RJシステムの拡張、サラトガの偵察機、そして武蔵と大和による一斉射により、イロハ級が無限に湧いて出るポイントまでの道が開く。
そしてその向こう側。まだ島も見えていないような場所ではあるのだが、少しだけ前進してきていた防空巡棲姫の姿を捉えることが出来た。
「Pointから少し離れています。サラの艦載機を墜としに来たみたいですね」
サラトガとしては移動してくるとは思っていなかったものの、多少
拠点を守っているのではなく、イロハ級の源泉を守っているというイメージ。しかし、そこを守ることが出来れば拠点も守れることに繋がる。サラトガの偵察隊でそこまではわかっていた。
今この戦場と源泉、そして黒幕の拠点は一直線上。この防空巡棲姫を撃破出来れば、そのまま黒幕の元へと向かえる。結果として、これが黒幕に向かうための最後の戦い。本当の前哨戦と言える戦い。
「奴を斃せば! 残りは黒幕だけだそうだ!」
武蔵が戦場に響き渡る声で叫ぶ。それは鬨の声となり、その場にいる全員の気合へと繋がる。RJシステムのアップデートによって弱体化した泥人形をことごとく薙ぎ倒し、一斉に防空巡棲姫を見据えた。
「防空巡棲姫!? 私達じゃ分が悪いわね……」
「なら、今は徹底的に潜水艦を叩く。あとはイロハ級の群れを少しでも減らせるように!」
ちとちよ姉妹も当然ながら防空姫の脅威は理解している。自分達では分が悪い。勝てないとは言わないが、大きく消耗させられることが確定する。ただでさえまだ黒幕がいるのがわかっているのに、ここで消耗するのは得策ではない。
むしろ、あの姫をここに置くくらいに空襲を嫌っているというのなら、それだけ空母の力が黒幕との戦いで必要になるということにもなる。ならば尚更、防空巡棲姫に空母をぶつけるのはよろしくない。
「コロ助! アンタが突っ込みなさい!」
ここで叢雲がすかさずコロラドに指示を出した。開いた道を閉ざさないように、その道に突っ込ませようという考え。他にも突撃は誰でも出来るだろうが、ここであえてコロラドに言ったのには、勿論わけがある。
「ったく、アンタに言われるまでもないわよ! 誰か付き合いなさい! 突撃するわよ!」
当たり前のように白鯨を展開。この戦場では二度目の展開となるのだが、まだまだ疲労は見えない。
この質量があれば基本的にはどんなイロハ級でも一切受け付けずに全てを轢き潰すことが出来るだろう。泥でブーストされていようがお構いなし。単純明快なサイズの暴力は、如何なる壁をも吹き飛ばす。
「便乗するよ。何かあったらすぐ降りる」
「おうっ、私も乗せてね!」
そこに川内と島風が便乗。敵の群れに一気に近付き、そこからはスピードで掻き回す。防空巡棲姫までの道のりを開き続けるために、あらゆる手段を使わねばならない。質量とスピードの同時攻撃だ。
だが、それが軽々と通用するのはイロハ級のみ。防空巡棲姫は冷ややかな瞳で白鯨に目を向ける。
「……これ以上、行かせないよ」
そして、恐ろしいことに白鯨の突撃を
「は……!?」
衝突の際の衝撃と同時に、急ブレーキをかけられたことによる反動で、川内と島風は咄嗟に飛び降りたものの、コロラドはその場に投げ出されることになる。
こんなことが出来るものなど、今までに見たことがない。おそらくだが、島にいる絶好調な状態の飛行場姫や潮でも、片手で白鯨の突撃を止めるだなんてことは出来ないだろう。
白鯨から投げ出されたということは、今のコロラドは空中にいるということになる。そして、防空巡棲姫は対空に特化した姫。
そこから繋がるのは1つ。上にいるものを全て撃墜する。そして、
「叩き落とす」
まるで、戦艦主砲を真上に向けて放ったかのような対空砲火。そして密度もおかしい。艦載機を全て墜とすために放たれるそれは、それこそコロラドには
