空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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共通の策

 別個体の春雨を助け出せたのはいいが、島に引き篭もり防衛を続ける黒幕に手も足も出ない状況。実際あちらから攻撃をしてくるわけでもなく、防衛一本に絞られているために、その強固すぎる防衛能力に苦しめられることになっている。

 今のところ通用しているのは、岸に向けての魚雷と、叢雲の繰り出す巨大化した槍。しかし、それで核があるであろう地下施設までダメージを与えることが出来るかと言われれば当然不可能。島の中央まで届くような武器は流石に無い。

 対空砲火と基地航空隊を止めることが出来れば、そのまま対地攻撃によって島そのものを焼け野原に出来るだろうが、それすらもままならない。それ故に、まずは島をガタつかせるところから始める。

 

「魚雷を纏めて撃ち込んで、そこに叢雲ちゃんの槍を打ち込む。さっきやったことをもう一度やりたいんだけど……」

「同じ場所にやるのはやめた方がいいね。せめて、何か効果的な場所でやるべきだよ」

 

 春雨の言葉に付け加えるように、涼風も案を出していく。少なくとも、同じ場所に同じタイミングで魚雷を撃ち込んだところで、ほとんど通用しないことがわかっている。

 ならば、例えば泥壁が失われたらそこに何かしらの弱点があるような場所を知りたいところ。

 

「大鳳さん、上空から何か見えませんか」

 

 未だ制空権争いを続ける大鳳に聞く春雨。サラトガと共に艦載機を飛ばし、島に爆撃を決めるタイミングを測っているのだが、やはり自身の島を守るために力を注いでいるのがわかるくらいに激しい抵抗を見せる。

 そもそもの艦載機のスペックが異常に高く、サラトガと大鳳だけでは歯が立たないレベル。そこに古鷹が艦載機を追加しても、おそらく拮抗から先にはいけない。あちらは艦載機を自爆させてもいいくらいに無尽蔵に発艦出来るのだから、最終的にはジリ貧となり敗北を喫することになるだろう。

 

 それを打開するために、上空から見た島の状況を聞いていた。もしかしたら、そこから何か攻略のヒントが得られるかもしれない。

 

「一応、高高度に艦載機を1機だけ送ったけれど、まだ少し見づらいですね。ただ」

「ただ?」

「あちらの基地航空隊は、ここより奥側から出ています。島で言えば、真逆」

 

 たまたまなのか、意図的なのかはわからないが、戦場となっている近海とは逆方向の場所から対地攻撃を迎撃しているのだと大鳳は話す。上から見れば島の全容はある程度はわかるようではあるが、今は制空権争いもしている上に、黒幕の艦載機はさらに上を取ってくるため、ハッキリと見えているわけではないものの、これだけは確信を持って言えるとのこと。

 その場所も変えられるかもしれないが、少なくとも今はここより遠い場所を基点にして猛攻を仕掛けてきているようである。

 

「他には何か見えますか?」

「見えている限りを話します。作戦に役立ててください」

 

 サラトガは妖精さん経由だが、大鳳は艦載機の視点をそのまま自分のモノに出来る。そのため、リアルタイムで高高度からの状況を伝えることが出来た。

 

 曰く、基地航空隊の発艦位置以外にも、木々は島の中央に向かうにつれ多くなることや、泥壁が周囲全てに展開されて内側に入る余地がないことはすぐにわかるようである。

 山風がWG42(ヴェーゲー)による対地攻撃をしたときは、別個体の春雨付近から同じモノが展開されて迎撃していたらしく、いなくなった今はそれを放ってくるようなことはなさそうと言う。泥壁からの砲撃はしてきても、三式弾やWG42(ヴェーゲー)のような少々制御が難しいモノに関しては、代弁者がいないとできないようである。

 

「ぶっ壊すにしても、何をするつもりなンだ? 叢雲がこじ開けてる間に鎖とかが通せたからこっちの春雨の姉貴を救い出すことは出来てっけど、絶対次は対策してくンだろ」

 

