空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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異様な強さ

 涼風が奮起し、それに引っ張られるカタチで仲間達に気持ちが入った。そして、別個体の春雨を救うためにも涼風の指揮によって一気に攻勢に出る。

 

 まず動き出したのは、対地攻撃を指示された5人。

 

「同時に行くわよ〜」

「……うん」

 

 荒潮と山風がここで虎の子の武装、対地攻撃のための戦車隊と内火艇を展開。どちらも大発動艇と殆ど同じ大きさ。山風が展開した戦車隊には、荷物の代わりに上陸する戦車が搭載されており、妖精さんが乗り込んでいた。荒潮が展開した内火艇は、それが直接上陸するさらに攻撃力の高い一品。

 

「あちらの春雨ちゃんの横をすり抜けるように、わざと見えるところから向かわせるわ。その方が、気もそぞろになるんじゃないかしら」

「多分……あっちは、島の上をどうにかされることを嫌がると思うから」

「だったら、さんざん嫌がらせしてくれた()()をしてあげましょ。それくらいしても、私達にバチなんて当たらないもの」

 

 これまでの黒幕の戦術は、艦娘に対して徹底的に嫌がらせをするもの。何度も何度も心にダメージを与え続けてきたのだから、その報復を受けても文句を言われる筋合いなんてない。

 だからこそ、ここではそういう黒幕に対して最も()()()()手段を取るのが一番である。やられたらやり返すだけ。

 

「よし、それじゃあ〜」

「行く……っ!」

 

 2人が同時に手を前に突き出した。その瞬間、爆発的な加速で戦車隊と内火艇が陸に向けて突撃を開始。搭載されている戦車も、内火艇自体も、備え付けられている主砲を激しく放ちながらだ。

 勿論、それは別個体の春雨のことなんて全く狙っていない。その後ろ、拠点の木々、陸地を燃やし尽くすために動く。

 

「……来るなと言っているのに」

 

 別個体の春雨がスッと手を上げると、上陸艇と内火艇の砲撃を食い止めるように、泥が壁のように迫り上がってくる。

 これまでのことを考えれば、それは泥であっても相当強固な壁。並の艤装よりも硬く、おそらく内火艇であっても直接ぶつかったところで傷をつけることは出来ないだろう。砲撃も容易く受け止め、島の内側への攻撃は完全にシャットアウトしている。

 

「守られることは想定済みよ〜」

「だからこそ、あたしがこれを持ってる……っ!」

 

 その壁を綺麗に回避する上陸艇。その後ろから山風が放つのは、ロケットランチャーであるWG42(ヴェーゲー)。その壁を乗り越えて上からの攻撃として、ロケット弾が降り注ぐ。

 

「鬱陶しいよ、山風」

 

 冷ややかな瞳で睨み付ける別個体の春雨が次に繰り出すのは、全く同じWG42(ヴェーゲー)。壁の後ろ側から生えるように生成されたそれは、ロケット弾にはロケット弾をぶつけるという荒技を軽々とこなす。

 やはり、侵蝕された別個体の春雨は、もうただのドロップ艦の域を超えている。漣達の時以上に大きな力を持ち、涼風が言った通り陸上施設型みたいなものにされてしまっているため、実力はまるで違った。

 

「拠点ばっかり守ってていいのかな」

 

 そこに視線が動いたことを、白露は見逃さなかった。ここにいるのは対地要員だけではない。先程から真正面で戦いを挑んでいた白露が、より怒りの焔を燃やしながら攻撃を加える。

 今は強力な一撃を連発するため、時雨の艤装を再現。さらには夕立の気質を強めに出しており、本能的な攻撃を得意としている。そのため、強烈な空気弾を次から次へと放ち続けた。

 

 実弾にしていないのは、やはり別個体の春雨も救うため。妹を殺すという行為自体が白露の中ではトラウマレベルに刻まれている蛮行。侵蝕されていた時とはいえ、二度とあんなことはしたくない。

 立場が逆になったこの戦い。今度は別個体とはいえ春雨を救うために白露が全力を発揮する。

 

