空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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空母の意地

 吹雪達の猛攻を受け、防空巡棲姫の顔にはラインが走り、泥が溢れ出しているのがわかった。ここからが真の力を発揮する時。

 既に潜水艦の力まで使い始め、海中を回避先に使うようになってしまっているため、戦場はたった1人のために三次元の戦いへと変化する。

 

「厄介だから、早く始末する」

 

 ここにいる者は全て厄介極まりない存在であると判断したようで、無表情ながらも吹雪に狙いを定めた。特に厄介なのが吹雪であることも理解している。

 思考自体が人形と化しているものの、その場で考えることは出来ていた。誰が一番()()()()()()()()()という基準であろうが、どの観点から見ても吹雪がこの中でもトップクラス。

 

 故に、この力を以てして、吹雪を集中狙いすると決めた。

 

「もう消えて」

 

 ダンと聞こえる程に海面を踏みつける。瞬間、突発的な加速を用いて吹雪に急接近した。

 吹雪の速度には追いついていないが、単純に脚力だけでとんでもないスピードを再現している。武蔵のパワーと島風のスピードを兼ね備えているため、艤装の展開を使った加速などしなくても、同じくらいのスピードを出してしまった。

 さらにそこでハリネズミの両用砲を展開。突撃と同時に砲撃まで放ち始め、回避経路を封じながらの接近。そもそもの砲撃自体が戦艦並みであるため、どれが当たっても死を免れない状況。

 

「それが十全ですか。荒っぽいけど、確実に殺そうとしてきてますね」

 

 当然、吹雪はまともに受けるつもりはない。脚部艤装の再展開により、一気に射線軸から退避。

 如何に吹雪といえど、耐久力に関しては駆逐艦のそれである。鍛えられるものと鍛えられないものがあるのだから、そこは別のもの、今回はスピードと瞬発力でカバー。

 

「逃がさない」

 

 だが、防空巡棲姫も負けてはいない。突撃からさらに踏み込み、強引に身体の向きと進行方向を変更。慣れていない者がそんなことをやろうものなら、間違いなく脚を負傷、最悪折れてしまうくらいなのだが、そこはやはり混ぜ込まれた()()による力、そして泥ブーストと自己修復まで利かせて、さも当然のように繰り出してきた。

 実際は痛みもあるのだろうが、防空巡棲姫は表情を変えない。痛くてもどういう顔をすればいいのかわからないのか、そもそも痛みを感じることすら出来ないくらいに感情が失われているのか、痛みというものを理解していないのか、そこはわからない。

 

「よくもまぁ、そんな動きを」

 

 そこは吹雪の方が上手である。急加速や急転回に関しては、吹雪に一日の長がある。まるでステップを踏むように2回3回と急転回を繰り返し、その負荷も綺麗に受け流し、防空巡棲姫には出来ない動きで確実に回避していく。

 結局のところ、防空巡棲姫の急加速は付け焼き刃。今ここで吹雪においついてやると、自分が出来ることを組み合わせて繰り出したに過ぎない。長年使い続けてきた吹雪に追いつけるわけが無かった。

 

 しかし、そこに戦艦並みの砲撃が加わっているため、吹雪も回避に専念せざるを得ない状況に持っていかれている。余計なことをすると砲撃を掠める可能性があると考えると、吹雪も内心戦々恐々である。

 吹雪から砲撃を仕掛けたところで、防空巡棲姫の砲撃に呑み込まれて返り討ちに遭うことが目に見えていた。それに、照準を合わせている暇があるのなら全力で回避に徹した方が先がある。

 

「私が厄介なのはわかりますが、ここには私以外もいるんですよ」

 

 ここで吹雪は仲間を頼る。当然ながら、ここには沢山の仲間がいるのだ。これまでだって、ずっと共闘し続けている。

 今の防空巡棲姫には吹雪しか見えていないのかもしれないが、無視され続けている他の仲間達としては、その隙を探し出すチャンスがきたようなもの。

 

「だったら、覚悟を決めるしかないわね」

「うん、妖精さんには申し訳ないけど、今はこれが一番だもんね」

 

