空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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防空巡棲姫の力

「これもまた、慢心なのかな」

 

 吹雪は防空巡棲姫への攻撃を繰り返しながら独りごちた。脚部艤装の出し入れによる衝撃で海面を蹴ることで防空巡棲姫に追いつき、浮かせたまま追撃を入れる。防空巡棲姫は咄嗟に艤装をそちら側に展開するが、砲撃を放つ余裕は一切与えられずに再び蹴りを入れられ、飛ばされる向きを強引に変えられる。

 

 自分が本気を出して防空巡棲姫と互角に戦うことが出来たとしても、それを黒幕に学ばれたら、決戦に向かった仲間達では勝ち目が無くなってしまうと考えていた。

 つまり、あちら側の仲間達は、自分には勝てないと無意識に思ってしまっていた。実際にはかなりの実力差があるだろうが、少し信用していなかった部分があるのかもしれない。

 

「傲慢だなぁ私」

 

 大将の秘書艦を務めているのもあり、鎮守府でも最強として認識され、知る者からも一歩引いた、むしろ畏敬の念を抱く者までいた。あの武蔵を捻る姿なんて見てしまったら、そう思う艦娘が多くいてもおかしいことではない。

 そして、基本的には大将の隣に立つ者として、仲間と協力して戦場に立つことも少なくなっていた。それにより、よく言えば孤高、悪く言えば孤独な存在となっていたのは間違いない。

 それが結果的に、()()()()()()()()()()という状況を作り上げていた。そのせいで、自分の力を敵に知られたら、勝てなくなってしまうという考えに繋がる。ここを吹雪は自己分析によって傲慢だと感じた。

 

 しかし、よくよく考えてみれば、既に吹雪に拮抗する存在は仲間にいる。合同演習で接戦を繰り広げた春雨。一度喰らったことで看破し、突拍子もない手段でそれを覆し、吹雪の顔に模擬弾をぶつけた者。

 その春雨があちら側にいるのだから、自分の手段があちらに学ばれたとしても、また何かしらの回避方法を編み出してくれるだろう。春雨は既に知っているのだし。だから、別に見せちゃってもいいやというところに持っていけた。

 

「何を、言ってるの」

「ああ、こちらの話ですよ。貴女は表情が歪みませんね」

 

 着水前にさらに追いついた吹雪は、海面に押し込むように腕を振るう。勿論直撃する瞬間に艤装の出し入れをし、強烈な衝撃を叩き込みながら海面にめり込ませるかのように叩き付けた。

 吹雪なら下手をしたら防空巡棲姫を浮かせたままに出来る可能性があったが、あまりやり続けると慣れさせる可能性があるため、バリエーションを持たせつつ確実にダメージを与えていく。

 

 しかし、防空巡棲姫の頑丈さは異常だった。これだけ滅多打ちにされても、艤装には傷ひとつついていない。やはり自己修復が利いている。艤装でしっかり守っているため、肌の方にもダメージは無し。

 そして体力面だが、そこも無表情なせいで疲れがあるのかもわからない。息遣いも全く変わっていないため、大したダメージは無いと見ていい。

 だが、いずれ限界が来る。泥でも体力の補充までは出来やしない。消耗させ続けて自己修復も間に合わないくらいまでにしてやれば、最後は斃れるはず。

 

「止めませんよ、攻撃は」

 

 叩き付けたところに魚雷を被せる。吹雪が出来るであろう最大級の火力であり、順当な戦い方を挟んで惑わす。拳を止めるのとは全く別な防御をしなくてはならない。

 

「それは喰らいたくない」

 

 ここで防空巡棲姫が繰り出したのは、泥鯨。魚雷を巻き込むように現れたそれは、防空巡棲姫を持ち上げながらも質量を増し、吹雪にも間合いを取ることを強要する。

 流石の吹雪も、泥鯨を破壊することは出来ない。戦艦棲姫の艤装くらいまでなら可能だが、ここまで巨大なモノとなると、砲撃も魚雷も通用しないだろう。

 

「こういう時に私がいるのよ!」

 