「白露姉さん、今度はこちらに牙を剥くの?」

 

 それすらも手を軽く払うことで泥の防壁が現れ、さも当然のように防いだ。陸だけでなく、空中にすら現れたように見えたが、実際は陸の延長線上。別個体の春雨が陸の少し奥側に立ったため、手前側から泥が飛び出して壁となっていた。

 白露は小さく舌打ちをしたものの、すぐさま次の砲撃に向けて準備を始める。今の春雨の言葉に少しだけ引っかかるモノがあったが、止まっている余裕は無い。

 

「お返し」

 

 さらに、手を前に。すると、白露の砲撃を防いだ泥の壁が途端に崩れ、泥の砲弾と化し白露に放たれる。もう主砲すらいらないのか、手を翳すだけで次々と放たれる砲撃は、咄嗟に避けなくてはいけないくらいに精度が高い。

 それでいて泥のWG42(ヴェーゲー)は健在。山風のロケット弾は悉くを撃ち墜とされている。しかも、上陸艇と内火艇は未だに防がれたまま。泥の壁は幾重にも折り重なるため、ここは空母棲姫の身体を器にしていた龍驤を彷彿とする守り。

 

「当たらないっぽい、その程度」

 

 白露の回避もマグマブーストによって冴え渡っていた。瞳から真紅の焔を舞い散らせ、掠りもしないくらいに跳ぶ。そして、両腕に主砲を展開し連射。

 

「当たらない。当たるわけがない」

 

 背部の大型主砲でも軽々弾かれたものが、腕で放つ砲撃で貫けるわけがなく、こちらの砲撃も軽々防がれる。

 

「はっ、だったらこれはどうよ!」

 

 別個体の春雨の視線が白露に向いたのをいい事に、逆側から叢雲が槍を振るう。流石に泥まみれの陸に乗るのは躊躇われたか、槍を伸ばして貫くつもりで。

 

 他の者達は別個体の春雨を救うつもりで戦っているが、叢雲だけは少々違った。ここまでの力を与えられてしまっている者に対して、最初から救うつもりで()()()なんてしていたら、救えるものも救えない。故に、最初から()()()()()()その攻撃を繰り出した。そこまでしないと追い詰めることも出来ない。

 傷付けずに救うなんて出来ない状態にある。ならば、傷をつけても死んでなければどうにでもなる。今までそういう者達を何人も見てきたのだから、死なない程度に痛めつけることに何の抵抗も持っていない。

 

「たかが槍だよ」

 

 即座に手を振るうと、やはり泥の壁。まだ巨大化させていない槍では1枚たりともぶち抜くことは出来ず、傷一つ付けることは出来ない。

 陸にいる間は壁の生成も自由自在なのか、何枚出しても息一つ切らさず、際限無しに壁を使い続けるのがかなり厄介。

 

 たった今侵蝕された別個体の春雨がここまで使いこなしているのには違和感を覚えるものの、それは現在も供給され続けている泥によって知識すらも与えられていると考えれば、別に何もおかしいことではない。

 ほとんどドロップ艦と同じ存在がここまで強くなっているというのなら、まともに成長した艦娘が取り込まれた場合どうなってしまうのか。

 

「くっそ、全部防がれちまう!」

 

 接近戦をすると何が起きるかわからないため、砲撃主体で戦う江風であったが、それもまた泥の壁に阻まれる。大型から小型までその攻撃に適したサイズの壁を作り出しては、ただそれを完璧に防いだ後、その壁から砲撃のように泥を飛ばす。

 直撃したら致命傷だが、それ以上に侵蝕の危険性があるため、絶対に当たるわけにはいかない。しかし、それだと今度は回避一辺倒にされて攻撃のチャンスが訪れない。あちらは陸からの供給があるせいで疲労すら見せることはない。

 

「ならば、これでどうデース?」

 

 これだけ攻撃が集中しているところに、金剛の三式弾が放たれる。山風のロケット弾のさらに奥を狙って。

 

