空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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本来の進化

 黒幕の代弁者とされた別個体の春雨との戦いは苦戦を強いられていたが、江風の閃きによって打開策が見出だされた。黒幕が島そのものであるのならば、本来陸上施設型には通用しないはずの魚雷も効くのではないかという案が、本当に効いたのである。

 島に雷撃を直撃させたことによって、一時的に泥壁自体が破壊されたことを確認出来たため、今後の狙いはこれで行ける。

 

「もっとバカスカ撃っていけばいいンじゃね!?」

「うん、多分それでいい。でも、壁の再生がすごく早いから、攻撃のタイミングはちゃんと考えないとダメだよ」

 

 まず壁の取り除き方はわかった。しかし、即時再生をすることともう1つ問題点が出てくる。

 江風と同時に雷撃を放ったことで、壁は一時的に崩れ、別個体の春雨の姿を視認することが少しだけでも出来ている。江風が面と向かえたのだから、当然その近くにいた春雨だってその姿を目にしている。

 その時に、春雨はその力──望み通りの答えに辿り着く力を使っていた。見た者を思い通りにコントロールする力により、その時は定番の『動くな』ではなく『島にいるな』というそこに立っていることを否定する願いをぶつけている。しかし、それでも壁の再生は止められなかったため、そのまままた視界を遮られてふりだしに戻された。

 

 実際、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは、春雨の目からしたらすぐにわかった。おそらくだが、別個体の春雨に身につけさせている泥のコスチュームがその状況を作り出している。

 代弁者とするために侵蝕と同時に身体に張り付いている黒幕そのものであると考えれば、そのコスチューム自体を使って操り人形のように動かすことは可能。言葉は代弁者を使うが、それを操っている本体はこの島全体であり、コア自体は見えないところにいるため、春雨の力が通用しない。そもそも微生物の群衆である時点で止めることは出来ない。

 これが島と接続しているわけではなく、別個体の春雨が侵蝕されつつ、黒幕が中に入っているというのなら、その動きは止めることが出来ただろうし、上手くいけば泥壁の再構築も防ぐことが出来た可能性はある。

 

「やらなくちゃいけないのは、集中攻撃して壁を無くしてから……」

「その隙に、あちら側の春雨姉を釣り上げろってことだ」

 

 涼風も春雨の事情は理解出来ずとも、今回は引き摺り出すことを優先すべきと考えている。元々救うつもりで戦うのなら、あちらがどういう戦術を取ってきたとしてもやることは同じ。引き摺り出すために壁を破壊する。それ以外にない。

 ならば、この戦場にいる雷撃が出来るもの全員によって、一斉に攻撃を繰り出すことがベスト。

 

 3人がかりでの同時攻撃で、別個体の春雨の正面にある泥壁が少し破壊され、一言言葉を交わした瞬間に泥壁が再生した。もっと大きく穴を空けるならば、より強い攻撃を一度にぶつけるしかないだろう。

 そのためには、今ここにいる者達の力を結集し、完璧なタイミングで島に直撃させなくてはならない。まばらになると、破壊と再生が拮抗して、うまく壁を破壊することは出来ないだろうし、同時でも同じ場所でなければ、破壊出来る範囲が広がるだけで再生の速度は同じなので、鎖を放り込むような時間は与えられない。

 

「空母の2人以外は全員魚雷が使えるから、10人同時に雷撃だね。一点集中で、誘爆に誘爆を重ねて」

 

 大半を占める駆逐艦は勿論のこと、古鷹も本来の巡洋艦としての力を残しているために魚雷の運用は散々してきている。

 戦艦である金剛は本来は出来なかったのだが、限られた者に与えられた第三改装により、施設を守っていたビスマルクと同様、魚雷が扱えるようになっていた。

 そのため、ここにいる春雨を含めた総勢12名のうち10名が雷撃に参加可能。それだけの攻撃をまともに受ければ、泥壁も大きく抉れて再生に時間がかかるはずである。

 

「大丈夫、みんなでその答えに辿り着けばいい。私と一緒に、みんなで辿り着こう」

 

 春雨の瞳が燦然と輝く。辿り着く力により正解までの道を示すための光を見るために。

 心持ちが変わった春雨には、その道も違って見えるようになる。今まで見えていた道は、自分だけのモノだった。それを辿っていけば、自分にとっての最善に辿り着けた。だが、今は違う。()()()()()()()()()()()

 一人で辿り着くことなんて出来ない。仲間がいるからこそ、辿り着く者としての力を発揮出来る。その信念が道にも表れていた。

 

 全員の最善の答え、救われる道。自分だけではない。仲間がどう動けば最善の道に向かえるか、その全てが見える。

 自分が動いたらその通りに動くのではなく、その道を辿ってもらうために、道が見えている春雨自身が指示をする必要があるのだが、春雨自身の道はその指示まで考慮されている。

 

「皆さん、私の指示に従ってもらっていいですか!」

 

 春雨は大声で全員に伝える。そうすれば、別個体の春雨にもやろうとしていることが把握されるのだが、それでも大丈夫と確信して。

 自分の意思を言葉にするだけでも、各々から伸びる道は形を変えていく。しかし、それが途絶えることは無かった。

 

「私だけが辿り着いても意味がありません! だから!」

「当然です。春雨姉さんがここまで言うのですから、勝ち目があるのでしょう。どんな絶望的な状況でも、その光が必ず、今を変えてくれます。従わない理由は無いです!」

 

 その言葉に答える筆頭は、やはりと言っていいのか海風である。心酔していても間違いは正す海風が、無条件で従うというのだから、春雨には余程の自信があるということ。この切羽詰まった戦場でここまで言うのだから尚更だ。

