黒幕の拠点周辺、領域と思われる場所には、結界とは別にRJシステムでは消せない粒子が撒き散らされていることが判明。コレによってここでの戦いがモニタリングされ、ここでてこずり手段を出し続けると、その分あちら側に戦い方を分析されてしまう。
ならばと動き出したのが、RJシステムの妖精、龍驤。山風の頭の上に立ち、大きく腕を広げた。
「ホンマや、少しだけ、ほんの少しだけやけど、普通とは違う反応があるで。気ぃ入れんとウチでもわからんレベルや」
「……それは危なくない……?」
「侵蝕性はあらへん。端末とは完全に別モンや。どちらかといえば卵……いや、
山風が龍驤の安全を確保しなくてはならないので、周囲に一層気を遣う。
今回の山風は黒幕の拠点襲撃に特化しているため、対地装備。この場で戦うことはかなり難しく、それもあってRJシステムを積んでいる。同じ役割を持つ荒潮は、山風ほど特化していないため砲撃なども可能ではあるが、山風は自衛のための機銃程度しか持っていないレベルである。
むしろ、モニタリングされていると言われたら、余計に対地兵装を見せるわけにはいかなかった。それに対しての策を練られても困る。
「でも、わかってまえばこっちのモンや。確実に解析して、中和させたる。山風、スマンが」
「わかってる。全部避け続ける、から」
こうなると、山風と龍驤は一蓮托生。どちらが倒れてもおしまい。龍驤だけならまだ戦えるかもしれないが、勝ち目が薄くなるのは確実。
まず間違いなく、ここからでも黒幕へと辿り着くのが厳しくなる。この結界の効果を最初から無視出来るのは春雨だけだ。1人いればいいかもしれないが、それでも難しいことには変わりない。
「しっかり、掴まってて」
「
そう言いながら、龍驤は山風の髪の毛を自分の腰に巻きつけた。これなら多少なり無茶な動きをしても頭の上から落ちることはない。
今回の解析をするためには、腕を広げておく必要がある。なるべく自分に粒子が当たる面積を大きくしておきたいからだ。だが、激しい回避行動をしていると、ほぼ間違いなく振り落とされる。そのため、そうならないようにガッチリと結んだ。
万が一、これで山風の髪が千切れてしまったとしても、髪は入渠すれば元に戻る。むしろ心配なのは龍驤の行方。この広い海に落ちたらそのまま死である。いくら妖精さんの身体を得たとしても、こればっかりは耐えられない。
「っし、ほな改めて行くで!」
「ん……じゃあ、避け続けるから」
龍驤の解析が終わるまで、自身への脅威は避け続ける。危険から離れ、しかしなるべく戦場の中心を陣取るように。
今特に危険なのは、泥人形のコロラドが展開した白鯨もとい
ただぶつかり合うだけならまだしも、尻尾を大きく振るったり、乗っている泥のコロラドが砲撃を乱射したりと、周囲に影響を与え続ける厄介さ。そして、コロラドも鯨同士の戦いとなってしまったら周囲を気にしていられない。
「なるべく手数を抑えろっつっても、私は大概知られちゃってんのよ!」
泥鯨をどうにかするために、白鯨も大きくのたうちながら尻尾を振り回す。狙っているのは当然撃破だが、最低限その場から動かさないようにしなくてはならない。
コロラドは元々
互いに振り回した尻尾がぶつかり合った瞬間、その質量によって激しい衝撃と衝突音が戦場に響き渡った。近くにいたら鼓膜がどうにかなってしまいそうなくらいの激しいぶつかり合いに、誰もが否が応でも反応してしまう。
「上を引きずり下ろせばいい!?」
「出来るならやってちょうだい!」
「任せな!」
ここで真っ先に動き出したのは、大塚鎮守府の艦娘、川内。島風に匹敵するレベルのスピードスター。
「アンタ達も手伝いな! まずアレをどうにかしないとダメだ!」
声をかけた先には、同じく大塚鎮守府の仲間達。今までは周りに湧いて出てくるイロハ級を処理していたが、泥鯨がいる限りそれすらもまともに出来なくなる可能性がある。早々に処理しなくては、まともな戦いも出来なくなるだろう。
いや、それ自体はコロラドが拮抗出来るかもしれない。しかし、コロラドばかりに頼り続けるのもよろしくない。何故なら、この泥鯨は
「合同演習で一度見ておいてマジで良かった! 色だけで殆ど変わんねぇ!」
長波が言う通り、ここにいる者達は全員、コロラドの白鯨と戦わせてもらっている。初見だったなら驚きでまともに戦えなかったかもしれないが、一度見ている上に、その戦い方をしっかりと身体に刻んでいるため、この場でも対応が出来る。
コロラドには弱点らしい弱点は無い。白鯨は悪く言えば大雑把な動きだが、強固な装甲と強大な質量で全て帳消しにしている。だからといって本体だけを狙おうとしても、ロブスターの鋏とカニの甲羅、そして杖型の主砲によって当たり前のように迎撃してくる。
強いて言うならスタミナ不足が一番の弱点だったわけだが、泥のコロラドはスタミナ不足という弱点すら克服している。命を燃やしていることで、死ぬまで動かし続けるだろう。
「上に3人持っていければ勝てるから! 私と長波、あと雷、
「了解!」
「まっかせて!」
夕雲と鹿島にサポートをしてもらいつつ、本体を狙う。泥鯨そのものはコロラドが止めてくれるため、本体は狙いやすい。しかし、そのサイズが問題。ただジャンプして上まで行くのは、そもそもの身体能力が高い者でなければ難しい。ここにいる者では、おそらく川内くらいしか出来ないだろう。
