春雨の思いを乗せた巨大な槍は、黒幕の領地である地下空間を突き破り、島のど真ん中に大穴を空ける。その勢いは火山が噴火するかのように激しく、爆発するかのような轟音が響き渡る。
それを外から見ていた仲間達は、春雨がとんでもないことをやったのだとすぐにわかった。泥の雨を避けるために島から少し離れていたため、島の中央で泥や土を巻き上げた爆発が発生したのもほんの少しだが見ることが出来た。空母隊に至っては、念のためと飛ばしていた艦載機がそれをしっかり目に収めている。
「紅い……槍……っ」
それに真っ先に気付いたのは大鳳。艦載機の目から見ていたそれは、まさに紅い槍。春雨細胞を治療に使ったことで軽く紅く染まっている叢雲のそれとは雲泥の差と言えるほどに真紅に染まったそれは、天を穿つ程の勢いで島の中央に聳え立つ。
「槍って……アイツ、私の技をパクりやがったのね」
大鳳の呟きをしっかり聞いていた叢雲だったが、その表情は別に怒りが溢れているわけではない。自分の専売特許を持っていかれたようにも思えたが、春雨の窮地を救ったのが自分の技術であるという事実は悪い気分では無かった。
ピンチの時に自分の槍を思い出したということは、それだけ印象に残っているということ。
「後から礼でも言ってもらおうかしらね」
フンと小さく笑みを浮かべながら、こうなったら自分達も戦いに参加出来るかもしれないと息を整える。
他の者も同様。泥を回避することや泥人形を処理することに体力を持っていかれてはいたものの、春雨の奮闘がわかったことで、ここで疲れてなんていられないと奮起する。
「今なら行けるかもしれない。春雨姉さんと共に戦えるかもしれない」
そう言いながら海風は光の道を探す。しかし、春雨から離れてそれなりに時間が経つため、辿り着く者としての力はもう薄れてしまっていた。あくまでも導く者の視界に入ることで一時的な変質をしたに過ぎない。春雨の近くならばしばらくは維持出来ていただろうが、泥の雨を回避したところで、その効果は尽きていた。
「空母の皆さん、春雨姉さんまでの道はありますか!」
「……なんとも言えないですね。道らしいモノは見えるけど、
光の道が見えないのならば、空からの目で春雨を手助け出来る道がないかを探してもらう。実際、島の中央までは獣道のようなラインが何本か走っているのだが、そこに本当に足を踏み入れていいのかは、見ただけではわからない。
それこそど真ん中を穿ったとしても、島にはまだまだ泥が張り巡らされており、身体のどこかが触れた瞬間に染み込んだ泥に襲われるなんてことすらあり得なくはないのだ。この期に及んで侵蝕なんて喰らいたくもないため、慎重に動かなくてはならない。
「いや、大分小さなっとる。泥の感覚、めっちゃ少ないで」
ここで龍驤が一切緩めていなかった解析に1つの成果を出した。もう残っていないものの、春雨の力が残っている時にその力を有効活用しようと解析に全力を傾けていた。
そのおかげで、今の黒幕の泥の構成までもがある程度把握出来た状態にまで来ることが出来た。
結果、今の島の状況も龍驤だけには手に取るようにわかるところまで来た。1人でも理解していれば、この先には行ける。RJシステムの本領発揮である。
「島の中心、春雨がぶち抜いたんやな。それで黒幕の地下施設が剥き出しになりおった。そこは泥の感覚が相当濃いけど、それ以外は大分薄いで。巨人に大半を持っていかれとるし、今も
「かも……しれないね。春雨姉とぶつかるために……力をかなり使ってるのかも……?」
「……いや、これはもしかして……
地下空間では無尽蔵に使える泥も、天井が失われたら途端に弱体化していた。これが春雨が掴み取った勝利への道の1つ。
他の泥はまだしも、黒幕本体の泥──特に核は、
この島に拠点を構え、外に出ることなく心を壊し続けた結果、端末などの泥には殆ど影響はなくとも、
海水を漂っているのならまだしも、陸の上を陣取っている状態で日の光を浴びれば、泥というのは
「薄いんなら、もうウチがカウンター出来る! 畳み掛けるなら今や! 山風、悪いんやけど」
「大丈夫……行ける。あたしも、春雨姉の力になりたいから。海風姉も、行きたがってる。だから──」
キッと核があるであろう方向を睨み付ける山風。任せると言ったものの、並び立てるのならば共に戦いたい。黒幕に対する怒りは、ここにいる全員が持っているのだから。
「行こう……みんなで、春雨姉と一緒に……!」
道は拓かれた。やるならば、今しか無い。
自らを槍として空間を穿った春雨だが、それによってかなりの力を使ってしまっていた。全て出し尽くすという気持ちで際限なく注ぎ込んだようなもの。本来ならば艤装をここまで巨大化させることなんて出来ない。
