空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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猛攻

「それじゃあ、みんな、行くよ!」

 

 春雨の掛け声と同時に、春雨、海風、叢雲以外の駆逐艦が一斉に魚雷を放つ。

 

 雷撃の威力は全員が殆ど同じ。しかし、練度によってその狙いの定め方やタイミングが変わるのは仕方ないことである。艦娘によって得意不得意があるため、北上や大井のような艦種として雷撃が得意な者もいれば、装備は出来るもののあまり多用はしない山風のようなタイプもいる。

 だが、辿り着く者の力を得ているここにいる者達は、今だけは一糸乱れぬ完璧なタイミングで同時に魚雷を放った。こうすることにより、黒幕が追い詰められるのだと信じて。

 

 誰も疑問に思わない。誰もこの力を否定しない。春雨の力を受け入れて、春雨の思うがまま……と言ってしまうと支配者のようになってしまうが、先導し、その戦い方を見つけ、勝利への道を指し示し、それに仲間達が自分の意思で従っているに過ぎない。

 これがダメだと思えば、いくら春雨が提案した作戦でも、確実に否定するだろう。だが、誰も犠牲にならない、安全かつ確実性のある作戦を伝えてくれるのだから、それを否定する者はいないだろう。あの叢雲ですら素直に従うのだから。

 

「邪魔モノは退いてくださいネー! 雷撃の邪魔デース!」

 

 まずその道を開くのが金剛。島を守るために群れる泥人形達を一網打尽にするため、全力の斉射によって視界を拡げていく。

 精度も火力も上がっている上、ここで全部出し切ってしまうレベルに放っているため、RJシステムによって弱体化されている泥人形は、掠るだけでもそこから微塵になっていく程。

 

 そのおかげで、雷撃の道がみんなの目には見えていた。光の道は、金剛が開いた道をまっすぐ突き抜けて島へと辿り着いている。この道を自分が通るのではなく魚雷を通す必要があるのだが、そこは心配いらない。

 

「撃て撃て撃て!」

「タイミングは()()()()()()()! 躊躇なく全部ぶっ放せぇ!」

 

 この中でも特にやんちゃな江風と涼風が先陣を切るように魚雷を放ち、光の道に沿うように島へと向かわせた。他の者もそれに合わせるように魚雷を追従させる。このタイミングが最もダメージを与えられると確信出来るから。

 しかし、全ての魚雷を纏めて放っても、本当に撃ち込みたい場所に辿り着く前に接触して誘爆しかねない。そのため、順序立てて撃ち込む必要があった。

 

「……2人とも煩い」

「いいじゃないの〜。こういう時は、元気な方がいいわ〜」

 

 一番槍が江風と涼風。そして、それに合わせたのが山風と荒潮。江風と涼風の放った魚雷が爆発しても誘爆しないように間隔を空けて。

 一発入った後に、同じ場所に二発、三発と入れていけば、嫌でもそのダメージは島の奥へ奥へと進んでいく。

 

「そこに合わせるのが、あたし! いっちばーん完璧なタイミングで、みんなを取り纏めるよ!」

「そこに私も加わればいいね。いっちばーんの白露ちゃんに合わせるから、自由にやってね」

 

 第三陣として放たれるのが白露と吹雪の魚雷。深海棲艦化していることにより魚雷の威力自体が上がっているのもさることながら、ここにいる者の中でも屈指の力を持つため、組分けの最後に置かれた。さらにそこに艦娘の中でも最強と言える吹雪のサポート。強大な力がより強大となり、前の二組の力を大きく上回った衝撃が島の岸に直撃した。

 

 本来は堀内鎮守府でもエースとされていた駆逐隊を治めていた者。そこに従っていた妹3人まで加わっているのだから、この白露は統率能力もかなりの者である。それが今、導く者の力によってさらに底上げされているのだから、連携は完璧なモノとなる。

 荒潮も、姉妹ではないのに白露には強く信頼が置けると感じているくらいだ。そもそもが境遇によって穏健派の深海棲艦に対する感情がいい意味で強め。ジェーナスがトップ中のトップだが、それ以外の深海棲艦にも好意的な感情を持っている。そのおかげで、白露との協力プレイにも一切の不満が無い。

