防空巡棲姫の強さは、単純な強化を積み重ねられた結果で得ているモノである。
魂の混成として入れられたアトランタと無数の武蔵により強靭な身体と自身の持つモノをさらに強化した防空能力を手に入れ、さらには泥人形としてコピー出来る今までの情報を全て叩き込まれたことによって技術を全て吸収させられ、そこに泥によるブーストまでかけられていることにより、全ての力を十全に扱えるようになってしまっている。
多すぎる混成による代償として自己を認識することが出来なくなるデメリットも、黒幕にとっては好都合だっただろう。潜水艦姉妹に対しては依頼というカタチで自分の思い通りの行動をさせることにより、善悪の感情を超越して施設への侵入を成功させたが、こちらは自分の思い通りに動く傀儡として調整したようで、何も文句を言わない最高の守護者として拠点防衛の長として君臨している。
故に、やってはいないが説得なんて確実に通用せず、力の加減もしない。感情のブレもない。ただただ黒幕のために出来る力を全て出し尽くす。
「比叡さん、まず砲身を斬ってしまってください!」
戦いの中で吹雪は出来ることを全て確かめるため、一旦攻撃方法を狭めてみる方針に出る。
一度比叡の斬撃が両用砲を1本斬り飛ばしたことは確認出来ている。砲撃の衝撃には強くとも、斬撃には弱いことはそこで証明されている。そのため、比叡には両用砲を機能不全に陥らせることに専念してもらおうという算段だ。
「了解っ、でぇす!」
基本的には近距離を維持しながら戦う比叡。コロラドの砲撃や武蔵と大和の一斉射を邪魔しないように、合間合間にバックステップを織り交ぜながら、一切止まることなく動き続けた。
しかし、防空巡棲姫が刀まで取り出し始めてきたため、比叡の一撃もなかなか上手く行かない。使える手段を躊躇なく使ってくるのが防空巡棲姫である。学習しているというよりは、最初からそうするように
良くも悪くも機械的。傀儡という言葉が最も似合う敵。黒幕が他人に出来ることをこれでもかと詰め込んだ最高傑作。武蔵が複数人混じっていることで、限界を超える力を発揮しても身体が追いつかないなんてことすらないのが厄介極まりない。
「近付かせない」
間合いをとった瞬間の比叡に対し、ハリネズミのような配置の両用砲のほぼ全てを比叡に向けた。一発一発が戦艦の砲撃並みの威力を誇るのにもかかわらず、かなりの数を一気に放つという攻撃。点ではなく面での攻撃が、比叡に向かって放たれるということになる。次の一手を完全に封じつつ、あわよくば始末まで持っていこうという一撃。
防空巡棲姫は人形みたいなものだが、次の一手をその場で考えるくらいの知能は持っている。学習はせずとも、的確な対処法をその場で割り出すくらいはする。その結果が、最も近い場所におり、かつ自分の武器を一部でも傷つけた比叡を優先して消すこと。
「流石に避けまぁす!」
間合いをとっている分、流石にそれは避けられる。比叡は高速戦艦。多少は回避行動が取れるし、当たりそうな砲撃は斬り払う。これで一応の回避は出来るのだが、砲撃の衝撃までは全て消すことは出来ない。踏ん張ればその分、衝撃が身体を駆け巡って消耗に繋がる。
かろうじて回避出来たが、最も近くを通過した砲撃の衝撃波が明らかに比叡の体力を抉る。
「っつ……酷いなこの威力……っ」
比叡も少しだけ顔を顰めた。隙を見せないようにすぐさま刀を構える比叡だが、内心じんじんとした痛みまで出てきてしまった。珍しく愚痴を呟いてしまっているのも、あまりにも硬すぎることに対しての苛立ち。繰り出せど繰り出せど、その攻撃はまるで通る気配がない。
確かに初手で両用砲の1本を斬ることが出来たが、それを喰らったからこそ、比叡を執拗に狙い、唯一効く攻撃をしてきたものに優先順位をつけた。防空巡棲姫からしてみれば、比叡さえ始末してしまえば後は何もせずとも勝てる相手。脅威は早々に排除するのみ。
「やるなら一撃で……だけど、そんな簡単にいかないもんなぁ!」
間合いをとったため、比叡も砲撃にスタイルチェンジ。今度は逆に近寄らせない方針へ。
どちらかといえば
「効かないのに」
その砲撃は当たり前のように艤装で弾かれる。もう何度も何度も戦艦の主砲を受けているのに、やはり傷一つついていない。
これは本当は両用砲が自己修復した原理と同じであり、傷自体はついているのだが瞬時に修復されているだけ。とはいえ、表面に傷をつけるくらいしか出来ていないのも事実。
それを自分の目で確認出来ているのは、この中では吹雪だけ。防空巡棲姫を注視して、その一挙手一投足まで見続けていたから今の特性を把握している。
「勝手に直るのは流石にインチキだな……」
どうにかすると考えるなら、比叡が叫んだ通り一撃で死に持っていくしかない。あのペースならば、重傷に持っていっても時間を与えるだけで完治しそうである。艤装があれなら本体すらも自己修復しかねない。
自分の身体のことを顧みないように調整されているのなら、腕を飛ばそうが脚を飛ばそうが泥がそれを補填しそうである。頭を無くす、もしくは心臓を潰す、それくらいしなければ死ぬこともないし止まることもない。