まともに喰らえば命はない。まともに喰らわなくても相当厳しい。だからといって空中では回避も何もない。だがコロラドにはまだ手はある。
「そんな呆気なく、このコロラドがやられるか!」
カニの甲羅では全てを守るのは不可能。ロブスターの鋏は論外。ならば、ここで展開するのはもう一度白鯨だ。
止められた白鯨を即座に消し、間髪容れずに再展開。超大型の艤装であるが故に、消すのも展開するのも簡単では無いが、そこは無理矢理出力を上げることによってギリギリで展開完了。
空中で巨大な艤装が展開されたことによる衝撃は相当なものだったが、防空巡棲姫はびくともしない。
放たれた対空砲火は白鯨の内部に包まれるようなカタチとなり、そのまま爆散。白鯨もその場で四散する羽目になる。
その反動は当然コロラドの方にも響くことになり、一気に体力を持っていかれてしまう。とはいえ、スタミナ不足を克服した今ならばまだ戦える。傷を負っているわけではないのだから、何も問題はない。どうにか着水し、すぐさま次の攻撃のために杖を構える。
「ダメだよ。やらせないから」
対空砲火の直後だというのに、両用砲をそのまま左右に下ろして放った。そちらには咄嗟に白鯨から降りていた川内と島風の姿が。
イロハ級を掻き分けつつも、防空巡棲姫に主砲と魚雷を放っていたが、両用砲の一撃によって全てが粉砕され、かつ、まるで止まる気配もなく2人に襲い掛かる。
こちらは既に着水出来ていたおかげで、持ち前のスピードを活かしてすぐさま回避。その火力は掠るどころか、近くを通り過ぎるだけでも衝撃で吹き飛ばされそうな程であったため、かなり大きめな回避を要求される。
イロハ級の群れはそんなものを喰らったらひとたまりもない。相変わらず敵味方問わずの無差別攻撃なのだが、今回はイロハ級も泥のブーストがかかっているからか、防空巡棲姫の砲撃を避けつつ、川内と島風に追撃するという賢い手段を使ってきた。
ある意味、敵の群れが一丸となった連携。もしこれで敵が誰かを捕らえたとしたら、そのまま命を使って砲撃から回避させないという最悪な手段に打って出るだろう。そのため、捕まることも許されない。
「動きを止め……っ」
防空巡棲姫は視界の中に入っている。ならば、今の春雨ならば防空巡棲姫に対してその力が使える。今回の望む答えは、『動くな』。泥人形にも使った手段だ。
しかし、今でこそRJシステムが拡張されているため見られてはいないが、ついさっきまではそれも見られていたのだ。
未だその効果を貫通させることが出来ず、複数体を対象とすることも出来ない。視界に入っている最も近い者の動きは止まったものの、防空巡棲姫は止まることなく砲撃も止まらない。
「学習されてる……っ」
小さく舌打ちをする春雨だが、冷静を心がけて呼吸を整えた。ここで怒り任せに行動していたら確実に敵の思うツボ。
やはり
「……あれ、ただの防空巡棲姫じゃ、ないよね……」
そんな中、冷静に状況を判断した山風がボソリと呟く。
「ああ、やっぱり混ぜられとる。それに、アイツ侵蝕も無い状態で敵対しとる」
山風の言葉に同意しながらも、領域内に入ったために防空巡棲姫を分析しながらわかったことを話していく龍驤。
少し前進してきている時点で、端末を消す領域には足を踏み入れている。つまり、何もされていなくても黒幕に従っているということに他ならない。施設を襲撃した欧州姫と同じか、また違った理由で従っているか。
さらには泥人形のように動きも悪くならないことから、単純なスペックが異常に底上げされている可能性が高い。それこそ魂の混成により他者のスペックを自分のモノにして、反発すら起こさず全てプラスにしているような。
「ごめん、やっと追いついた。で、アレに混ざってるのが何か、だよね」
ここで吹雪が合流。その観察力を使って、防空巡棲姫の正体を看破しようとする。それには動きを見なくてはいけないため、少し時間がかかる。
