空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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泥の傀儡

 RJシステムにより黒幕の拠点周りに展開されている敵対する者を弾く結界を突破することに成功したのだが、そこで待ち構えていたのは拠点を守るような配置されたイロハ級の群れ。その全てに泥が注入されているようで、強化は確実。現に、盾持ちの戦艦が武蔵の砲撃を受けても一撃で沈むようなことが無かった程だ。

 それだけなら良かったのだが、問題はここから。群れの中のイ級が数体前に出てくると、泥が増幅し、グチャグチャと纏め上げていく。複数体いたはずなのに、組み合わさっていくごとに1体の質量になっていく。

 

 そしてその泥が内側に吸収された時、そこに現れたのは白露のカタチであった。

 

「……白露……姉さん……!?」

「な、なんで!? あたしここにいるが!?」

 

 一番驚いたのは白露本人である。当たり前だが、仲間の白露はみんなと共にここにいる。思わず白露の方に視線を向ける者だっていた。だが、泥から生まれた白露は、その白露と瓜二つ。しかし違うところも勿論ある。

 深海棲艦由来の真っ白い肌はさらに白く、その瞳には生気のようなものがまるで感じられない。まるで()()のような見た目である。それに、服装までは再現出来るわけではなく、首から下は全て泥で出来たラバースーツのようなモノで覆われていた。それこそ、まるで傀儡だと言わんばかりに無機質。

 

「……もしかして、白露姉さんの情報はあちら側にあるということなんじゃ……」

「元々向こう側だったからってこと!? じゃあアレか、あたしのDNA情報だけは控えているとかそういうことか!」

「かもしれません。それに、だとしたら……」

 

 春雨が言う前に、イロハ級の群れが次々と泥による融合をしていく。グチャグチャと音を立てながら複数体の深海棲艦が1つに纏まっていく姿は異様、いや、()()としか思えなかった。

 

 このまま放置していたら、同じように泥の傀儡が増えていく。そして、見た目通りならば異常な力を発揮されかねない。生まれたばかりだからか動かない泥の白露がどれほどの実力を持っているかはわからないが、一筋縄ではいかないことくらい、誰にでもわかることである。

 

「これは止めねばならないな! 大和!」

「ええ、ここで出し惜しみなんてしていられないわ。やりましょう、武蔵!」

 

 ここで武蔵が動き出す。大和と共に、この異様な光景を止めるために、全身全霊の一斉射を繰り出す。

 

 2人が揃うことで行なわれる一斉射。この攻撃方法が使用出来る者は限られており、いわゆる()()()()()()にのみ許された必殺技である。

 その中でも、大和と武蔵が組んだ一斉射──通称『タッチ』の破壊力は、全艦娘で見てもトップクラス。イロハ級であろうが姫であろうが、何もかもを薙ぎ倒し、草一本も残さない最大級の破壊力を誇る。

 ただし全砲門から連射するというその性質上、連発出来ない上に本人への影響、疲労感なども大きいため、使いどころが難しいというのもあった。戦場のど真ん中で疲労感で動けないなんて言われても困るだけだ。

 

「これが、艦娘トップの火力だ!」

「全主砲、全力斉射!」

「行けぇ!」

 

 一切の容赦なく、武蔵と大和は並んでありったけを撃ち始めた。その耳をつんざく爆音が、強大な火力を物語っていた。それでいて狙いもしっかりつけているため、無駄弾となり得る砲撃は基本的には存在しない。

 だが、これでもどこまで止められるかわからない。少なくとも敵の戦艦が、本来ならば一撃で沈むであろう火力を真正面から受けて沈むことが無かった程なのだ。連射をして貫けたとしても、そこにさらに盾を被せられたら、本命にぶつかることは無くなってしまう。故に、武蔵も大和も撃ち続けるしかない。

 これによって周囲のイロハ級が減れば、それはそれで戦いやすくはなる。泥から生まれてくる者達が減ればさらにいい。

 

