空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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その目は何処に

 泥人形との戦いは続く。どうしても撃ち漏らしが出てくるところで融合が完了し、次々と泥人形が増えてきていた。当然ながら容赦なく、仲間の顔をしていようが躊躇なく、確実に始末をしている。

 それはもう、艦娘でも深海棲艦でも無い、救うことすら出来ない()()()()。黒幕に生き方を滅茶苦茶にされ、意思すら奪われた、ただ生きているだけの使い勝手のいい駒。救えたとしても、泥の効果で命は失われる。

 

「ヒト様の姉の姿を用意するのは、流石に悪趣味としか思えない、ね!」

 

 泥の夕立を海風に討たせた後は、視線を泥の村雨に向け、今度は自分の手で始末する。せめて苦しませないようにという思いからか、心臓を一撃。

 

 動き回られるのなら苦戦するかもしれないが、今の春雨は姉の姿を使われたことによって怒り心頭状態。その力が望む通りの答えに辿り着く力へとスイッチしているため、敵に『動くな』という望みをぶつけることでその動きを止めている。

 

「あとは、時雨姉さん!」

「春雨姉さん、私がやります」

「任せるよ!」

 

 すぐさま視線を泥の時雨の方へと向ける。これまで海風に対して猛攻を仕掛けていた泥の時雨も、その瞬間に動きがピタリと止まった。

 そして、間髪容れずに海風が砲撃を放ち、一撃で終わらせる。心臓を撃ち抜いたことで機能停止に追い込むことが出来ることは、泥の夕立にも泥の村雨にも有効だったため、躊躇さえしなければ確実に終わらせることが出来た。

 春雨も海風も、一応割り切ることが出来ていた。見た目は尊敬する姉の姿ではあるが、実際はそれとは違うもの。それを自らの手で始末することに抵抗はない。

 

 いや、抵抗が無いわけでは無い。辛い、とても辛いが、こんなカタチでその姿を利用されている姉達があまりにも哀れで、死を冒涜されていることに怒りが溢れる一方。

 故に、早急に終わらせてやるという気持ちで、姉のカタチをした人形を容赦なく叩き潰す。その散り方は記憶しないつもりで。それを覚え続けていたら、間違いなくトラウマになる。

 

「終わったね。じゃあ、次に行くよ」

「はい、姉さん」

 

 泥人形は始末するとそのまま泥へと戻るように溶けた後、そのまま塵となって消えた。春雨達は知らないが、施設側で戦いを繰り広げた欧州姫達も、溶けることは無かったが塵となった。命を糧に強化された者は、その身体すら残らないようである。

 そんな終わり際を、春雨も海風もあえて視界に入れなかった。姉の姿の敵が消える瞬間なんて知りたくもない。

 

「白露姉さん、叢雲ちゃん!」

 

 怒りのままに、その視線を泥の白露に向ける。近くにホンモノの白露もいるのだが、流石に春雨がそれを間違えることはない。

 

 春雨が参戦する前は、叢雲と白露の2人がかりでも、なかなかに厄介な存在だった泥の白露。ホンモノの白露とは少し攻撃の手段が違うものの、混成状態での攻撃は据え置きであったため、村雨の鎖すらも使ってきていた。

 それには白露自身が対応出来たため、白露が徹底して叢雲をサポートしつつ、攻撃の隙を作っていくのだが、それでも一筋縄ではいかなかった。

 

「大丈夫よ。こっちは終わらせた」

「あたしとしてはすっごい複雑な気分だけどね!」

 

 しかし、流石は2人と言ったところで、泥の白露は既に塵と化している途中。その胸にはしっかりと叢雲の槍が突き刺さっており、連携がうまく行ったことを物語っていた。

 自分の顔の敵を斃すということに気分を悪そうにしていた白露ではあるのだが、叢雲が()()()()()として使っているのには、罪悪感もあることで肯定的。故に、複雑ではあるものの抵抗なく援護も出来ていたようだ。

 