「江風が前に出る! 春雨の姉貴、目の前開きゃあいいンだよな!」
「お願い!」
江風も加わるが、止まらず直進してイロハ級の群れに向かっていった。春雨も動きを止めたイロハ級を確実に始末しているが、それだけでは足りないくらいの数が現れては視界を塞いでくる。
今最も勝率が上がる戦術は、春雨の視界を拡げて防空巡棲姫に対して力を発揮させること。ならば、自分が率先して敵を殲滅し、少しでも数を減らすことに尽力するべきと判断した。
「潜水艦も春雨姉さんを狙うようになってきています。やはりその力を危険視しているようです」
「ついさっきまで見られてたからね……私が『辿り着く者』ってこともわかってるだろうし、群れを使って止めてくるよ」
龍驤のシステム拡張を止めるために山風を強めに狙っていた潜水艦だが、ここまで来てしまったらもう無意味と考えたか、狙いを山風から春雨に変更。今最も邪魔なのは『辿り着く者』であると理解し、早急にこの場から排除する方向に路線変更してきた。
山風が狙われることも見過ごせないが、春雨が狙われることはさらに気に入らない。春雨が自己防衛出来るとしても、海風が動かない理由が無かった。山風を守るように、春雨を守る。
視界を邪魔するのは春雨のみ。他の者には防空巡棲姫の動きが見える。そこから過去の知識を持ち出して、何が混ざっているかを分析する。龍驤に対して北上がやったように、吹雪と涼風がそれに専念する。
「砲撃は戦艦。あれだけ強いなら、大和さんか武蔵さんが入ってる」
「多分武蔵さんだ。あたいも結構喰らったからわかる。大和さんよりも力押しな感じがすんだよ」
「だね。対空は本人……だけじゃないね。アトランタさんが入ってる可能性が高い」
「秋月型の誰かってのはどうだい」
「それもあるけど、撃ち方に癖がある。多分アトランタさんで確定」
ありったけの知識と問答形式で考えを纏めていく。防空巡棲姫に含まれているのは、今のところわかる限り少なくとも2人。力押しの凶悪な砲撃が可能となる戦艦武蔵。本来持つ対空性能をより上げるための防空巡洋艦アトランタ。
だがそれだけでは利かないこともわかる。それに、1つ謎がある。
「でも、武蔵さん入れるんだ」
「どういうことだい」
「黒幕が一番恨み持ってそうでしょ。中間棲姫にトドメを刺したの、うちの武蔵さんだよ。艦娘の中でも一番気に入らないんじゃない?」
言われてハッとする。ただでさえ艦娘への逆恨みで溢れて泥となっているのに、その元凶となるであろう武蔵をこうやって利用するのは少し驚きである。あらゆる艦娘を使っても、武蔵だけは徹底的に潰してもおかしくない。
しかし、そこで嫌な考えにも辿り着く。
「気に入らないからこそ、
「うわ、それすごいあり得る。尊厳を壊すために、最強の力を持つ武蔵さんをただの素材に使ったなんて、趣味が悪いね」
「……じゃあさ、あの防空巡棲姫……
涼風が辿り着いた答え。それは、あの防空巡棲姫には、ありったけの武蔵が使われているということ。その力を全て取り込んだことにより、コロラドの白鯨すら片手で止めてしまう膂力を手に入れているという考え。
ただその力を吸い尽くし自分のために使い、恨みを持つ艦娘を徹底的に凌辱する。これが黒幕の恨みの晴らし方だとしたら、相当にタチが悪い。
だが、これまでのことを考えるなら、黒幕はそういうことをやりそうだと思われる。嫌がらせに特化しているのだから。
「そうなると、結構厄介だね。あれ、冷静に力押ししてくるようなものだよ。何人もの武蔵さんが」
「単純な戦力として一番ヤバいってことかい。なら、出し惜しみもダメなんじゃないかい」
「黒幕が奥にいるってのにね」
防空巡棲姫をどうにかするためには、一筋縄ではいかないことがわかった。だからといって、ここで全てを出し尽くすわけにもいかない。