吹雪と鹿島が合流したことによって、黒幕に対する次の策に移る。黒幕の基地航空隊を破壊するため、まずは最も近い位置まで移動、そこから魚雷と叢雲の槍による一撃を入れて泥壁を退かし、そこに爆雷を豪速球にして投げ込む。この策が決まったことで、全員に光の道は指し示された。
「す、すみません……お手数かけます……」
「大丈夫ですよ。今、この海域は危ないですから、皆さんと一緒について行った方が安全だと思いますから。私から離れないでくださいね」
救われた別個体の春雨は鹿島が責任を持って曳航。その場にいるのも、そこから離れるのも、今のこの海域的には少々危険である上に、流石に全裸は可哀想だと、鹿島が上着を羽織らせるくらいはさせている。
治療の後遺症でまた足腰は立たないものの、鹿島が支えてやればようやく自分で脚部艤装を展開することくらいは出来るようになったため、ある程度の安定感は見せるようになっていた。
「大鳳さん、サラトガさん、古鷹さん、大丈夫ですか。移動してもらっていますが」
春雨が3人に問うた。大鳳とサラトガの空母2人と、それに準ずる力を持っている古鷹には、航空戦を続けたまま一緒に来てもらっているという、なかなか厳しい状態。この移動中でも、黒幕に余裕を与えないように、航空戦は続けたままでいたいが、離れると春雨の力の範囲から離れてしまうために、かなり危険になる。それだけは避けたかった。
普段から回避しながらの航空戦というのはやっているのだが、全速力で駆け抜けながらの航空戦は多少なり艦載機側に影響が出る。特に、妖精さんではなく使用者本人にコントロールが委ねられる深海棲艦の艦載機は、集中力の分散が危惧される。
「ええ、大丈夫です。貴女の力のおかげでキレは今まで以上です。疲れもまだまだ感じません」
「Yes. タイホーの言う通り、移動しながらでも航空隊のControlは出来ます。頭も冴えてますしね」
「春雨ちゃんの力が、私達を底上げしてくれてるからね。何処をどうすればいいのかわかるから、拮抗は維持出来てるよ」
しかし、今は春雨の力の影響下。その辺りも直感やベストな力の扱い方などを選択出来ているため、いつもよりも激しく動いているにもかかわらず、何事もないどころかいつもよりも細かく動かせているくらいだった。
また、艦載機自体も強化され、3人がかりになったことも併せて、拮抗は確実に維持出来ている状態。優勢にまで持っていくことは出来ずとも、劣勢にはならない動きをしていた。これにより、基地航空隊の位置を移動させる余裕を無くす。
おそらく、こちらが攻撃の手を緩めた時点で、あちらはより防衛に適した配置に変えてくるだろう。せっかく戦いやすい場所に移動しているのに、それをまた覆されたら、時間や体力がいくらあっても足りない。
事実、大鳳が高高度から監視していると、島の中は艦載機を出してくるくらいで動きが見えなかった。木々が騒めき、守りを固めているようにも見えるが、今はそれくらい。
「一度三式弾撃っておきマース。山風、そちらもお願いしますネー」
「……了解。龍驤、振り落とされないで」
「っと、大丈夫やで。ウチのこと気にせずガンガン行ってくれ」
ここで海上艦からの対地攻撃も入れて、さらに黒幕の余裕を無くしていく。こちらも航行しながらなので、本来なら狙いを定めるのが難しいのだが、そこは辿り着く者の力が利いていた。狙いたい場所に思い通りに飛んでいく。
無論、これは黒幕によって迎撃されるものの、これでまた手段を減らすことが出来ているのだから良し。
今は黒幕に余計な行動をさせないことに重点を置く。
「何処がベストかは見えてるからいいけど、タイミングとかは?」
「それも多分わかると思う。でも、あちらも妨害してこないわけがない、よね」
魚雷を放つタイミングなどは、導く者となった春雨が全員を完全に合わせることが出来る上に、言葉を交わさなくても意思疎通が出来る程の連携が可能となる。そのため、いざ現場に到着すれば、何も言わずともいつ何処に攻撃をすればいいのかは直感的にわかるだろう。
後から来た吹雪と鹿島も、今では春雨の視界に入ったことで効果範囲に含まれ、疑似的に辿り着く者の力を得た。光の道を見て最初は驚いていたが、春雨に説明されてなるほどと納得する。
ただし、この光の道は今のところ妨害がないことから見えている道だ。想定外、知識にない手段を取られた場合、この道がまた途絶える可能性はある。対処不能なくらいなことをされてしまうと、導く者である春雨とて、いきなり対応することはなかなか出来ない。
「やってきそうなのは泥人形か。それなら蹴散らすだけだから大丈夫。私も鹿島さんも、有り余ってるとは言えないけど、まだ余裕はあるからね」
「あれだけの戦闘をして余裕がある方が恐ろしいんですが……」
鹿島が若干引いているのも無理はない。防空巡棲姫との戦いは、基本的に吹雪が中心となって行なわれていたのだから、誰よりも消耗していて然るべきである。なのに、ここの吹雪はそれを一切感じさせないくらい。顔色もいい。
