「解析、完了や……ぶっ壊れろ……!」
フラフラの龍驤がニヤリと笑みを浮かべて黒幕に手を翳す。その瞬間、砲撃を放つ主砲が自身の衝撃によって木っ端微塵になった。
RJシステムによる泥の解析が完了し、それを霧散させようとしたものの、流石にそこまでは行かなかった。代わりに、その強固すぎる装甲は隙間だらけとなり、今まで見せていた強度は失われて、自身の砲撃にすら耐えられなくなっている。これならば、もう攻撃を食い止められることはないだろう。
しかし、この渾身の干渉、ハッキングに対して、黒幕も龍驤に干渉してきていたため、龍驤は息も絶え絶え。一度脆く出来たとはいえ、それをずっと維持することは出来ない。その証拠に、RJシステムが積み込まれている山風の艤装の一部は完全にショートしてしまっており、電探が機能しなくなってしまっていた。
「はぁ……はぁ……すまん……ウチに出来るのは……ここまでや……」
もう龍驤は見るに堪えない姿だった。血涙と鼻血で顔を赤く染め、山風の頭の上でも立っていられないくらい。命綱がなければ滑り落ちてしまうのでは無いかと思われる。
しかし、ギリギリ命は繋ぎ止めていた。ここから黒幕がさらに力を得るようならば、さらに解析をする必要がある。
しかし、龍驤はもう限界だ。次なんてない。また解析なんてしたら、それこそ脳が茹って死に至る。明石なら治せるかもしれないが、そういう問題では無いのだ。
「充分すぎます。本当に、よく頑張ってくれました。ありがとう、龍驤さん」
春雨に礼を言われると、龍驤も気分が良かった。導く者に導かれた結果、最善の答えに辿り着けたのだから。
「あとは任せてください。もう、私達は負けません」
一時的にでも装甲が脆くなっているのならば、その時間だけで斃してしまえばいい。この龍驤の命懸けのハッキングは、仲間達の闘志をさらに湧き上がらせる。
山風を守るために盾を張っていた春雨と海風も、攻勢に出るために四肢に戻した。もう砲撃は飛んでこないのだ。盾の必要は無い。ここからはもう攻撃が最大の防御になるだろう。
対する黒幕は、まともに砲撃が出来なくなったことですぐさま次の手段に打って出る。破壊された主砲はすぐに捨て、甲板を周囲に飛ばしながら艦載機を一層増やそうと発艦。
「させると思ってるのかな」
だが、それを許すわけがない。艦載機を的確に潰すのは、やはり吹雪である。脆くなったのは主砲だけではなく、
「見直したわよ龍驤。アンタの命懸けの干渉、評価してあげるわ!」
その発艦によって甲板がバラついたため、次は叢雲による槍の一撃。巨大化させたそれで、黒幕に対して2度目の刺突を繰り出した。
先程は甲板を重ねられたことにより完全に止められ、黒幕自身もびくともしないという散々な結果に終わった。しかし、今は黒幕の何もかもが脆くなっているのだから、この攻撃も甲板を貫く一撃となる。
それを察知したのか、甲板で止めることなく黒幕は回避を選んだ。止めていたら、全ての甲板を纏めて貫いていただろうが、本能的にまずいと判断したか、最も場所的にも優位になれる大穴の上の浮遊を捨てる。
「やっと動いたねぇ! だったらついでに、底まで落ちてよ!」
それを見計らった白露が、鎖を思い切り振り下ろしていた。その先端に接続された錨は叢雲の槍を参考にしたのかいつもよりも大きく、黒幕の脳天を狙って真っ直ぐ落下する。直撃すれば死に至るだろうし、防御をしても装甲ごと叩き割る程の威力はあるだろう。
その攻撃はどちらかと言えば
だが、難しいは難しいが、出来ないとは誰も言っていない。特に、攻撃の面積が大きければ大きいほど、攻撃の方向が増えれば増えるほど、その攻撃は当たりやすくなるのは当然のこと。
「叢雲ちゃん、ちょっとそのままにしててね。あ、先端は穴の向こう側に刺しておいて」