 吹雪ですら、この場では白露に任せた方がいいと感じ取った。導く者から与えられた辿り着く者の力など関係なく、姉妹の絆を根幹に置いた方がより確実にこの雷撃の連打を効果的に叩き込めると判断したからだ。大将の秘書艦の目は、ここでも最善の流れを掴み取る。

 

「っし、で、次はまた江風達だ!」

「魚雷の三段撃ちってな! 叩き込めぇ!」

 

 白露と吹雪の放つ魚雷が島に直撃すれば、次はまた江風と涼風の魚雷。涼風の言う通り、三段撃ちの要領で順序立てて魚雷を撃ち込み続ける。一組目が放ったら次の組へ。その組が放ったらまた次の組へ。このおかげで絶え間なく魚雷を同じ場所に撃ち込み続けることが出来た。

 雷撃の直撃を何回も受ければ、その都度上がる爆発の水柱は大きくなり、そして砂や土まで巻き込んだモノへと変わっていく。より大きく、より深いダメージになっていくのが見てわかる。

 

 それをただ黙って見ている黒幕では無い。防衛のためにはより強い力を発揮するのが黒幕だ。魚雷をここまで撃ち込まれれば、それをどうにかしようと本能的に動いてくる。例えば、()()()()()()()()()()()()とか。

 

「よし、このタイミングね。アンタ達、退きなさい!」

 

 ここで自らの最善の答えを指し示す道が輝いたのが叢雲である。やりたい放題し続けているのに、追い込まれてもここまで抵抗し、自我も言葉も失った黒幕に対する苛立ち、怒りと憎悪は、これ以上ないくらいに高まっている。

 怒りが強ければ強いほど叢雲の力が増すのは、自他共に理解している叢雲の特性。今の力は、コロラドの白鯨を貫いた時よりも強い。ここでやらねばという決意の力まで含まれ、さらに導く者からのバックアップまであるのだから。

 

 海底に泥壁を生成する暇なんて与えない。やらねばと本能で察知した時にはもう遅い。その時には叢雲は槍を構えている。

 

「いい加減に! 諦めろ!」

 

 そして、叢雲の怒りの叫びと共に、魚雷の爆発がまだ止まぬ場所に槍が突き立てられる。これまでの中でも、それこそ先程繰り出したそれよりも巨大化した槍は、先に放たれていた魚雷と全く同じ点を貫いた。

 ズンと、地響きのような音が周囲に鳴り響く。それはまるで、破城槌が突き立てられたかのような音。この一撃が、黒幕の土手っ腹に食い込んだ音。

 

「らぁあああっ!」

 

 さらに、貫いたところで槍を捻り、より奥へ押し込むために力を入れる。まるで鍵を開けるように繰り出された二撃目は、より陸を深く抉る。地盤沈下を起こした程の渾身の一撃をさらに超えた会心の一撃は、黒幕の拠点に明確なダメージを与えた。

 

「開いたわよ!」

 

 それに連動するように、泥壁の一部が粉砕された。島の外周、その全域に張り巡らされた泥壁が、叢雲により目の前の一部だけ()()されたのだ。

 

「今! 海風、一緒に!」

「お任せください! 絶対に、確実に、同時に行けますから!」

 

 この瞬間を見逃すわけがない。光の道──その到達点である光の点は、この解錠された泥壁の向こうに燦然と光り輝いている。春雨も海風も、同じ場所を見据えている。

 

 爆雷を強く握り締め、完璧に同じタイミングで、直感的に選択したフォームすらほぼ同じというシンクロを見せて、全力で投げる。その投げる瞬間に、義腕の形状を変形。春雨からしてみれば、脚の伸縮を利用した急加速と同じ艤装の再展開を手のひらだけで起こして、爆雷を驚異的なスピードで射出した。