実際は大技を連発したコロラドや、一斉射の撃ち合いから弾のぶつかり合いで破片を受けて血塗れになった武蔵、吹雪と共に蹴りを入れたことで脚を負傷した島風など、消耗している者はいる。しかし、吹雪はそれ以上に体力は残っていた。基礎からして違うようである。
「一度見せてしまっているので、妨害はしてくると思う。自我はなくても本能的に守りを固めてくるくらいだから」
「そうだね。でも、それごとやっちゃえばいいわけだよね。それに、今ならRJシステムもアップデートされたんじゃないかな」
話を振ると、山風の頭の上で振り落とされないようにしている龍驤が、任せろと言わんばかりに親指を立てた。
「ウチにも春雨の力の影響は出とるでな。泥人形なら、システムで消し飛ばすことも出来るかもしれん。出来なくても、蹴散らしやすくは出来るやろ。だから、ウチもあんたらの道をちゃんと開けたるからな」
今ならば、別個体の春雨から解析したデータもあるため、大概のデータは揃っている。黒幕自身のデータは変質を繰り返しているためになんとも言えないが、それ以外ならシステムで対応出来る。
そのため、厄介な妨害があったとしても、道を開くことは可能だろう。むしろ、自身を中心とした範囲全てが弱体化、ないし消滅まで持っていけるかもしれない。
島の周囲をぐるりと周り、今まで戦っていた場所から島を挟んで反対側へ。光の道は進路を示さなくなり、続いて攻撃する場所を指し示す。
空母隊と対地攻撃の奮闘により、基地航空隊の位置はここまで変わらず。そのおかげで、攻撃が通用することを光の道が教えてくれている。ここまでは順調。
しかし、こちらが黒幕の動きを見ることが出来ているのなら、あちらもこの動きを見ているに決まっている。本能的に自己防衛に走り、泥人形が島を守るために生成されていた。当然ながら、その姿は今まで見てきた艦娘の姿を模したモノ。
イロハ級が融合して生まれているわけではなく、泥壁からそのまま生成されて艦娘のカタチをしているだけ。しかし、触れられたら侵蝕は免れず、防衛を意図している生成であるために攻撃力より防御力に秀でているタイプの、いわゆる
「これで消耗させて、自分への攻撃を弱体化させようと考えているのでしょうが……もうこんなことくらいしか出来なくなっているんですね」
ここまで来ると、黒幕も哀れに見えてきていた。怒りと寂しさを超越し、導く者へと辿り着いた春雨であっても、この黒幕の在り方には怒りが湧いてきそうになる。
ここまでこれだけ好き勝手にやり、何人もの艦娘や穏健派の深海棲艦の心に傷を負わせ、自分以外の全てを使い捨ての駒くらいにしか見ていないのに、いざ自分がピンチになったら精神的にダメージを与えるような駒を用意して、十全の力を発揮させないように狡賢く動く。
それを自我も殆ど消えた状態で本能的に繰り出してくるのだから、元々性根が腐っていたとしか思えない。こんなモノが、あの中間棲姫の中に入っていたとは到底思えない。それが春雨の怒りを助長する。
「気持ちはわかります。私も気に入りません。ですが、落ち着きましょう春雨姉さん」
「アンタが腹立つ分は、あたしらが受け持ってあげるから。アンタはあたしらを導いてよね」
海風と白露がすぐに駆け寄り、春雨を落ち着かせた。導く者となっても不安定であることには変わりないようで、そこは姉妹がしっかり支える。
支えられるからこそ、春雨は仲間を導くことが出来る。仲間あっての自分と、正しく理解しているから。黒幕とは正反対である。
「……よし、では、行きましょう。山風、RJシステムを全開にして」
「了解……龍驤、お願い」
「任せや。もう殆ど解析出来とんねん。泥人形なんて、壁にすらならんぞ!」
これだけの泥人形が生成されても、今の龍驤──RJシステムがあれば、それは駒以下の存在に出来る。
解析を終え、泥に対しての対策が万全となりつつある龍驤が、徐に泥人形達へと手を翳す。すると、その動きは途端に緩慢なものに。
そもそもが壁になるために群がるだけの
「今や! やってくれぇ!」
「ありがとう。これならもう行けるね。みんな、タイミングは……言わなくてもわかるね」
ここに集合した時点でどうすればいいのかはわかる。そして、誰が脆くなった泥人形を処理するかも。
「道を開きマース! 行ってくだサーイ!」
戦艦である金剛が、残っている力を出し切るくらいに砲撃を放つ。それは、武蔵達の行なう一斉射に近い密度。辿り着く者の力を得たことで、精度だけでなく火力まで上がっていた。
眼前の泥人形を一網打尽にしていく勢いで蹴散らしていくその間に、駆逐艦達が魚雷を装填。叢雲は溜めに溜めた怒りを槍に注ぎ、そして、春雨と海風だけはその手に爆雷を携える。
「私と海風は利き手が義腕だからね。一番これに適してると思う」
「同じタイミングで同じ場所に投げ込むのはお任せください。私が春雨姉さんに合わせられないわけがありませんから。一挙手一投足、その全てを春雨姉さんのために使わせていただきます」
爆雷を握りしめて、笑顔を見せる海風に、春雨も緊張なんて感じることなく先に進める。
「それじゃあ、みんな、行くよ!」
全員の準備が整った。もうあとは行くだけ。ここで押し勝って、勝利を掴む。
ここにいる者達には、その道が見えていた。