空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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最後の領地

 黒幕の核の前まで辿り着いた春雨だったが、その黒幕は最後の戦いを仕掛けるため、周囲の泥を取り込むことで、泥人形と化した。

 そのカタチは、本来の黒幕のカタチである中間棲姫そのもの。春雨にとっては、あの姉姫と同じ姿となったのと同様である。

 

「…… 貴女に言うべきことは、もう無い」

 

 それが、春雨の堪忍袋の緒を断ち切った。自ら捨てた器を取り戻そうとしているのも気に入らなかったが、最後の最後に結局その姿になったことに、より一層怒りを感じた。

 自我も無い状態でこの姿を取るということは、本能的に求めているということ。ならば何故捨てた。何度も何度も思った疑問は、ついに答えを得ることは出来なかった。

 

「……っ!」

 

 先制攻撃は黒幕。核を封じ込めた泥人形の身体が完成した瞬間に、地面を蹴って春雨の眼前に迫る。そのスピードは島風を超えていた。春雨の脚部艤装再展開のスピードも当たり前のように超えている。

 単純な脚力のみでこの速さを実現したということは、この黒幕の身体には()()()()()()()()()()()()()()()()。泥人形として持っているデータを複製し、それを何重にも重ね合わせて自分の身体にしているのだ。

 これまでの記録を自身の力にしているという意味では、かなり正統派な戦い方ではある。小狡い手段を使うわけではなく、正々堂々と真正面から春雨にぶつかってきているのだから、今までの黒幕は何だったのかと思えてしまうほど。

 

 そこからすぐさま繰り出してくるのは駆逐艦の主砲。射程が短い代わりに素早さを取ったこの一撃は、白露型の4人分を重ね合わせたかのような動き。

 やはりこれまでに手に入れたデータを重ね合わせている。同じデータを何重にも出来れば、複数の個体のデータを一気に扱うことも出来る。

 

「喰らわない……っ」

 

 白露型の動きは特に見慣れているのだから、春雨には回避は余裕あり。島風の速さまで重ねられているためにタイミングが本来よりも速くされているが、そこは直感と光の道を使って完全に回避した。

 お返しと言わんばかりに黒幕の身体に砲撃を放つものの、それを黒幕は紙一重で避けた。核に当たっていないのだから、多少掠ったところでお構いなし。むしろ即座に泥が補充され、その度にデータが重ね合わせられている。

 

「っ!?」

 

 次に黒幕が繰り出したのは刀。春雨の記憶には大鳳のイメージが強いが、黒幕のデータならば伊勢と日向の力のコピー。2人同時、いや、2人をさらに何重にも重ねた一撃は、片手で振るっていたとしてもとんでもなく重たい攻撃。

 避けられないと感じた春雨は、受け止める方向で考えた。だが、そのままならば無理。故に、両腕を分厚い盾に変形させることで無理矢理食い止める。かなり重たい攻撃だったため、吹っ飛ばされる羽目になるのだが、体勢はなるべく崩さない。

 

「……っ!?」

 

 そこに飛び込んできた光景に目を疑った。黒幕が次に繰り出したのは、知っている3枚の甲板が周囲に浮かび、それが縦に並んで春雨に狙いを定めていた。

 

 施設に泥の雨が降り注ぎかけた時、姉姫が放った雨を晴らす一撃。艦載機による爆発を重ね、空間全体に激しい衝撃を放つ渾身の一撃。

 それと全く同じ構え。真上ではなく真横に撃とうとしている。()()()()()()

 

「姉姫様の手段まで……っ」

 

 こんな一撃をまともに喰らったらひとたまりもない。むしろ、こんな部屋で放とうだなんて気が狂っているとしか言いようがない。

 放たれるのは泥で生成された艦載機だろう。それが大爆発を起こしたとしても、泥が撒き散らされるだけならば黒幕にはダメージにもならない。衝撃だって大したことはないのだろう。身体が吹き飛んだとしても、核が無傷ならすぐさま再生する。

