単独で戦っていた春雨が地下空間を破壊したことにより、仲間達が島まで増援としてやってくることが出来た。春雨で無ければ戦えない戦場なんて存在しない。もうここからは1人では無い。
「うん、まだまだやれるね。防空巡棲姫にはどうしても負けちゃうけど」
「いやいやいや、比べる対象がおかしいだろ」
大穴から溢れるように発生した黒幕の艦載機群は、吹雪と江風が一網打尽にしていった。特に吹雪は涼しい顔で次々と誘爆を巻き起こし、体力も使わずにとんでもないスピードで殲滅していく。これには江風も唖然としていた。
穴の陰に隠れている黒幕も、この勢いで穴を塞ぐ天蓋が剥がされていくとは思っていなかっただろう。中間棲姫を模した泥人形がピクリとも動かなくなっていた。
「アレを狙えばいいんだね……」
「上からだなんて卑怯くせぇけど、今までさんざんぱやってきたんだ。恨みっこ無しだぜぇ!」
そんな泥人形を、山風と涼風が狙う。主砲だけでは足りないと言わんばかりに、穴に向かって魚雷を投げ込んだ。
陸上で魚雷という普通ならばあり得ない攻撃ではあるのだが、核を破壊するためなのだからそれくらいはする。穴の中にあるものを全て破壊するかの如く、一切の容赦も躊躇もなく叩き込んだ。
しかし、黒幕も黙ってそれを受けるわけがない。魚雷であろうが上から来るものは全て対空砲火で撃ち墜とす。
床一面に展開された両用砲が次々と放たれ、投げ込まれる魚雷を破壊しながら山風と涼風に反撃を仕掛ける。日光に照らされながらも、乾きつつある泥を巧みに操りながら手段を選択するのは、本能的にもこれ以上負けたくないという気持ちの表れ。
「退きなさい! 私がぶち込んでやる!」
対空砲火のせいで攻撃が届かなくなったところを見計らい、次は叢雲が槍を穴へと向けた。
「これが
これまでの怒りと憎しみ、恨みを込めた槍は、急速に太く、長く、大きくなっていく。それこそ、地下空間をぶち破った春雨の槍に勝るとも劣らないサイズにまで拡張され、泥人形に向かって突き出された。穴を埋め尽くすとまでは行かずとも、簡単には避けられないサイズが猛烈な速度で地下空間を上から穿つ。
しかし、今の黒幕は弱体化が続いているとはいえ、自身の持つあらゆるデータを自分に重ね合わせて全てのスペックを得ている。春雨が苦しめられた、複数の島風の力を用いて瞬時にその一撃を避ける。これで再びその姿を陰に隠していた。
「避けるとは思っていたわよ。でもね、アンタに効くのは
槍の一撃は確かに当たらなかった。だが、叢雲の一撃は確実に地下空間を崩壊させる一撃となった。
春雨の突き破った天井は空間の一部だったが、叢雲の追撃により残っていた天井の一部が瓦礫と化していく。つまり、地下空間に差し込む日光の量は確実に増えていった。
無論、叢雲もこの一撃の前に春雨に聞いている。直感的にこの弱点には気付いていたから。
「流石叢雲ちゃんだ……私の二番煎じよりも確実に壊してくれるね」
消耗が激しいとはいえ、まだ戦う気持ちは薄れていない春雨が、海風の肩を借りて穴の付近へ。
「ったり前よ。専売特許とは言わないけど、付け焼き刃の槍と私の槍は別モノなんだもの。それで、この穴を拡げればいいのよね?」
「うん、ガンガンお願い。白露姉さん、海風、2人も」
「海風は春雨に肩貸してやっておきなよ。ひとまずあたしがやっておくからさ」
春雨からの指示を受け、白露も地下空間を日光で満たすために、穴の拡張に専念する。手っ取り早いのはやはり魚雷か爆雷だが、投擲するなら爆雷の方がお手軽であるため、容赦なく爆雷を投擲した。
爆雷が爆発するたびに瓦礫がバラバラと穴の奥へと落ちていき、黒幕が隠れる場所が次々と失われていく。核が瓦礫に潰されても致命傷になるかはわからないが、攻撃を止めるわけにはいかない。何故なら、黒幕はその瓦礫をしっかりと回避していたから。
そうしている間も、当然黒幕は反撃してきてはいるのだが、瓦礫が床の泥も押し潰していくため、攻撃の手段そのものが少なくなっていく。
しかし、瓦礫自体にも泥が染み渡るために、攻撃が出来ないわけではない。そこが液状である利点。核は安全圏に退避し、それ以外の泥が徹底的に攻撃する。黒幕の陰湿なやり方はこの状況でも変わらない。
「もっと更地にしましょうか」
「はい、全力で」
そこへ傾れ込むように飛んでくる味方の艦載機。黒幕の艦載機が吹雪達に一掃されたところを見計らって、大鳳と古鷹が艦載機を発艦し、その全てを穴の上空へと待機させていた。そこからやることなんて誰でも想像がつく。爆撃だ。
「少し離れて。一網打尽にします」
大鳳が合図をすると、古鷹も小さく頷き、艦載機群が一斉に爆撃を始める。天井がいくら分厚くても、爆雷と爆撃が纏めて直撃すれば一気に破壊されていった。効率もよく、地盤にヒビが入り、足下がどんどんと崩れていくため、島に集結した仲間達は少しだけ退避した。
隠れる場所が無くなるまで爆撃を続けることで、天井と呼べる部分は全て失われる。地下空洞は改めて、島に出来た
