空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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巨人の弱点

 その巨体と、それに伴う強大な力。泥の巨人と化した黒幕に、春雨達は苦戦を強いられていた。

 

 そのサイズから繰り出される攻撃に対して、必死に逃げ回ることしか出来ておらず、攻撃の隙をどうにか見つけた空母隊が空襲を仕掛けるが、急所であるはずの頭を爆破して失わせても核がそこに無いのなら当たり前のように再生してしまう。

 攻撃の範囲が広すぎる上に、主砲の威力は並ではない。全ての攻撃が致命傷。掠ることすら許されず、近くにいるだけでも衝撃波で消耗させられる。

 

「ほな、もっと集中する。山風、痛いかもしれへんけど、我慢してや」

「……大丈夫。強く結んでおいて」

 

 龍驤が山風の髪を自分の身体に幾重にも巻き付けて、絶対に振り落とされないように()()を強く縛る。

 

 この戦況、まずやらねばならないことは、泥の巨人の核が何処にあるかを探し出すことである。しかし、目視でそれを探そうとするのは至難の業。

 ただでさえ大きく、頭頂部までは相当見上げる必要があるくらいなのに、攻撃を繰り出すごとに海水が舞い上げられ、霧のようにこの戦場を包み込んでいるため、とにかく視界が悪い。

 

 それをも凌駕して黒幕の核を探すことが出来る者がいる。それが龍驤だ。

 

 RJシステムは暴動妨害、侵蝕する泥の性質を感知して無力化することが目的で設計された、拡張()()()()()電探みたいなモノ。明石謹製のそれは、龍驤という超高性能なシステム妖精を擁立したことによって、その場で明石並みの解析を行なうというトンデモ兵器へと昇華している。

 その効果範囲も広く、泥の巨人の頭頂部まで範囲内であり、全身を隈なく調べることが出来るだろう。範囲内ならば全て龍驤の手が届く範囲。そのことごとくを詳らかにしていく。

 

「ホンマにグッチャグチャや。いろんなもん混ざり込んどるせいで、次から次へと変質しとる」

 

 その龍驤を以てしても、その泥の性質は簡単には解析出来ない。龍驤の中にあるデータは、増殖はするが変質はしない端末と、そこから派生し、予測まで含めたありとあらゆる泥のモノ。この場で解析した監視の目や、泥人形を構築する魂の混成の泥も、既にデータ化していつでもアクセス出来るようにしてある。

 ほんの少しでも類似点があれば、そこから数十数百の可能性から演算を行ない、その対策まで割り出す。明石が出来ることなのだから、そのコピーとも言える龍驤も当然それが出来る。むしろ、システム妖精である分、明石より計算は速いくらいだ。

 

 しかし、黒幕本体の泥は今までとはあまりにも性質が違った。いや、端末や監視の目、魂の混成に使われている泥と共通点は多い。多いのだが、龍驤には()()()()()()()()()()として見えているため、演算に使える情報が全く定まらないでいた。

 端末の感覚がしたかと思えば、監視の目を開けているかのような錯覚を与えられ、また次の瞬間にはまるで知らないデータまで見つかる。それが絶えず起き続けているのだ。

 

「……混沌(カオス)やな……見た目通り」

 

 復讐心が溢れ、器を捨てるというカタチで進化を遂げていく黒幕の泥は、まさに混沌。この状態になるまでに、何人もの器を乗り継ぎ、その肉体の情報を取り入れていくうちに、この()()()という行為そのものが特性として昇華されている。

 故に、切り離された端末や、粒子化した監視の目、別個体として形成されている泥人形などは解析出来るが、その原点となる黒幕自身は、混ざり合っているが故に何モノでもなく、その性質自体が解析を妨害していた。

 こんなところにまで嫌がらせが行き届いていると思うと、あまりにも徹底的すぎて逆に感心してしまうほどだった。そして、最初は自分もコレの器だったことと、あの性質の一端が自分なのだと思うと、龍驤はゾッともしてしまう。

 

「解析して消しとばすかとは出来へん。あんにゃろ、ウチの解析にまで耐性持とうっちゅーことやな。だとしても、急所くらいは探したる」

 

