龍驤の調査により、黒幕が作り上げた泥の巨人は囮であり、本体──黒いボール状の核は未だに島の中に存在していると判明した。しかし、泥の巨人がいる限り、黒幕の核に攻撃をすることは出来ない。そのため、ここからは泥の巨人を斃すために動くこととなる。
黒幕の核とダイレクトに繋がっているのは足。ここだけは島から動かすことが出来ないようで、これを潰せば核に一気に近付ける。それを防ぐために手を伸ばして来るわけだが、それ以上に再生能力を持つ太すぎる脚を破壊する必要があるのがかなり厳しい。
しかし、春雨達はこんなことで挫けることはない。弱点が見えたのならば、そこを徹底的に叩く。斃せる手段が見つかったのだから、その後のこと──巨人が消滅すると同時に構成していた泥が降り注ぐ──なんて考えている余裕なんてない。
「全員、脚を集中攻撃! 核を曝け出させます! あの巨人の弱点は脚です! 全攻撃を以て、膝をつかせてやりましょう!」
この春雨の言葉が、辿り着く者達に光の道を指し示した。狙うのは脚。それ故に、魚雷による攻撃。
「核は左脚側や! そっちを集中狙いで頼む!」
システムによって核の位置を確認した龍驤からの援護で、集中狙いする脚も決まった。核と繋がるためか、右脚よりは陸に多く乗っており、魚雷を撃ち込むにしてもバランスを崩すのは難しいかもしれない。
そうなると、魚雷だけでは足りないだろう。勿論、魚雷によって足を削り、バランスを崩しやすくする必要はあるかもしれないが、それで倒れなかった場合に厳しくなる。
そうなると、本当に狙わなくてはならないのは足というよりは足首。姿勢を崩すために、左脚の足首を半分以上削り取れれば、あとは自重で倒れるだろう。あれだけ大きければバランスを崩しやすいはず。
「まずは魚雷で先制攻撃と行くぜ! 涼風、もう一度やるかい!」
「おうさ! でも、手で邪魔してきてっからちゃんと気をつけろよ!」
「ったりめーよ!」
一番槍は、やはり江風と涼風が受け持つ。特に涼風は、周囲を把握しながらの攻撃。
脚を狙っての攻撃が来ることなど、黒幕としても百も承知なのだろう。伸ばしてきた手は、2人どころか足下に群がる敵を蹴散らすために振り下ろされる。主砲を放ったことで逆側の腕が伸びており、さらには手のひらもより大きくなっていたため、妨害は激しい。
むしろ、攻撃は最大の防御と言わんばかりに容赦なく押し潰しに来る。喰らったらひとたまりもない質量の暴力に、いち早く気づいたのはやはり涼風。
「江風! 撃ったらすぐに下がるぜい」
「あいよぉ! 死なば諸共なンて、やってやるかっての!」
2人揃って魚雷を放った瞬間には踵を返しており、手のひらによる妨害を確実に避けつつも、足への一撃がどうなるかを確認。
海面を殴りつけるなどはなく、手のひらで海面を掬うような挙動をされたためか、衝撃よりも猛烈な風が発生してしまい、避けられたものの追い風によって体勢を崩される。
他の者も同様だ。ゴウと吹き荒んだ嵐によって、軽い山風辺りはその場から足がはなれてしまいそうにまでなってしまう。だがそこは一緒にいた荒潮がうまくカバー。頭の上の龍驤もどうにか飛ばないように山風の髪の毛をしっかりと掴んでいた。
放った魚雷はというと、巨人の左足の爪先に直撃。2人分が爆発したので先端は見事に削れたのだが、まだまだダメージが足りなく、すぐに泥がその場所を修復し、元通りになってしまった。
「こンだけじゃ、全然足りねぇ!」
「さっきの三段撃ちくらいやらねぇと通らねぇよ! つーか、あたいの電探こうなると役に立たねぇなぁおい!」
あまりにも豪快に動かれると、電探で察知するとかそういうのは必要ないくらいに次の行動がわかる。その上に鈍重であるため、見てからでも回避行動が取れるほどだ。
しかし、あまりにも大きすぎると、それがわかっていたとしても、その
今の掬い上げるような一撃は、当然全員が回避しているが、攻撃されればされるほどその場から離れなくてはならなくるのが厳しい。攻撃のチャンスをことごとく邪魔され、ジリ貧状態に持っていかれる。
