空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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代弁者の救出

 導く者として覚醒した春雨によって完璧な連携を見せた仲間達により、黒幕の代弁者として使われていた別個体の春雨が島から引き剥がされた。春雨、海風、白露、古鷹の4人がかりでタイミングよく引っ張ったことで泥の呪縛から解き放たれて宙を舞う。

 

「春雨、治療は!?」

「RJシステムで行けると思います。山風!」

「すぐ行く」

 

 島の上からは救い出された別個体の春雨だが、今の今まで黒幕の代弁者に仕立て上げられていたのだ。卵が植え付けられていてもおかしくないし、新種の泥が体内に巣くっていても疑問は無い。むしろ、陸から剥がされたくらいで侵蝕が失われるとは到底思えない。

 ただ、陸から引き剥がすのが最優先であることは確かだった。無限に供給される泥のせいでその場での治療は不可能だったし、救うためには島の上にいてもらうわけにはいかなかった。

 

「龍驤、解析は」

「もう出来とるで。そいつ、やっぱ卵が植え付けられとる。端末はさっさと消し飛ばしとるが、卵はサクッとやることは出来へん。それに、()()()()()()()()()()。これは直に触らんとどうにも出来へんやろな」

「……あたしが触ればいい?」

「おう、山風がウチを装備しとるんやからな。ウチが山風を通じて確実に治療したる」

 

 春雨のマグマでも治療は可能だろうが、ここはもっと()()()方法で元に戻すべきだろう。

 マグマを流し込む治療法も確実といえば確実なのだが、今後のことを考えれば、別個体の春雨の体内に蔓延る知らない泥であっても解析はしておいた方がいい。それでどうしても治療出来ないというなら、春雨のマグマを最終手段として使うべき。

 

 一方、拘束された状態の別個体の春雨は、陸から離れたことで代弁者ではなくなっており、その際に泥のコスチュームも全て霧散したため、残念ながら全裸で捕らえられている状態。

 島との接続は無くとも、別個体の春雨は侵蝕されているようなものなのだから、呪縛から解き放たれていても敵対の心はそのままである可能性が非常に高い。龍驤が別物の泥が入っていることを察知しているのだから尚更だ。

 

「逃げられるだなんて思わないでね、別個体の私。今はもう自分の意思を取り戻してると思うけど、まだ私達のことは敵に見えてるよね」

 

 春雨が自身と同じ顔の()に向けて言い放つが、別個体の春雨は無言。その目にはまだ敵対心が見えており、侵蝕は全て失われたわけではない。

 

 おそらく、こうやって島から引き剥がされても、隙を見て誰かを攻撃しようと思っていたのだろう。最悪、侵蝕すら考えているはず。

 なのだが、4人がかりの拘束は侵蝕どころか艤装の展開すらさせない完璧なマウント。さらに言えば、春雨がその両腕で胴を掴んでいるため、()()()()()()()()()()()()力を使っている。導く者としての力は、別個体の春雨に対しても最善の道──治療されて呪縛から完全に解き放たれること──を歩かせるために発揮されていた。

 

「別個体の春雨姉さん、すぐに元に戻しますからじっとしていてください。抵抗は不要です。貴女にはこれが最善の道です。それは私達全員が見えています。だから受け入れてください」

 

 海風が諭すが、別個体の春雨は明らかに嫌そうな表情を見せる。代弁者にされたという事実は、別個体の春雨をより黒く染める侵蝕に繋がっている様子。

 

「アンタが心の底から黒幕に屈してないことくらいわかってんの。侵蝕がよっぽど深いんだね。でも安心しな。あたし達はそんなアンタも救ってやれるからさ」

 

 白露からの言葉にも、別個体の春雨は無視を貫く。ちゃんと治療をしない限り、この心を動かすことは出来ないだろう。

 

「っし、解析完了や。今のウチはホンマに冴えとる。処理速度が数倍に膨れ上がっとるわ」

 

 ここで山風とその上の龍驤が到着。別個体の春雨を見るなり、その体内に蔓延る泥の解析が完了したと言い出した。

 これまででも解析はしてきているが、ここまであっという間であることは、今までに無い。こんな状況、明石だったら今すぐ自分にもこの力を頼むと拝み倒していただろう。だから、この戦いの後に詳細を語るレポートを提出することになる。

 

「やっぱり島から直接に入れられた泥なだけある。ウチが持っとるデータと照合出来へんのも入っとるわ」

「治療は?」

「当然、出来るで。春雨のおかげで、ウチも辿り着く者の景色は見えとるんや。戦場で解析しとるんやから、最善の道を選び取れるわ」

 

 春雨の力の効果範囲は、艦娘や深海棲艦だけではない。意志を持つのならば、妖精さんにも影響する。特に龍驤はより強い意志を持つのだから、影響を受けない理由がない。

 その結果、辿り着く者と同じ道が見えるようになったことで、解析のスピードが数倍に。さらにそのシステムの適用範囲や効果までもが飛躍的に上昇している。

 

「今まで時間かかっとった泥の解析も終わった。ひとまずそっちの春雨の治療を始めよか。急がんと卵が孵化するかもしれへんしな」

 

 当然RJシステムによって卵は消滅させられる。しかし、端末と違って体内に埋め込まれているようなものに対しては、その身体に触れなければ対処が出来ない。

 そしてその治療は、龍驤が直接触れるより装備している者が触れる方が手早く終わる。龍驤はあくまでもシステム妖精、解析などはシステムとしての機能として実行出来るが、治療は出力の問題で装備者の力が必要となってくる。

 

「山風、お願いね」

 