「根本から絶たないと厳しいだろうね。叢雲、何か感知出来ない?」

「湧いて出てくる泥ばかりよ。知ってか知らずが、私の感知が対策取られてるように感じるわね」

 

 チッと聞こえるくらいに舌打ちをする叢雲。泥人形は勿論のこと、そうなる前のイロハ級も当然感知の範囲内に入ってくる。どれがどれだかもわからず、例えばこの無限に湧いてくるイロハ級の()()的な部分もわかるはずがなかった。

 見渡す限りというわけでは無いにしろ、水平線から次から次へとイロハ級がやってきては、融合して泥人形と化していく。無論、半分は武蔵と大和による『タッチ』によって殲滅されており、そうでなくとも他の仲間達の奮闘で数は減らしている。しかし、どうしても数の暴力には勝ち切れない。

 

 そして、この戦いの最中に覚え始めた違和感。それを直感に任せて何かを探る春雨だが、それは割とすぐに思い当たる。

 明らかに、出てきている泥人形の力が計算されている。イロハ級の命を使った()()調()()と言わんばかり。実際は、ある程度の実力が無いとこの攻撃はいなせないのだが。

 

「……多分、見られてる。私達が姉さん達の姿を見せられて苛立っているところも、それをどうやって対処してるのかも」

 

 つまり、今のこの戦いは常に黒幕の目に入っているということ。モニタリングされているのではと思ってしまったのも、あながち間違いでは無い。

 

「ハッ、どうせそんなところだろうと思ったわよ。腹が立つやり方ね」

「うん、それには同意。私もこのやり方は本当に気に入らない」

 

 怒りを溢れさせている2人は、当たり前のように同調しながら、その怒りを隠すことなく表情にも出している。

 

 だが、何処でどうやってこちらを見ているのか。すぐに考えられるのは、龍驤との戦いでもあった、超高高度からの感じだ。艦載機を届かないくらいにまで上空に待機させ、常にこの海域を眺めているというもの。

 こういう乱戦でも巻き込まれることなく監視し続けることで、敵の一挙手一投足を()()()()()。手が届かないために止めようがないという厄介な手段。

 

「姉さん、『観測者』様の視線とかを直感的に勘付きますよね。そういうのは今は無いんですか?」

 

 春雨の特性の一端として、直感的に自分に向くモノ全てを把握出来るというものがある。むしろ、大概のことを直感的に理解出来る。ならば、今のこの状況も理由がわかるのではないかと海風は考えた。

 しかし、春雨からの返答は芳しくないもの。

 

「意識し始めたから、見られてる感じはするようになった。なったんだけど、その()が何処にあるかわからないんだよ」

 

 見ているのならば()があるはず。それこそ、超高高度の艦載機かもしれないし、極端なことを言えば拠点からこちらをジッと見ているかもしれない。とにかく、視線を生み出す根幹があるはずだ。

 しかし、今の春雨を以てしても、それがわからなかった。見られているという感覚はあっても、何処で誰がどう見ているかがわからないという気持ち悪さ。

 

 そうこうしているうちに、またもや泥人形が発生。次に現れたのは、不知火と島風の泥人形。龍驤に混ぜ込まれた2人である。

 

「アイツら……()()()や。スマン山風、あっち行けるか」

「……大丈夫。あたし達で、どうにかする」

 

 そちらには堀内鎮守府第二艦隊があたる。こちらには島風もおり、数も上。しかし、泥人形の実力は命を糧にしているせいで通常よりも上。普通の艦娘だったなら、1人を相手にするだけでも相当厳しい戦いを強いられるだろう。

 だが、ここにいるのはここまで泥との戦いで生き延びてきたスペシャリスト。()()()()()()()()()()()()()()()ならば、戦術もあったものではないので、対応は可能。

 

「ただ速いだけの私なんて、強くもなんとも無いんだからね!」

 

 真っ先に向かったのは島風。自分と同じ顔の泥人形の存在が気に食わない様子。それもそのはず、泥人形の島風は他の泥人形以上に素早く、突撃もとんでもない速さを見せてきたからだ。速さ勝負をしようというのならと、島風はクラウチングスタートの構え。

