辿り着く力はさらに進化し、今や仲間達すら辿り着かせる力、
黒幕のように自分の領域全てに自身の粒子をばら撒くようなことは出来ないが、自分の目が届くところは全てがその力の領域内となる。結果、今ここにいる仲間達は温かな熱と共に力が湧き上がっていた。
「仲間を使う力で、私を圧倒しようとしてるのかな」
やはり、別個体の春雨──黒幕は、春雨の今の力を理解している。この近海にばら撒く自身の粒子にも干渉してきていることを肌で感じているのだろう。黒幕が粒子ならば、春雨も粒子。同じことで拮抗しようとしているのならば、勘付いて当たり前。
春雨も今の状態になったことで、黒幕が周囲に撒いている粒子を感じることが出来るようになっていた。しかし、視界の中という限定的な領域であるために、密度は春雨の方が上。黒幕の粒子は春雨のそれに追い出されるように島まで追いやられている。
「なんやこれ……ウチにも干渉してくんのか」
「……あたしも力が漲ってる。龍驤も?」
「ああ、頭が冴えとるわ。分析の速度が倍以上になっとるで!」
そして、春雨でも黒幕でもない3人目の粒子を感知出来る者、龍驤も、この春雨の力をその身に感じていた。視界の中に入り、かつ、
この戦場で最も必要な力が膨れ上がるという、インチキと言われても言い返せないくらいの強化。
覚醒したその力は、仲間を際限なく強化する力。粒子となって視界に撒かれた春雨のマグマは、最善の答えまでの道を辿らせるための力を与える。
「全員、回避しつつ接近! 一点に集中して!」
指示を出しながらも当然自分でも前進。しかし、全員を視界の中に入れておく必要はあるため、その前進は通常よりはかなり遅め。
代わりに、一点集中のために仲間達が動き出す。何処とも言われていなくても、何処を狙えばいいのかは無意識に──いや、
春雨のばら撒く粒子と化したマグマは、春雨の意思を言葉ではなく直感で理解させる。言葉を交わす必要もなく意思疎通が出来ているようなもの。それこそ、春雨の意思を仲間が体現していく。
やっていることは黒幕の泥による侵蝕に近しいモノ。自身の意思を送り届けて、思い通りにコントロールする。だが、根幹がまるで違った。意思を捻じ曲げて傀儡とする黒幕と違って、同じ思いを胸に共に最善の道を歩んでいくとするのが春雨。
強制力が無くとも、自分の意思で手伝ってくれる者だからこそ、春雨の意思を汲み取って、何をすればいいのかを言葉なしで把握出来る。
「先行しマース! 皆さーん、
まず飛び出したのは金剛。こういう時に先陣を切り、仲間の盾となりながらも、高速戦艦の名に恥じぬスピードで先頭に躍り出る。
誰よりも前に立つと、艤装を盾へと変形させて、仲間を守るために万全の状態を作り上げた。
「盾というより、的だよ」
そんな金剛を見て、別個体の春雨は吐き捨てるように呟いてから、金剛に向けて激しい砲撃を放ち始めた。
先行した金剛は、黒幕からして見れば恰好の的。狙ってくださいと言っているようなもの。泥壁は金剛に向くように変形し、今までにない集中砲火を浴びせる。
「それでみんなを守れるのなら、上等デース。もっともっと、この私を狙ってくるといいデース!」
「なら望み通りにしてあげる」
「かかってきなサーイ!」
ニィッと挑発するような笑みを浮かべ、その集中砲火を当たり前のように盾で弾き飛ばしていく。
泥壁からの砲撃は、普通の戦艦の一撃よりも重いもの。それが駆逐艦の連射並みの速さで飛んでくるのだから、本来ならば耐えることなど出来ようはずがなかった。
しかし、金剛はそれを意に介することもなく、次々と弾いていった。盾の動かし方から角度、力加減まで、完璧に計算しては、自分へのダメージを最小限どころか無効化にし、一切傷を負うことなく凌いでいった。
「身体が軽くてよく動きマース。これなら、いつまでも出来ますネー!」
弾き飛ばす方向もその場で理解出来た。直感がいつもよりも冴え渡る。何処に盾を置けば砲撃を確実にいなせるかが、手に取るようにわかる。体力の消費も極限まで抑えられ、衝撃で身体にガタが来ることもない。
