空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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思いを背に

防空巡棲姫の力を確認した後、吹雪の作戦により部隊を二分することとなる。戦いながら選出するのは難しいものではあるが、そこはもう春雨お得意の直感的な選出でそこをどうにかする。

その時間は吹雪が稼いでくれるようで、猛烈なスピードで防空巡棲姫に突撃。あっという間に間合いを詰めた。

 

「今はシステムの範囲内かな。でも、()()はあまり見せない方がいいよね。コレの視界も黒幕に行っちゃってるかもしれないし」

 

などと言いながらも、脇腹狙いの蹴りーー先程川内がやられたことの意趣返しーーを繰り出す。今回はただの蹴り。

 

「ヒトが多いね。でも、行かせない」

 

その蹴りは、さも当然のようにキャッチしてしまった。艤装で守るという手段もあっただろうが、その瞬間の吹雪の速度に艤装展開が追い付かなかったようである。それでも素手でガード出来る分、瞬発力はかなり高い。

先程の白鯨を片手で止めるだけの膂力で握り潰せば、その時点で吹雪の脚は使い物にならなくなるのだが、これをこのまま掴んでいたらまずいと思ったか、すぐに手放して間合いを取った。すると、今この時まで防空巡棲姫の頭があったであろう場所を、掴まれていないもう片方の脚が通過した。

そのままでいたら、蹴りが入った瞬間に脚部艤装を一瞬だけ展開して、渾身の一撃を入れていた。入っていたら、今この時に防空巡棲姫の首が飛んでいた。

 

「判断力も高いんだ。感情が無い分、そっちに全部振られてるのかな」

 

すかさず砲撃で追い討ち。回避直後を狙っていたのだが、こちらは艤装を瞬時に展開。駆逐艦の主砲では、艤装どころかそこからハリネズミのように生えている両用砲にすら傷を付けることが出来ない。

 

この火力の無さは吹雪の唯一の弱点となる。駆逐艦なのだから仕方ないのだが、敵装甲を軽々貫くような一撃はどうしても繰り出せない。代わりに得ているのが近接戦闘でのあの一撃。これまでもこれからも、その手段を見られてしまうのが厳しいため、あまり何度も使えないのも辛いところ。

故に、それをどうにかするのが仲間達だ。春雨が選出()()()()()者達と協力して現状を打破する。

 

 

 

 

「誰を選ぶか……」

 

その選出をしていく春雨。黒幕との最終決戦に必要なのは、ただ強いだけではない。あらゆる状況に対応出来ることが重要。たった1人でどうにかしろとか言っていない。連携による相乗効果があれば充分。

絶対に向かわねばならないのが春雨、そして山風である。春雨は言わずもがなだが、山風はRJシステムの装備者であるため、現場で解析が必要である上にその場でも端末や他の粒子も無効にし続けなくてはならない。

それ以外では、春雨が向かうのだからダメだと言ってもついてくる海風と、吹雪の推薦もあってその場の指揮まで見込まれた涼風。この2人は絶対である。特に海風は、春雨の安定のためにも必要不可欠な存在であるため、必ず来てもらわなくては困る。最早()()()と言われても否定は出来ないが、2人ともそんなこと気にしない。

 

「……とりあえず、進もう。みんなに道を開けてもらって、私達は黒幕のところに行かなくちゃ」

「はい、お供します。山風、涼風、最大戦速で突き抜けるけど、大丈夫よね?」

「当たり前さー! 駆逐艦のすばしっこさ、ここで見せつけてやんなくちゃね!」

「……大丈夫。龍驤を振り落とさないようにするだけだから」

「ウチもしっかり掴まっとるから心配せんでいい。命綱も結んどるしな」

 

残りの決め方はかなり雑になる。恨みが深い順なんて言ったら、おそらく全員が同率。だからむしろ、ここまでの戦いを全て見てきた春雨の直感に任せるしかない。如何に吹雪といえど、今までに姿形を見せないだけでなく、泥という謎の存在相手では作戦の立てようが無かった。

 

「山風、対地要員は誰?」

「あたしと……荒潮ちゃん」

「よし、じゃあ直感的に選ぶよ。白露姉さん! 江風! 荒潮ちゃん! 叢雲ちゃん! 古鷹さん! 大鳳さん! サラトガさん! 金剛さん! 黒幕側に行きます!」

 

この選択は本当に直感。このメンバーなら黒幕にも通用すると感じ取ったからこその選出。直感の中にもある程度は根拠がある。

 

