空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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トリガー

 黒幕の拠点周りに現れた泥の傀儡。最初は白露の姿を取っているモノから始まり、制空権争いが必要と考えたが、龍驤と大鳳の姿の傀儡が生まれていた。

 その2人は早速、泥で出来た艤装を操り、泥で出来た艦載機を飛ばす。その力は異常とまではいかないものの相当な力を持っており、千歳と千代田に軽々と拮抗する勢い。

 

「厄介なのが出てきたわね……!」

「でも、簡単に負けるような鍛え方してないんだから!」

 

 2人揃ってカラクリ人形を操る。同時に、2人の艦載機にも力が宿り、より鋭い動きを可能にした。ご丁寧に真正面から突っ込んでくる敵艦載機には、回避しながらも射撃を直撃させ、上を取ろうとドッグファイトを仕掛けてくるような敵艦載機には、より高度なテクニックでさらに上を取り爆撃を決める。

 この戦いの前に必死に熟練度を上げた甲斐があり、ここでの制空権争いはかなり優位に立てている。泥で作られた即席の空母隊であれば、命を燃やすブーストがかかっていようが関係ない。こればっかりは、経験がモノを言う。

 

「まだ増えそうね。千代田、もう少し出しましょ」

「了解! 攻撃機発艦!」

 

 さらに艦載機を増やして、一気に力を送り込む。艦載機を増やせば増やすほど、千歳と千代田の消耗は激しくなるのだが、そこで加減するわけにはいかない。

 それを繰り出してくるのが今の仲間と同じ外見をしているとしても、敵は敵だ。特に龍驤の外見を持っている泥人形は、今でこそ仲間であるが敵であった期間が長かった上に、やっていたことが極悪であるため、割と容赦なく攻撃が出来る。

 RJシステムで周囲を見守っている龍驤としては複雑な気分だったのだが、そうなっても仕方ないと割り切っているため、むしろもっとやれと応援するレベル。

 

「手伝うわ。あちらが私を使っているんだもの。私がこちらに来ないと話にならないでしょう」

 

 そこに大鳳が参戦。模造品が完全に大鳳と同じ能力を持っているというのならば、艦載機を発艦させつつ、近接攻撃まで繰り出してくる。空母である千歳と千代田では、流石にそこまではカバー出来ない。

 故に大鳳が刀を抜きつつ2人の前に立つ。そのタイミングが完璧であり、ちょうど2人に向かってくるところだった。泥で生成された刀を握りしめて。

 

「あっぶな! お姉、ちょっとだけ離れよう」

「大鳳さん、少しだけお任せするわね」

「ええ、私がどうにかしなくちゃいけない相手だもの。でも」

 

 泥の大鳳が踏み込みながら振り下ろした刀を、大鳳が払い除ける。泥の白露と同様に、その膂力は並ではないが、大鳳は関係ないと言わんばかりに片腕で。

 

「貴女はまだ侵蝕されていた時の私のニセモノでしょう。だったら、私より確実に弱いわ」

 

 使っているのは右腕、つまりは義腕。生身の時よりも鍛え上げ、より強くなったその腕で、偽物を圧倒する。とはいえ、甘くは見ていない。曲がりなりにも過去の自分と同等な力を持つ者。気を抜けば出し抜かれることは一目瞭然。片手で捌こうとしても最後は無理が出てくる。

 

「1人で戦うのは良くないよ。私も手伝うから!」

 

 そこに乱入してくるように飛び込んできたのは比叡。同じ刀を使う者同士として親近感が湧いたか、共闘を申し出た。

 

「私のコピーなら私が」

「じゃあそっちは任せた。ほら、もう1人いるんだから!」

 

 大鳳同士の睨み合いに割り込んでくるのは比叡だけではない。敵空母隊には泥の龍驤もいる。過去の力を使ってくるというのなら、徒手空拳や砲撃、雷撃までもを駆使してくるだろう。その2体相手では、どうしても大鳳が不利になる。

 案の定、大鳳に向かって泥の龍驤から雷撃が放たれていた。泥の大鳳と同時に向かってきている辺り、これは狙っての行動。考えてではなく、本能で連携を始めている。

 