 目を瞑り、システムによってわかる空間のデータに直接触れながら急所と言えそうな場所を手当たり次第確認する。

 

 黒幕も龍驤が自分のことを調査しているのだと本能的に察知し、それを嫌がるように再生された方の腕の泥が沸き立つ。この反応は先程もあった主砲による砲撃だ。

 

「まずい……! もう一発来るぞぉ!」

 

 叫ぶのは涼風。黒幕が山風──むしろ、その頭の上で黒幕を舐めるように観察する龍驤──に狙いを定めたことで、先程の展開してからすぐに放つような強引さはなく、迷惑だと言わんばかりに山風に身体と腕が向いていたため、その近くにいた涼風が即座に察した。

 

「悪ぃ、山風の姉貴。強引だけど、避けるために引っ張らせてもらうぜ!」

 

 涼風の叫びと同時に、江風が山風の手を掴んだ。ビクッと震えたようだったが、山風はこれを受け入れるしかなかった。消耗はあるものの江風に引かれて突き進むことによって、この二度目の砲撃を切り抜けることが出来る。

 江風だって消耗しているのだが、この危機に吐き気ごときと呑み込んで、全員が無事に乗り越えるために気力を振り絞った。

 

 しかし、避ける方向はどうするか。黒幕が構えている腕はゆっくりと山風を真正面から捉えようとしている。後ろに下がるのは流石にまずい。

 

「全員! ()()!」

 

 ここで春雨の声が響き渡る。仲間達には見えずとも、春雨には全員分の道が全て目に映る。そして、その光の道は、全員が()()()()()()を示していた。

 これだけ巨大だと、主砲を展開したとしても射角的に自分の近くは範囲に入らなくなる。こういう時だけは、懐に入ることが一番安全。

 この春雨の指示が戦場に響いた瞬間、仲間達の目にはそのための道が提示された。

 

 導く者が道を作り、辿り着く者がその道を辿る。本人達は確実に否定するが、これは一種の()()()()に近しい。しかし、一切の強制力が無いため、互いの信頼関係が無ければ出来ない。

 強制的に従わせる黒幕とは、根底から違うのだということを見せつけるように、全員一斉に動き出した。

 

「近付けば弱点は見えてくるかもしれないけど、足には気をつけなくちゃね。踏み潰されるだなんて考えたくも無いし」

 

 ボヤきつつも、吹雪は泥の巨人から目を離していない。回避のためとはいえ前進出来たということは、これまでよりも近くでその全貌が見えるということ。

 ドロドロの全身を遠目に確認するものの、それらしいところはなかなか見えないのが現状だ。近付くことでまた何か違ったモノが見えるかもしれない。

 

「山風の姉貴、大丈夫か!?」

「だ、大丈夫、だから、あんまり強く引っ張らないで」

「身体きっついンだろ。だから、少しは我慢してくれよな!」

 

 狙われている山風は、江風の力も借りて真っ先に泥の巨人の足下へと辿り着く。こうなるともう黒幕の主砲からは逃れたようなもの。

 

 しかし、砲撃自体は止めようとしておらず、全員が逃げ果せたというタイミングで再び発射された。今回はギリギリというわけでは無かったため、落ち着いて回避は出来ているものの、その衝撃はやはりとんでもないものであり、足下であっても風圧には襲われる。軽量の艦なら間違いなく吹き飛ばされるレベルの威力。

 

「っくぅ……でも、同じことを二度も三度もされない……!」

 

 耳鳴りだけはどうしても回避は出来ないが、初回よりは慣れたもの。体勢を崩すことなく、しっかりと全員が足下へと逃げ込めた。ここにいる限り、砲撃が飛んでくることはおそらく無い。

 しかし、ここはさらに危険であることは間違いない。何故なら、すぐそこに足があるのだ。このサイズで蹴りなんてされようものなら、真下に逃げ込んだ春雨達は一網打尽にされかねない。

 

 それでも導く者によって提示された光の道はここを指し示していた。ならば、ここにいること自体に意味がある。導いた春雨にもその真相はすぐにはわからないが、次の黒幕の行動で察することが出来た。

 

「……脚を動かさない?」

 