 

「大丈夫デース。今の部隊の旗艦は春雨みたいなものデスから、余程の無茶じゃない限りみんな聞くヨー!」

 

 そこにこの中でもリーダー資質がトップクラスである金剛が指示に従うと言うのだ。他の者達も次々と口を揃えて指示を待つ。艦娘も、深海棲艦も、ここでは関係ない。全員が春雨の言葉に耳を傾けた。

 

「アンタが見た道は、必ず勝てる道なのよね?」

 

 自慢の槍が通用しないため、一時的に春雨の方まで下がってきた叢雲が問う。この状況を覆す何かを持っていると言うが、それは本当に自信を持って言えることなのかと。槍を振るいながら飛んでくる砲撃を弾き、春雨の答えを待つ。

 その春雨と肩を並べて戦うことも多かった叢雲でも、この鉄壁とも言える黒幕の猛攻を春雨が超えられるのかはわからない。

 

「勝てるよ。それに、叢雲ちゃんはキーマンだよ」

 

 対する春雨は、自信を持って答える。しかも、叢雲を立てるような発言。そう言われた叢雲は少しだけ驚いて春雨の方を見据える。

 

「叢雲ちゃん、今怒りが溜まりに溜まってるよね」

「ええ、あんなイライラする敵はそういないわ。自分のことを棚に上げて言いたいこと言って、自分の口が無いからヒト様を使って代弁させるとか、クズの中のクズよ。見てるだけで腹が立つわ」

「なら、槍は相当大きく行けるよね」

「自信を持って言えるわ。コロ助にぶち込んだ時よりも力が出る」

「それならやってもらいたいことがあるから、お願いね。叢雲ちゃんでないと出来ないことだから。()()()

 

 面と向かって任されたことで、叢雲の中に力が芽生えた。滾る怒りはそのままに、何か()()()が内側から燃え上がるような、そんな感覚を得た。

 

「……これも辿り着く者の力なのかしら」

「ううん、多分それだけじゃない」

 

 春雨は微笑みながら、しかし、辿り着く者としての類稀なる直感で、今の自分の力を理解したことで、自信を携えた表情で言い放つ。

 

「私の力、()()()()()、わかった気がする。だから今、それが実践出来てる。白露姉さんに言われたこと、今の私なら出来る」

「何のことかは知らないけど、今はアンタの指示に従ってあげる。いや、従うんじゃないわね。()()()()()()()。これだけ力が湧くんだもの」

「うん、それでいいよ。私をしっかり利用して。頼りにしてるんだから」

 

 ふっと口角を上げながら、叢雲は改めて泥壁に目を向けた。猛攻は何も変わらない。隙も何もあったものではない。

 しかし、江風主導のあの一撃を受けたからか、より自分の前には厚めの壁を張っているように見えた。砲撃も一度でも貫きかけた江風に対しては当たりが強いようにも見える。

 

「みんなの力が必要なの! だから、お願い! ()()()()()()()()()()()()!」

 

 春雨のこの言葉、そして、少しだけ下がって全員を自身の視野の中に収めることで、今の春雨の力が最大限に発揮される。

 仲間達は声援を受けることで力が湧き上がる感覚を得て、これまでの消耗なども払拭されたように感じた。

 

「春雨姉さんの思いの力です。身体が温かい。力が漲ります」

 

 この力の湧き上がり方は、明らかに外部からの干渉による強化だ。しかし、泥の侵蝕による強引な干渉ではなく、対象となった仲間達を優しく包み込むような温かさ。海風のように春雨の力に敏感な者だけではない。他の者もこの優しい熱量を感じることが出来る。

 

「なんだ、春雨。やっぱり出来るんじゃん。でも、きっかけが必要だったんだろうね」

 

 その熱を感じながら、白露がニッコリ笑う。春雨の力は、敵のみならず、仲間にも作用するのだと。

 以前に白露が案を出した、『望む答えに辿り着く力を仲間に使ってみる』というものは、今ここに実現した。

 

 いや、実際はその力を仲間に使っているわけではない。今までの春雨の力は、怒りを根源とした否定の力。『動くな』や『喋るな』といった、対象の行動を否定することに特化した力だった。

 しかし、今は違う。否定など一切しておらず、信頼から来る仲間達へのブースト。泥などという穢らわしいモノも使わない、マグマの熱をただ身に纏わせる健全なブースト。

 

「……辿り着く者……」

 

 別個体の春雨が泥壁の向こう側で苦い顔をした。その力がこの戦場にどう作用しているのかがわかっているかのように。

 

 きっかけは、涼風の奮起。逆境に置かれても、正しい心で前を向いていたことにより、春雨の心は動かされた。

 海風が崩れているところを何とかしたいという思いやりが、それを強く光らせた。滾る焔はカタチを変えて、真紅から純白へと昇華する、

 江風の閃きで、疑問だった勝ち目に光が差した。それは勝利への自信へと繋がり、春雨の力はより高みへと昇った。

 そして、少し下がって戦場の全域を捉えたことで、仲間達の奮闘をよく見ることが出来た。この仲間達と共に、最善の答えへと辿り着きたいと心の底から思った。

 

 これにより、春雨の力は、本来の進化を見せた。怒りによる変化ではない。最善の答えに辿り着く力を、否定的ではなく肯定的に進化させた力へと。

 

 

 

 

 今の春雨は辿り着く者ではない。

 

 仲間と共に辿り着く者。辿り着くために、仲間の前に立つ者。仲間のために力を尽くす者。つまり、

 

 

 

 

 ()()()である。

 

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