逆に言えば、殺すこと以外で止めることが出来ないというのもあるだろう。ここまで来たら治療も何もあったものではない。心を入れ替えさせるどころか、そもそも
それこそ、死こそ救済という残酷な現実を突きつけるしかないのではないだろうか。潜水艦姉妹のように更生の余地があるわけでも無い。芯の芯まで敵の思想に染められた人形を、今からこの場で作り直すことが出来る者はいない。
「鹵獲出来ればどうにでも出来るだろうけど、それも無理だよなぁ。そんなことする前に命燃やされて死ぬだろうし」
そうなると、もう救うという甘い考えは捨てた方がいいのだろう。可哀想ではあるが、生きている限り敵対し続ける存在に成り果ててしまっているのなら、始末以外に選択肢は無い。
非情であっても、これは戦場。それは割り切らなくてはならない。防空巡棲姫も利用されている存在なのだろうが、取り返しがつかないところにまで改造されてしまっているのなら、もうその命を奪うしかないだろう。
その役目は自分が担う。そんな辛い思いを他の仲間にしてもらいたくない。
「ダメだ、打開策がない。出し渋っててもジリ貧になるだけだ。でも向こうの戦いに悪影響が……」
「独り言が喧しいわよフブキ」
考えを口に出して纏めている吹雪に対して、コロラドがツッコむ。そうやって現状を打破しようとしているのは理解出来るが、少々聞き捨てならない言葉が聞こえたため、口に出したようである。
「向こうに悪影響? そんなこと考える必要は無いわよ」
「いやいや、あっちが本番なんですし、苦戦をするのはわかっているのに余計に覚えさせちゃいけないこと覚えさせたら」
「アイツらならその程度くらい楽々乗り越えるわよ。だから、出し惜しみなんてもうやめなさい」
杖の主砲を放ちながら、吹雪に説教。確かに吹雪のあの手段は、敵にはなるべく知られたくない技。それをあちらに多用されるようなことがあれば、黒幕との決戦がさらに苦しくなる。
だが、コロラドは断言した。吹雪が何をして、それをあちらが取り込んだとしても、仲間達はそれすらもその場で乗り越えるだろうと。
「ここでアレをどうにかしないと、私達だってどうなるかわからないわよ。ただでさえ消耗させられてるんだから。それに、さっさと終わらせれば私達だって向こうに行けるでしょう。アンタの手段が何かは知らないけど、あちらに厳しくなるならアンタ自身が向こうに行ってどうにかすればいいじゃない」
だから、全力を以て戦えと言い残し、コロラドは何か考えがあるのか移動を開始。向かったのは武蔵と大和の方である。戦艦がまとまって撃つ方が、あの強固すぎる装甲も撃ち抜けるかもしれないと考えたか。
だが、それを上手く通すためには、吹雪に本気を出してもらわないといけない。躊躇いなど捨てて、出来る手段を全て出してもらいたい。
「……そっか、そうですね。無意識に信頼出来てなかったのかな。春雨ちゃんだっているんだし、私が何やっても、看破して乗り越えてくれる、か。うん、よし!」
コロラドの言葉で吹雪も覚悟が決まった。自分が何をやっても、あちらなら乗り越えてくれる。それに、ここでずっと躊躇って本気を出せずにやられたら未練しか残らない。
第一、見せたところでそれを絶対コピーされるとは限らないのだ。覚えられたからと言っても出来るとも限らない。何故なら、あちらがどういう戦い方をしてくるのかわからないのだから。
「行きましょう! 出し惜しみして負けるとか笑えないですし、ね!」
途端に吹雪のスピードが変わる。脚部艤装の出し入れによる急加速は一度見せているため、防空巡棲姫もすぐさま反応して艤装で防御。撃つ暇も与えずに蹴りが入るものの、本体にダメージが入ることはない。
だが、ここからが違う。
「一度倒れてもらいますよ。そちらにも全力を出してもらわないと困るので」
蹴りが艤装に当たった直後、再び脚部艤装の出し入れによる衝撃を与える。これは殺傷能力は小さいかもしれないが、威力だけは戦艦主砲以上のそれであり、防空巡棲姫であってもいきなりそれをされたら体勢を崩す。
「……なに?」
驚いたような表情も見せず、何をされたかわからないという言動。そこから猛攻を始める。
「気付かないうちにどんどん行きましょうか」
艤装で守られるとわかっていてもその拳を突き出す。防空巡棲姫も駆逐艦の拳はガードすればいいと艤装を盾にするが、それが少し当たった瞬間に強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされた。
これだけでは終わらない。飛ばされた防空巡棲姫を軽く追いかけて、さらに触れる。防空巡棲姫もまずいと考えたか、両用砲を吹雪に向けて構えた。比叡の時のように全てを向け、弾幕で埋め尽くそうと画策した。
「砲撃って
再び艤装の出し入れ。砲撃を放つよりも前に衝撃を放ち、撃つ前にまた吹っ飛ばした。
その後に放たれた砲撃は、照準など定まらずにあらぬ方向に飛んでいった。
「まだまだ行きますよ。慣れさせる暇なんて与えません」
吹雪が本気を出し始めたことで、流れが来始める。