「やらせ、なぁい!」

 

 その魚雷は、比叡が刀剣を激しい勢いで振ることによって爆砕。砲撃よりも斬撃の方が性に合っているのか、撃って破壊すればいいモノを、風圧による破壊で押し通してしまった。

 

「あ、相変わらず凄まじいですね」

「褒め言葉だよね、それ!」

「勿論」

 

 自然と口角が上がる。比叡と背中合わせに戦うのが楽しくなってきていた。

 

「それじゃあ、確実に終わらせるよ!」

「はい。行きましょう!」

 

 2人揃って刀を構える。これならば、相手がどれほど強大な存在でも折れることはない。そうでないのなら尚更だ。

 

 

 

 

 だが、そうしている間にも融合が完了していく。最初の白露はさておき、龍驤と大鳳を作り出したのは、この融合を邪魔させないように。他の者が食い止めようとしても、それをさらに邪魔するイロハ級達のせいで融合は止まらない。

 瞬殺するくらいしか止める手段がなく、そんなことが簡単に出来るものなんて片手で数える程しかいない。

 

「私が出てきてる……!」

 

 ここで現れたのが古鷹。その場で作られた複製品とはいえ、一部劣化していても重巡洋艦の皮を被った戦艦である。当たり前のように尻尾の艤装を生やし、手近だったからであろう自分自身へと襲いかかった。

 

「前までの私なら厳しかったかもしれないけど、今なら!」

 

 模造品が尻尾を前に構える。これは確実に砲撃の構え。対する古鷹も同じように主砲を構えた。砲撃に砲撃を重ね合わせる作戦である。

 そんなことをしたら神経を酷使するようなもの。スタミナ不足だった頃の古鷹であれば、1回実行するだけで相当体力を持っていかれる。多用なんて以ての外。

 だが、今の古鷹はそのスタミナ不足をある程度克服している。多少の無茶をしても、突然倒れるようなことはない。仲間のために動くのならば、躊躇うことなんてどこにも無い。

 

 砲撃は全く同じタイミング。同じ照準。放たれた瞬間にその中間地点で衝突し、爆発を引き起こす。

 

「古鷹、1人で無茶したらNoなんだからネ」

 

 さらにはそこに、金剛が手助けに入った。その爆風を吹き飛ばすように砲撃を放ち、泥の古鷹を確実に消し飛ばすために全力を発揮する。

 

「おね、金剛さん!」

 

 思わず古鷹の中の榛名が出てきかけたが、そこは弁えるように言い直す。そんな古鷹の様子を見て、金剛はニッコリと笑顔を向けた。

 

「んふー、今はお姉さまでも全然OKネ。古鷹がやりやすいように、ネ」

「あ、あはは……何かすみません。それでは……」

 

 尻尾から艦載機を吐き出させて周囲に飛ばしながら、泥の自分を見据える。砲撃の相討ちと金剛の砲撃を回避し、未だにピンピンしているそれは、無感情の瞳で2人を眺めていた。

 

「行きましょう、金剛お姉さま!」

「Okay. 力を合わせてネ!」

 

 2人並べば、どんな敵でも脅威と感じない。それがかつての自分であったとしても。

 

 

 

 

 仲間達の奮戦によって、融合は最低限に抑え込まれているのだが、それでも完全に止めることは出来ない。

 今回の敵は救うとか生かすとかは考えていないため、容赦なく噴き飛ばしていく。春雨も今回ばかりは手加減など出来ない。

 

「数が多すぎる……武蔵さん達の一斉射でも止まらないなんて」

「斃しても斃しても湧いて出てきますからね。幸いそこまで強くないですが、どうしても……」

 

 海風が言う通り、斃したとしても次から次へと現れるのがイロハ級。拠点の方から向かってくる者もいれば、海中から浮上してくる者もいる。そして、ある者は壁となって自ら命を散らせ、ある者は攻撃に転じて融合の邪魔をする者達を逆に邪魔をする。

 