「ダメ。それは許さない」

 

 しかし、それすらも見えているかのように別個体の春雨は反応した。山風のWG42(ヴェーゲー)と同様に、同じロケット弾を三式弾に合わせて放ち、広範囲の攻撃を防いでしまう。

 別個体の春雨の放つロケット弾の方が密度が高く、どれだけバラして放ってもそれを乗り越えることが出来ない。まさに、放たれる壁のようなもの。

 むしろ脅威はそれだけでは無い。一部が三式弾による攻撃を防いだだけで、残りの攻撃はそのまま金剛に襲い掛かる。攻防一体の対対地攻撃。発生源まで潰してこようとする辺り、実力も兼ね備えていることに他ならない。

 

「これは酷いデス。こんなCounterしてくる敵は今までいませんネ」

 

 それでも金剛は回避しきる。対地攻撃を返されたところで、まともに当たるわけがない。しかし、やはり攻撃のタイミングを崩されるというのは厄介なことで、一斉攻撃を意図的に邪魔されているようにも思える。

 金剛もこれにはどうしても違和感を拭えない。知識を与えられているにしても使いこなしすぎている。ただでさえ三式弾に対してのロケット弾など、普通では考えられない戦術。

 

「でも、その分隙は無いというわけではないですよ」

「Yes. さらに奥は、サラ達Aircraft carrier(空母)なら届きます」

 

 故に、この三式弾に合わせて大鳳とサラトガが艦載機を飛ばしていた。爆撃機による島への直接攻撃。荒潮と山風が繰り出す戦車隊と内火艇、そこに山風と金剛が同時に放つ対地攻撃を全て同時に防ぎ、さらには白露達の攻撃にも対応しているため、艦載機にまでは別個体の意識は回せないはず。

 

 しかし、ここで思わぬ手段を使っていた。

 

「ダメだって言ってるよね、大鳳さん」

 

 別個体の春雨のさらに奥。森の中からと言ってもいい場所から、突如現れたのは()()()()()()である。

 陸上施設型が多用するタイプの、まるで基地航空隊のような艦載機の群れが大量に現れ、大鳳とサラトガの艦載機を纏めて薙ぎ倒そうと襲い掛かる。

 

「艦載機……駆逐艦が?」

「No. あれはもうDestroyer(駆逐艦)ではありません」

「……涼風の言う通り、陸上施設型、ということですか」

 

 ここまでやってきたということは、もう駆逐艦だなんて思えない。艦載機まで使ってきたら、それはもう全く違う艦種である。

 

 最初に涼風が言った通り、今の別個体の春雨は駆逐艦ではなく陸上施設型。陸から降りない限り、それと同様の行動が出来ると言っても過言では無い。砲撃は駆逐艦並みかもしれないが、とにかくやれることが多かった。壁による防御の艦載機による制空権確保。ここまでやられたら、普通の戦力ではひとたまりもないだろう。

 それに加えて、泥には侵蝕性が残っている可能性もあるため迂闊に近付くことが出来ない。叢雲は槍でガンガンと攻撃をしているが、それでも陸に乗ることだけはしていない。

 

「頑丈、だね」

 

 叢雲の攻撃に合わせて、春雨細胞の活性によりその全長を伸ばした尻尾による薙ぎ払いを繰り出す古鷹だが、それも泥の壁に阻まれる。砲撃でダメなら質量兵器と考えたものの、槍以上の質量と威力でも軽々と受け止められてしまうくらいに頑丈。

 

「芸がないね、古鷹さん」

 

 そしてお返しと言わんばかりに壁からの砲撃。これの威力は、別個体の春雨自身が放つ砲撃を超えている威力であるため、余計に回避をしなくてはならない。

 

 

 

 

「春雨姉、あたいわかったかもしれねぇ」

「うん、私もわかった」

 

 この戦いを見ながら、春雨と涼風は別個体の春雨に起きていることを察した。今までの行動、それと合間にボソリと話した言葉。そこから考えられることは、ただ1つ。

 

 

 

 

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