姫2人なのだ。それ自体に何か仕込みがあってもおかしくはない。
春雨の直感は問題ないと言っているものの、毎回それが正しいとは限らないのだから、万が一を考えれば常に見ておいた方がいいだろう。あらゆる装置で経過観察をするべきとも思われる。
幸いにも、今はまだ堀内鎮守府からの増援は施設に残ってくれている。応急処置をした宗谷も勿論その場にいるのだ。的確な処置はしてくれるはず。
『こちらはアンタ達の居場所を守りきったわ。後は任せたわよ』
「はい。朗報を持ち帰ります。絶対に」
力強く返事をする春雨。自信に満ち溢れているということではないのだが、溢れた怒りから、黒幕のやり方だけは絶対に許さないと決意に満ち溢れていた。
「すまないが、ここからはこれからの進め方について話したい。構わないか」
「あ、はい。ありがとうございました。現状把握、よく出来ました」
春雨達には知っておきたい情報が展開されたため、ここからは最終決戦に向けての打ち合わせ。施設が守られたということで、ひとまずは心配事の1つが失われたとし、本題の方に入った。
「最後の整備はしていくが、基本的には調整で終わるだろう。防衛戦の戦果を取り入れ、拠点周りの敵の手段を割り出し、作戦を修正する。少なくとも、命を削る強化という今までに無かった戦術を見せつけられているからな」
今までのブーストとは雲泥の差。強烈な強化によって、たった1人に数人をつけても苦戦するレベル。今回はあちらの目的が施設に向かって
これが目的が皆殺しだった場合、命を引き換えに数人がやられていたかもしれない。そう考えるとゾッとする。
そして、その皆殺しを目的とした命を燃やすブーストが、拠点周りでは行なわれることになるだろう。黒幕の考え方からして、自分が無事ならば駒は死んでも構わないとする。そこにある命が全て失われれば、自分は生き残れるのだから、それこそ仲間達を自爆させてでも春雨達を始末しようとしてくるだろう。
『それについては気をつけてとしか言えないのが現状ね。敵は黒幕のためになら命を捧げるような狂信者。死に物狂いのモノほど恐ろしいものはないわ』
『生きたいという枷が無くなりますからねぇ。そういう輩はうもすもなく始末が一番簡単だとは思いますけど、それが強制されてるのなら、救えるものなら救いたいですよね』
山寺提督の軽い口調が少し場を和ませるものの、内容は相当危ない。命を捨ててくる者ならば、命を奪ってでも止めるしかないという非情な選択。しかし、侵蝕によりそれを無理矢理やらされているのなら止めてやりたいというのもある。
これは多少合理的な考えにも関わってくる。侵蝕を失わせ、正気に戻ったところで味方に加えれば、敵は減って戦力は増強と至れり尽くせりだ。今まで敵がやってきたことを、そっくりそのままこちらがやるだけ。
『そのために作られたのが、RJシステムだ。そうだね、龍驤』
「せやな。ウチがここにおるのは、そういう理由もある」
山風の髪の中からひょっこり現れた龍驤が力強く宣言する。
だが、心の底から忠誠を誓っているような連中だけはどうにもならない。そして、それが自爆してくるようなことがあったら目も当てられない。
その時は、苦渋の決断として始末しか無いだろう。中間棲姫のような、全ての武力を吹き飛ばす力は誰も持ち合わせていないのだから。
「方針として、この龍驤によって正気に戻った者は保護し、それでもダメだった者は討伐対象とする。これでいいだろうか」
『それしかないわね。容赦なくいかなければ斃せないような敵だもの。なるべく救いたいという姉姫の気持ちは汲み取るけれど』
『お姉には納得してもらうわ。でも、結果が出るまでは伝えないことにする。まぁ……お姉のことだから察するとは思うけど』
決戦の方針も決定。後は、その時が来るのを待つのみ。
時間が空いているため、改めて決戦艦隊を記載しておきます。作者も忘れそうなので。
第一部隊:金剛、比叡、千歳、千代田、武蔵、サラトガ
第二部隊:山風、江風、涼風、荒潮、島風、吹雪
施設部隊:春雨、海風、叢雲、白露、古鷹、大鳳、コロラド
大塚艦隊:大和、川内、鹿島、雷、夕雲、長波