覚悟を決め、命を燃やして最後の力を振り絞る黒幕。春雨の鬨の声と共に力が湧き上がる仲間達。今から最後の戦いが始まる。
先制攻撃は黒幕だった。島のど真ん中に空いた大穴から
「ちょっ、な、なンで浮いてやがンだアイツ!?」
艦載機の数もそうだが、黒幕自身が浮かび上がったことに驚きを隠せない江風。江風のみならず、他の者もその挙動には少なからず驚きを見せていた。
過去、海上にいながらもその足を海面につけていない、浮いている深海棲艦というのは1体だけいた。しかし、その深海棲艦は艤装が海面についていたし、そもそも1度しか現れていないという激レア個体。江風は実際にその深海棲艦と戦ったことはないため、このような挙動には動揺してしまう。
だが、これの
「ありゃあ、浮遊要塞の力取り込んでやがるな。姉姫さん……っつーか、中間棲姫って使えたよね?」
「だね。中間棲姫の周りに浮かんでる邪魔なヤツだよ」
涼風の答えに吹雪も賛同。核が浮遊要塞のように浮かんでいたのだから、それを取り込んでいる黒幕が浮かぶのは、あながち間違ってない。
「むしろ、それよりもあの甲板だ。あれを打ち破るのはかなり厳しいよ」
艦載機は対空砲火でどうとでもなる。吹雪が繰り出すそれは、相変わらず最高の効率で次々と破壊していくのだが、そもそもの量が非常に多い上に、甲板の強固さは嫌というほど理解している。特に海風は、嫌な記憶を思い出していた。
至近距離で砲撃を放っても軽々と跳ね返すほどの耐久力を誇る姉姫の甲板。黒幕の甲板は、それと同等、もしくはそれを超える強度を持っている可能性がある。ならば、砲撃は効かないと見てもいい。
「だったら私がぶち抜いて……っ」
艦載機を全て吹雪達に任せて、甲板を気にすることなく本体を攻撃するために、叢雲が再び槍を巨大化させて突き出す。先程の状態のトドメとなった槍だ。もう一度突き刺して、今度こそトドメにしてやると渾身の一発。
しかし、一度喰らってここまで追い詰められた一撃なのだ。黒幕がそれに対策をとっていないわけが無かった。
3枚の甲板を一箇所に纏めると、その槍による一撃をしっかりと食い止めた。本体が宙に浮き、甲板も宙に浮いているため、踏ん張りなんて皆無のはずなのに、叢雲の渾身の一撃はまるで動かなくなってしまう。
龍驤の甲板を思い出して叢雲は小さく舌打ちした。あの時は何枚も重ねられた結果、数枚は割れたが貫き切れなかったという状態。だが今回は傷ひとつつけられなかった。
「甲板が寄った! ここを狙って……っ!?」
周囲を回転していた甲板が叢雲の一撃に全て偏ったことで、強固な盾が正面にしかない状態となる。ならば、逆側は完全な隙。
ここを狙わないわけにはいかないと、戦艦主砲も扱える大鳳と古鷹はすぐさま構えて砲撃を放った。本当ならここに金剛もいるはずなのだが、先程の重傷があるため、サラトガと鹿島、別個体の春雨と共に島には侵入せず。最大火力はこの2人に任されている。
しかし、覚醒している黒幕にはそれすらも通用しない。甲板は3枚までしか使えないようだが、艤装までしっかりと展開してきた。施設に住まう者なら見たことがある中間棲姫の艤装──巨大な球体の基部が背後に出現し、2人の砲撃を完璧に受け止める。
盾とは違うのに、ダメージらしいダメージは見受けられず、単純に硬い。戦艦の砲撃を受けてこれということは、駆逐艦の主砲など確実に効かないということに他ならない。
「硬すぎる……甲板も、艤装も……!」
「だったら、隙間を狙うわ〜」
前には甲板、後ろには艤装となると、狙えそうなのはそのどちらも無い横。荒潮はすぐさまそこを狙って砲撃を放った。装甲の隙間を狙うように。
それを守ろうとするのは、未だに飛び交う艦載機。吹雪が一網打尽にしているとはいえ、それにも限界がある。こちらに攻撃してくる艦載機は処理出来ていても、黒幕を守るために飛び交う艦載機までは対処出来ない。