 しかし、春雨にはそうはいかない。衝撃を受けても厳しく、泥がばら撒かれてもそれそのものが強烈な弾丸となりかねない。

 

 そして、黒幕は艦載機を装填して、即座に放ってきた。艦載機そのものが強力な弾丸のようになり、その直撃も質量兵器として春雨に襲い掛かる。

 幸いにも盾を展開したままであるため、そのままガードは出来るのだが、先程の斬撃よりも重たい衝撃を受けたと思った瞬間、2つ目の艦載機が1つ目に衝突。そして、大爆発を起こした。

 

「っああっ!?」

 

 爆発自体も泥で出来ているため、爆炎が上がるわけではなかった。その代わりに強烈な衝撃波がそこを中心に発生して、春雨をさらに吹っ飛ばす。

 このままいけば壁に激突してしまうだろう。それも避けた方がいいと、春雨はこの状況であっても直感的に判断。ある程度の衝撃は仕方ないと、まずはその脚をバネ状に変形させた。これならば壁に足をつけた時にショックをある程度吸収出来る。

 

 だが、そう簡単にはいかないのがこの戦場。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()

 

「いや、これはダメだ! だから、こう!」

 

 直感的にこのままではまずいと感じた春雨。脚をバネ状にするだけでは足りない。そのため、足を盾に変形させた。

 

 その瞬間、春雨が着地しようとした壁が()()()()()姿()()()()()()()

 

「っぶない! そんなことだと思った!」

 

 足を盾にしたことで、刃を踏んだところでダメージ無し。直感が無ければ、着地と同時に串刺しにされていた。

 壁一面の泥の刃は、春雨の盾を貫くことは出来ない。厚さもそうだが、今の春雨の艤装は怒りによりマグマが浸透している。マグマは泥を否定する存在であるため、刃は通らない。

 

 しかし、それは盾の形状にしているからだ。肌や服ならば、泥という以前に刃であることで春雨に傷をつけることになる。過去に作り上げた防刃のスーツが今回も必要であると感じ、春雨はすぐさま対応。全身を覆い尽くすスーツを生成した。

 

「この……っ」

 

 脚をバネ状にしているため、そのまま壁を蹴って黒幕に突撃をする春雨。その際に両腕を針状に変形させて、黒幕の核を直接狙いに行った。

 砲撃よりも一点に集中させた攻撃を喰らわせることで、より核を破壊しやすいと考えた一撃。バネによって吹き飛ばされたスピードを殺すことなく反転しているため、その突撃も弾丸のようなスピード。

 

 しかし、島風のスピードを複数重ね合わせているため、黒幕のスピードはそれをさらに超えていた。春雨の突撃を眼前に見抜いていたかのようにサラリと避ける。

 部屋全体が黒幕自身なのだから、360度全方位から観察されているのは変わらない。さらには壁に触れたら黒幕に触れたようなもの。全てが黒幕の手のひらの上。

 

「不利なのはどうにもならないか……」

 

 とんでもないスピードで突撃したが、着地は完璧。すぐに振り返って砲撃を試みるが、その時には黒幕はそこにおらず、代わりに、そこまで狭くはないが周囲が囲まれたこの空間で、艦載機が数機、春雨を取り囲んでいた。

 大鳳や龍驤など空母を取り込んでいるし、そもそも陸上施設型なのだから、艦載機が使えないわけがない。しかし、黒幕自身が発艦したわけではなく、()()()()()()()()()()()のだからタチが悪い。

 

「っ」

 

 回避を選択したが、突然脚を掴まれた感覚。今度は床から手が生え、春雨の脚を掴んでいた。

 

「させるわけが、ない!」

 

 それには瞬時に反応。掴まれたものの、脚自体を消してしまえば問題なく、すぐさま再展開したことでその手を強引に踏みつけて天井まで跳ぶ。それと同時に艦載機が泥の爆撃を放ってきていたが、この選択のおかげで全て回避出来ていた。