春雨を奮い立たせていたのは、この戦いを終わらせるという強い思い。しかし、その分激しく消耗してしまっていた。それもそうだろう。本来ならば戦艦の主砲であっても破壊出来ないような地下空間の天井、下手をしたら槍の第一人者である叢雲ですら貫けない分厚さの岩盤を、春雨ただ一人の力で破壊してしまったのだから。
「……まだ、終わってない……」
今のままでは自分で展開した盾のせいで状況が掴めない。槍と化したことで空間の床からかなり離れた場所にまで上ってきていることはわかるのだが、それがどうなっているのかわからない。
だが、今からどうすればいいのかは直感的に理解した。このまま艤装を四肢に戻したら、力尽きてそのまま落ちて、黒幕の真正面に力無く叩きつけられる。今の状態で黒幕の前に倒れようものなら、そのまま集中砲火を喰らう。最悪な場合、代弁者として取り込まれる可能性すらある。それくらい、春雨は自分を出し尽くしてしまっていた。
故に、まずは地上に着地する。あの空間に下りることはまずやってはいけない。
「……っ」
槍の柄を再展開することによって、天井が抜けた黒幕の領地から跳び上がり、それと同時に槍そのものを消す。すると、燦々と輝く日の光を浴びることになる。
あの泥で出来た空間から抜け出せたと実感し、しかし下を見ればまだあの泥が残っていることに苛立ちも覚えた。
その空間の中心に、中間棲姫の姿を模った泥人形が立っている。しかし、天井が失われたことで無理矢理外に出され、内部の泥が日に当たって急速に乾燥していっていた。
核を取り込んでいる泥人形は、日光に当たるわけにはいかないとまだ崩れきっていない天井の陰に隠れる。その状態で床一面に張り巡らされた泥からは主砲が展開され、春雨に向けて一斉射を始めた。
「そんなの受けない!」
脚を盾に変形させてそれをガード。重かったものの、衝撃のおかげで少し飛ばされて陸に下りることが出来た。しかし、体力がかなり厳しかったか、着地に失敗してゴロゴロと転がる羽目に。
「っは、はぁっ、はぁ……キツイけど、まだ、まだやれる……!」
脚の盾を元に戻すとともにその場に立ち上がり、自分が作り上げた大穴の中を睨み付ける。しかし、その穴から一斉に膨大な数の艦載機が溢れ出てきた。大穴となった地下空間の天蓋としつつ、春雨を一気呵成に攻め立てようという算段だ。
日光に照らされていてもここまで出来るのは、黒幕が未だに膨大な力を持ったままという証拠。しかし、これほどの力を一気に使えば、黒幕もタダでは済まないだろう。故に、穴の中で陰に隠れているのだから。
消耗している状態でここまでの艦載機に襲われてしまうと、いくら春雨でもかなり厳しい。すぐさま対空砲を展開するものの、全てを撃ち墜とすことは出来ない。
「この量は、厳しい……っ」
1機2機なら気にすることはないのだが、文字通り桁が違うために圧倒されてしまう。消耗さえしていなければ春雨だけでもこの量は捌けるかもしれないが、今は体力が残されていない。
「まずい……っ」
何機か墜としたところで、突然ガクリと膝から力が抜けてしまった。四肢としている艤装にまともに力が回らなくなってきている。対空砲火の精度も落ちつつある。
如何に導く者といえど、春雨は1人の深海棲艦。体力だって無限ではなく、使える力にも限界がある。
仲間の思いを背にしていても、だからといってそれが無限の力になるのかと言われればそうではない。対する黒幕は、泥さえあれば無限。今でこそ乾燥という最後の弱点をつかれているものの、それでもまだ余力があるようにすら思える。
このままでは押し込まれる。しかし、春雨はこんな状況でも絶対に諦めない。振り絞り、振り絞り、最後の最後まで争う。仲間を勝利に、未来に導くため。
それが、更なる奇跡を呼び起こす。
「えっ……」
春雨の目の前にあった膨大な数の艦載機が、次から次へと撃墜されていく。その勢いは半端ではなく、自分1人では到底出来ない速さ。しかも、1つの爆発を他の艦載機に誘爆させて、あっという間に撃滅した。
「実はさ、私は防空の方が得意なんだよね。だから、こういう場では任せてくれていいよ」
「マジかよ……逆に何が苦手なンだよアンタ」
「武蔵さんに反省させることかな?」
その対空砲火を繰り出したのは吹雪。その隣で同じように撃つ江風が唖然としているものの、不敵な笑みを浮かべながら殲滅を続ける。
「この穴の中や。黒幕の匂いがぷんぷんするで」
「……見えたよ。姉姫さんの泥人形……」
「タチが悪いぜまったく」
山風と涼風が穴を覗く。黒幕の姿をその目にして、苛立ちを隠さずに睨みつけた。
「春雨!」
「春雨姉さん!」
そして、白露と海風が春雨のそばへと駆け寄った。
「姉さん……海風……」
「よく頑張った! 春雨のおかげで、あたし達もここまで来れたよ!」
「春雨姉さんの力、見せていただきました。春雨姉さんでなければここまで出来なかったでしょう。ここからは……ここからは、私達も戦いますから!」
姉妹達が目に入ったことで、春雨の奥底からさらに力が湧いてくる。
やはり導く者は、