そのため、荒潮の隙間を狙った砲撃は艦載機が自身を犠牲にして食い止める。流石に砲撃を受ければ艦載機は破壊されるのだが、黒幕本体に全く通っていないので、あちらの目論見通りとなってしまっている。
「砲撃も軒並み無理となると、後は……」
ここで考えを巡らせる。あの強度の艤装を破壊するためには何が必要か。強力な装甲ですら一撃で破壊出来る力。叢雲の槍すらも超える威力を持つモノと考えるならば何か。
「……大鳳さんしかいません」
真っ先に気付いたのは春雨。あの強度をどうにか出来るのは、龍驤との戦いで数枚重ね合わせた甲板を一撃で破壊した大鳳の本気の斬撃だけ。強い踏み込みと共に繰り出す全力の斬撃は、おそらくあの艤装をも真っ二つに出来る。
だが、踏み込む地面が必要である時点で、宙に浮いている黒幕にはそれが出来ない。おそらくそれも見越して穴の中央に浮かんでいる。接近戦を防ぎながら、中距離遠距離の攻撃は艤装と甲板でシャットアウト。攻撃は艦載機で全てこなす。そのうち砲撃も放ってくるだろう。
「やば、砲撃も来るよ! 向きを変えてやらぁ!」
言ってるそばから艤装から主砲が生えてくるのが見えたため、すかさず白露が鎖を投げつけた。その砲塔に絡ませ、強引に砲撃をあらぬ方向へと向けようと力を込める。宙に浮いているため、回転くらいはさせられると考えて。押してダメなら引いてみろ。
「げっ、全然動かない! 壁引っ張ってるみたいなんだけど!?」
だが、ある意味予想通りではあったがビクともしない。前にも後ろにも動いてくれない。一切の隙がない。命を燃やしているというのは、ここまで強くなるのかと驚いてしまう。
「姉さん、避けてください!」
「わかってらぁい!」
鎖で巻き付けたままだと、砲撃をまともに喰らうことになってしまうため、白露は砲撃を放たれる寸前に鎖を消してその場から退避。
その威力は戦艦主砲のそれを優に超えており、陸で放たれたことも相まって、地面を激しく抉る。紙一重で避けることが出来た白露だったが、その衝撃で見事に吹き飛ばされてしまった。それだけで済んでいるため、自己再生能力が他の者と比べて段違いに強い白露には効いていないようなモノ。擦り傷程度ならば見る見る内に治っていく。
「せめてあの場から動かさないと……」
「でも、何をしても動かないとなると」
「そうなんだよ。光の道も、光の点も、黒幕には向いてないんだ」
しかし、ここまでしても手も足も出ない状況に持っていかれていることで、春雨はどうしたものかと悩んでしまう。まずはあの防御力を打ち崩さなくてはならないが、今出来る限りの最大火力を喰らわしても、傷ひとつつかないとなると困ってしまった。
それでも諦めるなんてことはしない。悩みはしても、解決の道を探し続ける。必ず突破口があるはずだから。時間をかければ黒幕は自壊するだろうが、そんな時間待っていられない。だからこそ、攻略の糸口を探す。見える限りの光の道を手繰り寄せる。
そして、その道は割と近くで輝いていた。それも、
「いや、まだ手はある。ウチがアレに干渉すりゃあええ。アレやって所詮泥の塊やろ。んならウチの出番や」
妖精の身体といえど、艦娘の意志を取り戻しているためにしっかりと辿り着く者の力を得ている龍驤だからこそ、解析と演算の速度が数倍に膨れ上がっていた。特に今は、春雨の視界の中心。湧き上がる力はこれまで以上。
黒幕は今でこそ深海棲艦と同様の見た目になっているが、元は泥の集合体。それであれば、RJシステムの効果範囲内である。本体を止めることは難しくとも、艤装に干渉することは可能だと判断した。
だが、黒幕は最早
「マジかアイツ……っ!?」