そもそもあちらは拠点を自分自身としていることを考えて、対地攻撃が確実に通用する。故に、山風は元々確定だったとして、荒潮も100%採用。さらに極端なことを言えば、白露や海風も深海棲艦であるが故にその場で対地攻撃が可能であるため、こちら側に入る。これによって駆逐艦の対潜要員が全員引き抜かれてしまったことに繋がるのだが、千歳と千代田がそちらをカバー出来るため良しとした。

制空権ーー艦載機が扱えるものとして選出されたのが大鳳とサラトガ、そして例外的に可能な古鷹。防空巡棲姫がいないならば、空襲が大きく通用すると考えた。千歳と千代田は先述の通り対潜要員としても考えているため、結果として選ばれた者に。

そして、最大火力となる戦艦は金剛、そこに同じように艤装が扱える大鳳と古鷹。大鳳と古鷹は役割をいくつも持つことになるのだが、その分、防空巡棲姫との戦いに戦力を残せるという意味でも非常にありがたい存在。

 

「コロラドさん、そちらをお願いします!」

Leave it to me(任せなさい)!」

 

施設の仲間の中で唯一、コロラドだけは防空巡棲姫との戦いに置いていかれることとなる。これは別に拠点での戦いには不要とかそういうことではない。コロラドは拠点よりも防空巡棲姫にぶつけなくてはならない理由があるのだ。

 

「私が残された理由なんてわかりやすいわよ。今までの全員分の力を使ってくるっていうのならーー」

 

全て言う前に、防空巡棲姫は春雨達の突撃を防ごうとするために、足下に艤装を展開。それが一気に浮上してくる。

 

「だと思ったわよ! Mud whale(泥鯨)!」

 

そう、先程泥人形のコロラドも繰り出した泥鯨。それまでをも扱い、進路を妨害。

そして、それに合わせてコロラドも白鯨を展開。直接体当たりをして、進路妨害を妨害する。

 

「今よ! Hurry up(急ぎなさい)!」

 

白鯨が湧いて出てきたイロハ級すらも蹴散らし、道を開く。それでもまだまだ群がってくるのだが、それはまた別の者達が道を拡げていく。

 

「私達なら背中を任せられるということで、ここに残ることを選んでくれたんですよね?」

「頼ってくれてるんだもの。相応の働きくらい見せるわよ!」

「だから振り向かずに進めよな! 絶対お前らの戦場にコイツらは行かせねぇ!」

 

敵が駆逐艦なら夕雲が中心となり長波と雷が即座に対応。いくら泥ブーストがかかっていようが、ここまで長々とその戦い方を見せられてきたのだから、どうすれば効率よく斃せるかなんてもう個人で分析済み。

防空巡棲姫との戦いにも、そこから抜け出すのにも邪魔なイロハ級をまず処理するのが自分達の仕事と言わんばかりに手早く確実に処理し続けた。そのおかげで、道はまだ開いたまま。

 

「余計な力を使わせないわ!」

「対潜も任せてよね!」

 

周囲の海中から忍び寄る潜水艦も、千歳と千代田が軒並み一掃していく。軽空母ならではの対潜攻撃が、この場でも活躍していた。駆逐艦なら1人が現場に向かわねばならないが、空母ならば自分は避けつつも、全方位の潜水艦に対応出来るのは非常に大きい。

正規空母には出来ない芸当だからこそ、今この場を任された。防空巡棲姫が相手であろうとも、千歳と千代田は簡単には屈しない。

 

「くくく、聞くにあの姫は別個体の私が詰め込まれているそうだ。これは胸が躍る。この武蔵を使って、ただて済むと思ってもらっては困るなぁ! 大和、奴に向けて一斉射を仕掛けるぞ!」

「いやいやいや、やりたいのは山々だけど、吹雪がかなり近い位置に」

「奴なら軽々避ける! だから構わん! ぶちかませぇ!」

 

若干引き気味の大和であったが、武蔵は一切の容赦なく防空巡棲姫に向けて一斉射を開始。激しい砲撃の嵐が防空巡棲姫を呑み込んでいく。大和も小さく溜息を吐きながらもそれに便乗。2人揃って放つからこそ絶大な破壊力になるのだから、始めてしまった一斉射は簡単には止められない。

 

「ああもうやっぱり。あんまり無茶苦茶しないでくださいよ頭痛の種!」

「ハッハハ、それでも運用している貴様らが悪いなぁ!」

 