 江風の言う通り、一度喰らったような一撃には、即座に対応してくるのが黒幕。復讐心から、敗北を喫したらそれに対してさらに上の力を得る。まだあちら側だった時の白露が持たされていた特性だ。

 最悪、魚雷も叢雲の槍も効かない可能性があるのだが、あと1回くらいは通るはず。その時に、何が何でも攻撃を通さなくてはならない。

 

「1つ思い付いた作戦があるんだ。江風が閃いたみたいに」

「何すンだ?」

「陸上施設型に効かないって思われてる攻撃を仕掛けるっていうのはどうかな」

 

 春雨には考えがあるようである。そして、導く者の考えは、その力により擬似的に辿り着く者となっている仲間達に次々と伝播していき、なるほどと納得。本当に効くかはさておき、やらずに終わらせるよりは試す価値がある一撃。

 

「ただ、今のままだと人数が厳しいかな……。もしこれで突破出来たとしても、もう少し戦力が欲しいところだけど……」

 

 と春雨が少し悩んだ時、何者かの気配を感じて全員が一斉に視線を向ける。

 

「あれ、今どういう状況?」

 

 そこにいたのは、吹雪と鹿島。防空巡棲姫との戦いを終えた後、未だ減らないイロハ級を他の仲間達に任せて、増援としてここまでやってきたのだ。

 

 防空巡棲姫を撃破した後、少しの間は周囲に群れるイロハ級を始末していたのだが、このままでは埒が明かないと、仲間達が2人をこちらの戦場に送り出した。

 どれだけやっても減らないのなら、元凶を始末することで根本的な部分から解決する方針。防空巡棲姫に使っていた戦力をイロハ級の殲滅に使えるようになった時点で、ある程度は余裕が出来る。武蔵と島風、コロラドは消耗してしまっているものの、比叡と大和が参戦出来ているのは大きい。それに、武蔵に関しては消耗しているとはいえ、まだ満面の笑みで戦いに参加しているために心配はいらない。

 

「よかった、来てくれた」

 

 追加の戦力が欲しいと望んだ瞬間に2人が来てくれたのは偶然か必然かはわからないが、とにかく戦況はこれでまた一歩前進する。

 大将の艦娘の中でも屈指の実力者である吹雪と、大塚鎮守府でも上位に位置する鹿島がここに来たのなら、攻略作戦もより立てやすくなるだろう。

 

 いきなり纏めて視線が自分の方に向いたので、思わずビクッと震えてしまった吹雪。今も戦闘の真っ最中だと思っていたのに、戦闘しているのは空母のみ、残りの者達は敵前で作戦会議をしているかのように集まっているような状況。流石にすぐには把握出来なかったものの、戦いが難航しているのはすぐにわかる。

 それは鹿島も同じではあるのだが、作戦会議している仲間達よりも先に、島の状況に目を向けた。上陸を拒むように生成された泥の壁と、その奥から無尽蔵に飛び立ってくる航空隊。一筋縄では黒幕の撃破に向かえないということはすぐに見て取れた。

 

「見てわかる通り、島の上に上がれないんだ。壁があって奥に行けないし、多分足を踏み入れた瞬間に侵蝕される」

「ああ、なるほど。島全体が黒幕ってことかな」

「うん。核があって、それを壊せば終わりなんだけど、そこに行くことも出来ずに、空襲も迎撃されて届かないんだ」

 

 確かにそれは困ったと、吹雪も一緒に悩んでくれる。だが、一応作戦はあると、魚雷と叢雲の槍のことは伝えた。一度喰らわせているため、次にまともに喰らってくれるかどうかはわからないが、通用したことは確かなのでもう一度やると。

 その時に開く泥壁の隙間に何をするのかもここで伝えた。その作戦を迅速かつ確実にクリアするために、2人にも協力してもらいたいと。

 

「なるほどね……。じゃあ、私は魚雷を合わせるよ。鹿島さんは……」

「私はこちらの春雨さんの保護を優先します。古鷹さんが参加した方がいいと思いますので」

 