「サラ達がしっかりサポートしなくては、ですね」
「ええ、こちらにも目を向けてもらいましょう。それが一番の援護です」
そこに空襲を合わせるのが空母隊、サラトガと大鳳。ここぞとばかりに自分が搭載している全艦載機を発艦。出し惜しみをすることなく、その全てを叩き込むために空襲を開始。
先程までは、黒幕の基地航空隊にことごとくを妨害され、爆撃も一つ残らず一掃されていた。しかし、今回は違う。敵攻撃機がどのように迎撃してくるかが海上からでも把握出来る。大鳳に至っては、艦載機を自身の力でコントロール出来るため、その把握が艦載機の動きに直結する。
「隙間が見える。こんなに冴え渡るのは初めてですよ」
「Yes. これがハルサメの見ている
「確かにそうですね。なら、この力を有意義に使わせてもらいましょう」
深海棲艦の艦載機を扱う大鳳は、それを本来ならあり得ない生物的な動きをさせて敵航空機の隙間を縫っていく。サラトガの繰り出した艦載機は、それを操縦する妖精さんにもこの力が行き渡っているため、普段よりも高速で動き回り、敵航空機を翻弄していく。
「……鬱陶しいね。でも、ここはやらせない」
しかし、爆撃自体は島まで届かない。黒幕の基地航空隊は無限に発生するようなものであるため、爆撃そのものを受け止めて自爆することで島を守り続けている。追い詰めているようでその実、まだ攻撃が一切届いていない。
ただし、その攻撃のスピードと精密性は先程までとは段違いであり、黒幕もそこへの対処に少しだけ神経を向けなくてはならない状況へ。
「何処に行って何をすればいいのかわかる……この道を辿っていけばいいってこと……だよね」
「そうねぇ。内火艇の道まで見えるわぁ。これが春雨ちゃんの道ってことよねぇ」
山風と荒潮は戦車隊と内火艇を操りながらも一点集中に向けて動き出す。空襲による上空からの対地攻撃と合わせて、海上からの対地攻撃を続けた。本当の狙いのために、まずはあらゆる方向から黒幕を翻弄する。
分厚い泥壁があるから海上からの攻撃はシャットアウト出来ていると考えるのなら、それは間違いである。今の山風と荒潮には、その行動の適切な動きが見えている。
といっても、少し考えればわかることではあった。
「目の前だけが攻撃出来る場所じゃないものね〜。さっきまでは操るにも視野が今より狭かったから出来なかったけど、今なら回り込みだっていくらでも出来るわぁ」
「自分の前だけ壁を張ってるんだから……もっと遠くから島を踏み潰す」
別個体の春雨を守るための壁であるため、陸と海の境界にビッシリと壁を生成しているのだが、それが島全域にまで拡がっているわけではないのだ。むしろこの行動によってそれを促す。正面にいる敵だけを注視していたら、足を掬われるぞと教え込むように。
「……あくまでも島を狙おうってことか。私の
さも当然のように泥壁はどんどん拡がっていき、最終的には島と海の境界を全てを囲うように壁が生成された。どれだけ回り込んでも島の中に戦車隊や内火艇が島に踏み込んでこれないように。
だがこれは黒幕にとっても出来ることならばやりたくはないことなのだろう。いくら島全体が自分の器となっているとしても、まるで違う方向から攻撃されるのは鬱陶しさで集中力が乱される。それは例えるのならば、自分の周りに数匹の蚊が飛び回っているようなもの。
「大丈夫、充分に行けてる。みんな、タイミングも合わせられるよね」
春雨が見えている道は、今やここにいる仲間達全員に見えている道。その光り輝く道の通りに動くだけで、最善の答えへと辿り着くことが出来る。
何処で何をすればいいのかを提示されているのだから、今やそれ通りに動くことが黒幕の思い通りにしない最高の動きになるのだ。
「これが春雨姉さんの見ている世界。辿り着く者の世界なんですね。今だけでも春雨姉さんと感覚が共有出来ていることを、海風は嬉しく思います。私の役目、よくわかります。この道を提示してくれている春雨姉さんの期待に応えるためにも、全身全霊をかけて辿り着きたいと思います。お任せください」