文句を言いつつも、これをやってくることは予想がついていたようで、吹雪は武蔵の言う通り軽々と回避。こんなやり取りの中にも、互いを信頼している感はある。信用しているから武蔵は撃つし、吹雪も見越して回避する。

防空巡棲姫は一斉射に巻き込まれていくのだが、間合いを取りつつ艤装でガンガンと弾いていた。一斉射すらもその装甲を傷付けることは難しい様子。完全に叩き潰すのなら、もっと近付いて撃ち込むしか無さそうである。

 

「お姉様の道は! 比叡が斬り開ぁく!」

 

その一斉射が止んだ瞬間、爆炎を突き破るように比叡が刀剣を振りかぶっていた。道から防空巡棲姫を遠ざけるため、近接戦闘で圧倒する。

その艤装の硬さは相当なものであり、刀剣をまともに受けてもビクともしない。しかし、比叡の振るう刀剣も明石がメンテした最上級のモノ。斬れ味もそうだが、頑丈さも並ではない。ガギンと嫌な音がしても刃が欠けることもなく、むしろそのまま向きを変えて斬り払った。その瞬間、吹雪の主砲を受けても傷一つ付かなかったハリネズミのような両用砲の1本が綺麗に斬り飛ばされた。

 

「さぁ、今のうちに行ってくださいね!」

 

今しかないというタイミングで、吹雪が叫んだ。春雨達もそれに呼応してスピードを上げる。

 

「ムラクモ!」

 

この激戦の中、コロラドが突き進む叢雲に声をかけた。動きを止めさせず、最後の言葉をかけるように。

コロラドの声にイラッとしながら振り向くが、その真剣な表情を見て考えを改める。いくら犬猿の仲のようになってしまっている相手でも、共に施設で暮らす仲間。互いに互いを知っているからこそ、信頼が置ける戦友。

 

「私の分、アンタに乗せるわよ。その馬鹿みたいに大きな槍を、黒幕にぶち込んできなさい!」

 

コロラドは自分の最後の戦場がここだと認識している。黒幕の顔を拝むことは無くても、ここで奮闘することが最善の選択であることはわかっている。故に、叢雲に自分の思いを託した。

 

「はっ、アンタに言われなくてもわかってるわよ! そのクソ防空姫をそこから動かさないように、せいぜい気張りなさい!」

「わかってるわよ! これで失敗したらアンタのこと一生こき下ろし続けてやるんだから!」

 

これもまた友情の証。この2人だからこそ成立する思いの託し方。罵り合いのように見せて、その実、互いに最も欲しかった言葉。

 

「それじゃあ、突き抜けるよ!」

 

春雨の号令と共に、選出された者達が一気に群れを抜ける。イロハ級も防空巡棲姫もそれを妨害しようと動くものの、ここに残された者達の懸命な抵抗によってそれが阻まれ、選出部隊はイロハ級の群れから抜け出すことに成功した。

 

当然それを追おうとする輩もいるのだが、それを簡単に許すわけがない。突如爆発が何度も起こったかと思えば、ヒト型のイロハ級に至っては首に鞭が巻き付く。

鞭を使うのは当然鹿島。魚雷を放ちながら群れに突撃しており、手近なヒト型を絡め取る。

 

「ここを任されたんですから、徹底的にやらせてもらいますよ。出せる力を全て出し尽くしてもいいんですから、ね!」

 

そして、思い切り鞭を引き、その骨ごと砕いてしまった。勿論首に巻き付いているのだから即死。

 

「わぁ……そんなこと出来たんですか」

「あの後……貴女にこっぴどくやられた後に、私も鍛え直していますからね」

 

侵蝕されていた時とはいえ、吹雪との戦闘に敗北したことは間違っていない。故に、より強くなるために鹿島も鍛えている。

実際にやられたのは五月雨の豪速球なのだが、やる気に繋がったのならツッコむ必要もない。吹雪は頼もしい仲間に笑顔を向けた。

 

「それじゃあ皆さん、踏ん張りどころですよ! 救えるものなら救いたいですが、無理せず始末でも構いません! この姫も、群れも、誰も彼もあちらの部隊に近付かせないように、ここで私達が防波堤になりましょう!」

 

 

 

 

鬨の声が響き渡り、全員の気持ちが1つになる。

 




黒幕拠点侵攻決戦部隊:
春雨、海風、山風、涼風、白露、江風、荒潮、叢雲、古鷹、大鳳、サラトガ、金剛

防空巡棲姫討伐部隊:
吹雪、島風、雷、夕雲、長波、川内、鹿島、千歳、千代田、コロラド、比叡、武蔵、大和
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