 そう話しながら、鹿島は古鷹にしがみつく別個体の春雨の支えとなった。代弁者として使われていたところを解放されて、今は治療されたことで足腰立たない状態にされているため、どうしても誰かが傍についてやる必要がある。

 戦力だけで言えば、鹿島と古鷹なら古鷹の方が上であることは否めない。鹿島も当然重要な戦力ではあるのだが、ここでは一歩引き、救われた者のメンタルケアに努める。

 

「ここから移動して、基地航空隊が近い方から作戦開始する。ただ、あちらも基地航空隊の場所を変えてくる可能性があるから、それは大鳳さんにずっと見てもらってる」

「なるほどね……難しいところだけど、まずやってみないとね。動かないことを祈るか、動く前にさっさとやるかってことか。でも、いくら泥で作られてるとしても、移動させるのには時間はかかると思うし、2人がずっと空襲止めてないなら動かす余裕はないんじゃないかな」

「そう……だね。ずっと攻撃し続けておけば、島の構造を変える余裕を与えないって出来るか。じゃあ、古鷹さんも」

「うん、空襲に参加する。数が多くなれば、余計に余裕が無くなるはずだもんね」

 

 ここで古鷹も空襲に加わる。艦載機のスペックは大鳳やサラトガには劣るかもしれないが、数を増やすということに意味があった。

 あちらの航空機が増えてきたとしても、拮抗を維持させればさせるほど、こちらがやりたいことはやれるはず。

 

「合間合間に対地攻撃を挟みつつ、攻撃する場所を移動する。山風はWG42(ヴェーゲー)での攻撃を続けて。金剛さんも三式弾お願いします。それで、良さそうな場所はみんな察することが出来る、よね?」

 

 疑似的な辿り着く者となった仲間達の目には、次に向かうべき場所が見えていた。春雨にも、今まで見えていなかった道が見えるようになっていた。

 吹雪と鹿島が参戦してくれたことで、厳しかった勝利への道は再び姿を現すようになったのだ。

 

 今いるべき場所は、ここでは無い。最善の答えに辿り着くための道は、島を迂回して逆側に向かっている。そちらに行けば、この戦いで有利になれると道は示している。

 ならば、その道を辿って、確実な勝利を目指す。こればっかりはやってみなければわからない。やった後に新たな道が開くはずだ。

 

「それにしても……やっぱり姉妹だなぁ」

 

 春雨の立てた作戦、泥壁が開いた後にやろうとしていることについて、吹雪が少しだけ苦笑した。

 

「何が?」

「いや、ね。今からやること、私と鹿島さんは覚えがあるんだよ。少なくとも陸上施設型にやることじゃあ無いと思うけど」

「嫌なことを思い出してしまいますね……春雨さん、五月雨さんと同じことをやろうとしていますから」

 

 そう、春雨の作戦は、泥壁が開いた後、陸に向かって()()()()()()()ということである。それも、普通に反応出来ない速度で。

 

 吹雪は見る側、鹿島は()()()()でその一撃──あの壁に減り込む程の豪速球──を知っている。

 

 五月雨は無意識に艤装のパワーアシストをコントロールすることで、それを全て腕力に使うという離れ業をやってのけた。春雨はそこを義腕のシステムで再現しようとしている。

 勿論、大塚鎮守府で五月雨がそんなことをしていただなんて春雨は知らない。むしろ五月雨がそこまでのことをしていただなんて考えてもいなかった。故に、本能的に同じ策を選択したに過ぎない。そこが、吹雪にとっては姉妹だと感じたところ。

 

「あはは……白露型はそういう時に力業に走ろうとする(サガ)があるのかも」

「勝てるなら何も問題はないし、少なくとも今見えてる道はそうすること前提なんだよね。だったらガンガンやっちゃって」

「うん、任されたよ」

 

 

 

 

 黒幕の島攻略戦は最終段階へ。これがうまく行かなかったら、ジリ貧になる。緊張感が凄まじいが、春雨はむしろ、妙な昂揚感を得ていた。

 

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