「アンタ一体何を……っ」
それだけ叢雲にお願いして駆け出したのは春雨。いや、駆け出したのではなく跳んでいた。さらに同時に動き出したのは吹雪。
脚部艤装の再展開を使った高速移動を駆使した春雨と吹雪は、立ち位置的にちょうど真逆な方向となり、黒幕を挟み討ちするようなポジショニング。背部の艤装は吹雪寄りではあるが、殆ど真横からの攻撃となっている。
「さすが、春雨ちゃんはそうすると思ってた」
「吹雪ちゃんもね」
そして同時に繰り出される黒幕を挟むように放たれた近接戦闘。春雨は下半身に蹴りを、吹雪は上半身に拳を。これが決まれば、黒幕の身体はあらぬ方向に折れ曲がり、そのまま死に至る。
しかし、返り討ちにしてやろうと本能的に考えたのか、両腕に小型の主砲が展開されていた。先程の主砲は戦艦のそれよりも威力の高い陸上施設型の大型主砲だったために、その威力のせいで主砲が噴き飛んだが、小型主砲なら脆くされた艤装でもギリギリ耐えられると踏んだか。
突撃状態、かつ、2人とも空中。回避なんて出来るはずがない状態。狙い撃ちと言われても過言ではない。
「吹雪ちゃん!」
「大丈夫。小型ならまだ
春雨は蹴りを確実に決めるために腕を盾に変形させる。小型主砲ならば、片手で軽くガードするだけで大丈夫。跳ぶ勢いも込みにしてしまうと砲撃の重みが増すのだが、
吹雪に至ってはその辺りの防御を何も考えていないようにしか見えなかった。
だが、いざ黒幕が砲撃を放った瞬間、吹雪は
正確には、腕に当たる瞬間に艤装を一瞬展開させて、その衝撃で砲撃そのものを弾いた。春雨が単騎で戦っている時に咄嗟に繰り出したものと同じだ。辿り着く者となった今ならば、砲撃を弾くタイミングは手に取るようにわかる。それが威力の小さい小型主砲なら尚更だ。
「行けるね、うん。それじゃあ、せぇの!」
砲撃を潜り抜けさえすればこちらのもの。しかし黒幕もまだ諦めてはいない。春雨と吹雪に対して甲板を繰り出し、その攻撃を食い止めようとした。叢雲の槍よりは当然ながら威力は小さい。質量が違うのだから当然のこと。脆くなった甲板でも、充分に止められると考えるのは必然。
だが、黒幕はここで見誤っている。この攻撃を繰り出しているのが、四肢を自由に変形させられる春雨と、ミートした瞬間に強烈な衝撃波が生み出せる吹雪であることを。
故に、その攻撃を止めたと思った瞬間、甲板が真っ二つに割れた。吹雪は当然ながら拳が直撃した瞬間に艤装を一瞬展開したことによる衝撃波で。春雨は
もう春雨もこの攻撃方法のタイミングは完璧に掴んでいた。吹雪に教わったわけでもなく、自分の力で。
「追撃!」
攻撃を食い止められたことで跳んだ勢いが殺され、春雨と吹雪はそこから穴の底へと落ちていくことになるのだが、それよりも前に仲間達に指示を飛ばした。
その声を聞く前から、海風は既に動いている。春雨が動いて海風が動かないわけがない。しかし、春雨のように機敏に跳ぶようなことは出来ない。
そのため、叢雲の槍を足場にして大穴の中央まで突っ込んできていた。春雨が叢雲の槍をそのままにさせたのはこのため。穴の向こう側に先端を突き刺すように指示したのも、流石に仲間がこれを乗っていくのを支えろというのは酷だから。
「春雨姉さんが作った隙、この海風が見逃すはずが、ありません!」
叩き割られて消滅する甲板の後ろから、海風が右腕を錨に変えて突っ込んだ。これならば、黒幕は咄嗟に3枚目の甲板を海風に対して使わざるを得なくなる。
別に砲撃でも良かった。魚雷でも爆雷でも良かった。それでも腕を錨に変えたのは、
やはりと言えばいいか、黒幕は海風の攻撃に対して甲板を繰り出す。鎖も使わない錨での直接攻撃は、どう見ても重い攻撃。避ける余裕も与えない連続攻撃だったため、強引にでもガードに持っていかせた。