そこで川内に指示をされた2人は、コロラドの白鯨を利用する。こちらならば、簡単に振り落とされることはないだろう。何より、コロラドがそこをサポートしてくれるのだから。
「ちょいと乗せてくれよっとな!」
「ごめんなさい、足場に使わせて!」
「構わないわ。アレを止めてくれるなら、好きに使いなさい!」
白鯨の筋張った外殻を使って、コロラドと並び立った長波と雷は、泥鯨の上に陣取る泥のコロラドを見据える。
逆に川内は、泥鯨の周囲を夕雲と鹿島を伴いながら回り込み、後ろから登れる算段をつける。
「鹿島、鞭って上まで届く?」
「あの高さだとギリギリ届きませんね。なので、夕雲さんと砲撃で支援します。あの盾を使わせれば、逆側が空くでしょう」
「でも、鋏がありますからそちらで止められるのでは?」
「止められるなら止められるで、こっちは何人もいるんだから大丈夫!」
一発でも当たれば攻略可能なのだから、誰かが囮になってその隙を作ればいいだけの話。1対1でやるわけでも無いのだから、誰かの攻撃を当てることは出来るはず。
これが初見ならばどうだったかはわからない。しかし、泥の傀儡は基本的に
「っし、それじゃあ、行くよ!」
川内の号令と同時に一斉に飛びかかる。泥のコロラドもそれは認識出来ているようだが、その一発目がコロラドの白鯨による突撃。尻尾を振り回すわけではなく、その巨体をそのままぶつけに行った。
あちらも同じ大きさなのだから、それだけでは致命傷どころかダメージにすらならないだろう。だが、その衝撃は姿勢を崩すには充分。
「行きなさい!」
「サンキュー! 雷、行くぞ!」
「いっくわよー! みんなでやればすぐに終わらせられるわ!」
その反動を使って飛び込んだのは長波と雷。互いにその手に主砲を握りしめ、泥鯨の上へ。その感触もコロラドの白鯨と同じ。ただ泥で出来ているだけの模造品。
ここまで近付けば、泥のコロラドはロブスターの鋏を使ってくるようになる。至近距離というわけでは無いが、杖の砲撃は別の理由で出来なかった。
「こちらも撃ちますよ!」
「了解です。下からだと狙いにくいですが、まだマシな方ですね」
同時に鹿島と夕雲が上に向けて砲撃。2人揃って狙っているのは頭部、つまり急所狙いの一撃必殺。この攻撃によって強引にカニの甲羅の盾を使わせる。こちらに対応しなくてはならなくなったため、杖の砲撃が出来なくなった。
ならばここで第三の刃。川内が完璧なタイミングで泥鯨の真後ろに跳んだ。ロブスターの鋏もカニの甲羅も、どちらかといえばコロラドの方に向いているため、川内にとっては隙だらけになった。
これならば当てられる。そう考えても、堅実に確実に決めるため、握りしめた魚雷を投げる。コレならばどこに当たっても致命的なダメージを与えることが出来る。さらには自分で投げた魚雷を主砲で撃ち抜くことで、回避しても爆風に巻き込まれるように仕立てた。間近で爆発すれば、致命傷になる率も上がるはずだ。
「なっ」
しかし、ここで泥のコロラドは第三の刃を辛うじて回避してしまった。泥鯨自体を移動させることで、自身の身体の位置を移動させたのだ。爆風からもギリギリ避けるカタチとなり、腕は焼けるがそれで終わる。
「問題ないわ。それくらいならわかる。
そこにコロラドが第四の刃。自分はロブスターの鋏もカニの甲羅も使う必要が無かったため、杖を両手で握りしめてしっかりと狙って放った。
避ける方向も、どう避けるかも、コロラドには読めていた。自分のことなのだから、これくらいやると考えていた。模造品だとしても見縊らない。
その砲撃は泥のコロラドの半身をもぎ取るように入り、心臓が潰れたことで消滅。それと同時に泥鯨も消滅した。
「Okay. まずは斃せたわね」
「でも、あれがまた出てくる可能性あるんでしょ?」
「Of course. 警戒は怠っちゃダメよ」
コロラドも節約のために白鯨を消す。これでもスタミナ消費はほどほど。まだまだ戦える。
こうしている間も、龍驤の解析は続いている。やはり微量の粒子であるため、どうしても時間はかかってしまうものの、確実に一歩ずつ先に進めた。
「やっぱ特殊やな……ここにしかない成分なんやろ。でも、ウチならやれる」
目を瞑り、その粒子と向き合いながら、出来る限りの全てと照らし合わせる。それと該当しないならば、近しい成分を探し出して、その場で作り直す。
敵対する存在を弾く結界を消しながらの作業ではあるが、システム妖精となった龍驤にとってマルチタスクはお手のもの。思考が分散することもない。
「すまん、もうちょい濃い方……拠点側に行けるか」
「やってみる」
場所に関しては山風にどうにかしてもらわなくてはならないため、移動だけは指示するカタチに。山風もその状況は理解しているので、なるべく龍驤のことを気遣いながら移動。
しかし、そうすることで他の仲間達との戦いから少しだけ離れることになってしまう。それを察したのは、他ならぬ妹、涼風。
「山風姉、ちょいと危ないと思う。あたいが守るよ」
「うん……お願い」
と話した瞬間に、涼風にはすぐに察知出来た。敵は目の前のものだけではない。それに、魂の混成をした者全てが泥人形として現れるのならば、間違いなく
「潜水艦……!」
察知した時にはもう爆雷を投下していた。それだけで足りるかはわからないが、回避行動に移るならばこれが一手目としては上等。
「山風姉、ソナー起動。これ、まずいかもしれない」
言われて山風もソナーで海中を確認した途端、明らかに嫌な顔をした。
そこには、かなりの数の潜水艦がこちらに向かってきていた。