 しかし、それを野放しにするようなことはあり得ない。早速最初に産み落とされた泥の白露が動き出す。

 表情一つ変えず、武蔵に視線を向けると、軽く海面を蹴る。その瞬間、見たこともないような速さで突撃開始。艤装らしい艤装も装備していないように見えるからか、あまりにも身軽。それでいて、施設を襲った2人の欧州姫のように命を燃やしたブーストも健在だろう。

 一斉射の最中にまるで違う方向から突撃をされては、簡単には対応出来ない。無防備とまではいかないが、そちらに意識をやると一斉射が疎かになる。そうなれば、あのイロハ級の融合がさらに止められなくなる。

 

「邪魔はさせないわよ!」

 

 それと同時に動いていたのは叢雲だった。いつもの槍によって、泥の白露の進路を妨害。叢雲も素早さには自信があるため、その突撃を食い止めることに成功。

 むしろ、ここでの叢雲は仲間を守るという理由以外の行動原理があった。それは、姿()()()()()()()()()()()身体が動いたと言ってもいい。

 

「こっちの白露とは違う、()()()()()()()()が来てくれてありがたいわ! 私のこの怒りと、憎しみと、恨みを、ぶつけさせてもらうわよ!」

 

 そう、本来の叢雲は白露や古鷹に怒りを持っている存在。仲間となった今ではしっかり和解をして共存もしているのだが、その分、怒りを抑え込んでいたと言える。

 そこに敵として出ていた泥の白露。叢雲の中で抑え込まれていたその怒りを、激しく燃え上がらせる理由となる。仲間意識が芽生えているからこその激しい怒りな部分もあるが、本人は確実に否定。

 

「私を殺した恨み! 絶対に許さない! 細切れにしてやるわよ!」

 

 黒幕への怒りも完全に爆発している。抑え込む必要もない。完全に殺すつもりで槍を振るった。

 

 だが、泥の白露はその槍を片手で軽々と受け止めると、強引に自身に引き寄せた。その膂力は、見た目とは完全に一致しないくらいに強く、このまま引っ張られたら体勢を崩す上に泥の白露の身体に飛び込むことになるだろう。

 槍を引っ張るだけでこの力ならば、その拳を攻撃に転じられたら、ダメージも相当に大きい。一撃で骨の数本は持っていかれてしまう。

 

「させないわよ!」

 

 叢雲は咄嗟に槍を消した。その時には、泥の白露は逆側の手を握りしめ、腹に一発入れるつもりだったため、叢雲のこの判断は大正解だった。

 

「すまん!」

「私はコイツの顔が気に入らないだけよ!」

 

 軽く叢雲に詫びを入れる武蔵だが、対する叢雲は助けたつもりはないと泥の白露から視線を外さなかった。

 

「一斉射だけでは足りんか!」

「壁が無くならない……!」

 

 イロハ級の融合を食い止めるために放っている一斉射だが、あちらもそれを良しとするわけがなく、融合していないイロハ級が命を捨てるように壁になっていた。

 おそらく、泥に侵蝕されたことで意思そのものが消されている。黒幕のいいように使われるための哀れな人形にされ、命を散らすことにも何の抵抗もない。そもそもが侵略者気質なイロハ級ならば、それも簡単に受け入れて自分を捨て去ってしまうのだろう。

 

「だったら、私達も一緒に!」

「砲撃で足りないなら、空爆も入れるよ!」

 

 ここで動き出したのが千歳と千代田だ。砲撃だけでは壁が阻むというのなら、その壁を乗り越えた先から殲滅してしまえばいい。そうなると、必要になるのは空母の力だ。

 2人同時に艦載機を発艦させ、融合途中の泥の塊に向けて爆撃を仕掛けていく。砲撃を止める壁なんて上空から飛び越え、止めることもさせずに一撃を入れればそれでいい。

 

 しかし、イロハ級には空母もいる。制空権争いは当然のように始まるだろう。あちらは守るだけでよく、艦載機を犠牲にすることも厭わないため、突き抜けるのは至難の業。

 それでも千歳と千代田は屈するわけが無かった。艦載機すらも壁に使われようが関係ない。それをすり抜けて爆撃だけを確実にぶつける。そのために、2人同時に艦載機に指示を開始。