案の定、海風の攻撃は甲板に阻まれるが、先の2人とは違って甲板を破壊することは出来なかった。重みはあっても、脆くなっていたとしても、衝撃波を出すほどには至らない。海風も右腕の再展開という技が出来るかもしれないが、ここではそれを繰り出すことは無かった。
「私は春雨姉さんほど強くはありませんが、私に甲板を使わせることに意味があるんですよ。そうよね、江風!」
「おうよ! こっちが隙だらけになるからよぉ!」
同じように槍を渡ってきた江風が甲板の横から飛び出し、ガードをさせないところから渾身の砲撃。甲板を江風に持っていくと、海風の攻撃をモロに受けることになり、甲板を海風のままにしていると江風の砲撃を受けることになる。
だが、そこに被せてきたのは艦載機。自身の近くに数機の艦載機を即座に展開し、それを盾代わりにして江風の砲撃を耐えてしまった。
「マジか……っ」
しかも、それが艦載機であるため盾にならなかったものは射撃もしてくる。回避出来ないレベルのタイミングであるため、江風はその攻撃をまともに受けてしまうことになる。
「江風!」
そこへ文字通り手を出したのが海風。攻撃のための腕をすぐさま変形させ、致命傷になりそうな場所だけは食い止めた。それでもどうしても射撃が抜けてしまうところがあったため、江風は腕や脚にそれを受けてしまう。
「くっそ……でも、まだ行けるだろ!」
「当たり前よ〜。みんなが頑張ってるんだもの、ここでやらないでどうするのって感じよね」
さらに飛び込むのが荒潮である。海風の近接攻撃、江風のほぼゼロ距離射撃と続き、甲板と艦載機まで防御に使わせたところに、荒潮が繰り出したのはまさかの
砲撃に対しては瞬時に艦載機が防御に現れるが、近接戦闘に対してはそれがすぐに反応しないことに気付いた荒潮は、ここであえて砲撃を封じた。
「私の先生はねぇ、こういう時に強く出られるように、うんと鍛えてくれたの。だから、それを貴女には受けてもらうわ。こうやって、ね!」
艦載機の反応が遅れ、甲板は寸前のタイミングまで海風が止めている。故に、荒潮の攻撃は防御されない。
艦娘であるため、その一撃が致命傷になることはないだろうが、荒潮の狙いはそこではない。ここでトドメを刺すことが出来ないことを理解した上で、次に繋ぐ一撃。
それは、この黒幕を穴の底に突き落とすこと。浮遊されていることで攻め手が限定されていることが問題なのだ。
故に、荒潮が繰り出したのは真下に叩きつけるような強烈な蹴り。駆逐艦とは思えぬ威力のそれは、今までびくともしなかった黒幕の身体をブレさせ、その場に身体を維持出来なくなる程の衝撃となり、狙い通りに真下に落とされることとなった。
龍驤の干渉により脆くなったのは装甲だけではない。自身を維持する力にも影響を受けていた。そのおかげで、荒潮のこの一撃は綺麗に決まることになった。
そもそも荒潮の格闘の師匠は武蔵である。ここぞという時の攻撃方法は武蔵仕込み。力の発揮の仕方も完璧にマスターしている荒潮には、この渾身の一撃は最高のポテンシャルで叩き込める。
「ブレた! 全員穴の中へ! 白露姉さん!」
「任せろぉい!」
先の錨の一撃を避けられた白露が、先んじて大穴の下へと降りていた。そこから改めて鎖を投げつけ、荒潮の一撃によって落ちてくる黒幕の脚にそれを巻き付け、強引に引っ張る。
ここからまた浮かれても困るため、それを止めるためにも地面に叩きつけた。一度ついた勢いは簡単には止められない。黒幕は再び浮上することが出来ず、そのまま穴の底へと叩きつけられた。
地に足をつけた状態ならば、全員が十全の力で戦える。こうなればもう、終わりまで一気に向かうまで。
ここにいる者達にはもう、最善の道がその目に映っていた。