 真っ先に動き出したのが千歳と千代田である。潜水艦をあらかた殲滅出来たことで、ほんの少しだけ余裕が出来ている。そのため、艦載機の一部を防空巡棲姫にぶつけようと考えた。

 勿論、あちらの対空砲火は並ではない。本来の防空巡棲姫もとんでもないのに、そこにアトランタまで加わってしまっているのだから、向かわせる艦載機達は全滅すると確約されているようなもの。だとしても、今は手数を増やすために空からの攻撃が必要。

 

「妖精さん、私達の力、ありったけ持っていっていいから!」

「攻撃隊の意地、見せつけてあげよう!」

 

 千歳と千代田が操るカラクリ人形が、もう何度目かもわからないが発光を始めた。これまでで特に眩く、千歳が言うように力をありったけ込めたことで、艦載機達も力を増していく。

 

 相手は艦載機に対して最大級の天敵。真正面からぶつかるだなんて以ての外。避けて通るのも難しい、知る限り最強の防空艦。そんな相手に空母が戦いを挑むなんて無謀かもしれない。

 それでも、千歳と千代田は覚悟を決めた。共に歩んできた妖精さんに全てを乗せて、渾身の発艦。それでも、扱える艦載機の半分と少しである。残りはイロハ級の群れやまだ残っている潜水艦を始末するために使っているのだから仕方ない。

 

「いい千代田、あちらは戦艦みたいな威力の対空砲火を撃ってくるような輩よ。だから」

「大きく広がってから、同時に突っ込む!」

「ええ、それで行きましょう」

 

 千歳が言う前から、千代田は立てられる策を理解している。360度全てから取り囲んで、中央に置いた防空巡棲姫に向かって突撃しながらの爆撃。

 深海棲艦の艦載機のような小回りが利くような性能は持ち合わせていないが、一糸乱れぬ隊列による同時攻撃は、全てに自身の意思が介入する深海棲艦と違って搭乗者として妖精さんを使っていることが利点となる。使用している空母とは別のタスクで動くことで、使用者への負荷を減らしながらも完璧な行動が可能となるからだ。

 カラクリ人形を通して力を与え、既に限界に達している熟練度をさらに引き上げ、よりその行動の精度を上げることで、防空艦の対空砲火にも対応する。ここまでの者が出てくるとは思っていなかったが、防空艦相手にどうしても向かわなくてはいけなくなった時のことは考えていた。

 

「妖精さん、お願い!」

 

 際限なしに力を注ぐが、一気に消耗する。膝をつく程の消耗ではないが、一瞬だけ目眩がした。疲労を超えて、明確に体力を失っていっている感覚を覚える。

 千歳がこれなら千代田も同様。こちらは明らかにフラつきまで見せたが、その場に踏ん張り、妖精さんと艦載機に力を注ぎ込む。

 

 その艦載機達は、千歳と千代田の力を受けたことで加速、さらには見た者を魅了しかねない程に美しい隊列で、吹雪と戦う防空巡棲姫に向かって飛んでいく。

 作戦通り、360度全てから突撃出来るように周囲を旋回し、吹雪の邪魔にならないタイミングを見計らって一斉に突撃。

 

「……やらせない」

 

 空の上からの攻撃が目に入ったら、本能的に撃ち墜とさなければと考えてしまうのが防空艦。潜水している際に艦載機に対潜攻撃をされたことで浮上してきたくらいなので、やはりその本能がしっかりと利いている。

 しかし、防空巡棲姫の目の前には吹雪がいる。少しでも隙を見せればそのまま命を奪ってくるような相手。防空に全てを寄せることは出来ない。

 

 それ故に、防空巡棲姫が取る行動は、最優先が吹雪への攻撃。しかし、両用砲は全て上に向けて対空砲火に専念した。広範囲にぶち撒けるタイプの対空砲火であるため、戦艦主砲並みの火力も含めると、360度全てを網羅する攻撃となった。

 

「視線が上に行きましたね。その一瞬が……っ」

 

 両用砲は上を向いているが、防空巡棲姫自身はその強化された膂力と格闘能力を使って吹雪を圧倒しようとしている。ただ、それはまともな艦娘相手には通用するのであって、吹雪相手には全く別。