 どうしてほしいかも全てわかっているため、別個体の春雨を拘束している4人、その中でも自由に動かせる春雨と古鷹が身体を持ち上げて、山風の前に立たせる。

 別個体の春雨は睨み付けるように見つめるが、そんなことを意に介さない山風は一切の容赦なく鳩尾に手を置いた。卵の位置、侵蝕の原点の場所も、当然光の道として提示されているため、何も考えることなくそこに手を置くことが最善の道であるとわかる。

 

「そんな目で見ても無駄……」

 

 そして、RJシステムの治療効果を発動。触れている場所から波長を送り込み、体内に埋め込まれている卵をピンポイントで消滅させていく。もう、龍驤さえいれば、明石の作った装置は不要となるほどになっていた。

 当然この治療には、施設でも同じ治療を受けた者達と同じように熱が発生。内側から燃やし尽くす。熱という苦痛を与えられ、別個体の春雨は目を見開いてその強烈な熱量に悶える。

 

「卵がデカいな。本来よりちぃと時間はかかるが、耐えてくれや。必ず全部消し飛ばしたる」

 

 4人がかりの拘束はこういう時にも役に立つ。この熱量を受けた者はほぼ全員がのたうち回るくらいに暴れるため、羽交い締めにするか拘束椅子を使うかして、身体を動かさないようにしてやる必要があるわけだが、それに通ずるものがあった。

 実際、この熱を受け続けることで別個体の春雨は鎖が身体に食い込むくらいに暴れた。締め付けられた痕が身体に残るくらいに力を入れてしまっているが、拘束している4人はそれ以上ビクともさせないくらいに強く締め付ける。

 

「卵以外の泥も入っとる。最初の侵蝕でしっちゃかめっちゃかになっとったからやろ。ここの部分も直に触れて解析しといたる。消す方法もすぐに作っとくわ」

「今までのと違う感じ……?」

「せやな。あの陸地にある泥に近いっちゅーか、()()()()に近しい泥なんやろ。多分コレ、器にされたモンなら持っとるようなヤツかもしれへん」

 

 龍驤に関しては、器だったものが泥化させられたため、龍驤特有のモノに変質してしまっていたが、それ以外に器にされた者がいるのなら同じ泥が体内に巣食っている可能性は高い。黒幕が唾をつけた証という感じか。

 これがあることによって、かなり強めの侵蝕をされていると考えられる。端末による支配とは比べ物にならないくらいに体内に根を張っており、今までの治療よりもダメージは大きい。

 

「今のウチならこれも解析出来る。すぐに治したるから、今はとにかく耐えてくれ」

 

 卵の消滅を確認した後は、身体に蔓延る黒幕の泥の治療。別個体の春雨はまだ身体が艦娘のままでいるため、治療自体はすぐさま身体中に行き渡る。

 

「これで元通りのはずや。少なくとも、ウチには泥の気配っちゅーか、何かしら感知に引っかかるモンは無くなっとる。言い方が悪いかもしれへんけど、その春雨は()()()()になったと思うで」

 

 ドロップしたばかりで捕らえられたとするなら新品と言ってもいいかもしれないが、記憶まではどうなっているかはわからない。

 

 治療が終わり、息も絶え絶えと言った感じで荒い息を吐く別個体の春雨の拘束を解くと、自分の力では立っていられないようで、その場に崩れ落ちそうになる。

 しかし、今は脚部艤装も展開していないため、そのままにしていたら沈んでしまう状態。流石にまずいとすぐに古鷹が抱きかかえた。

 

「辛かったと思うけど、これでもう大丈夫だからね」

 

 古鷹に優しく声をかけられても、別個体の春雨は何も言えなかった。代弁者とされている時の記憶は無いにしても、それ以外の記憶は当然残ったまま。艦娘でありながら、艦娘に対して敵対していたという事実は心に刻まれてしまっている。白露型の中でも特に優しく真面目な春雨であることから、この気持ちは簡単には払拭出来ない。

 

「別個体の私、今はここで見ていてくれればいい。ちゃんと()()()をつけてくるから。貴女に代わって、この私が」

 

 別個体とはいえ、それは春雨のことである。自分のことのように辛い。だからこそ、ここで決着をつけなくてはならない。

 

「もう言葉も失っているのでしょうけど、そろそろ姿を現したらどうですか。代弁者がいなくても、その本性くらい私達に見せられるでしょう。それとも、ここまでされてもまだ引きこもったままなんですか?」

 

 島に向けて煽る春雨。代弁者たる別個体の春雨を引き剥がしたことで、もう本能しか残っていない状態の黒幕である。その言葉に反応して何かしらの動きを見せてくれれば良し。

 実際は、島に乗り込んで核を探し出す必要があるとは考えているのだが、それをショートカット出来るならしておきたい。泥まみれの島に足を踏み入れることなんて出来ることならしたくない。

 

 しかし、うんともすんとも言わない。島の泥は鎮静化しているほどである。しかし、泥壁も対空砲火も基地航空隊もそのまま。

 代弁者がいなくても、島そのものが抵抗をすることは変わらないようである。つまり、()()()()()()()()()()と考えられる。島を器にしているというだけあって、本能的に自身へのダメージは回避しようと動いてくる。

 

「……徹底してますか」

「あそこに足を踏み入れたら、すぐに侵蝕されてしまいますよね……。春雨姉さんなら回避出来るかもしれませんが、あちらの方には()()()()()()()()()()

 

 全員に見えている辿り着く者の光の道。それは今、島の向こうには続いていない。つまり、上陸するなという意味である。

 このまま何の策も無ければ、次の代弁者にされることが確実。ならば、向かうことは出来ない。それは春雨にも言えている。

 

 

 

 

 八方塞がりとなりつつある決戦。しかし、ここを乗り越えなければ黒幕を終わらせることは出来ない。

 

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