 泥で強化されていても、春雨達にとってはまだ戦いやすい相手だった。何故なら、今までのように命を救うために戦っていないから。

 

「鹿島さん、そちらはどうですか!」

「拮抗です! 押されているわけでもありません!」

 

 大塚鎮守府の艦隊は、一部の者を除いて、この手の敵と戦うのは初めてのこと。だが、これまで手に入れてきた情報と、ここまで辿り着くまでにこなし続けてきた訓練のおかげで、堀内鎮守府の艦娘達に匹敵するような動きを見せていた。

 特に大きな影響を与えているのが、実際に戦った経験のある鹿島と雷。鹿島の指揮能力と雷の視野の広さによって、1体ずつを手早く確実に始末していく方針で進めていた。大和が武蔵と一斉射を続けているため、5人で2体3体を相手取り、的確に沈める。

 

「普通のより硬いくらいで、斃せない相手では無いね。長波、さっと終わらせるよ」

「ウッス! 夕雲姉もついてこいよ!」

「長波さんに言われるまでもありませんよ。これでも、鎮守府では上の方に位置させてもらっていますからね」

「みんなが仲良くて嬉しいわ! でも、あんまり乱暴なのはダメよ。電が泣いちゃうから」

 

 四者四様のテンションではあるが、向いている方向は同じ。無限と錯覚するほどに湧いて出る敵をこれ以上増やさせないように、全力で処理に取り組むのみ。

 

 しかし、またもやイロハ級の融合により、敵の強力な戦力が増える。しかも、その姿は春雨の怒りをさらに掻き立てる。

 

「……本当に、嫌がらせばかり……」

 

 ボソリと呟くのも無理は無かった。現れたのは3体。白露ではなく、白露に混ぜ込まれた者。時雨、村雨、夕立。勿論、本人とは別物だし、同じ顔の別人ですら無い。泥で作られた模造品。艦娘とも深海棲艦とも言えない存在だ。

 ここまでの3人は、魂を混成されたことにより人類に敵対()()()()()者達の模造品だった。その本人がここにいることを確認してそうしたのならば、余計にタチが悪い。

 

 しかし、次に現れたのは、よりによって魂の混成で()()()()()()()である。数を増やすためなのかもしれないが、あえて白露を複数体出すのではなく、その中に入っているモノを出してきたのは、黒幕が直感的に春雨の癇に障る手段を選び取ったとしか思えない。

 

「外側だけじゃなくて、内側も人形にすることが出来るんだね。本当に本当に……タチが悪い」

 

 これには春雨も怒り心頭。ゴウとその瞳から紅い焔が舞い散ると、その能力にトリガーが引かれる。最善の答えに辿り着く力から、望み通りの答えに辿り着く力へスイッチ。

 

「海風、私が1体止める。確実に始末して」

「わかりました」

 

 視界に入った姉の泥人形、その一番手近にいた泥の夕立を睨み付ける。以前は泥が微生物の群衆であるために止めることが出来なかったが、こちらはあくまでも融合したのが数体だったおかげで、その力が効いた。

 周囲に黒幕の泥が目に見えないカタチで散布されているため邪魔をされるかと思っていたが、そこはRJシステムがしっかり効いており、この戦場の邪魔をしそうな泥は取り除かれている。

 

「止めた。行って」

「了解」

 

 どれだけ力を持っていても、動けなくしてしまえば斃すのは簡単。守りも何もあったものではないため、一撃で死を与えることができる。

 淡々と、泥で作られた姉を始末する。精神的にはかなり辛い。一度死んだ姉を、自分の手でもう一度海に返すだなんて、泥人形であっても気分がいいものではない。

 

「イライラする。まるでこちらの嫌がることがわかってるみたいで」

「ですね……。なんで姉さんを手にかけなくちゃいけないんでしょう」

 

 春雨のみならず、海風も苛立ちを隠さなくなってくる。これ自体が()()()()()()()()()()()()()()という考えが生まれ始める。

 

 

 

 

 泥人形との戦いは苛烈極まるものに。しかし、春雨は何か違和感を覚え始めていた。

 

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