 

「命取りですよっ」

 

 両用砲が自分に向かなくなったタイミングを見計らって、吹雪は一気に接近、防空巡棲姫には、その移動は殆ど瞬間移動か何かに見えてしまった。瞬きをした時には距離を詰められているようなもの。そして、結局そのタネはまだ気付くことが出来ていない。

 

「……っ」

 

 咄嗟に手が出る防空巡棲姫だが、それでは間に合わない。吹雪がそれを止めるために手を翳した瞬間、防空巡棲姫の振るった腕は弾き飛ばされる。如何に異常な膂力を与えられていたとしても、吹雪のこの攻撃方法は、触れる前には弾かれる。

 吹雪のその絶妙なタイミングのおかげで、敵から触れられることはない。握力がどれだけあろうが関係ない。うまくタイミングさえ合わせられれば、()()()()()()()()()()()()()のだから、吹雪に触れることなんて出来るわけがなかった。

 

「千歳さん、千代田さん、ここです」

 

 そして、その腹に吹雪の蹴りが減り込んだ。完璧な直撃。そこから脚部艤装の瞬間展開により、防空巡棲姫を真上へと蹴り上げる。

 浮かせてしまえばこちらのもの。いくら両用砲があろうが、まともな姿勢が取れないのなら、十全の力は発揮出来ない。

 

「……ダメ。やらせない」

 

 しかし、それもまともな深海棲艦ならばである。防空巡棲姫の全身から泥が溢れ出たかと思いきや、艤装そのものが球体に出現。まるでジェーナス(アンツィオ沖棲姫)のように身体を完全に包み込んでしまう。しかもその全面に両用砲が備え付けられているため、360度どころか上下左右前後全てを網羅していた。

 別にジェーナスの情報を取り込んでいるというわけではない。侵蝕はしたが、それを黒幕の元へと持ち運ばれているわけではないため、全身を包み込む艤装のことは知らないはずである。しかし、それでもこの手段に出たのは、これまでの戦闘経験の蓄積から出た、咄嗟の判断。海面に足がつかなくなったことで、()()()()()()()()と判断したことによるとんでもない返しの手。

 

 当然ながら、この状態をされてしまうと、砲撃は一切効かない。接近戦なんて以ての外であり、むしろ全方位への砲撃によって近付くことすら出来なかった。

 

「そんなこと出来ちゃうんだ……」

 

 小さく舌打ちをする吹雪だったが、その弱点も同時に看破している。

 自分を守るために全身を突っ込んでいるため、ジェーナスのように自分の視界を考えているわけではない。つまり、今の防空巡棲姫は()()()()()()()()。代わりに上から下まで全てに砲撃を放ってくるのだから、近付くことさえ出来なくなってしまっているのだが。

 

「爆撃も効かないくらいに硬いわね……」

「戦艦の砲撃も弾き返してるくらいだから、対空砲火とかそういうの関係ないんだ……」

 

 対空砲火の隙間を縫って突撃した艦載機が爆撃を決めるのだが、全身を包む装甲を破壊することは出来ない。一斉射すら弾く装甲に対しては流石に無力である。

 そうなると、比叡の刃も通らないだろう。あの状態は無敵の状態とすら言える。出来るのは、その両用砲を斬り刻むくらいだが、近づくことも出来やしない。

 

「本当にウニになってしまいましたね……どうする」

「だったら、これこそ私の出番でしょう!」

 

 吹雪が頭を悩ませるが、ここで動き出したのはコロラド。当然白鯨を展開している。

 

「これなら、誰よりも強い力で装甲を破壊出来るわよ! ()()()()()()()()!」

 

 そして、白鯨をそのまま突撃させ、その巨大な口で全身装甲となった防空巡棲姫を丸呑みしてしまった。

 見えていないことをいいことに、不意打ちでもなんでもなく真正面から白鯨による一撃である。

 

 

 

 

 これで終われば一息つけるが、まだこれでもどうなるかわからないのが今の敵だ。まだ安心は出来ない。

 

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