 だが、鯨には鯨をぶつけるのが定石。即座に白鯨を展開したコロラドが猛烈なスピードで突撃し、泥鯨に体当たりをぶちかました。

 泥人形を相手にしていた時と違い、泥鯨を操る本体が自分以上のスペックを持ってしまっているため、始末ではなく戦いやすくする方向に持っていく。

 

 既に何度も白鯨の再展開を繰り返しているが、消耗は僅か。やはり春雨細胞が効いているおかげでスタミナ面は解決出来ており、今は怒りによる細胞の活性化があるおかげでより強く力を発揮出来るようになっていた。

 使い続ければ消耗は激しくなるのだが、必要な時にのみ効果的に扱うことで、コロラド自身もここに来て自身の力の使い方を上の段階へ昇華していった。

 

「我々もいる!」

「ちょ、ちょっと足場が悪いけど、やれないことはないわ!」

 

 そして、そのコロラドの隣には武蔵と大和も立っていた。コロラドと合流したことで、展開と同時にその上へ移動し、防空巡棲姫本体を見定めていたのだ。

 泥鯨の上に行かれると、海上からは狙えない。故に、同じ視点に立つことで確実に狙う。一斉射すら弾かれていたのだが、撃たないよりは撃った方がいい。あの防空巡棲姫にも消耗が無いはずがないのだから。

 艤装の上ということで足場は悪いものの、一斉射が出来ないわけではない。ならばここでやるしかあるまい。

 

「それなら、私も手伝ってあげる。ただ、申し訳ないんだけど私をCenterにしてちょうだい。White whaleのControlをしながらだから、安定のためにね」

「了解した。貴様と肩を並べて戦うのは楽しそうだ!」

「勝手は変わらないし、大丈夫です。2人が3人になれば通用するかも!」

 

 そこにコロラドも参加。2人がかりの一斉射ではなく、3()()()()()の一斉射。バランスを取るためにコロラドを中心とした『タッチ』を実施。

 

「それじゃあみんな、全力斉射! 一気に殲滅する! Fire!」

 

 号令と共に、3人同時に強烈な砲撃を開始。本来ならば、コロラドの砲撃は武蔵や大和と比べるとどうしても一段落ちてしまうのだが、深海棲艦化と魂の混成、そして春雨細胞の活性化により、勝るとも劣らない力を手に入れている。

 そのため、コロラドを中心にした『タッチ』は、非常にバランスよく防空巡棲姫に襲い掛かる。泥鯨の上ということで逃げ場も少なく、そもそもの一斉射の密度が上がっているため、艤装によるガードも今まで以上にダメージが入るはず。自己修復があるとしても、それを超える速さと勢いで砲撃が放たれれば、追いつかずに撃破も可能なはず。

 

「……困る」

 

 そこで防空巡棲姫が取った行動は非常にわかりやすく、その射線軸からズレるために泥鯨を消し、海面へと落下。一斉射の衝撃を利用して、いち早く着水。

 

「そんな感情持ってるんですか? 社交辞令ですかね?」

 

 だがそれを吹雪が許すわけがない。着水と同時にその地点へと駆け込んでいた吹雪は、再び一斉射の射線軸にぶつけるために防空巡棲姫を蹴り上げる。ただの蹴りならそんなことは無いのだが、吹雪の本気の蹴りは武蔵ですら浮き上がらせる程の威力を持っているため、防空巡棲姫でもお構いなしにかち上げた。

 それを耐えようとすかさず艤装で防御するものの、衝撃を逃すことは出来ず、どうしても空中に投げ出される。そして、一斉射の真っ只中に飛び込む羽目になった。

 

「もっとだ! もっと! 貫けぇ!」

 

 武蔵が吼え、より弾幕の密度が高まった。後先考えない全弾発射の前には、逃げ場なんて何処にも無く、艤装だけでは抑えきれなくなり、明らかに自己修復が追いつかなくなった。