 

「ごめんなさい、少しだけ無理をして!」

「隙間を縫うように!」

 

 千歳と千代田の力が注ぎ込まれるように艦載機の動きが加速する。その時、2人の持つカラクリ人形のような艦載機の模型が、淡く発光を始めた。

 

 空母の力を存分に発揮するため、千歳と千代田はこのカラクリ人形を介して艦載機そのものに自身の力を送り込む仕様を取り入れていた。開発者は勿論明石である。

 当然そうする分消耗が激しくなるのだが、ここで惜しむ理由はない。それに、すぐには消耗しないように鍛えていた。こういう時、砲撃が通用しないのならば、方向性を変えられる空母が全力を出す。

 

 2人の力が注がれたことで、艦載機の動きも格段に良くなった。敵艦載機が邪魔立てしようと進路を塞いでも、その一瞬の隙をつくように隙間を突き抜け、一気に引き剥がしては爆撃を仕掛ける。

 時には急降下爆撃まで繰り出し、確実な妨害を実現した。結果、グチャグチャと融合していく泥の塊は、融合途中で爆撃を受け、何も生まれずに爆発四散する。そうなってしまえば、待っているのは確実な死だ。

 

「それでも数が多すぎるけども……!」

「いくつかは妨害出来てるけど、全部は難しいよ!」

 

 千歳と千代田の活躍で、一部の融合は食い止めることが出来た。しかし、まだまだ数が多すぎる。拠点周りに一番力を入れているのは、やはり黒幕のその引きこもり体質のせいなのかもしれない。自分のやることを邪魔されたくないという思いの表れか。

 こうしている間も、別に武蔵と大和や千歳と千代田だけが戦っているわけではない。壁を取り払い、融合を阻止するために、全員が一丸となって抵抗している。壁を取り払って融合を阻止することが今の一番の目的。

 

「コイツ……鬱陶しいわね!」

 

 その中でも、既に生まれてしまった泥の白露と拮抗しているのが叢雲だった。槍を振るうものの、それがどういう攻撃であっても簡単に受け止められてしまい、手痛い反撃を喰らいそうになるため、槍を消して再展開というのを繰り返している。

 とにかく動きが洗練されている。いや、むしろ本能に身を任せて危険を察知し、そのあまりある力をリミッター無しに使い続けていることで、無理矢理叢雲を圧倒していた。

 生まれたばかりであっても、命を燃やすブーストで圧倒する。そして、やることをやればそのまま力尽きる。そうしている間に新たなイロハ級がまた泥の傀儡に纏め上げ、さらに圧倒する。

 

 最悪な泥の軍勢が、ここで無尽蔵に生まれようとしている。これは、RJシステムでも止めようが無い。

 

「叢雲、手伝う!」

 

 そこに割り込んだのは、他でもない白露だ。自分と同じ姿をした泥人形なんて、すぐにでも排除したいと思うのは当然のこと。自分で自分を殺すというのは精神的にもキツいが、やらねば最終的には敗北に繋がるだろうから、ここは冷静に確実に始末する方向。

 

「アンタにいられると間違いそうになるのよ!」

「気持ちはわかるけど冷静になるためにも、さぁ!」

 

 泥の白露から繰り出される攻撃は、こうしている間にも精度を増し、練度すらも増していく。最初は徒手空拳だけだったものが、ラバースーツのような泥が主砲を作り出して砲撃まで放ってくるようになっていた。

 叢雲は槍を回転させることでそれを弾き飛ばし、白露は冷静にそれを回避。時間が経てば経つほど強化されていくため、それに対応しなくてはならなくなる。

 

 

 

 

「……やっぱり」

 

 そうしている間にも、どうしても融合を阻止出来ないものが現れてしまう。そして、そこから生まれたものを見て、春雨は苛立ちを抑えきれなかった。

 

 生まれた泥の傀儡の姿は、龍驤と大鳳。空母の力が必要であると考えたか、そこに対応するカタチでそこに現れた。

 

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