「私達は腕を止めましょう。あちらなら艦載機も使えるはずです」
「了解です。肩から行きますか」
「Okay. 少しでも動きを止めてくれれば
あの激しい動きの腕を止めることが出来れば、攻撃のチャンスはより多く訪れるだろう。そのため、脚を狙うのは少々難しい空母隊が艦載機を使って肩に攻撃をしていくことに。
空母隊は本隊から多少離れていても攻撃のタイミングに支障をきたさないため、一時的な別行動となる。主砲を構えられたらすぐに避けられるように、腕の範囲からは外れる場所へ。
「一気に行きます! 出し惜しみは無しです!」
先程は両腕があったために払われたが、今は片腕に泥が寄っているため心配がない。また、頭を吹っ飛ばすことも出来ているので、全く効かないというわけでもない。
ならば、狙うのは片腕をどうにかするための肩。ここを削ってしまえば、まともに動かなくなるはず。あわよくば、腕そのものを失わせることも出来るかもしれない。
艦載機に意識を多少持っていくために、回避が疎かになりかねないが、そこは仲間達を信じている。こちらが危ないとなればすぐに伝えてくれるはず。それまでは、一転攻勢に出ようと残っている力を振り絞って艦載機を発艦した。
足下の敵を始末するために片腕を使っているため、艦載機に対しては無防備。その鈍重な動きから、いきなり腕を上げることも無いだろう。艦載機の動きはそれ以上に速いのだから、持ち上げてくるにしても間に合わせられない。
「っ! 大鳳さん! 砲撃来ます!」
だが、手早く動かせないのなら、艦載機をコントロールしている本体を狙うのは当然のこと。自我がなく本能で動いている黒幕とて、その定石は理解しているようで、艦載機が飛び立った時点で掬い上げた腕に主砲が展開された。
照準は大鳳へ。サラトガと古鷹も同じ場所にいるため、そこを狙われたら3人纏めて終わってしまう。だからといって、両腕の泥を片方に集約しているせいで、砲撃でそれを食い止めることも出来ない。故に、これは回避してもらうしか無い。
「撃つ前に脚を崩せば!」
砲撃が放たれるまでには流石に多少なり時間はある。そのため、体勢を崩せばより回避がしやすくなるだろう。
だが、黒幕の動きがさらに熟れてきたか、腕の持ち上げが思った以上に速い。照準をまともにつけなくとも、主砲のサイズがサイズだけに直撃に近い効果が得られる。ならば、精密に撃つよりは
勿論空母隊の3人も回避行動に移っているが、回避がギリギリ出来るか出来ないかレベル。掠めるのも致命傷になりかねない一撃は、それではまずい。
「止まりなさぁい!」
体勢を崩すために取った行動は、荒潮が繰り出した内火艇の突撃。陸に足が乗っているのだから、内火艇は十全の動きをすることが出来るだろう。
そこで咄嗟に繰り出したのが、その太い脚に内火艇をダイレクトにぶつけること。そこに乗っていた妖精さんは既に脱出済みであるため、何も心配せずに突っ込ませることが出来た。しかしそれだけではグラつきもしない。そのため、そこへさらに春雨と海風にアイコンタクト。
「ごめんなさい司令官、虎の子の内火艇、
それを受けた2人は、内火艇に向けて爆雷を投げ込んだ。爆雷の爆発が相当なモノなのは、先の陸上の爆破でわかっていること。そこに内火艇の爆発まで引き起こすことで、数倍の火力を作り上げた。
主砲や魚雷などでは起こさない爆発が起きたことで、泥の巨人の足首が半分近く削がれることになり、自重を支えきれずに身体が傾く。しかし、既に再生が始まっているため、少し傾いた程度で終わってしまいそう。
しかも砲撃は止めるつもりはないらしく、傾いた体勢からでも大鳳を狙って砲撃を放ってしまった。その衝撃でさらに傾くものの、狙いがあらぬ方向に行くということは無かった。
「これは……まずいですね……っ」
とにかく砲撃の効果範囲が大きいのがまずい。来るとわかってから回避していても、そもそもが自分よりも大きな主砲を構えられているのだから、少しでも間に合わなければ掠めることになってしまう。