 江風はこの時の島風の速さを知っている。故に、泥人形の速さがお遊びくらいに思えた。

 

「GO!」

 

 海面を蹴った瞬間、島風は風となり、泥人形の島風を蹴り飛ばす。ただ速いだけでは対応出来るはずもなく、しかも今回は加減も何もしていないため、その蹴りは心臓に直撃。一撃で心臓を止めるほどの威力を打ち込んだ。

 

 しかし、泥人形のブーストはそれだけでは止まらない。自分の命を何とも思っていないのだから、()()()()()()()()()()()()()()とすら考えている。いや、考えてもいない。そうなるように設定されている。

 心臓を蹴られても、心臓が止まりかけても、体内を駆け巡る泥が命を使い潰すために強引に心臓を動かす。心臓そのものを完全に破壊しない限り、おそらくこの人形は動き続ける。

 

「心臓を潰しなぁ!」

 

 それを即座に看破したのは、攻撃をした島風でも、それを見ていた江風でもない、この戦場全てを見ていた涼風である。

 今まで現れていた泥人形の傾向を観察し、過去の記憶と照らし合わせ、想定外まで想定し、さらには黒幕の今までのやり方すら視野に入れて、次の一手を常に見据えていた。その思考速度は、吹雪に匹敵するほどである。

 現に、涼風が叫ばなければ吹雪がそれを言っていた。泥人形の弱点は心臓。泥を全身に送り届けるための器官であると。

 

「蹴るだけじゃ潰れないかー!」

「だから、撃ち抜いちゃいましょうね〜」

 

 蹴り飛ばされた泥人形の島風を追撃したのは荒潮。飛ぶ方向まで加味して砲撃を放った結果、姿勢を変えることも出来なかったためにそのまま心臓を粉砕。そしてそのまま消滅。第二艦隊の天才2人の連携により、あっという間に1体撃破。残るは1人、泥の不知火。

 

「コイツ、格闘戦が強ぇ!」

 

 龍驤の徒手空拳の力は、この不知火から得られている。そのため、格闘戦が得意な江風とも当たり前のように拮抗。むしろ、ブーストのせいで膂力が駆逐艦を優に超えているため、的確に防御しなければ圧倒されかねなかった。

 そもそも、肉体の強度も泥で強化されているため、ただ殴るだけでどうにか出来るようなものではない。強烈な衝撃であっても、内部の心臓は泥が再起動させるために意味が無くなる。結果的に、砲撃で破壊するか、斬撃などで潰すかくらいしか選択肢が無くなる。

 

 刀を使っている大鳳と比叡ペア、高火力で押し潰そうとする古鷹と金剛ペアは、先程の涼風の叫びをちゃんと聞いていたため、2人がかりで圧倒し、殺すための攻撃をすぐに繰り出している。1対1ならば厳しくとも、2人であればそれも簡単。片方が陽動して、もう片方が隙をつく。それだけでいい。

 故に、江風も自分が陽動に入り、他の誰かに撃ってもらう。一番適しているのは、

 

「はい、じゃあ心臓を潰すよ」

 

 江風の近くにいた吹雪。江風が拮抗を維持しているおかげで、吹雪が軽々と真後ろに回り込み、心臓を撃ち抜く。

 

「これはツーマンセルでないとダメだね。でも……何かおかしいなぁ」

「おかしいって?」

「いや、すごく強いのはわかるよ。ブーストがかかってるからそんじょそこらの深海棲艦なんて比じゃないくらいに強い。でもさ、なんか()()()()()()()?」

 

 それは吹雪が強いからだろと言いかけたものの、本拠地に入ったというのに2人がかりならば斃せるような人形が無限に湧いてくるというのは確かに妙である。ただ消耗を狙っているのか、それとも別の思惑があるのか。

 

 

 

 

 少なくともまだ誰も怪我もしていない。精神的なダメージを受けていても、戦いは続行出来る。

 

 春雨は、その戦いを続けさせることに意図があるように思えていた。

 

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