 

 天井ですら触れるのは厳しいものの、そこは今までの経験を活かすのが春雨。腕を一時的に()()()()()()逆立ち状態で着地。そのまま脚部再展開と同じ要領で天井から離れる。

 やはりというべきか、天井に()をつけた瞬間に刃が発生したが、防刃にプラスして瞬発力も加えたことで、被害なしで跳ぶことが出来た。着地も完璧にこなす。

 

「何処に行った……っ」

 

 振り返った時に視線から消えていた黒幕の核を探すため、光の道を辿る。すると、まだ中間棲姫のカタチをした泥人形が、真逆の壁に立っており、そちらの壁からは古鷹が持つ尻尾──レ級の艤装が何本も生えていた。

 ここからの一斉射で、室内を砲撃で埋め尽くそうとしているのは間違いない。自分はそこにいるから安全圏。むしろ、自分は自分の砲撃を喰らったところでダメージにすらならない。

 

「耐えてみせる!」

 

 砲撃を直前で食い止めることは出来ない。黒幕からも離れてしまっているため、飛び込んだところで間に合わずに何本も生えた尻尾からの集中砲火に晒されるだけ。

 ならば、その砲撃を全て耐える方がまだ道がある。春雨に見えている道も、それが確実であると出ていた。

 

 両腕も両脚も盾に変形させ、それこそ再びジェーナスのように全身を覆う。また脚を掴まれるようなことが無いように、隙間なく埋め尽くした。これならば砲撃を喰らってもほぼ無傷で乗り越えることが出来るはずだ。

 

「っっっ!?」

 

 ここから激しい砲撃が始まった。戦艦主砲による一斉射は、それこそ武蔵と大和が繰り出す一斉射に勝るとも劣らない威力で春雨に襲い掛かる。

 生身で受けたらひとたまりもない攻撃だが、全身を覆い尽くす装甲を作り上げたことで、衝撃を受けるだけで済む。その衝撃が半端ではないのだが。

 

「くぅぅっ!」

 

 脚まで盾に変えているため、踏ん張ることは出来ない。そのまま吹き飛ばされて反対側の壁に打ち付けられ、それでも一斉射は全く止まることはなかった。

 この空間は、黒幕の()()()()()。ここから出ない代わりに、ここでは無限の力を手に入れる。

 

「ま、まだ、まだやられない。やられない!」

 

 撃ち込まれて打ち込まれて壁にめり込んでいくが、春雨はまだダメージ自体はない。

 しかし、このままでは攻撃に出られない。黒幕の弾は尽きないため、このまま消耗するまで撃ち続けるだけで春雨は終わってしまう。

 

 こんなことで諦めるわけがない。春雨に、諦めるという言葉はない。

 仲間に背を押されてここにいるのだ。勝利に辿り着く者として、未来へ導く者として。

 

「負けない! 負けて、堪るかぁ!」

 

 球体となった盾を再展開することで、壁から弾むように黒幕に飛び込む。砲撃を喰らいその勢いは落ちるものの、黒幕の至近距離まで近づくことは出来る。

 しかし、攻撃の手段がない。ただ体当たりするだけでもいいかもしれないが、それでは致命傷は与えられない。そもそもスピードがありすぎてコレも簡単に避けられるだろう。

 

「まだ!」

 

 尻尾の砲撃を掻い潜り、逆側の壁に。その時にはまた黒幕の姿は別の場所にあったが、春雨の狙いはそこではない。壁に生えた尻尾を一網打尽にするため、壁に着地した瞬間に球体の盾を解除。同時に脚を刃へと変え、生えている尻尾を軒並み斬り払った。

 

 

 

 

 戦いは簡単には終わらない。黒幕の最後の領地を潰すため、春雨は単身戦い続ける。

 

 心は一切折れることはない。

 

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