3人纏まって回避に徹しても、こればっかりは回避しきれない。艦載機に意識が少しだけでも寄っていたために、タイミングがほんの少しだけ遅れていたのも運の尽き。
だが、それすらも超越するものが、ここにいないわけではない。その身を削ってでも、仲間を護るための
「諦めちゃいけまセーン!」
空母隊の前に、金剛が立っていた。艤装を変形させて、盾を前面に展開しながら。
空母隊の前に来れるだけのスピードを発揮出来るのならば、自分が回避するために使えばよかったのに、金剛はそんなことが出来なかった。自分だけが無傷で生き残るより、傷を負ってでも仲間達を守りたい。その気持ちが、辿り着く者とされている今、
故に、金剛は迷わずその道を選ぶ。強大な砲撃の前に立ち、その盾を構える。これが最善であるとわかっているのだから。
「避けきれなかったところは、この私のBig shieldが抑え切りマース! だから、全員無事に終わりまショウ!」
砲撃の直撃は回避によって免れている。しかし、ギリギリ掠める位置にはいた。それを、艦娘の装備する小さな盾でいなそうとしていた。
「金剛!?」
「この程度のSizeで、この私のShieldを破れるなんて思わないことネー!」
言葉ではこうだが、重たすぎるその一撃をいなすだけでも全身全霊をかけていた。強固な盾もその一撃で一瞬でヒビが入り、金剛自身も踏ん張っていたことで腰や脚にダメージが入る。脚に関しては、もう折れてしまいかねないくらいの負荷がかかる。
しかし、その程度で金剛が折れるわけがない。その名の通り、金剛石の如く固い意志を以て、その一撃を振り払う。
「Burning Looove!」
咆哮と同時に身を捻り、その強大な砲撃をついに弾き飛ばしてしまった。無傷とはいかず、金剛自身も吹き飛ばされることになってしまったが、空母隊は殆ど無傷。3人分のダメージを1人で引き受けたようなもの。
だが金剛に悔いは無かった。自分はまだ死んではいない。傷を負っただけで全てが解決した。ならば良しと、金剛は笑顔を見せる。
「今デース!」
砲撃の衝撃が巨人にも伝わるため、砲撃の連射は無いと言ってもいい。それに、この一撃を放ったことで、片腕だけだった巨人はさらにその腕を失い、再構築に時間が掛かっている。畳み掛けるなら今しかない。
「空母隊は腕の再構築を防ぎます! そちらは脚を!」
空母隊の空爆は失われている腕の付け根に向けて繰り出され、再構築をことごとく潰し続ける。これならば、足下の仲間達はもう邪魔されない。
また、上半身への衝撃を受け続けることで、巨人の身体が少しだけフラつく、ここで足に畳み掛ければ、おそらく倒れる。
「了解です! 叢雲ちゃん!」
「任せなさい! このクズに対しての怒りは、増しに増してるわよ!」
叢雲は内火艇の爆発を修復している脚に狙いを定めた。泥が溢れて傷口を元に戻そうとしているのを見ていても、苛立ちがさらに増す。
「今まで以上に行けるわよ! このっ、クズがぁ!」
そして、その槍に怒りを乗せて一気に巨大化。コロラドの白鯨に勝るとも劣らないサイズの太さとなり、その足首に食い込んだ。修復なんてさせないと、無理矢理捻じ込み貫く。
「白露ちゃん、魚雷を合わせて」
「あいよ! 叢雲の槍に?」
「ううん、足下でいい。体勢を崩すだけでいいから」
さらに吹雪と白露が魚雷を放つ。足首と足下が同時に抉られれば、それだけでもバランスは崩れるはず。
「全員合わせて!」
そして最後の衝撃。春雨、海風は爆雷を、山風、江風、涼風、荒潮は魚雷を、トドメと言わんばかりに投げ付けた。
槍が食い込むその傷口を拡張するかの如く爆発を起こし続ける。再生なんて間に合わせない。この片足が陸から外れれば、核からの供給は失われるのだから。
そして、
「折れたっ!」
足下の爆破で体勢を崩した結果、巨人は自重を耐えられなくなり足首の傷からバキリと折れる。核からの供給が一時的に失われた巨人の身体は、急激にグラつき始めた。