今まで自分の監視の目を妨害してきたRJシステムに対しての怒りが、命を燃やす覚醒によって明確な攻撃手段として成立してしまった。逆恨みもいいところなのだが、本能でそれを可能にしている。
喰らった龍驤は堪ったモノではない。一気に処理負荷が上がり、解析がまともに出来なくなる。それはシステム妖精である龍驤にも影響を与え、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けることになる。
この状態でまともな解析なんて出来ない。解析をしようとする限り、それが無効になる上にダメージを受ける羽目になる。
「まだや、まだや! ウチはシステム妖精なんや! 工廠に戻りゃ明石が直してくれる! せやからこんな痛み、知ったこっちゃあらへんわ!」
とんでもないことを言いながらも、龍驤は自身の演算速度を最大、いや、限界以上にまで高めて黒幕の解析と干渉を続ける。処理負荷なんて度外視。本来ならばあるリミッターも、装備者である山風の意思を無視して解除。
途端に、山風に装備されているRJシステムが過負荷によって熱を発し始める。辿り着く者と化した龍驤の制御に追いつくことが出来なくなっていた。
「くぉ……だがなぁ、こんなもんじゃあウチは終わらへん。終わらへんぞ! 山風、スマン、付き合うてくれ!」
「かまわない……あたしはちょっと熱い程度だから」
「よっしゃあ! 勝ち筋は、ウチが見つけたらぁ!」
この龍驤の意地に、仲間達はより奮起することになる。勿論、春雨も。
龍驤が命懸けでこの戦況を打破しようとしてくれているのだ。ならば、それを応援しないわけにはいかない。導く者として、辿り着く者を最善の答えに辿り着かせる。
春雨はその目を龍驤に集中させる。自分の視界に入った者の力を底上げするため。望む答えに導くため、今は龍驤に全てを託す。
「サンキューな、春雨。ウチには思うところもあるやろうけど、仲間として見てくれて、ホンマに感謝しかあらへん。力、貸してくれやぁ!」
解析と演算に加えて、黒幕からの逆ハッキングまでかかり、龍驤は限界を超えていた。だが、春雨の後押しもあり、鼻血や血涙まで流しながらもそれを止めない。全ては黒幕を終わらせるため。
しかし、黒幕もただ逆ハッキングを仕掛けるだけでは止まらない。展開した主砲、そして発艦した艦載機も全てが、山風に向いていた。艦載機だけなら吹雪や江風が撃ち墜とせるのだが、砲撃だけは山風の力で無ければどうにも出来ない。
ここが海上なら脚部艤装の力で素早く動けるのだが、ここは陸上。完全に自分の脚力にかかっている。山風は北上や大井の下で鍛えられているものの、接近戦が出来る江風のようにすぐさま動けるほど身体能力が高いわけでは無い。
「海風!」
「勿論です! 妹を守るのは、姉の役目ですから!」
砲撃は山風が反応する前に放たれてしまう。直撃は免れない。山風がやられてしまえば、龍驤もそのままやられる。そうなったら、黒幕はもう止まらない。命を燃やし尽くすまでここで暴れ、ここにいる者を皆殺しにする。その後自壊するにしても、これ以上の被害者を出すわけにはいかない。
だからこそ、その砲撃から山風を守ることが出来るであろう、盾を生成出来る2人。春雨と海風が戦場を駆け抜け、山風の前に立ち塞がる。
「海風姉……春雨姉……っ」
「山風、大丈夫だから安心して。私は、私達は、必ず貴女を守るから!」
2人同時に盾を展開。春雨は両腕を使って、一切の隙間なく山風を守る。
その砲撃は強烈な衝撃だったが、2人とも山風と龍驤のために踏ん張り、歯を食い縛る。駆逐艦の小さな身体でも、気持ちだけは負けていなかった。攻撃は通らない。通さない。
そして、
「解析、完了や……ぶっ壊れろ……!」
フラフラの龍驤がニヤリと笑みを浮かべて黒幕に手を翳す。その瞬間、砲撃を放つ主砲が自身の衝撃によって木っ端微塵になった。