 砲撃をやり返されるような暇も与えず、直撃による爆炎と爆煙がその場で巻き起こり、防空巡棲姫の姿が見えなくなってしまうが、次の砲撃でそれを全て吹き飛ばしてまだまだ追撃し続ける。それこそ死ぬまで。

 

 ずっと空中に止めることは出来ないため、砲撃に押し込まれて海面に叩きつけられた。

 

「一旦止める!」

 

 ここでコロラドが一斉射を止める。海面に辿り着いてしまった状態でさらに押し込もうとしても、海中に潜られることで砲撃の衝撃が吸収されて効かなくなるかもしれない。

 

 泥人形の力を全て持っているということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 事実、海面に叩きつけられた時に浮かんでこないところを見ると、この考え方は間違っていなそう。吹雪に叩きつけられた時は咄嗟に潜水艦の力を使うなんてことは出来なかったようだが、一斉射に巻き込まれている間に次の手段を考える余裕があったか、その力を遺憾無く発揮してきた。

 

「フブキ、私達はSubmarine(潜水艦)相手だと無力よ! そっちは……って、言うまでもなかったか」

 

 コロラドが頼む前に、既に吹雪は動き出していた。いや、むしろ動いていたのは吹雪だけでは無い。潜水艦を徹底して狙っていた千歳と千代田が、この事態に瞬時に動き出していた。

 防空艦が海中に潜っているのなら、対空砲火は飛んでこない。ならばここからは空母の時間である。

 

「動きを止めるわ! そちらから狙って!」

 

 千歳の言葉に吹雪が頷くと、簡易ではあるが爆雷を投げる。同時に千歳も千代田の艦載機も爆雷を投下し、潜水艦と化した防空巡棲姫を追い詰めていく。これ以上潜らせていては面倒なことになるのだが、潜っている方が不利であるように持っていけば自然と浮上してくるだろう。

 むしろ、ここで千歳と千代田が動き出したのは、もう一つ理由がある。防空艦として動いているのなら、艦載機を見れば嫌でも浮上を優先するだろうと考えたからだ。空を制する者として存在しているのに、艦載機に潰されるというのはプライドに傷をつける行為。いくら戦い方を変えているとはいえ、艦載機であることには変わりない。

 自己認識が出来なくなるくらいいろいろと混じってしまっていても、防空艦としての矜持が失われているとは限らない。これで釣れれば御の字。

 

「千歳お姉、浮上してきてる!」

「狙い通りね。それなら、攻撃隊一時撤退!」

 

 浮上されたら艦載機が一網打尽にされる可能性が非常に高いため、一度防空巡棲姫の周囲から撤収。

 潜水艦の力を使っている間は、艦種が潜水艦に固定されるようなので、やはり対空砲火は一切飛んでこなかった。だが、艦載機が鬱陶しく対潜攻撃を続けていたおかげで、もう一度海上に引き摺り出すことは出来たようだ。

 

「比叡さん!」

「当然、見えてる! だらぁあああっ!」

 

 浮上してきた瞬間を狙い、比叡が踏み込んでいた。殆どモグラ叩きのような状態。姿を現したタイミングで、海面に叩きつけるように刀剣を振るい、脳天からかち割ろうと渾身の一撃。

 

 しかし、その刃はまたもや酷い衝突音と共に防がれた。しかも、艤装では無く防空巡棲姫が握る刀によって。

 

「……邪魔」

 

 さらにはそこから軽く振るわれただけで、比叡は弾き飛ばされてしまう。先程よりも力が強くなっているようにすら感じた。

 

 浮上してきた防空巡棲姫は、やはり傷ひとつ負っていない。だが、これまでとは確実に違う部分があった。

 

「攻撃、通ってるね。あそこまでやってアレなのは悔しいけど」

 

 防空巡棲姫の見た目が少し変化している。()()()()()()()()()()()のだ。おそらくあれは、防空巡棲姫の内部に入れられている泥が溢れ出している証拠。そこまでしなくては、現状を打破出来ないと判断させた。

 

 

 

 

 無傷とはいえ、防空巡棲姫の真の力を発揮させているのは確かである。ここを乗り越えることが出来れば、勝利は目前である。

 

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