海風が特に動きが良くなっている。一部の春雨細胞による治療を受けた者と違う、経口摂取による細胞適合者として、辿り着く者に最も近い世界を見ているのが海風だ。動きも直感もほぼ春雨の模倣と言っても過言ではないくらいにまで高まっている。
これも海風の特性、春雨への依存が影響している。誰よりもこの力を受け入れることが出来たから、ここまでの力を引き出せる。今の海風は、2人目の辿り着く者であろう。
「よし、それじゃあ……撃って!」
この合図と同時に、魚雷が放てる者は一斉に放った。駆逐艦は全員、古鷹も尻尾からありったけを吐き出し、金剛すらも盾で守りながら繰り出す。
その威力は、先程の江風と同じように威力が上がっており、突き進むスピードなども大幅に強化されている。それがほぼ全ての仲間達から一気に放たれた。
「……っ」
やはり海中からの攻撃を陸上施設型は対応出来ない。海中に壁を作ることも出来ず、魚雷は全てが島に直撃していく。これほどの数の魚雷が島にぶつかれば、島そのものを抉りかねない程の火力を叩き込むことになる。
海中の爆発は海上にまで影響を与え、砂や土まで巻き上げた水柱が発生。中には黒幕の泥まで巻き込まれているかのようにも見えた。
「叢雲ちゃん!」
「わかってるわよ! 私にも、見えてんだから!」
そして、その水柱の根本、幾つもの魚雷が叩き込まれて抉れた島の一部に向けて、叢雲の巨大化した槍が突き立てられた。今まででも特に大きく長いそれは、まるで掘削するかの如く島を強く抉り、別個体の春雨が立つ足場にヒビを入れる程にまで達する。
ほぼ地盤沈下とすら言える程の大惨事を引き起こしたその一撃により、別個体の春雨の前に生成されていた分厚い泥壁は連動して破壊され、水柱の向こう側に足下を崩されて姿勢まで崩れた姿を晒していた。
「ここ! 海風! 白露姉さん! 古鷹さん!」
「お任せください!」
「っし! やってやるよーっ!」
「今なら、私も全力で行ける!」
海風は右腕を錨と鎖に変形させ、白露は村雨の武器であった鎖を展開。古鷹は尻尾の艤装を極限まで伸ばす。
「見えてなくても、何処にいるかわかる……!」
「流石春雨だね」
「勿論です。これが春雨姉さんの見えている世界なんですから。これが全て、正しい!」
そして、その全てを別個体の春雨へと絡み付かせる。少し距離が離れていても、今ならば限界以上に伸ばすことが出来ていたため、しっかりと捉えることが出来た。
古鷹の尻尾が両脚を、白露の鎖が右腕を、海風の鎖が左腕に巻きつき、トドメと言わんばかりに春雨の両手が胴体を掴む。
「っ……やらせな……」
「壁を作るのは別にいいけど、それは生やすものでしょ。やればいいと思うよ。でも、この手は絶対に放さないから」
やはりと言えばいいか、別個体の春雨は新たな泥壁を陸から生やそうとした。しかし、叢雲の槍が深々と食い込んでいるため、壁そのものがまともに生成されなかった。
これが叢雲がキーマンと言っていた理由。陸地に直接攻撃を仕掛けるだけでなく、それをそのまま維持することで目の前だけでも機能不全を起こすことが出来るのは、この中では叢雲しかいない。
「なっ……」
「力を合わせて! せぇの!」
そして、4人がかりで別個体の春雨を一気に引っ張る。脚は陸の泥に接続されてしまっているが、そこに古鷹の尻尾を配置したことで、かなり強引な引き剥がしが可能となっていた。
さらに3人の力も加われば、陸との接続を無理やり引きちぎることも出来る。ただ引っ張るだけでなく、春雨の力まで加わっているのだから、その手段は最善の答えとなる。
「っしゃあああ! 行けぇえ!」
白露が吼えたことで全員に力が入り、脚の泥がブチリと切れる。その瞬間、引っ掛かりが取れたように別個体の春雨の身体が陸から離され、宙を舞った。
これにより、別個体の春雨は解放されることになる。泥の呪縛から解き放たれ、身体中に纏わりついていた泥はコスチュームごと霧散した。