 見る者が見ればそれは、吹雪が繰り出す、艤装の展開の時に発生する衝撃を利用したモノであることは一目瞭然。投げる腕力と共に衝撃まで使っているのだから、爆雷は砲撃よりも速く目的の場所まで到達する。

 

 さながらそれは、流星のようだった。

 

「抜けた……!」

 

 泥壁を再生成する時間など、叢雲が与えていなかった。解錠され、破れた隙間を通り抜け、2人の投げた爆雷は猛烈なスピードで島を突き進み、最も近い場所の木に直撃。その瞬間、とんでもない威力の爆発を引き起こす。

 海中でもまともにダメージが与えられるように設計されている爆雷の火力は、当然ながらかなりのモノ。それこそ、魚雷にも引けを取らないレベルの爆発を見せる。

 

 小型ながらもそれだけの爆発力を備えた爆雷が、とてつもないスピードで突っ込んできて直撃、そこで爆発を起こしたのだから、島の中はそれだけでグチャグチャになる。

 海中から槍が突き刺さった状態で、陸上でも爆発が起きたことで、島内の泥がその補修に向かい出す。このままではまずいと本能的にそこを守ろうとしたのだろう。

 

「もう一回!」

「すぐにでも!」

 

 そこに追い討ちをかけるため、さらに春雨と海風は爆雷を再装填。投げたフォームからクルリと一回転し、踊るようにもう一発投げる。当然、その時には義腕の変形による射出も込み。一度爆発を起こした場所に、爆雷がさらに投げ込まれて爆発する。

 爆発の上からさらに爆発を乗せることで、補修を間に合わせることなく激しい爆発を叩き込む。

 

 こうなると島の上はもうしっちゃかめっちゃかだ。上から下から攻撃を入れられ、本能でも処理が追いつかなくなる。故に、行動そのものに()()()が出始めた。いくら自我がなく思考能力も希薄になり全てを本能でこなしているにしても、やらねばならないことが複数になるとバグってしまうもの。動きが一瞬止まった。

 

「見えた! 空母隊、今です!」

 

 その瞬間を見逃す者はいない。そこへ高高度から見続けていた大鳳がこのタイミングを見計らって強めの空襲を仕掛け始める。サラトガと古鷹も、ここに合わせて艦載機を追加した。

 春雨と海風の二投目によってさらに被害を受けたことで、空襲を抑える艦載機の行動自体にも支障をきたしていた。その隙に、空爆は激しさを増し、基地航空隊の発艦場所そのものに爆撃を決めることに成功。そもそもが近い位置からの一撃だったため、爆雷の爆発が基地航空隊を掠めていたのも良かった。

 

Air superiority(制空権)、いただきました!」

「畳み込みます! 全機、さらに爆撃を!」

「了解! 私も空爆に専念します!」

 

 空母隊の快進撃はさらに続く。一度確保した制空権を維持しつつ、爆撃の手は緩めない。基地航空隊だけでは止まらず、地下施設への入り口を探すように木という木を薙ぎ払うために絨毯爆撃を繰り出す。

 点ではなく面での攻撃で、広範囲に焼き尽くしていった。泥が行き渡っているせいで簡単には燃えないかもしれないが、爆撃自体が黒幕にダメージを与える行為に繋がるなら、ありったけを落として次から次へと焼き払う。

 

 だが、これが黒幕にとっての()()()()()()()となった。

 

「えっ……」

 

 突然、()()()()()()()()。何が起きようとしているのかがわからなかった。

 

「地鳴り……違う、これ、まさか……」

 

 島を中心に海が揺れる。波が激しく立ち出したと思えば、島を取り囲む泥壁が液化して消滅した。その全てが島の中央に集まった瞬間、まるで間歇泉のごとく泥が噴き出した。

 しかもその泥は明らかに()()()()()()()()()()。突如現れた泥の腕が飛び交う艦載機を、虫を追い払うかのように薙ぎ払った。

 

 地鳴りと波は尚も止まらず、艦載機は次々と払われる。そして……

 

 

 

 

「何……あれ……」

 

 島の真ん中から、()()()()()()()()()()()()()

 

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