さらには地下空洞の底に溜まった瓦礫も爆撃により粉砕され、黒幕の泥が隠れる場所はおろか、泥が染み渡るような場所も失わせる。こうなってしまえば、黒幕はまな板の上の鯉となる。
「もう隠れる場所はありませんよ」
これによって、黒幕の核が含まれた泥人形──中間棲姫の泥人形は、ここにいる全員の前に姿を現すことになる。もう姿を隠すことなんて絶対に出来ない。
直射日光にあたり、泥人形の体表が少しずつ乾燥してきているのも確認出来た。そのせいか、黒幕の動き自体が鈍くなっている。
「もういいわよね」
苛立ちを隠す気もない叢雲が、黒幕を睨みつけながら呟く。これまで、深海棲艦化してから溜めに溜め込んだ怒りを、ついに爆発させる時がきたのだ。もう抑えられないと言わんばかりに、槍を持つ手が震えている。
これまで怒りを晴らす機会は幾度とあったが、それは毎度この黒幕に使われていただけの駒だったため、叢雲はここまでずっと我慢していた。自分を殺した相手──白露にも古鷹にも、悪態はつくが攻撃まではしていない。
それがようやく、ついに晴らすことが出来るのだ。怒りと共に歓喜もあった。震えはその複雑な感情から起きている。
「いいよ、うん、やっちゃって」
対する春雨がそれを許可する。別に春雨がここのリーダーというわけではないのだが、誰か1人が許可を出すことで、叢雲のリミッターは外れることになる。
「もう止まらないわよ。ここで確実に始末する!」
それが一方的な虐殺になるかどうかなんて関係ない。これまで溜めに溜めた怒りを全て解き放つため、倫理的なことも考慮せず、残酷に残虐に黒幕を始末する。
まるで足下の蟻を踏み潰すかのように、これまでにないサイズにまで巨大化した槍を黒幕に対して打ち込む。それはさながら、穴の中へ隕石が落ちるような勢い。
今までなら回避することは出来たかもしれないが、この怒りはそれどころではない。動きが鈍くなったところに、ほとんどこの穴を埋め尽くす程の太さに達した槍が落ちてきているために、どうにもならないレベルの攻撃となった。
そして、黒幕の泥人形もろとも、叢雲の槍は穴の中にあるもの全てを押し潰した。
「……終わった……?」
穴の中はまだ見えない。叢雲が念入りに殺すとして、グリグリと槍を捻りながら穴の底を磨り潰す。それでも怒りはまだ晴れておらず、残虐とも取れる行為を繰り返すのだが、これが終われば叢雲の大きな怒りは失われるため、誰もそれに対して苦言を呈さない。
「春雨姉さん、何か……感じますか……?」
肩を貸している海風が心配そうに春雨の顔を見る。その春雨は、叢雲の槍の下をじっと見つめていた。それは、
海風も春雨のそれを見たことで、若干不安になる。アレだけの攻撃を受けているのに、黒幕がまだ生きているようには思えない。しかし、春雨がそれを信じていないのならば、まだ警戒するに越したことはない。
「嫌な予感がする……叢雲ちゃんの槍をあそこまで受けたんだから、間違いなく致命傷のはず。核だって傷ついてないわけがない。でも……なんか、なんか嫌な予感がするんだ」
「春雨姉さんがそう言うのでしたら、間違いないでしょう。でも、核が傷ついたら流石に生きてはいないと思うのですが……」
「わからないよ。だって、核が傷ついたところで
そう春雨が言った瞬間だった。巨大化した叢雲の槍が突然
「なっ!?」
一番驚いたのはやはり叢雲。これだけ大きく、太く、重い一撃を喰らっておいて、まだ反撃が出来るだなんて信じられない。しかも、弾き飛ばすほどの余力がまだ残っているとも思えない。
そこにいたのは、
黒幕が最後に溢れさせたのは、皮肉にも『覚悟』だった。死んでもいいから自分の邪魔をする者を始末する。動機はあまりにも不純だが、この期に及んで
「最後の最後にやってくれる……っ」
ヒビの入った核を中心に、最後の泥が纏わり付き、新たな姿をとった。その姿は、もう泥人形とは言えない程に綺麗な姿の深海棲艦。それこそ姉姫がそこにいるかのような見た目。
しかし、やはりというか、姿形が中間棲姫であってもまるで違う。姉姫のような純白のドレスではなく、泥で出来た混沌のレオタード姿。しかもその上から姉姫も着ていたようなドレスまで着込んだ、過去の自分を再現しつつ、さらに死を覚悟した者の姿。
「もうアレは
吹雪が舌打ちする。防空巡棲姫ですら命を燃やそうとした瞬間に危険な匂いがしたわけだが、この黒幕はそれ以上に危ない。
保たないと言っているのは、見た目でもわかる。腕や脚、顔にすら、小さくヒビが見えるほど。核のヒビが全身に見えているかのようだった。
「アレを斃せば終わり」
海風の手を小さく叩き、自分の力で立てると離れる。心配そうな表情をしたものの、春雨の目はここで戦わなければ終わらないと気持ちを燃え上がらせているモノだった。
「最後の戦いだ。だからみんな、もう一踏ん張りだよ!」
春雨の鬨の声と共に、力が湧き上がる。導く者により、仲間達は再び辿り着く者へ。
最後の激闘の火蓋が切られた。