 主砲を放ったことでまたそちらの腕は弾け飛んでいたが、その分の泥はまたもやもう片方の腕へと移動させ、長さが狂った片腕で足下を掴みに来ていたのだ。

 

 砲撃を放てば脚ごと持っていかれてしまうために砲撃では無いのはわかるが、ここまで下に纏まっているのだから、ゆっくりであっても脚を閉じる方が効率がいいし、とにかく攻撃範囲が手よりも広い。それなのに、あえて手を伸ばしてくるというのは不可解である。

 そこから出された結論は、たった1つ。黒幕は()()()()()()()()()

 

「……そうか、結局は器から離れられないんだ」

 

 伸ばされてきた手から逃げながらも、春雨はその足を注視していた。これだけ近くにいても微動だにしない。それも、両足ともである。

 霧がかっていて見づらいものの、その足はよく見れば、どちらも島に接続されていることがわかった。踵が陸に乗っている。つまり、あの場所から動かすことが出来ないのは確実。

 

 なら何故そんなことになっているのか。1つは大きすぎて片足立ちなんて出来ないくらいにバランスが悪いからというのもあるだろうが、摺り足をすれば脚を閉じることくらいは出来る。だとしても動かさないのは、島から離せない理由があるから。

 

「見つけたで……! 核は()()()()()()()()! 足下の陸ん中や!」

 

 これだけ大きなモノを生成していても、本体は島の中。最低限の地下施設はそのままにして、残りの泥を全て陸上に移動させて巨人を生成した。そのコントロールは常に足の先から行なっているということだ。

 

 ヒト型であれば、その何処かに核があると考えてしまうのが、これまでの経験から来ている固定観念。しかし、この黒幕がここまでやっても自身の最も弱い部分を見える場所に置くかという話である。

 移動させることも出来るかもしれないが、それ自体が敗北に繋がる可能性があるのだから、自我が無くてもその選択はしない。大きなことをやっても、自分自身は隠れ潜む。それがこの黒幕の()()()だ。

 

 龍驤は巨人を隈なく調べたが、何も感じることが出来なかった。故に、まさかと思いながらも島の全域を調査したのだ。足下まで近付いたことで、それがよりやりやすくなったことも大きい。

 その結果、足だけ僅かに泥の濃度が高いことに気づいた。核を守るために、そこだけ厚めにするのはわからなくもない。

 

「見つからないわけだ。私も身体ばかり見てたもんなぁ。巨人そのものが囮ってことかな」

「でもさ吹雪、これ魚雷正解かもしれないよ。倒れるくらいに爆発起こせば、足をひっくり返すことが出来るってことだよね」

「だね。接続を剥がしちゃえば、あの巨人は無くなる。でも、あの量の泥がここにばら撒かれることになると思うけど」

「うえ……」

 

 黒幕の核を破壊したら、死と同時に泥が全て消えてくれるならいいのだが、それでも悪あがき的に泥を残していかれたら厄介極まりない。

 それを核が残った状態でやるとなると、あの巨人が確実にただの泥となってこの海域一帯に流れ出す。それに侵蝕性があろうがなかろうが大惨事は確実である。

 

「でも、やらなきゃどうにもならないんでしょうが! だったら、私はあの脚をぶち折ってやるわよ!」

 

 少しだけ悩んでしまった吹雪と白露だが、そんなことは無視して叢雲が槍を構える。極限まで巨大化させた槍ならば、あの脚の1本くらいなら貫いて折ることも出来るかもしれない。

 

「春雨! アンタも決断しなさい! 脚を折れば核に近付けるのよ!?」

 

 導く者に対して指示を仰ぐように見せかけて、ほとんど叱咤である。だが、春雨的にはこう言われることで仲間意識がグッと強くなった。

 導く者だからといって、常に自分が先頭にいなくてはいけないわけでは無い。仲間と共に歩くからこそ、みんなに最善の道を提供する。それが真に導く者だ。

 

「そんなの、決まってるよ。当然、ここで黒幕を斃さなくちゃいけないんだから」

 

 叢雲の言葉に笑みを返す。

 

 

 

 

「全員、脚を集中攻撃! 核を曝け出させます! あの巨人の弱点は脚です! 全攻撃を以て、膝をつかせてやりましょう!」

 

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